第93話 見解の違い
確かに今回は俺が悪かったのだから仕方がない。
とりあえず甘んじて説教を受けようではないか。
「マナの取り込みの件は確かに俺が悪かった。
以後気を付けるので許して下さい」
俺はサレンさんに頭を下げた。
「ご主人様、何故私に頭を下げているのですか?」
「えっ、何故って、マナを取り込みすぎてトレーニングしていたから、お怒りになっていたのではないのですか?」
「違いますよ。
もう、私はそんな事で怒る事など無いのですからね。
失礼しちゃいますわ」
「そうなのですか」
「確かに、マナの取り込み過ぎは不味かったと思います。
元々私達でご主人様の体調を管理する事になっていたので、私達がいけなかったのですから」
「確かに言われてみればそうだった」
「魔法を習いたてのご主人様には仕方がない事でしょう。
幸い、取り込み過ぎたのが早く気づいて良かったのですからね」
「ごもっともです」
「そうかしこまらないで下さいよ。
まるで私が説教をしているみたいではないですか」
「そうでしたね。
・・・
えーと、それじゃサレンさんが言う話ってどう言う意味だろう?
俺が思っている言葉の意味と解釈の捉え方が違うと思うんだけど」
「ですから、私は何故ご主人様があれほど酷使した修行を続けられるのかを聞いて見たかったのですよ。
私も、家の為に力を付けたいのですが、頭の中で考えるだけで行動が伴いません。
私が力を付けたとしてもなにの役にたつのか分からないので踏み込めないでいるのです」
「うーん、なるほどね。
言いたい事は分るような気がするけど、俺とサレンさんは根本的に立場が違うのと思惑が違うと思うので、俺の答えがサレンさんに合っているとは言えないのだけども」
「どういう意味ですか」
「まずは俺は酷使したトレーニングを特にやっていないと言う事だ」
「そうなのですか。
強制的に魔法で身体に圧をかけ、極度の負担の中で修行をおこなっているように見えますが」
「まずはその強制的に魔法をかけている訳ではないのだよね。
酷使はまったくしていないのだけど。
サレンさんから見ればそう見えるのかな」
「はい、そのように見えます」
「なるほど、見解の違いだね。
一応、試しに俺の筋肉に聞いて見るか」
「?」
「おい、お前達、俺が鍛えていてつらいと思った事は有るのか?
・・・
ほら、なんともないそうだ」
「身体と話せるのですか?」
「いや冗談だよ」
「・・・」
「それはともかく。
身体を鍛えていてつらいと思った事はないよ。
これだけ鍛えていても、汗が少し滲んで出るくらいだからね。
痛みも無いし、むしろ気持ち良さが感じるかな」
「そうなのですか」
「アドレナリンが出ていて痛みとか辛さが無いのかも知れないな。
分からないけど。
俺としては別の事で精神的に圧迫され、違う汗が出てくる事が有るのが多いのだけど。
それは別の話しとして。
まずは力を持っていないと、この世界で生きていけないと言う事が分ってきているからね。
権力もしかりだ。
平和な世界じゃないのは十分承知している。
異種族、魔獣、魔物、悪魔、神が存在するのだろう。
種族間の対立がある。
それに神が居るなんて俺の国では思ってはいない人の方が圧倒的に多いから。
会った人が居るのが問題とされると思うよ。
薬をやっているか頭がおかしいと思われてしまうからね。
俺の国では神は精神的な救いの存在として扱われ、実物的には居ないと判断されていると思っているからね。
俺の解釈がそう考えているだけど、ほんとに居たら怖いし。
この世界に誰かしら来たとしても、神が居るなんで信じられない人がいるだろう。
俺だってそうだ。
超次元の知識を持った生命体が存在しているとは思っているけどね。
まぁ、それって神と同じ存在かも知れないけど。
神が実際に存在するならば、異能クラスの力を持っていないと、この世界で生きていけるか分からなくて、少しでも強くなれば良いと思ってトレーニングを続けているだけだから。
力が無いより少しでも合った方が良いだろう。
それだけの事だね」
「力、ご主人様は、あれほどの力を持っていると言うのに、足りないと言うのですか?
