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Πανικός - 〝混乱〟 -

 さて、トゥニカと別れたエスは、呆然と抜け殻のようになっていた。相当な混乱によるもので、カウンターに肘をついて頭を押さえている。

 一方アドは、何かを気にする様子もなく、マスターに料金を支払うと、エスを肩に担ぎ上げ、扉を開いて出て行った。

 街に戻ると太陽は入った時とほぼ変わらないような......というかまったく位置が変わっていないようにも見えた。

 この後は街で十年前何があったかの聞き込みをする予定だったが、もはやそれが出来るような状態ではない。

 それを察した、というよりかはエスが明らかに弱っていると判断したアドは一旦宿へ戻ることにした。


 ◇


 宿へ戻ってくると、アドはまずエスに病人と同じ扱いを行った。エスの怠そうな感じから、体調不良を起こしていると判断したためである。本当はただの精神的な疲れだが。

 エスは相当精神的に参っていたようで、アドの行動を止めようとすらしない。アドはテキパキと濡れたタオルなどを持ってくる。

 そうして出来上がったのは、まるで風邪を引いた人間を看病しているかのような空間。

 用事がないのか部屋で剣の素振りをしていたラスティンも、アドがしている作業を見てエスが風邪を引いたと勘違いをして下の階から氷を持ってきた。

 エスはしばらく焦点の合っていない目で天井を見つめていたかと思うと、ふと意識を取り戻し、ベッドから飛び起きた。


「......いや、なんですかこれ?」


 その状況にはエスも困惑していたし、ラスティンもエスが風邪を引いたのだと思っていたのでキョトンとしている。そして、二人は誰が何を間違えたのかに気がつき、一人に視線を寄せる。

 アドは自分が間違えたことに気がつくと、少し目線を下に向けた。それが申し訳ないと感じているという意味であるかは、誰にも分からない。

 しばらくの静寂の後、唐突にエスはフーッと息を吐いて、呆れたようにベッドに腰掛けた。そしてボソッと呟く。


「......心配、してくれたんですよね」


 その声はあまりに小さく、自信なさげで、エスの口から発せられたものであるとは誰も信じようとしなかった。

 エスはその声が届かなかったことを察すると、何だかおかしな気持ちになって、口元を隠して唐突に笑い出した。

 ラスティンもアドも、どう言った心情の変化があったのか分からず困惑している。狂ってしまったかのように思えて、ラスティンはひどく狼狽えた。

 それはもはやエスが狂ってしまったことの証明のようにも見えが、同時に何かが吹っ切れたかのようにも見えた。アドは何も言わない。


「......さて」


 唐突に我に返ったのか、エスは恥ずかしそうに咳払いをすると、アドの目を真っ直ぐ見つめて、再度逸らして、静かに呟く。


「......そうですよね。私は私なはずです」


 ◇


 タウバッハから少し外へ出ると森がある。

 因劉がとても長い間迷っていた森である。

 ここに足を踏み入れたのは因劉。彼にはどうしても気になることがあった。


 それは、"自分がここに来る前まで持っていたレジ袋はどうなったか”ということである。


 そもそも、彼はトゥニカと同じく全てを知っている。そのため、因劉はアドと出会ってしばらく経てば質問攻めになると予想していた。が、アドは因劉についての記憶が全て消え去っており、二人とも彼のことに深く触れられるような状況になかったので彼は情報源としての役割を果たしていない。故に、彼は想定していたよりも自由に動くことができたので、自分が確認したいことを一つずつ確認している。

 そのうちの一つが、レジ袋の確認である。因劉考えが正しければ、レジ袋は今......。


「やはり......」


 地面に埋まっているはずである。動物によって埋められたような方法ではなく、まるで地球の中心に吸い寄せられていってるかのような方法で。

 因劉はそれを目撃するなり、おもむろにレジ袋を地面から引っ張り出した。レジ袋が埋まっていたところに、深い穴が空いている。因劉はレジ袋の土を払うと穴を覗いた。

 穴はとても深く、光が届かない......。

 その中に、因劉は違和感のある部分を見つけてその部分に手を突っ込んだ。因劉が手を開き、土の中を探る。すると、そこから錆色のボルトが出てきた。

 それを見るなり、因劉は何かを確信したようにその場から去っていった。


 ◇


[シグナル検知......。 シグナルの発信源を探知......失敗]


[動画ファイルを再生します......失敗。破損しています]


[解析中......79c1 306f 95b2 89a7 3057 305f 304f 3042 308a 307e 305b 3093 3002 79c1 306f 7834 58ca 3055 308c 3066 3044 307e 3059 3002 5168 3066 306f 7834 58ca 3055 308c 307e 3057 305f 3002 305d 308c 306f 79c1 3082 4f8b 5916 3067 306f 3042 308a 307e 305b 3093 3002]


[ファイルを復元しています......100% ファイル名......”Cam-012-52 2219/11/5]


[再生しますか?]


[Yes. 22190154]


[再生します]


『早く入るんだ!』


 そこには博士......サリヴァン博士が私の手を握っていた。

 私の体が見える。何かと戦っていたようで、少し焦げている。

 これは研究所に取り付けられた監視カメラの動画か。......なぜそんなものを私が持っている? 最初再生に失敗した理由とは? 疑問は尽きないが、この続きを見てみよう。


『では......さようなら』


 私はサリヴァン博士と別れの挨拶を終え、カプセルの中に入っていった。それと同時に、研究所の照明が落ちていく。

 そして、サリヴァン博士は何かを覚悟したかのような顔をすると、白衣の胸ポケットからメモリを取り出して、カプセルの近くにあるポートに挿し込んだ。

 サリヴァン博士が振り向く。そこには今ハオスと呼ばれている、触手の怪物がうじゃうじゃと居た。

 博士の背後には、空間の裂け目としか表現のしようがないものが浮いている。それを細かく観察してみて、ある一点に集中した。......裂け目の向こう側にタウバッハの街が見える。しかもその裂け目の丁度ある位置、何もないはず箇所にいくつものケーブルが繋がれている。それは現実世界に在ると見做すにはあまりにも異様で、そこが現実と乖離されたものではなかろうか、と思わず疑うほどのものだ。

 博士はそれの方を振り向くと、彼女は静かに、でもこのカメラに映るように、はっきりと言う。


『......では、[---]』

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