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Tουφέκι - 〝ライフル〟 -

『エス。そちらの報告を』

「はい。調査中ですが、不審な男を見つけました。詳しく調査します」

『そうか』 


 エスはボスに先日あった白い貫頭衣の男の説明をすると、ボスとの通話を切った。エスはここ三日ほど連絡していなかったので、心配にでもなったか。そんな考えをして、ボスがそんなことを考えるだろうか、という疑問も消せなかったので、凡そいつまでたっても連絡をよこさない自分に業を煮やしたのだろう。と結論を出し、窓の外を見た。

 空は少しずつ暗くなってきて、エスの疲労と眠気をより強める。アドに至っては、すでに充電を始めている。

 流石に、今日は情報が多すぎて疲れた。明日は騎士の仕事としてある、失踪事件の調査を行わなくてはならない。本格的に。

 最早何も考える気が起きない......と、エスは諦めたかのようにベッドへと倒れ込んだ。

 目を閉じると思い出される、あの男の顔。青白い肌。あの顔付きの、気持ち悪さ。

 これはトラウマになってしまったのではなかろうか、とエスは不気味に思う。あの男の顔が瞼の裏に貼りついたかのように離れない。

 そういえば、初めて仕事をした時の夜もこんな気分だった、と思い出しながら、エスは何も考えないようにしてゆっくりと目を瞑った。

 ゆっくりと広がる暗闇に、エスの意識は徐々に呑まれていき、静かに意識が途切れた。


 ◇


 朝日が射し込んできて、エスはゆっくりと目を覚ました。

 奇妙な朝だ。まるで全て自分のものでないかのような......。が、そんなエスのぼんやりとした気持ちとは裏腹に、視界ははっきりとしており、アドが窓際で光を浴びているのが見える。そして、因劉が使っていたベッドには何故かラスティンが寝ていた。何があったのだろう。窓を開けてみる。小鳥の囀りはなんだか喧しく、外から漂う朝餉の匂いが、エスの鼻をくすぐった。一応アドを起こしておく。

 ここが街外れの最安値の宿であるがゆえ、朝餉(あさげ)などという気の利いたものは出ない。今日は余裕があるので、朝餉でも食おうかと、エスはアドと外へ出た。

 ラスティンは面倒臭そうなので放置である。


 さて、朝餉に何を食べるか、ということについて、エスは深く考えていなかったが、不思議と惹かれる場所があった。

 そこは人気のない木造の建物で、入り口のところに立てられた看板に店の名前が書いてあるだけの、ひっそりとした建物だ。しかし、エスは何やらこの店に強く惹かれてしまい、アドを引っ張って店の階段を登ってみた。

 ギシィ.......ギシィ......。

 一段踏む毎に嫌な音を立てる階段を登り終え、これまた開店中とだけ書かれた看板が飾られた扉を開くと、そこは人気のないカフェであった。

 一応最低限の掃除はしてあるらしいが、それでも机の上の埃が目立ったし、マトモであればこんなところで食事などしようとは思えない場所だった。

 しかし、エスはどうしてもそこで食事しようとした。その理由はエス自身が理解していなかったし、まるで体がそうしろと言っているかのようにそこに固定されてまるで動かない。引き返す、という事が出来なかった。

 エスがカウンターに座り、メニューから適当なものを選んでしばらく待っていると、ドアベルがチリリとなって、更なる客がやってきた。

 入ってきた客は、あの時見た男と変わらない、白い貫頭衣が特徴的な、あの男だった。

 まるで偏執狂につきまとわれているかのような不気味さに、エスは背筋を震わせる。


(頼むからこっちに来ないでくれ)


 エスの切実な思いとは裏腹に、白い貫頭衣の男はエスの隣の席に座った。

 アドはエスが明らかに怯えているのが見えたのか、急に席を立ち、エスと席を代わる。そして男からエスを守るように手を広げる。が、そうすると男は席を立って、エスの隣に座る。エスが席を立ち、他の席に座ると、男はべったりと付きまとうように座る。座る。そして最終的に元の席に落ち着くと、エスはテーブルを叩きつけて叫んだ。


「なんですか気持ち悪い!」


 流石に堪忍袋の尾が切れたらしい。初対面のはずの男にここまで言うのは、エスの人生で初めてのことだ。

 男はまた気味の悪い笑みを薄ら浮かべて、「貴女とお話がしたいのですよ」と言った。先ほどとは違い、エスと男を挟むようにして隣に座るアドが、人差し指を男のこめかみに向けている。

 そのことに気が付いた男が指を少し上へ向けると、アドのすぐ後ろに()()()()()()()()()()()女が現れた。銃口がアドの後頭部に接している。この時代に、黒光りするライフル。エスはそれがどのようなものか分からずとも、それの持つ冷たい殺気に睨まれて息を呑んだ。

 両手でないと支えられないようなそれを向けられたアドは、即座に人差し指を空中に向け、女の眉間にレーザービームを放った。マトモな人間の女性があそこまで巨大なライフルを持っていれば、まず避けられない攻撃である。

 その攻撃を女はまるで綿のような身軽さで全てを避けると、ライフルのトリガーに指をかけ......男に制止させられた。


「やめましょう。無用な争いを、”母”は好まない」


 男が場を落ち着かせると、厨房から呑気に茶色いサンドイッチが運ばれてきた。マスターは何かを気にしている様子がない。まるで操り人形のようだ。先ほどの女はゴツいライフルと共にアドの隣にテーブルの上に足を投げ出して座った。客観的に見れば美人と表現できるのだが、この女には態度や服装など様々な要因で顔がまるで気にならない。アドの方をずっと睨み続けているのもなんだか気味が悪い。

 エスがその様子をジッと眺めていると、男に肩を叩かれ、薄らと気味の悪い笑みを浮かべながら、エスにサンドイッチを食べるよう促した。しかし、先ほどの戦いで一気に食欲が失せてしまったエスは中々サンドイッチに手をつけようとしないので、男は静かに話し始めた。


「さて、シェリーさん。お会いできて嬉しい限りです。私は母神教の使徒の一人、トゥニカと申します」

「こんにちは、トゥニカさん......あなた、私のこと本名で呼びましたよね」


 エスはトゥニカと名乗った男に警戒しながら質問を投げかける。


「ええ。知っていますもの、貴女のことは」

「私って本名隠してるんですよ」

「それは、失礼しました。エスさんと今後はお呼びしますね」


 トゥニカは飄々と答えると、さて、と前置きを置いて自分の話を始めた。


「私がここへ来た理由など他でもない」


 トゥニカの口から放たれた言葉で、エスの周囲の空気が一気に冷えた......ような気がした。

 ダメだ。この先はダメだ。と、エスの中の誰かが必死で聞くなと忠告してくる。

 だが、エスはどうしても聞かなくてはならないような使命感と、トゥニカの持つ魔力によって、耳を塞ぐことが出来ない。

 故に、それを聞いてしまった。悪魔の一言とも言える、その言葉を。


「私は、貴方やそちらにいらっしゃるロボットについて全てを知っている、ということをお伝えしに来たのです」


 エスはまるで冷たい剣を首筋に向けられているかのような恐怖と、抑えきることのできない好奇心に襲われ、その続きを話すよう促した。

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