人を即死できる魔法が使えるのですよ」
「うーん、それだけど。
確かにとてつもなく凄い能力だよね。
でもね、それって限定的な力では無いのかな。
言っておくけどサレンさんが話したこの国の北の領主。
俺の考えだととてつもない力を持っているよ。
それに比べれば俺の力なんて限定的でしかないからね」
「私には同じようにしか見えませんが」
「まったく違うよ。
天と地の差があるほど力が離れている。
俺から見てもその北の領主は化け物って言って良いほどだからね」
「・・・」
「確かに俺の力も凄まじい。
しかし限定的な種族にしか効果が発揮されないと思う。
恐らく俺の即死能力は人間タイプと魔物クラスにしか有効な効力を発揮できない能力だ。
この世界で言うアンデット、レイス、精霊、悪魔あたりには全く効かない即死能力だろう」
「確かにそれは言えますが」
「それに決定的に弱点があるのだよ。
まず範囲内にしか効果が無く遠距離攻撃には弱い。
銃、いやこちらでは弓かな。
弓で遠くから狙い撃ちされたら、防ぐ手段がなく射貫かれ簡単に死んでしまうではないか。
遠距離攻撃魔法もそうだよね」
「確かに言われてみれば」
「考えれば、俺の能力なんて対策が結構うてるのだよ。
敵になる者が能力の効果を知っていればの話だけど。
調べられればいずれ分ってしまうだろう。
情報が重要なのはどの分野でも同じだから対策など考えられたら終わりなんだよね。
俺の能力は危険で調べるのにもそれなりに、苦労と犠牲はあるだろうけど、分からない事は無い」
「それは、そうですが」
「あきらかな欠点がある。
そう考えると違う力が欲しいって考えたりする訳よ。
それで俺が出来る範囲の事をやるしかないから、とりあえず肉体を鍛える事にしたんだ。
身体が機敏に動けば逃げる事も出来るから。
自分に出来る事をまず行動してみただけなんだよね。
誰でも出来る事から始めるのが基本な事だろう」
「・・・」
「サレンさんもあれこれ考える前に行動して見れば良いのではないかな。
やって駄目な事は無いと思うのだけどね」
「ご主人様の言うとおりです。
私は何もできないと言い訳をしていてやらないだけだったのかも知れません。
女とかそんな事関係はないですよね」
「そのとうりだね。
俺はさ、弱くて、臆病で、馬鹿だから、少しでも強くなるまでは外へ出たく無いと思っているのだよ。
この前だって、ドラゴンが来襲したって聞いてかなりビビっていたからね。
それで安全を確保できるまで、宿屋に引きこもっていた。
あの時は怖い思いをさせてすまなかった。
方法が何も浮かばなかったのだよ。
典型的な他人頼りの臆病者だろう」
「それは・・・」
「でもね。
引き込もっていてもなんの意味が無いじゃないかと思ってきた。
せっかく異世界に来たし、強くなっていろいろこの世界の事を見て回って行くのも面白いかなと思ってね。
興味が沸いてしまったので、旅に出て世界を見たいって思ってしまったのだよ。
それに、君達の耳を本格的に直すには、エリクサーか上級回復魔法の本が必要なんだろう。
それを探さなくてはいけないからね。
特にターナさんは俺と同じ人間くらいの耳の長さしか直っていないから。
約束で探すと言ってしまったしね。
探すのにも、まずは力が無いといけないから、最低でも外へ出かけられるまでは此処で鍛えたいと思ったのだよ。
それに可愛い嫁さんが出来る予定だから、少しでも強くなって守ってやらないと男としては立場がないだろうと思っている次第だ。
それが一番の理由かな」
「ターナの為にですか」
「そうだよ。
素直で奇麗で可愛い嫁さんの為だ。
それは誰しも思う事だろう。
好きな人の為に働いて生活を少しでも良くし安心感を得られたいと言うのはどの世界でも共通の認識だと思うけど、この世界では違うのかな」
「それは私達も同じ考えが有ります」
「そうか、それは良かったよ。
別の目的、感情がある世界が合っても不思議ではないからね。
特にこちらの貴族社会は自分の欲だけの為に人を支配する傾向があるのだろう。
愛とか信念とかそんなものは無く、ただ自分の欲望を満たす為にね」
「それは否定しません」
「そんな者達が支配している世界だ。
力を持っていなければ誰も守れないだろう。
