Φωνή - 〝声〟 -
彼らはどこかで聞いたことのある台詞を呟き続けながら、必死で何かを探すかのようにくるくると頭部を回転させている。
そして、罠が仕掛けてある洞窟の方に向かい始めた。
罠をあの連中に使われたらせっかくの計画が台無しだ、とエスは杖から氷弾を放つ。
『幸福ヲ 拒ムナ』
氷弾が足元に当たったロボットが、くるくると頭部を回転させてエスを探している。
(目が無いのだろうか)
エスはそう考えるなり、近くで樹液を舐めていた虫を手づかみで放り投げてみた。
『幸福ヲ! 幸福ヲ!』
エスの予想通り、ロボットたちは投げた虫の方へと向かった。
そして手からレーザーのようなものを放ち、虫を照らし続けていたかと思うと、虫に何をするわけでもなく再びくるくると頭部を回転させ始めた。音で物体を判断しているわけではないらしい。
[カム・マシンタイタン]
空から降ってきたマシンタイタンが何体かのロボットを踏み潰す。肉塊と螺子がマシンタイタンの足裏からはみ出てきて、腐臭が漂い始めた。
ロボットたちがマシンタイタンから少し離れたのを見て、エスはここぞとばかりに洞窟に氷弾を撃ち込んだ。
目を覚ましたドラゴンは怒り、洞窟から攻撃を仕掛けた敵を捉えようと飛び出してくる。
ドラゴンの足が落とし穴の蓋を踏み抜き、ドラゴンは土煙を上げながら地面に沈んでいった。
ジタバタと暴れながら必死で落とし穴から逃れようとするドラゴンの上から、エスは鎖を投げた。
重しのついた鎖はドラゴンを押さえつけて飛行を妨害する。
その隙をついて翼を弓で撃ち抜いたエスは、ドラゴンの首に飛び乗り、縄で緩めに首を縛ってから鱗を剥がして持ってきた鉈でドラゴンの太い首を何度も斬りつけた。ドラゴンの硬い皮膚は血を吹き出しながら、少しずつ切れていき、やがて完全に切り落とされた。血が吹き出る。エスは布で切り口を塞ぎ、縄で硬く縛り付けた。頭も同様に縛り付ける。
体に染み付いた動き。狩り。彼女の生きる術の一つ。エスは切り分けたドラゴンをすぐに持ち帰ることができるよう再度縄で縛っておいて、アドに加勢する。
『幸福ヲ拒ムナ』
ロボットたちはマシンタイタンを取り囲み、右腕についた大砲のようなものからレーザービームを出しマシンタイタンのボディを抉っていた。エスは血にまみれた鉈を振りかざし、ロボットの頭を切り落とす。
そして黄色いゼリー状の球体を突き刺し、刳り貫き、中から出てきたケーブルを切り裂いた。
淡々と作業をこなしていくエスの頭に、声が流れてきた。
《お前はなぜバラし方が分かる》
声に邪魔されて、鉈があらぬ方向へと飛んで行った。エスはレーザービームの弾幕をバク宙や側転で華麗に避けると、鉈を拾い上げ、再びゼリー状の球体を刳り貫き、淡々とコードを切り裂く作業に戻った。
コードを切り裂くことでロボットの動きが止まると、なぜエスは知っているのか。その答えは彼女にすら分からない。
アドはマシンタイタンをオートモードに切り替えてから降りると、「コードβ作動」と短く唱えた。槍が空中に投影され、実体化する。以前見た時と変わらない、未来的なデザイン。
アドが軽々と片手で放り投げた何十粁とあるそれは、縦に並んでいたロボット三体を貫いた。
確実に倒せてはいる。だが、ロボットたちはどこからともなく湧いてきて一向に減る気配がない。
一方で、唯一の人間であるエスには確実に疲労が溜まっていた。彼らと同種であるがゆえ疲れを知らないアドはそれを察してエスを守ろうと動くのだが、アドにも限界は存在する。壊れかけであるがゆえ、アドは活動限界を迎えようとしていた。
エスが死を覚悟した時、突然視界が真っ白に染まった。
まばゆい光。あまりの光の強さにエスは目を瞑った。頭が全力でシェイクされているかのような不快感に耐え、ゆっくりとエスが目を開けると、そこには白い貫頭衣に身を包んだ男が立っていた。
「シェリー・ウェスターさんですね」
瞬間的に気持ち悪い、とエスは感じた。状況はアドと出会った時と殆ど一緒。にも関わらず、気持ち悪い、と本能的に感じたのだ。それと同時に、ここに居たら危険だ、とも。
エスはドラゴンの繋がっている鎖をマシンタイタンに括り付けると、なぜか操作方法を知っているマシンタイタンにアドを放り込んで、フライモードに変形させると、無理やり機体を持ち上げて逃げ去った。
その様を、男は静かに微笑んで見守っていた。
その表情は慈愛に満ちた母のようとも、厳かな父のようだともいえた。
◇
街に戻ってきてドラゴンの換金の手続きの完了を待っているエスは、宿の鏡をみてはボーッとしていた。
ずっと宿で寝ていたらしい因劉はそんなエスの様子を見て、何かを察したかのように何処かへ出ていってしまった。
ラスティンも監視と称して因劉についていった。どうやら二人はいつの間にか打ち解けていたらしい。どうやってコミュニケーションをとっているのかといえば、手話だ。どうして打ち解けたのか、アドとエスは知らない。エスにいたっては、知ろうとする素振りもなかった。
エスはひたすらに、宿の鏡を見ては、自分の顔をペタペタと触るということを繰り返していた。
それがどういう意味を持つのか、アドには勿論、他の誰にも理解出来なかった。
エスは帰ってきてからずっと自分に尋ねていた。
(私はなぜ彼と共に行動しているのだろう)
一度は”運命”である、と結論付けたその疑問に対し、エスは再び向き合っていた。
白い貫頭衣の男。なぜあの男が自分の名前を知っていたのか、という疑問に加え、アドと出会った時と殆ど同じ状況であったにも関わらず彼を嫌悪したことも彼女の中で引っかかっていた。正体不明の怪物に襲われ、窮地に陥った時、助けに来てくれたヒーロー......アドと、あの男の違い。
エスはそんな違いを認識しつつも、確かにあの男とアドに共通するものを感じていた。
それは懐かしさとも言える何かで、恐怖と同義、かつ幸福のような何か。
なのに、あの男とアドは確実に何かが違った。明らかに何か、根本的なものが違う。
ロボットか人間かの違いか。違う。服装の違いか。それも違う。私に向けられた感情の違いか。違う。何かが違う。何が。何かが。何かが違う。違う。
(うるさい!)
エスが次第に大きくなっていく内なる声を抑え込むと、机の上に乗せたベルがけたたましく鳴った。




