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第86話 戦いの行くへを決める者たち

 奴等を侮っていた。

 国境付近の川沿いに、軍を駐屯させていたのは間違いだったか。

 今日の朝、領内に攻め入る手はずだったが先手を打たれてしまった。

 もっとも奴等から仕掛けた事だ。

 公約違反なのは確かなのだが。

 

 ヴァレン・シュタイン城に行くにはかなりの距離がある。

 早く対応しようと考えて、川沿いに軍を配置させていたのだ。

 その事を利用されたのか、もしくわ我が軍が本日、攻め込むと言う事を事前に知っていて奴等が動いたのかは今では分からん。


 奴等の事だ。

 何かしらの因縁をつけて有耶無耶にされてしまうだろう。


 領内に先行部隊が入ったとか、威嚇されて攻撃を先に受けたとか言い出したら、きりがない。


 国境沿いで争いごとをやるのは普通にある事だ。

 やった、やっていない。

 言った、言わなかったのように議論にもならないようにもっていき、有耶無耶にされてしまうのはいつもの事だからな。

 俺達だって平気でおこなう。


 しかし今回は別の話だ。

 本気で公爵家はシュタイン家を攻めるつもりだ。

 此方の言い分として確定した事実が欲しい。

 これで、なんとしてもアルフレッド殿下を奪還しなくてはならなくなったな。

 もっとも、奪還失くして、俺達は生きては帰れないのか。

 

 古くからシュタイン城に住む悪魔がかけている血の結界の事しか頭に入っていなかった。

 あの結界さえどうにかできれば、後衛で投入されるであろう特殊部隊と数で押し切れると甘い考えだったな。

 配備されているであろうアンデット、レイスを撃ち滅ぼすだけで良いと考えていたのだ。

 その為に、神聖魔法を使える者を多く用意した。

 投入された兵の配分もだいぶ違ってきている。


 獣人達がこれほど多く加担しているとも思っても見なかった。

 これでは、重装歩兵を多く投入しておけば良かったか。

 距離があるので補給の件もあり渋ってしまったな。

 東の地域はシュタイン家の統治がこれほど行き届いているとはな。


 情報不足だ。

 こればかりは誰もせめられん。

 奴等の秘密社会は度を超えているのだからな。


 「エヴァー副団長、今の状況はどうだ」

 「すでにこの場から戦線離脱している兵もいます。

 個人的に能力が髙い者は、自ら戦っていますが神聖魔法歩兵などまったく役にたちません。

 この状況では、おのおの力で各個撃破しかないでしょう。

 統制などまったく取れていない我らなど、敵の思う壺です」

 「だろうな。

 私が直接前に出る。

 腕に自信のある者だけ俺に続け、後は一端下がって体制を立て直させろ。

 エヴァー副団長、お前は一端下がり、軍の再編成をおこなえ。

 私は敵前方に切り込みをかけ、足止めをおこなう」

 「了解いたしました。

 皆の者、聞いてのとうりだ。

 我々は一端下がって体制を立て直す。

 それぞれの部隊長に連絡しろ、皆者一端引くぞ」


 ・・・


 キャリング・アーサーは敵陣の本陣前に単独で切り込んでいたが、一端立ち止まっている。


 立ち止まった理由は、公爵家第五聖騎士団、団長ティック・リターンが立ち塞がっていたのだ。


 「よもやこのようなところで会うとはのぉ。

 アーサーよ。

 行方不明になったと聞いたが、その成り姿、人間を辞めてしまったとはな。

 魔物に成り変わっていたとは、思いも寄らなんだ。

 ・・・

 惜しいな。

 お前ほどの男が魔の一族に落ちてしまうとはのぉ」

 「誰か知らぬが、俺の前に立ち塞がるならば、この槍で貫くのみ」

 「そうか、残念だ。

 手ほどきした儂の顔も覚えていないとは。

 良い機会だ。

 お前が元のアーサーだとして、覚えているか分からないが・・・

 儂としても思うところが前からあってのぉ。

 いつぞやの借りを返させて戴くかの」

 第五聖騎士団、団長ティック・リターンは長い槍をアーサーに向けた。


 「十文字槍か。

 その槍どこかで見たような気がする。

 記憶には有るが、忘れた感じがするので何とも言えない気分だ」

 「その、晴れない気分、儂が晴らして差し上げよう」

 「貴方に出来るのかな。

 ご老人よ」


 ・・・


 「シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュバーン」

 「くう」

 「やるな。

 何者だ。

 名を名乗れ」

 アーサーの後を追って、本陣へ切り込んで行ったイクサバだが、途中何者かに阻まれていた。


 「小さい奴だな。

 これが我が軍団を翻弄していた奴だとわ、未だに信じられぬ」

 「誰だ貴様」

 「公爵家、第四聖騎士団、団長ウォエレスアイリス。

 我が星剣・ソウルキャバリーの錆にしてやろう。

 小娘よ」

 「小娘だと。

 お前も似たようなもんじゃないか」

 「それは違うな。

 私の方があきらかに背が高く、胸が大きい。

 誰がどう見ても分かることだろう」

 「プチン。

 貴様、殺す。

 私が切り殺してやるよ」

 イクサバの前に立ち塞がったのは、第四聖騎士団、団長、星輝姫のウォエレス・アイリスだった。


 吸血鬼となった元A級冒険者、イクサバと第四聖騎士団、団長ウォエレス・アイリス。

 女性剣士同士の戦いが始まろうとしている。


 ・・・


 ムッ。

 前方で立ち塞がっているあの炎の人馬の魔獣はなんだ。

 ティック・リターン老と撃ち合っている?

