第90話 初戦惨敗
シュタイン家一族の幹部らしい、三人の吸血鬼が突然現われた。
ジンジャー、キュベレイ、ミネルバの三人である。
※ジンジャー、元B級冒険者(男性)おもにソロ活動をおこなっていたレンジャー職の若い青年。
真面目で温和な性格の青年だったが、アークランドの洗礼により生き残ったのは良いが、おちゃらけた軽い性格に変貌してしまった。
他の吸血鬼になった者と同様に、記憶は曖昧に残っているが、人格が変わって別人に成り代わっている。
アークランドの血の烙印を受け絶対忠誠を誓っている。
彼は下級平民なので苗字がない。
自分の苗字を持てるように、冒険者として成り上がろうと頑張ってきたが、ギレンの町で新たに変わった冒険者ギルド幹部連中の策略により、アーサーと共にアークランドに提供されてしまった。
冒険者ギルド幹部連中は、アークランドにとり入られる為に、有能な冒険者を浚って提供する事を今回初めてだがおこなってしまった。
別の支部で前から都合が悪い冒険者を貶める事はやってきた経緯は会ったのだが、今回はいき過ぎる行為をしてしまったようだ。
今回、浚われた者達は、キャリング・アーサーのベヒモス殺しの功労を冒険者ギルドとして称える宴席に参加した時に、毒を盛られ連れ去られてしまう。
まさか冒険者ギルドが人攫いをやるとは誰も思っていない。
秘密裏におこなわれた宴席なので誰も知らないでいる。
冒険者家業は出入りが激しく厳しい職業だ。
髙難易度のクエストを受けたと、ギルド側で正式に発効して所在隠しをおこなっているので、誰が行方不明になっても事件等にはなっていない。
同じ境遇の冒険者が数十人居たが、アークランドの洗礼を受けて生き残った五人の一人になる。
※ガスペック・キュベレイ、元A級冒険者(女性) 回復職をおこなうヒーラーだった女性。
アーサーやジンジャー同様に冒険者ギルド幹部の策略によりアークランドに献上された冒険者の一人。
ミネルバと二人でパーティーを組んでいた。
とても仲が良く親友としていつも行動を共にしていた。
彼女はそれほど高みを望んでいなかったが、ミネルバと行動を共にしていたらA級クラスの冒険者迄上り詰めていた。
優秀な才能を持っている。
今回ミネルバがどうしてもと言うので、秘密裏に開催されるアーサーを称える宴席に参加してしまった。
性格は前とほぼ変わっていなく、物示威しない真面目な性格だが言葉数は少ない女性だ。
吸血鬼になった事により神聖魔法関係の回復魔法が使用できなくなってしまった。
今は吸血鬼として主人に対しどのような行動とれば貢献できるか悩んでいる。
魔力値は髙く、現在は闇属性の魔法を習い始めている。
※ブリトニー・ミネルバ、元A級冒険者(女性)元上位の魔法使い。
ミネルバと二人でパーティを組んでいた無属性魔法を使用する大人びた女性。
キャリング・アーサーに前から憧れていて、なんとかアーサーのパーティに入れて貰おうと苦心していた。
アーサーのおっかけ、ストーカーと言えるほど執着していた。
パーティに入れて貰おうと強くなりA級冒険者までのし上がって来た努力家?でもある。
同じパーティである仲が良かったイクサバに嫉妬していた。
魔獣ベヒモスを倒した事を知り、秘密裏に開催されるパーティの席で今度こそお近づきになろうと参加したのは良いが、冒険者ギルドの策略でアークランドに献上されてしまう。
吸血鬼になってからはアーサーの事は何とも思っていない。
しかし、イクサバの事がなんとなく気に入らない事が有り、なにかと突かかる事がある。
他の者達を同じく生前の記憶は曖昧にあるが、人格その者が変わってしまっている。
アークランドに血の烙印を受けたがそれほど忠誠が深いと言った事は無い。