それに、化け物クラスの力を持った者が多く存在しているのだろう。
力を少しでも持たなくてはならないじゃないか。
俺は、奴隷になって強制的に支配されるなんてまっぴらごめんだからね。
生活や金の為に働くのはまだしも、奴隷となったら強制的に主人に奉仕させられ無給のまま働かさられるのだろう。
そんな事は考えられない。
俺は君達を金で雇っている。
仕事をこなしてくれればそれなにり対価を払い答えたいと思っているからね。
俺の居た国では当たり前の事なのだよ」
「・・・」
「それに俺はターナさんに告白してしまったから。
あんまり奇麗なので欲望のままに告白してしまったけど、守ってやると言ってしまった。
その約束を守らないといけないからね。
それに今のところの俺の生きる目的のなったようなものだから、良いと思っている。
その為に、約束は何としても守らなくてはいけない事が信念と思っているのだよ。
例えターナさんが俺の事をどう思っていてもだ。
・・・
俺に対し助けられた恩義を感じているだけかも知れない。
権力と異常な力があるから頼っているだけかも知れない。
サレンさん達みたく、なんらかの打算があって行動しているのかも知れない。
ターナさんからしてみれば、俺は父親や兄を慕うように見ているのかも知れない。
「分かっていて行動していたのですか」
「そりゃ、何となく分るでしょう。
近くにこれだけ居るのだ、知らないもの同士、俺だってそれなりに全部うのみにせず警戒はしている事もある。
まして異種族同士だ。
俺の場合は特に異界人だと言って良いからね。
素直に君達の事を全部信じると言う事は無いから。
それは君達も同じ事だろう」
「それはそうですけど。
ご主人様は私達が思っている以上に、お人好し過ぎて、私達を信じてしまっていますよ」
「それは俺が日本人得意の体質だからだ。
こればかりは変えるのは難しいだろう。
相手が最初から嘘を言って、騙そうなんて思ってもみないからね。
騙されてからやっと警戒するが、それでも次に本当らしい事を言われると嘘だと半分、分っていても信じてしまう。
良く同じ詐欺に合う人がいるけど、本当にそれらしい話を聞くとお騙されたこと忘れて信じてしまう人が多くいるんだよ。
特に日本人は、お人好しが多いからな。
最初の嘘は相手の勘違いとか間違った事だと思って許してしまう。
だから次も騙されやすいんだよな。
日本人同士は。よほど悪い人ではない限り最初から騙そうと考えて近づいてこないからね。
自分も人を騙そうと考えていないから、相手も騙そうとまったく思っていないと判断しているんだ。
他国の状況は聞いた話、そんな事は日本だけだと言うけど、これは教育と生活環境で身につけた体質的なものだ。
仕方がない事なんだよ」
「体質なのですか。
日本人?
おかしな種族ですね」
「否定はしないと言っておこう。
・・・
俺はターナさんとは約束してしまったからね
守ってあげたいと思ったから、強くならなくちゃいけないと思った訳だ。
できる出来ないかはともかく、誰もが考える事だろう。
特にこの異世界では俺は生きずらい世界だからね」
「そんな事は・・・」
「サレンさんは俺が居た世界の事を知らないからね。
もし俺の居た国で、サレンさんが迷い込んで来たら、誰かしら助けてくれると思うよ。
たぶん国ぐるみで安全を確保してくれるだろう。
それもおせっかいなくらいに世話をしてくれると思う。
まぁ、国としてもいろいろ思惑はあると思うけど。
助けてくれるのは間違いないと俺は確信している。
さすがに、帰る方法などは見つけ出してはくれないと思うけど。
いや、下手すると異世界から来たのだ。
研究機関を立ち上げ探すと言う事は当然な事ながらやるかも知れないな。
まぁ、食べるに困らない程度は支援してくれるだろう。
食べ物も君達ように合わせてくれる。
将来的にも国で生活ができるよう支援してくれると思うよ。
そんな世界から来たのだ。
この世界はかなり俺にとっては生きずらい。
まったく文化、考え方が異なっているからね。
外国からも日本国は違った別の世界だと言われる事がある。
それほど安全性が高い国なんだよ。
こちらの世界では危険性が段違いに違う。
だからこの世界では強くならなくてはいけないと思っているのだ」
「・・・」




