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第94話 世界への愚痴

 「俺はこちらの世界に来て、まだ一ヶ月も経っていない。

 それでも見えてきた事が多い。

 例えば、俺が普通の一般人で何も能力もなく、突然この街に現れたとする。

 言葉も分からない。

 誰も助けてくれないだろう。

 そんな中で、腹が空き途方に暮れる。

 怪しい人でも、気前よく食事を恵んでくれたりしたら、何の疑いもなく信用して後を付いて行ってしまうだろう。

 寝床も食べ物も無いのだからな。

 その後は定番な話だが、人身売買とかで奴隷として売られるのがあるだろうな。

 奴隷制度や人攫いが横行する世界では普通にある事だよね。

 無かったとしても。

 食うに困って、盗みをはたらく。

 畑を荒らしたりして、結局村人や警備兵に捕まって、牢屋に入れられ、食事も与えられず殺されて終わりって事が予想されるな。

 罪人を養う事など、この国ではしないのだろう。

 水や食事を提供するにもそれなりに苦労はするからな。

 こちらの世界では食べ物一つ盗んでも、殺されたりすることがあたり前のように思えるからね。

 奴隷になるか殺されるかが目に見えて予想できる。

 町の外には魔獣もいる。

 遭遇して捕まって食い殺される。

 逃げきれたとしても傷ついて病原菌が入り、動けなくなって病死、餓死とか普通に考えられるから。

 こちらの世界は甘くないと実感できる。

 だから少しでも強くなろうと思った次第だ。

 臆病者だから、余計そうに思えるのだよ。

 それに幸いにも、俺は馬鹿だから良かったのかも知れないな。

 余り頭が良いと先が見えてしまい。

 恐らくこの世界に絶望して、数日もしないうちに自ら死を選ぶことになるだろうからな。

 その方が楽で良いと考えるのも自然な事だろう。

 特に君達のように奴隷として捕まったりしたら、そうなる確率が高いかな。

 俺の場合は、奴隷に落ちたのならば、魔法で逆らえない痛みを与えられるくらいなら、舌を噛み切って死ぬことの方が良いな。

 それか一か八かで奴隷の主人を道ずれにして殺すくらいしか思いつかないだろう。

 元の世界と比べて見ると、この世界では早く楽になった方が良いと思えるからね。

 次に生まれ変わることがあるか分からないが、そちらに期待したほうがまだましだからね。

 運よ良く言葉が理解できたなら、自分の知識を活かして、媚を売り良からぬ事を企んで生き抜くだろうな。

 当然、俺の知っている知識でこの世界に迷惑をかける事になる。

 サレンさんが話していた、この国の北の領地を支配する領主が、失敗している事が分っているからな。

 中途半端な知識を広めれば問題が発生する。

 問題が発生した対処法を知らないのならば対応が出来ないのだからな。

 どれくらい迷惑な事をしでかすのか想像も出来ないくらいに。

 俺だっていろいろ知っている事で、この世界で商売とかやってみたいことはあるよ。

 でも、なんでもそうだが、教えて良い事と悪い事が有るのだよ。

 北の領主はそれで失敗したのでは無いのかな。

 神が見ているのだろう。

 広まってはいけない事をやってしまったのかも知れない。

 上級貴族が妬みだけで下級貴族に追い落とされると思えないからな。

 公爵家も関係していたんだろう。

 裏で何らかの圧力がかかったのは当然分る。

 それが誰の指示かは分からないが、この世界に都合の悪い事をしたのは確かだと思う。

 そのことを考えると、俺が出来る事は少ないな。

 君達が食べやすい食事を教えてあげるくらいは許してくれるのではないかな。

 それくらいしか教えることは出来ないだろうな。

 世界に悪い影響が無いような出来る範囲が少ないからね。

 何かしたら天罰が本当に起きるかも知れないしね。

 ・・・

 この世界では匂いが気になるので、身体を洗う石鹸とか作ってみたい事もあった。

 でも、そんな物は此処では作ってはいけない。

 神が見ていたら恐らくは怒ってしまうだろうな。

 幸いにも、君達が洗浄魔法を使えて身体や服を奇麗にしてくれるから良かったけど、もしなかったら自分用に石鹸を作っていたかも知れない。

 作り方は知っているが、他には絶対提供はしないし教えたりもしないだろう」

 「石鹸ですか?」

 「あぁ、水を使い身体の汚れを落とすことの出来るアイテムと言って良いかな。

 でもね、なんでもそうだけど副作用という事が起きるんだよ。

 そいつが結構やばい。

