第89話 泥沼の攻防
「公爵家が召し抱える悪魔は、過去に一度だけ街から出たと聞きました。
勇者退治にですよね」
「確かに、そんな古い逸話がありましたね。
千年前の出来事でしょうか。
前からあった確執が決定的に亀裂が入った時代でした。
その話は本当の事です」
「私も、そのような話だと聞いています」
「王家で勇者を城内に丁寧に招き入れた時に、その時の公爵様が無間に扱われたとかで、使役していた悪魔がたいそうお怒りになったとか。
自らが感知できる範囲の勇者をすべて葬り去ったとか事件があったようですね。
その時に少しだけ街の外へ出たと言う」
「自ら誓約を破ってペナルティを受けたとか、どなたかが話をしていたのは聞きました。
グレッグさんだったでしょうか。
以前に神武器の話が持ち上がりました時に、聞いたような気がします。
どんな、ペナルティかは知りませんが、街からは出てはいけないんですよね」
「そのような話はありました。
その時代は各地に召喚された勇者が同じようなおこないをして、領内を不当に荒らしまわっていましたようですね。
神から魔獣の封印を任されているから、協力を惜しむなと大陸の者に言ったそうです。
我々吸血鬼の一族も同様な扱いを受けていたと聞いています。
その事件をきっかけに勇者に対して、大陸の者が反旗を翻したのです」
「そうだったのですか」
「まさか、勇者に逆らって勝てる者がこの大陸にいるとは誰も思いも寄らなかったのですから。
いくら悪魔でも、勇者相手に勝てる例外は無いと考えられていました。
しかしですよ。
彼等も所詮は唯の人類だったと気づいたのです。
召喚された勇者の種族も様々ですが、神から与えられた神武器を使い、能力が向上していただけでしょう。
向上した力があっても、貴族が持つ特殊能力で対応できたのです。
もともと、王族、貴族は神から得られた特権と特殊な能力を持っています。
我らも勇者となんら遜色のない力を持っていただけですよ。
それにまさか神武器が、我々も使えるとは思わなかった。
勇者専用の神武器として、この地の神官によって管理され、使う事など許されなかったのですから。
神武器を使えば、神によって封印されたと言う魔獣は、誰でも封印できる。
勇者が必要なくなった瞬間でした。
もっとも、それなりに資質が無ければ神武器など使用は無理なのですが。
現在、勇者が居なくても、なんの問題も有りません。
もっとも、再封印をする、魔獣や魔神があの方によって居なくなっているのですが。
・・・
それどころか、現在は勇者は召喚されても、一部の神武器しか所持していないようです。
こちらで保管している神武器の回収をしなくてはいけない事になっているみたいですから。
神も新たに武器を制作して、勇者に渡すような事はしていないのでしょう。
我々は、研究を進め、レプリカ品の神武器を造れるほどになっていますと言うのに」
「そうですよね。
話は逸れましたが、公爵家の悪魔さん。
見た目は紳士なお方だと、噂が有りますよ」
「公爵家で執事をなされていますと言う話らしいですね。
誰が見ても悪魔には見えないそうです」
「そのとうりです。
誰が見ても悪魔と分からず、魔気とかも感じられないと聞いています」
「千年前と姿が変わっていると聞きました。
依り代を替えたのですか?」
「勇者との戦いで変えたらしいですね
正確には失ったといって良いのでしょうか。
本体はどのような姿をしているか分かりませんが、人間型に取り付くタイプの悪魔とだけ皆が知っいるみたいです」
「私等の使役する悪魔さんは、気味が悪いモンスタータイプの悪魔ですよね。
あの悪魔さんは、人間タイプには慣れないのですか?
