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Tεχνολογία - 〝技術〟 -

「ラスティン・バイローム、ヘテロジニアスセカンドサイト0154の様子を報告せよ」


 朝日がカラバイア現国王、ランベンノ二世の顔を照らす。カーペットが敷かれた王室。そこでランベンノ二世はどこか憂鬱そうな表情で、跪く褐色肌の男、上級騎士であるラスティン・バイロームに命じた。


「はっ。0154は未だ、エスという女から離れないようです」

「そうか。エスという女の手綱さえ握っておけば、0154は動かないんだな」


 ランベンノ二世はゆっくりとラスティンに言った。


「その件ですが、エスが騎士団に居続ける可能性は非常に低く......」

「理解している。だからこそ、早いうちにエスにはあのことを知ってもらう」


 ランベンノ二世の放った言葉に、ラスティンは慎重に尋ねた。


「あのこと、と言いますと」

「......あの技術だ。お前も分かるだろう」


 ラスティンの目が見開かれる。そして、ラスティンは口調を荒げてランベンノ二世にいう。


「そんな、あれは国家機密では!? それをあんな素性もしれない女に、渡していいはずが......」

「しかし。このままでは技術を母神教に盗まれて終わってしまう。それを防ぐためには、多少の無茶は仕方あるまい」


 ランベンノ二世の言葉を聞き、ラスティンは苛立った様子で彼に背を向けた。


「どこへ行く」

「タウバッハだ。あんたに任せてたんじゃ、この国はダメになる!」


 無駄に広い王室には、ラスティンの声の残響と王様だけが残っていた。


 ◇


 [セカンドサイト 起動 : 地形情報をダウンロード......100%]


 アドのシステムがCPUへとタウバッハの情報を伝えていく。

 タウバッハは港町だった。港近くの屋台から食べ物のいい匂いがしてくる。エスはそれに見向きもせずに、タウバッハをひたすらに歩き回った。

 今回タウバッハに来た目的。それは、十年前の失踪事件について調べることだ。暫く待っているだけでは仕事(一攫千金のチャンス)が回ってきそうにもないだろうと考えたのも理由の一つだが、それ以上に気になっていたのは、十年前の事件のファイルにエスの本名が載っていたこと。それは、エス自身に不安を植え付けていた。

 母神教とこの街は絶対に何か関係がある。少なくとも......。


(自分が知らないことがこの街にある)


 エスはそんな確信を抱きながら、誰にも相談していない。自分の過去を話したアドにさえ、このことを話すことが出来なかった。それは彼女が今まで絶対的な信頼を置いた人物が一人としていなかったからだ。

 エスにとってアドの存在は安心できる、心地よい存在だった。下手に相手の心の底を読まずとも接していられる。そんな人物は、エスにとってどうも慣れない存在だ。

 それに、エス自身アドと会ってから、”誰かの人生の続きを観ている”ような感覚に陥っていた。


(アドさんと私には過去に何か繋がりがあったのだろうか)


 その違和感の正体を確かめようと考えるほど、自分の過去とアドは無関係とは考えられなかった。だから、確かめるのだ。この街で自分に何があったのかを。


「......この後の計画は?」


 アドが考え事をしていたエスに話しかける。エスはアドに具体的な計画を言った。


「ギルドで稼ぎながら、失踪事件について調べます。アドさんは私についてきてください」

「了解しました」


 アドはエスの真後ろに立った。背筋に今にも触れそうな距離に立ったアドに対し、エスは振り返って言った。


「......あの、近いです」


 ◇


「ここは......異世界、なのか? それとも」


 彼が不気味な森を抜けると、そこには資料でしかみたことがないような中世の街並みが広がっていた。

 石を積み上げられて作られた外壁の中へ入っていくと、石畳で舗装された道路が革靴にぶつかって心地よい音を立てた。石と木、レンガで建てられた家。中世ヨーロッパの時代にこのような街があったと彼は知っている。何もかもが彼の知っている街とは違う。彼の知っている街並みはもっと近代的で、ホログラムで作られた扉があるような街だ。まるで異世界に迷い込んだかのような気分になる。


「Hh? go na ρυοκοθ νοηιτο?」


 彼がフラフラと歩いていると、聞いたこともないような言語……カラバイア語を操る男が話しかけてきた。彼はもちろんカラバイア語など聞いたこともないが、こういう時の対処法は知っている。