 たかだか石鹸を作るだけでも、その後の処理を考えなくてはいけないからね。

 同時並行で下水処理もどうにかしないといけないから。

 こちらでは下水は川に流すだけだよね。

 それでも川が汚れるよね。

 もし石鹸など普及し使いだしたら大変な事に陥る。

 公害が発生する。

 川が汚れ汚染されてしまうのだよ。

 今まで飲めていた貴重な飲み水が汚染され飲めなくなるからな。

 俺達の世界で過去に先人達が経験していた事があるんだ。

 いや、後進国では今でも現在そのような場所がいくつもあると言う話だな。

 石鹸を作るのは知識があれば誰でも簡単にできるよ。

 よく定番なアニメや小説で書かれるが、良いところ部分だけで次に起こる事態を書かれていない。

 汚れを落としたカス、汚水、油の処理はどうするのって話になる。

 それを処理しないと川や土地が汚れ汚染され生物が住めなくなってしまうのだよ。

 自ら招いた環境汚染により自滅する。

 先人達が経験して目に見えて分っている事ではないか。

 それを知らないで書いているのかが疑問に思うよ。

 対処するには、大規模なインフラを整備しなくてはいけない。

 インフラ整備では家、土地、それに絡む利権も発生してくる。

 大規模な公共工事が必要で維持もしなくてはならない。

 そんな事をこの世界の人には知識を教えても出来ない事だろうな。

 北の大地を支配する領主は新しい物を作りだして周りから妬みをかったと言うが、違うような気がする。

 神、世界から排除されたのではないかな。

 この世界には余りにも早すぎた知識を披露した為に。

 あの話を聞いて、俺は北の領主が早めに潰されて良かったと思うよ。

 領内の被害はそれなりに出たらしいが、そいつがやった事が全世界に広がれば、確かに生活は楽になり便利になるだろう。

 その代わり負の遺産もたくさん出てくるだろうな。

 産業が発達する過程でどうしても出てしまう汚れがあるからな。

 命を危険にするモノだって当然でてくる。

 そんなのある程度文明が進んでいないと扱えるものではないよ。

 この世界にはまだまだそれは無理だろう。

 水が貴重で地下水とかを汲む技術も存在していないのだろうからな。

 最低でもその技術を自分達でやれなければ難しいだろうな。

 実際に後進国で地下水があるのに、汲めないのでかなり貧しい生活をしている地域があるからね。

 わざわざ支援で井戸堀のやり方を教え、吸い上げ装置の使い方も教えてあげても、造った者が去ったら管理が出来ずに結局放置されて使わないでいるとかあったらしいからな。

 数年後に支援した人達が訪れて、まったく使われていない。

 理由は水を出す金属のコックが盗まれ開けられないでいるから使えないでいると言う話だった。

 他にいろいろ代用が有るのに誰も考えもしなかったらしいな。

 コックがあった根元のネジを廻すだけだから、ペンチやプライヤーの工具があるのでそれを使って捻るだけでも水は出るのにね。

 工具が残っているのに替わりの物を作ろうともしなかった。

 大きい四角のネジ山だ。

 無くなっても代わりになる物で代用できる簡単なネジ山を取り付けたのだ。

 しかし、それも出来なかった。

 支援した人達もそこまでとはさすがに思いつかなかったらしい。

 まずコックが盗まれるとは誰も思っていなかった。

 それに故障したときの直し方も教えたらしいが、その教えた人が他の村に行ってしまったので管理も出来なくなったそうだ。

 井戸の管理の引継ぎもしていない。

 そのせいで前の同じように遠くの川に水を汲みに行くか、雨水を貯めて今までどうりの生活をしていたと言う。

 一時期少なくなった病気に係る者が多くなったと言う話だね。

 かなりお粗末な事態だ。

 井戸を造ってもコック一つの管理が出来ないと、支援した人達は呆れていたよ。

 元の世界でもそのような事が実際に有るのだ。

 こちらの文明水準では、同じような事があると思えてくるよ。

 近代社会の生活をするには大勢の人手と資源のエネルギーの維持が必要だからね。

 資源の取り合いで戦争がおこったりもするだろう。

 実際俺達世界では過去に大規模な戦争を経験をしているから。

 たかだが石鹸を造ったせいで国が亡びるって事だって案外有り得るのだからね。

 ・・・

 バタフフライ効果だったかな、蝶のはばたきが風になり、嵐をも起こす。

 初期にどんなに小さな差も指数関数的に増大し得るとか聞いた事があるよ。