私はちょっと気味が悪くて怖いです」
「それは無理な話です。
彼女は何千年も前から、あの姿で城に取り付いていますから」
「女性だったのですか」
「そのように聞いております。
私等の守護悪魔なので、そう気味悪がってはいけませんよ、アンさん」
「そうでしたね。
以後、気を付けます」
「しかしながら、公爵家の悪魔が此処へ来ることは無いでしょう。
あっても彼女が対応してくれます。
彼女の力は公爵家の悪魔と遜色ない力を持っていると私は判断していますから。
それに公爵家の悪魔は燃費が悪いと聞き及んでいます。
その為に、一つの街を契約で捧げているみたいですから」
「確かにそうですね。
悪魔さんに、お城の防御を任せておけば、何も私達は心配はないですね」
「対価をそれなりに払っていますから、やって貰わないと困りますよ。
彼女がこの城に住む者の恐怖の感情を食べているのですから。
人間が長くこの城に住むと、感情の無い人形のようになってしまいますのはその為なのですよ。
あの悪魔は恐怖以外の感情も食べてしまいますから。
私達と違って人間は弱い感情の生き物ですからね」
「そうでしたね。
私達は主様が早くお帰りになる事を待ちましょう。
それにアン・ドウと言う強力な力を持った御人を連れて来ますのですよね。
それにより、シュタイン家は安泰になると思いますよ」
「そうで有りました」
「私達は主様が気に触らないように、心がけするだけですね」
「アンさん、くれぐれも主様の食べ物の健康管理、宜しくお願いしますよ」
「分かっておりますとも、それが私の主様におおせつかった使命の一つですから」
・・・
国境付近で争っているシュタイン家と公爵家は現在、三組の強者のみ戦いを繰り広げている。
その凄まじい力に両軍は見良いってしまっているのだ。
しかし、本人達はやりきれない泥沼の戦いを繰り広げている。
三者三葉に戦い方がまったく違うのだが、全員が疲弊した状態に陥っていた。
それも今、戦いの現状が変わってきている。
三組とも近い場所で戦っていたので、重なり始めたのだ。
いつも間にか六人で総当たり戦みたく戦いを繰り広げている。
それも連携など一斉していない。
目の前の敵が現われたら攻撃すると言う、泥沼の戦いを繰り広げているのだ。
端から見れば、上位者同士の凄さまじい戦いが感じられるが、六人とも泥沼の戦いに嫌気がさしている状態に陥っていた。
誰もが負けたくないと言う思いだけで戦いを繰り広げている。
六人とも公爵家の思惑なんか、すでに頭の中ではふ飛んでいる状態だ。
・・・
「ハア、ハア、ハア、この糞爺い。
生い先が短いのだから、私の刀で切られなさいよ。
すぐに楽にしてあげるわよ」
「何と言う言い草じゃ。
歳よりは大切にするものだわい。
そうでないとこういう目に合うからな」
そうら、旋風槍撃破」
リターン老はイクサバにたいして、竜巻を発生させる槍技を繰り出した。
「ブゥフォーン」
「くう。
もう、糞爺も、なんで私に遠距離攻撃をするの。
剣を交わらせて戦いなさい」
・・・
「リフレクト・ナックル・ボマー」
虎王・白虎丸は魔法で反射盾を竜神の籠手にかけ、アイリス譲が神武器・ソウルキャリバーから放つ、魔法の光攻撃をすべて殴り返し、倍の速度で跳ね返していた。
空中でアイリスは放っているが、跳ね返される速度が異様に速く避けられず、自ら撃放った攻撃を受けてしまう。
「なんて奴なの。
あきらかに見た目、接近戦を得意とする筋肉馬鹿の獣人でしょう。
こんな、精細に私の攻撃を跳ね返すことが出来るなんて、思わないじゃない」
「酷い、話ですね。
人を見た目で判断するとは。
私は、確かに接近戦が得意ですが、こういう遠距離攻撃も出来るんですよ。
輝け、竜神の籠手よ、そして我に力を。
ドラゴン・スピリット・フォース」
白虎丸がつけている神の防具、竜神の籠手が光輝く。
「ドラゴン・エッジ・ミラーフォース」
竜神の籠手から、水色の長い龍をかたどった気が放出され、上空に飛来した。
「いけ、龍神よ。
我の敵を粉砕せよ」
龍をかたどった魔法気が、アイリス譲にまるで生きている様に向かい襲った。