 手話だ。ダメ元ではあるが、可能性がある以上やるのが彼だ。彼の手話を見て、男は首を傾げ、言葉を続けた。

 男は身振り手振りで、彼が質問しようとしたことに答えようとした。

 彼は地面を指差し、両手を肩の高さへ持ち上げ、首を傾げると、男はなんとなく言わんとしていることを理解したらしく、流暢にカラバイア語で説明をしたのち、彼の手を強引に掴んで歩き出した。


 ◇


 アドとエスは冒険者ギルドへとやって来ていた。借金返済の一環として、コツコツと金を貯めていくためだ。ギルド内部には、入り口の真横に依頼書が張られている掲示板がある。そこには”Δ(デルタ)”だの、”Δ♯(デルタシャープ)”だの、”Δ♭(デルタフラット)”と書かれている依頼書が殆どだった。その記号の意味を尋ねたアドに、エスは詳しく説明していく。


 冒険者にはランク分けがある。ランクはクラスと呼ばれており、達成した依頼の数や難易度に応じてクラスがE(イプシロン)からΣ(シグマ)まで上がる。そして、そのクラスの一つ上のクラスまでの依頼を受けることができる。

 そして、依頼書より下クラスの冒険者が上のクラスの依頼を受けると、より多くの報酬が出る。

 下のクラスで埋もれてしまう人間をできるだけ少なくできるようにする工夫だが、これによってEクラス(ニュービー)がΔクラスに挑み、命を落とすという事件が相次いだ。そのため、冒険者ギルドではΔクラスを三段階に分けた。Δ♭は所謂ペット探しなど命の危険が少ないもの。Δは弱い魔物の討伐など、初めて戦うにはうってつけの依頼。Δ♯はそこそこ慣れて来て、Γクラスに上がろうとしている者が肩慣らしに受けるようなものと、ギルドが指定した。


「......まあ私はΓクラスなので、Βクラスを」

「博士!? 博士ですよね!?」


 エスが依頼書を取ろうとした瞬間、横から見たこともない男が話しかけて来た。......日本語で。当たり前のことだが、エスは日本語を理解できず困惑し、自分のことを呼んでいると思われる男の方を振り向く。髪が肩にかかるほどに長く、人相が悪いことからその男の姿は犯罪者のように見えた。カラバイアでは滅多に見ないタイプの顔だ。

 それに警戒したアドが、男を投げ飛ばして床に叩きつけた。そして、日本語を使えたことに疑問を抱き男に尋ねる。


「......貴方は?」

「おっ。ポンコツロボじゃん、久し振り」


 組み伏せたまま、日本語で話し始めるアド。唐突に理解できない言語で話し出した二人に困惑しながら、エスは念の為杖に魔力を込め始めた。


「......あれ、お前彼女はどうした? 死んだのか?」

 [分析開始......リザルト:彼女 は不明な主語です]

「えっ」


 システムメッセージを聞いた男は明らかに驚いた様子を見せる。そして、少し悲しげに目を伏せると、残念そうにアドの手を払いのけ、後ろにいるエスに頭を下げた。身振り手振りで言葉を伝えようとするが、アドが日本語もカラバイア語も話せることを思い出すとアドに説明した。

 アドは男に対する警戒を露わにしつつ、エスに説明する。


「......どうやら、人違いだったようです。雰囲気が似ていた、と」

「はあ。なんだそりゃ......まあいいや」

「後一つ。旅に同行したいようです」


 アドの言葉を聞き、長い髪の後ろを掻くエス。出来れば二人で行動していたい、というのが彼女の心情だ。フットワークの軽さも、いざという時に切れるカードの数も一人増えるだけで大分減る。

 しかし、この男はどうもアドの過去を知っている。その事だけで、他のデメリットに目を瞑る理由たり得る。......少なくとも今回は。


「......良いですよ。ついて来ても」


 アドはその事を男に伝えた。男は嬉しそうに笑い、エスに手を向けた。握手を求められている、とエスは納得し、手を差し出す前に男に名前を尋ねた。

 それを聞いた男は、いたずらっぽい笑みを浮かべて答える。


「因劉。天才軍師だ。よろしく」


 そう言って笑う男の笑顔は、エスにはなんだか不気味に見えた。

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