 石鹸を造ったせいで良きせぬ事が相乗効果で始まってしまう事があるかもしれない。

 良い方向へ進めば良いが、俺が分かっている範囲で考えると、悪い方向へ行くのが予想できる。

 北の領主はそれを大規模に始めようとしたのだろうな。

 早めに潰された方が正解だと判断できるよ。

 「・・・」

 おっと、失礼まったく関係ない話をしてしまった。

 ちょっとストレスが溜まっていたので、愚痴を言ってしまったな。

 許してくれ。

 まぁ、なんて言うか、俺はこの世界ではそれほどまでに生に執着する事は無いだろう。

 でも約束だけは守りたく、力を身に付けたいのは確かな事だしね」

 「・・・」

 「逆に俺がサレンさんに聞きたかった事が会ったんだよ。

 なぜキースにあれほど酷い目に合わされるているのに生きていたかったのかを。

 それほどまで判断が出来ないくらい追い込まれてしまっていたのかな?」

 「それは、私にも分かりません。

 何故私は奴隷になっているのかも分かりませんでした。

 ただ何故か死にたくない。

 生きていればいずれ解放されて自由になれる。

 家の者が助けてくれると思っていただけでしたから」

 「すまない。

 これは聞いてはいけない事だったか。

 サレンさんには他にも家の事情で生きなければいけない理由があったのだろう。

 悪かったね。

 この質問は失礼にあたったな。

 謝りたいと思おうよ」

 「そ そんな事は有りません。

 私こそ不謹慎でした。

 ご主人様がそのような考え持っていたなんて知り得もしませんでした」

 「別に大したことは無いと思うよ。

 おれはどちらかと言うと元の世界でも生には執着が疎い一般人だからね。

 事故や病気で死んだのならば仕方無いと割り切ることが簡単に出来るから。

 ただ、死んだ時に、残っていた物が他人に見られると恥ずかしいから、早く誰か処分してと思うくらいかな。

 あとは親より先に死んで、親不孝な事をおこなってしまい悪かったと思うくらいだね」

 「・・・」

 「まぁ、この世界で、俺はまず生きる目的を捜そうとしていた。

 君達と同じく何故か死にたくは無いと思っていた。

 たまたまだが、君達と出会ってしまった。

 最初に言ったように目的は言葉の魔法が欲しかっただけだった。

 それと美しい君達をみてしまい。

 よからぬ欲望が沸いてしまったのも事実だし、助けてあげたいなと思ったのも本当の事だよ。

 でもキースとの条件が悪ければ見捨てようとしたのも事実か。

 しかし、結果的にキースを殺し君達を開放で来た。

 それで過程で、先日ターナさんを嫁に貰う事を約束できたので良かったと思っているよ。

 しかし、おかしな縁だね。

 俺としては不順な動機だったが、可愛い嫁さんが出来る予定だから強くなろうと、ただそれだけの話なんだよね」

 「ターナが羨ましいです。

 何もかも分っていて守って貰えるなんて」

 「何も分っていないよ。

 そんな事は本人以外分からないからね。

 あくまで俺が感じただけだから。

 だけど約束してしまったから、信念をもって守ろうと思った次第だ。

 それはサレンさん達にも言えるよ。

 契約でだが雇っている訳だからね。

 俺の能力も付加して君達にも効果が出るよにしているから。

 即死能力の防御壁を君達に付加しいているんだよ

 普通は考えられない事だよね」

 「本当に心から思っているのですか?」

 「あぁ、思っているとも」

 「それでしたら、お願いがあります。

 聞いて貰えないでしょうか」

 「俺で出来る範囲ならば良いけど。

 なんだろう」

 「剣を、私に剣を貸して下さいませんか」

 「剣を?」

 「どんな剣でも良いです。

 私もご主人様の話を聞いて、修行して強くなりたいのです。

 ターナもご主人様に感化され強くなろうと修行をしています。

 私も負けてはいられません。

 私の家系は剣を使う道場を営んでいました。

 剣の事だったら少しは知識が有ります。

 でも剣が無くては強くはなれません。 

 お願いです、剣を譲って下さい」

 「剣か、別に良いけど。

 そういえばキースが持っていたなんか魔力が籠った派手な装飾品をあしらった剣があったよね。

 あれでよければ貸してあげるよ。

 でもあれって使えるのかな。

 魔力がある剣みたいだけど、お飾りの剣にしか見えないんだよな」

 「本当ですか。

 あの神武器・破邪の剣を・・・」


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