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Ὸνειρο II - 〝夢 II〟 -

[動画ファイル 復元完了 再生開始します]

[2219_12_24]


 ◇


 空を見上げると灰色だった。カラバイアの空はいつも青くて綺麗だ。この灰色は、何か見覚えがあるのだが、それがなんであるのかさっぱり思い出せない。

 下を見下ろすとそこも灰色だ。上下灰色で包まれた世界。そんな世界に私は立っている。

 遠くから声がした。聞き覚えのある声。エスさんに似ている声。そんな声がどこからかする。


「おーい」


 ふと後ろを見ると、今まで映像で何度も見たサリヴァン博士が立っていた。黒髪、ショートボブ。眠そうなジト目。

 ああ、サリヴァン博士だとなんとなく分かる。今まで、不明な外部刺激によって中途半端に復元された動画ファイルでしか見たことがなかったが、こうしてしっかりと見ることができた。こういう時、人間はどういう感情を抱くのだろうか。安心したという表現を聞いたことがあるが、なぜ”安心した”? 気がかりなことがなくなることと、サリヴァン博士をしっかりと見れたことのどこに関連があるのだろう。

 などと考えているうちに、サリヴァン博士は私の目を覗きこんだ。

 エスさんよりも小さい背丈。親子の身長差というのはこういうものなのだろう。尤も、サリヴァン博士が親で私が子供だが。


「そろそろ実験が始まりますよ。来てください」


 サリヴァン博士は私の合成素材で出来た皮膚をペタペタと触りながら、小声で言った。

 そうだ、少し思い出した。サリヴァン博士はいつも私を実験に立ち会わせていた。名目上は博士の護衛だったが、博士の研究室は最後まで破られなかったし、何人もの他の護衛がいたから、私は隣で博士の実験を見ているだけだった。

 博士に手を握られ、私は歩んでいく。


 ◇


 研究室に入ると、そこには緊張が張り詰めていた。腐食防止用の液体に付けられた胎児がゴポゴポと音を立てて私たちを歓迎している。私たちが一番最後に入ってきたようで、直後に入り口が自動で閉じた。

 白衣を着た研究員達はただ一点、黒い円柱を凝視している。前が開いており、中に人が一人屈めば入れそうだ。その隣には、大き目のカプセルに小さな女の子が閉じ込められている。意識を失っているようだ。カプセルが機械とつなげられている様子はない。

 今やっていることは、タイムスリップの実験だ。その歴史的瞬間を一目見ようと、大勢の学者が集まっている。

 研究員達のデータが頭の中に入ってくる。一人一人、確認されていく。その中に三人、気になる名前があった。”トゥニカ”、”因劉”、そして......”ラスティン”という名前。ラスティンは容姿が一致しないものの、一千年後に出会った姿と容姿がほとんど変わっていないトゥニカと因劉は、私に強い疑問を植え付けた。

 が、映像の中の私は何も行動できない。そのことをもどかしく思っていると、サリヴァン博士が私の手を離し、徐に円柱の機械に向かって歩み出した。


「では皆さん、明日を楽しみにすることにしましょう」


 そう言って博士は機械の中に入っていった。そして扉が閉まり、しばらく経つと再び開いた。

 状態は何も変わっていないように見える。サリヴァン博士が少しスッキリした顔を浮かべているぐらいで、場の緊張感も何も変わっていない。


「明日、このカプセルにいるデザイナーベビーは私の根源的記憶を有しているはずです」


 サリヴァン博士はそう説明すると、スタスタと入り口の方へ歩みを進め、閉じた入り口に頭をぶつけた。


 ◇


[動画ファイル再生 2219_12_25]


 ◇


 後日、再び同じ実験室へ入ると、昨日と同じような状態で研究員が、今度はカプセルの方を見つめていた。

 カプセルの正面がチュイーンという音を立てて開く。

 そして、そこから出てきた裸の少女は、自分の状態を恥じることもなく、サリヴァン博士の隣に立った。


「どうでしょう? まっさらな状態のデザイナーベビーですので、記憶の混同がなく、完璧にサリヴァン・ギリーの”魂”をこの少女に送ることができました。何か質問があれば、彼女にどうぞ」


 ワーワーと、研究員達が彼女に質問を投げかける。サリヴァン博士の護衛が質問を一つずつ拾い上げ、彼女が回答していく。


「その女が本物だという証拠はあるのか!」

「私はタイムスリップ技術について、完璧に回答することができます。また、未だ発表していない博士()の発明を作成することが可能ですよ? これほどの天才が、サリヴァン博士(わたし)と別人だというなら、それはそれで世紀の大発見でしょう」


 研究員達の質問の雨が一頻り止んだところで、一人、静かに手を挙げたものがいた。

 鋭い目付き。肩につく程度に長い黒髪。因劉だ。


「実験前、博士は”この機械はあるデータベースを通じて”脳に存在する魂にあたる部分の転移を行う、と説明しました。そのデータベースとは何か、答えてください」


 彼女、サリヴァン博士は同時にたじろいだ。答えられない質問ではないはずだ。が、なぜか答えにくそうにしている。

 研究員達からのヤジが大きくなると、二人は諦めたようにゆっくりと口を開いた。


「それは......」


 ◇


 今朝見たものは、まさしく人間の見る”夢”というものではなかろうか。途中で切れてしまったが。

 人間の夢とは違う、ただの動画の再生ではあるものの、意味合いとしてはそういうことなのではないだろうか。

 人間が見る夢というのがわからないアドには、それが”夢”と呼べる確証はなかったが。

 喫茶店で朝餉を食べながら、そんなことを考える。この前とは違う喫茶店だ。ふとエスの方を見ると、エスは何食わぬ顔で席にカバンを置いてサンドイッチを食べていた。まるでこれから起きることを何も知らされていないかのようだ。


 聞けば、エスはトゥニカと戦うことを決断したのだという。先日アドがトゥニカと話していたのと同じ時間帯に、トゥニカが現れて回答を迫ったらしい。おかしな話だ。トゥニカが一人も二人もいるはずがない。ついに幻覚を見るようになってしまったか、と精神方面でエスのことを心配する一方、それよりもアドが危惧していることがあった。

 もし、戦うとして、攻撃の矛先がエスに向いたら? その時、自分が活動限界を迎えようとしていたら? そしたら、エスはどうなる? そんなことを、アドは考えずにいられなかった。

 それを振り払い、エスの決断を尊重しようとするも、そもそもの護衛としての性質がアドをエスが危険にさらされることをよしとしなかった。


(いざとなったら、”アレ”を使うしかない)


 と、アドは二度と使わないと決めた機能のことを思い出しつつ、エスを守る、と固く決意し直した。

 その瞬間、喫茶店の入り口が爆発した。

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