アイリス譲は向かって来た、龍の形どった魔法気を切り裂く。
しかし、切り裂くことが出来ず、魔法気の中を剣が裂くだけで元の形に戻り直してしまうのだ。
そのまま魔法気の龍は頭から突進し、アイリス譲にぶつかった。
アイリス譲にダメージを負わせてしまう。
「バギャコン」
「キャー」
アイリスは空中から落ちたが、なんとか地上に上手く着地した。
しかし、龍のかたどった魔法気は消えず、少し小さくなって、更に追い打ちをかけアイリス譲に向かいぶつかっていった。
自動追撃の魔法弾のように、龍が消えるまで攻撃が続いた。
「ブースト・ナックル」
魔法気で造った龍がアイリス譲にぶつかり消えた瞬間を狙って白虎丸は追撃を加えた。
「ゴフゥ」
白虎丸の右拳はアイリス譲うの腹を捉え、ふっと飛ばしてしまう。
「ガシャン」
後ろにちょうど居あわせた、ベルゼウォークは吹っ飛んできたアイリス譲を受け止めた。
「大丈夫か、アイリス譲」
「ゴボ、ゴボ。
な なんとか」
アイリス譲は口から胃液を出しているが、なんとか持ちこたえているようだ。
追撃で白虎丸はベルゼウォークとアイリス譲に殴りかかる。
「鬼神往来、大地を切り裂け」
ベルゼウォークは左手でアイリス譲を抱えながら、右手で鬼神の斧を突進してくる白虎丸に対して振り向いた。
鬼神の斧を振り向いた衝撃破を左さサイドに白虎丸はうまくかわしたが、様子がおかしい事に気付く。
鬼神の斧を振りかざした衝撃破で大地が避けたのだ。
おかしな事に避けた大地に白虎丸は引き寄せられる感覚に襲われる。
全力を持って引き寄せられるのを防ぎ、その場から離れた。
「な なんなんだ、あの引き裂かれた大地は。
近くに居ると、裂けた大地に吸い込まれる感覚に襲われる。
・・・
!
馬鹿な、裂かれた大地が元にとうりに閉じたぞ。
あれに引き込まれたら、大地に潰されていたと言う事か」
「ちい、アイリス譲ちゃんを抱えていたので、鬼神の斧の力をセーブしすぎたか」
「!
鬼神の斧の能力か。
大地を切り裂き、引き込んで潰す?
恐ろしい能力だな」
「さあて、なんのことやら」
「!
ベルゼウォークと戦っていたアーサー殿は何処へ行った。
まさか、地中の中に引き込まれ潰されたのか」
「さあね。
何処だろうな」
ベルゼウォークはそう話したとたんに地中から火柱が上がった。
火柱の中からアーサーは元の人間の状態で赤い槍を手にしながら、這いずりでてきた。
「おおお、凄いな。
あの状態でまさか生きているとはな。
しかもその姿は、見覚えがあるぜ。
魔獣ベヒモス殺しのキャリング・アーサーじゃねえか。
イクサバが居たからもしやと思っていたが、やはりお前もシュタイン家に入っていたとわ。
厄介な奴が居たぜ。
しかし、今だったらお前を問題なく殺せるな」
「アーサー殿」
ベルゼウォークはキャリングアーサーにたいして鬼神の斧を振りかざした。
衝撃破がアーサーを襲う。
「次は無いぜ、大人しく土に帰りな」
白虎丸はアーサーに突進し、助けに入る。
「シュバン」
かろうじて助けに入り間に合ったが、背中に衝撃破があたり切り裂かれ、ダメージを受ける。
深い傷が見え、血が滴り出てくるのが分る。
城虎丸は渾身の力を振り絞り、その場からすぐに退避する。
衝撃破で切り裂かれた大地はやはり吸い込まれる感覚があった。
僅かな時間で鬼神の斧で切り裂かれた大地は、元のとうりに閉じてしまう。
「うまく、助けに入られたか。
しかし、この追撃はどうかな」
再度ベルゼウォークは鬼神の斧を振りかざそうとしたが、アーサーから炎の槍が投機されてきた。
「グンニ・グル・・・」
アーサーは手に握っていたグンニ・グルをベルゼウォークに投げつけて来たのだ。
「グウウォー」
「ボワーン」
グンニ・グルはベルゼウォークに直撃し、爆発した。
爆発したグンニ・グルはアーサーの元へ槍状に形に変え戻って来た。
爆炎に巻かれたベルゼウォークとアイリス譲はなんとか持ちこたえたようだが、かなりのダメージをおってしまった。
「あらま、これは皆さん、瀕死な事ですわね」
そんな中で三人の吸血鬼が現われたのである。