・・・
突然の参入に、公爵家側も副団長と取り巻く屈強な戦士達が駆けつける。
公爵家第四聖騎士団副団長トリニティ・ガーベラと第五聖騎士団副団長ブルネイ・ボトムが数人の屈強な部下を引き連れ前に出た。
「これは、強そうなお方が出て来てしまいましたね。
「いやはや残念、これではせっかくの死にぞこない共を殺せなくなってしまったじゃないですか」
「・・・
ベルゼウォーク団長、此処は我々にお任せを、ヒルズ、お前は回復魔法を頼む」
「了解いたしました」
第五聖騎士団副団長ブルネイ・ボトムが先頭に立ち盾を構える。
第四聖騎士団副団長トリニティ・ガーベラも隣に並び、鞭のような鎖剣を抜き、威嚇するように地面に叩きつけた。
傷を負っている、ベルゼウォークとアイリスに数人の兵が駆け寄り、回復魔法をかける。
「・・・
こちらも、仲間の回復したいと言ったところなのですけど。
私達、聖なる回復魔法使ったら、どうなってしまうのかしら。
キュベレイ、貴方はどうなるか知っていますか?」
ミネルバが訪ねた。
「皮膚が焼かれ、ダメージを負う。
試しにヒールを使ってみた。
神聖魔法系の回復魔法は使わない方が良い」
「そうで有りましたか。
此処は仲間を回収して引きさがると言う事にしておきましょう。
回復は城で出来ますでしょうね。
・・・
こちらとしては退却したいと思うのですが、貴方がたはどうしますか?」
「何を馬鹿な事を言っている。
これだけの事をやってくれたのだ。
お前らを逃がす訳なかろう」
ガーベラが声を荒げながら答える。
「まあ、それが普通の反応ですよね。
でも、こちらとしては指令を受けているので即刻退却させて戴きます」
「何を馬鹿な事を、此処で我らと戦え」
「そうしたいのは、山々なんですが、命令ですから仕方がありません」
「なんだと、貴様らから仕掛けておいて何を言う」
「仕掛けたのが我らなんて、何を世迷言を。
これを見て下さい」
ミネルバは突然、人間の首を差し出した。
「彼等は、我らの領内に入って探りを入れていた者達です。
貴方は、この顔を知らないとでも言うのですか」
ミネルバはガーベラの前に公爵家の兵らしい首を投げ捨てた。
「城には何人か捕まえた者達もいます。
魔法で尋問したところ、公爵家の者が関係していると分かりました。
我らの領内に侵入し、ましてやこれほど近い国境沿いでこんな大軍を率い演習などと、おかしなまねをしていますね。
我らへの領地に侵略行為ですか?
尋問した者の話では、今日の朝には我等の領地へ攻め入ると聞いています。
そんな事を聞いて、私共も黙ってはいられません。
分かっていると思いますが、先に侵入し仕掛けてきたのは貴方達だと言う事をお忘れなく」
「馬鹿なそれはお前らがアル・・・
・・・」
「なんで有りますか。
言いたいことが有るならば、はっきり言えば良いじゃないですか。
私達は『知らない』と先に答えてあげましょう。
「く・・・」
「お互い、これだけの被害が出ました。
此処等辺で争いはお辞めになられませんか。
国境沿いでいざこざが有るのは、何処の地域でも普通にある事です。
ちょっとだけ被害が大きかったようですが、今でしたら、唯のいざこざで終わりに出来ますでしょう」
「争いの原因をつくったのはお前らでは無いか。
そんなことが我らに出来ると思うのか」
「原因、私共は見当はまったくありませんね」
「嘘をほざくな」
「証拠があるのですか」
「そ それは」
「ガーベラ、話しても無駄だ。
奴等に我等の理屈は通じない」
ベルゼウォークは当り前のように話、ガーベラに諭す。
「・・・
そう言う事ですね。
我々は退却させて戴きます。
私達は引きますが、貴方達は追撃しますか?
我らの領内に入って、戦いができるほどの戦力を今、貴方がたは持っているとは思えないのですがね」
「そういうこって、姉さんの言うとうりでっせ。
此処はお互い引くって事で良いでは無いですか。
これで、お終い。
お終いにしましょう。
そうすればお互い、ウィンウィンで終わりますよ」
「何がウィンウィンだ。
ふざけるな」
「俺はふざけた事は言ってはいないのですけどね」
ジンジャーが真面目な顔をして答える。
「双方これ以上傷つかないで良いでは無いですかね」
「・・・」
「シュタイン家の者達よ。
総員退却しろ」
「ミネルバ、何を言っている、私は戦うぞ」
「やれやれ、イクサバ貴方と言う人は・・・
ジンジャー、イクサバを連れて撤退しなさい」
「へいへい、分かりましたよ、ミネルバの姉さん」
ジンジャーとイクサバの距離は五十メートルは離れているが、一踏み込みで近くに飛び跳ねていった。
片膝を付いているイクサバの後ろに一瞬で回り、腹回りを抱え退却をする。
「放せ、ジンジャー、私は戦うぞ」
「そうは、言っても命令でしてね。
申し訳ありませんね。
連れて帰らないとスカーザッハの旦那に怒られてしまうでやんすよ」
「放せ、この、何処を触っている」
「触れるモノが無いじゃないですか。
暴れないで下さいよ。
イクサバの姉さん」
「何だと貴様、なんてことを言う。
後でどうなるか覚えていろよ」
「へいへい、分かりました。
この件は、スカーザッハの旦那に文句を言って下さい。
俺っちは、仕事をこなしているだけなんで」
「なんだと、貴様、ふざけるな。
放せ、放しやがれ」
ジンジャーは、イクサバを抱え早々と離脱していった。
「待て、お前等」
「ガーベラ、追うな。
此処は一端俺達も引く」
「しかし、ベルゼウォーク様、こんな醜態を公爵様へ晒すのですか。
我々の完全な敗北ですよ」
「そのとうりだ。
甘んじて、この結果を受けよう」
「しかし、しかしですよ」
「ガーベラ、全責任は俺が持つ。
それ以上は言うな」
「それにこの戦いは・・・
いやなんでもない」
「総員、一時退却する。
俺が指定する場所まで軍を下げろ」
「そう、それが正解ね」
「正解だと。
お前、分かっちゃいねえな」
「言っとくが、俺は引くが公爵様が黙っていないだろう。
お前等は、これから地獄を見るだろうよ。
さっさとお前ら此処から出て行きな。
此処は公爵家が預かる領地だ。
何時までいると侵略行為としてみなすぜ。
ボトム、ガーベラお前達は二個中隊、此処に残り奴等が何かしないか見張れ。
良いかこの場所に絶対入らせるなよ」
「了解しました」
・・・
「そんな、警戒しなくても、私達から仕掛けてきたりはしませんよ。
それよりこの敗戦貴方はどう処理するのですか?
アレキサンダー家の者達がこの敗北を許すと思えませんね」
「・・・」
「どうやら、次に貴方とお会いする事はなさそうですね」
では、失礼したいと思います」
「・・・」
「アーサー、銀狼牙に白虎丸、お前達も速やかに退却しろ」
「・・・」
「・・・」
「了解いたしました」
シュタイン家の者達は、イクサバが凍らせた大地と川の上を渡り、自らの領地へ戻って行く。
被害は圧倒的に公爵家の者が多いが、双方とも苦い戦いになった。
「ベルゼウォーク様」
「なんだ、ガーベラ」
「良かったのでしょうか。
今でしたら追撃可能ですよ。
それにこの凍った大地の状態ではやすやすと川を渡りシュタイン家の領地に入れます。
私は進軍を支持したいと思いますが、どうでしょうか」
「このままで良い。
この状況を維持しろ」
「しかし、貴方様が・・・」
「なあに、俺の事を心配してくれるのか。
それだったら気にすることは無いぜ」
「しかし、公爵様が許すとは思えません。
特に奥方様のあの様子を見たでしょう。
此処に来るまでも、あの有様を見ては・・・」
「そうだ、だからこそだよ。
あの切れっぷり、端から俺等を宛にしていない。
この場の状況と俺が部隊編成した、者達の兵に気付いた事はないか」
「兵の編成ですか?
アンデット、レイスを討伐を予定に組んでいたので、我われ聖職者が多く入る部隊が投入されました。
しかしそれはあくまで、血の結界が無い場所を前提とした戦いにです。
いかに聖職者が多い騎士団でも、悪魔が張った血の結界は破る事など出来ないのですから」
「そのとうりだ。
我々は奴等の領内で配備させていると思われる、アンデット兵の梅雨払いで聖魔法部隊を投入をさせたはずだと思っていたのだが。
これほどまで多く前線に投入されるのとは思っても見なかった。
また公爵家の者達からやけに推薦があったのだ。
お前達も聖職者教会からの圧力が大きかっただろう。
「確かにそれは有りますが・・・
!
まさか」
「そう言う事だよ。
感が言い者はうすうす気づいているんじゃないのか。
やけに推薦で聖職者が多い部隊を編成していたからな。
俺的にはもうちょっと、重装歩兵を入れたかったが、距離も有り渋ってしまったのは事実だが。
お前等体力のない者達の前線投入は疑問に思っていたのだよ。
それも若い連中が多いよな。
それにまさかアイリス譲を率いる聖職者全員で組まれたアンデット専門の第四聖騎士団が投入される事はもっと後だと思っていたのだよ。
実力はあるのは分るが、聖職者関連に付いている兵の指揮を高める為に投入されたと思っていたのだが、今となっては違っていたらしいな。
それにアレキサンダー家の血族にはいるアイリス譲の部隊が出るなんてな思いもしなかったからな」
「それは、そうですが、戦争です。
血縁は関係無いでしょう。
まして、公爵家に連なる者が戦闘に立ち戦うのは当然の事。
私達はアンデット専門に相手にするのですから特にです」
「それは有るがな。
でもな、お前はともかく、聖職者が多い騎士団だ。
聖職者教会に属する兵達は人を殺めた事のある者は皆無だろう。
いわば、奇麗な者と言って良いよな。
言い換えれば奇麗な魂を持っている。
此処まで言えば分かるだろう」
「まさか、我々が生贄」
「そういう可能性がある。
俺等は鼻から期待されてはいない。
奴を街からこの地に召喚するのに、使われる予定だぜ。
たぶんだがな」
「・・・」
「あの夫人は、そのくらいの事は平気でやるぜ。
分かっているだろうお前はな。
「・・・」
「こちらとしての被害は約半数が戦えなくなった。
それでも死んだ者は二千前後の兵達だ。
今此処には二千以上の人の魂がある。
奴は奇麗な魂が好みだからな。
聖職者が死んだ魂も数多く有る。
奇麗な魂が、よりどりみどりで好きなだけ選べるだろう」
「・・・」
「ボトム、ガーベラ、この場所の確保を頼む。
俺の言っている意味は理解できるな。
俺はこれから来る飛空部隊の迎えに供える。
もっとも、来る者は予定とは違っている部隊の奴等だろうよ」
「りょ 了解いたしました」
まったく、泣けてくるな。
確かに俺等の力であの悪魔の血の結界は解けない。
それどころか、奴等の幹部連中と獣人の兵にこのざまだ。
シュタイン家の領地に入っても、ただ被害を出すだけかもな。
しかし、今回の件は誰にも止められない。
そいつわ、分かっちゃいるけど。
魔法研究部門が血の結界を解くアイテムを用意すると言っていたがそれは嘘だな。
そんな物有るかも分からん。
恐らく用意しているのは、なんらしかの悪魔召喚用の儀式のアイテムだろう。
魔物には冒険者、魔神獣・守護獣・魔神には勇者、上級悪魔には神しか対抗できない。
この地には千年以上、神が降りてきていない。
だったら上級悪魔と誰が戦えるというのだ。
並みの悪魔だったら俺等でも戦う事が出来る。
でもな勇者を簡単に殺せる上級悪魔が領内に居るんだぞ。
そいつをぶつけるのがてっとり早くて良いだろうよ。
あの夫人だったらやり兼ねない事だろう。
息子が生きて帰ってくるかの瀬戸際なんだからな。
手段なんて選ばんだろう。
大切な跡継ぎの息子の為ならば、自分の血縁さえも犠牲にする。
そういうお人だよあの人はな。
悪魔と契約するにはそれなりの代価がいる。
此処には、あの悪魔を雇うだけの代価がたくさん転がっているだろう。
人外の者と殺り合うんだったら、当然の事か。
それにしても、これはな。
いたいけないな。
ベルゼウォークは天を仰ぎ、蒼き月を見つめる。