 双方互角な戦いをしているようだな。

 心なしか炎の魔獣の方が疲弊している感じがするぞ。

 リターン老の武器のせいかな?

 此処はリターン老に任せるとしようか。


 それに右手方向で、戦いをしているのはアイリス譲と吸血鬼?

 何処かで見たことがあるぞ・・・


 そうだ思い出した髪の色が違うが、あれは行方知れずとなっているA級冒険者の二刀使いのイクサバでは無いのか?

 魔獣ベヒモス殺しのキャリング・アーサーといっしょにパーティを組んでいたはずだ。

 

 今回の、シュタイン家の争いに参加して貰おうと探し回っていたのだが、こんなところで出会うとはな。

 それも敵として。

 シュタイン家に取り入れられていたとは思いもしなかった。

 まさかキャリング・アーサーもシュタイン家に取り入られているのか。

 そんな馬鹿な事になっていれば大変な事だぞ。


 どうやら双方とも拮抗した戦いを繰りひろげている。

 アイリスお嬢には、神武器、星剣・ソウルキャバリーと神のアイテム、エンジェル・ウイングを装備している。

 吸血鬼であろうイクサバが持っている剣も神武器に近いものがあるらしいが、神武器を二つ所有しているアイリスお嬢は問題なく戦えるだろう。

 此処は二人の戦いに邪魔になるな。

 俺は獣人達の排除に向かうか。


 「コオオォォォフォーン」

 「ムッ、威嚇か」

 かなりの速さで近づいて来た獣人が第二聖騎士団の団長のベルゼウォークに咆哮を使った。


 「馬鹿か、その程度の威嚇は俺には通じないぞ。

 でやー」

 「ガキン」

 ベルゼウォークは近くに寄って来た大きな虎の獣人に神武器、鬼神の斧を頭から振り下ろした。


 しかし右腕につけている籠手にあっさり受け止められる。


 「ムゥ。

 俺の神武器、鬼神の斧を軽く受け止めるとは何者だ」

 「どうも、貴方の噂はかねがね聞いております。

 勇者を倒したと言われるベルゼウォーク殿」

 「お前はまさか」

 「叔父上が貴方の事を話しておいででしたよ。

 ともに仲間として戦った事を誇らしいとね」

 「そうか今しがた受けた籠手は神の防具、竜神の籠手か」

 「そのとうりです」

 「指示では、私は左翼から攻め入るはずでしたが、部下にまかせ貴方の元へ一直線に向かってしまいましたよ。

 それほど貴方は興味深い存在だったのでね」

 「なるほど虎王、斑に連なる者か」

 「はい、そのとうりです」

 「今は東の地域で虎族の族長をやっている。

 虎王、白虎丸と申します。

 以後お見知りきお気を」

 「面白い。

 二百年前に共に勇者と戦った仲間の血筋の者と出会えるとはな。

 勇者を共に殺し、ぶん捕った神武器につらなるアイテムを、お前を倒して貰い受ける事にするか」

 「それは、私の言う言葉ですよ。

 貴方を倒して、その神武器、鬼神の斧を貰いうけます。

 いざ尋常に勝負をお願いします」

 「良いだろう、受けてたとう。

 だが代価はお前の命として高くつくぞ」

 「ご冗談を、それは私のセリフですよ」


 この戦いの行方を決める者達は、それぞれの思惑を持って戦いを繰り広げる。


 ・・・


 アークランドが馬車で移動してから数時間がたった時に、茂みの中から二十人はいる刺客に襲われた。

 盗賊ではないあきらかに自分らを狙った者達だった。


 アークランドとお供にしていた者達が、今しがた刺客らしい者達を撃退したばかりだ。


 「主様、こいつ等、やはり臭いですわね」

 「確かにそのようだね。

 聖水と光属性魔法効果をかけてあるな。

 食べられる事はできそうにないか」

 「そんな事は御座いませんよ。

 私の魔法で聖なる加護はすべて除去できますからね。

 聖水の効果も打ち消しできます」

 「そうであったな。

 アラキア、お前がいてくれて助かったよ」

 「さすが、アラキア姉、ほんと頼もしいね。

 こいつ等、魔力が高いからさ、臭いけど栄養は満点だよね」

 「そのようですね」

 「確かに食事には事欠かなさそうだな。

 此処で一端休憩をはさんで食事にしようとするか」

 「夜明けまで三時間弱と言ったところでしょうか」

 「そうだな。

 それからの方が刺客が多く出るだろう。

 面倒なので暗闇のカーテンのアイテムを使用したいが。

 此処で使うのは勿体ないね」

 「そうですね。

 レプリカの暗闇のカーテンでは三日しか効果がないのですよね。

 それも範囲が狭いので、移動してしまえば何の効力も得られませんから。

 そういえば、お城の方でもお使いになられますかね」

 「どうだろう。

 アイテムは本物だが、効果として十日くらいしか持たんだろう。

 一度使ったら、次に使えるのは百日以降だからな。

 まあ、レプリカの暗闇のカーテンは、一度使えば壊れてしまう。

 それよりは良いがな。

 次に使うのには時間がかかる。

 だからこそ、勿体なくて使わないって事が有りそうだな。

 スカーザッハは案外ケチだからな」

 「そうで有りましたね。

 私達もいざと言う時の為に温存しておく事にしましょう。

 その方が良いと思います」

 「確かにそれが正解かも知れないな。

 しかし、馬車で移動するのはこれほど面倒とは知らなかったよ。

 飛んで行けば三時間もかからずにつくのだからな。

 如何に良き馬が手に入ったとしても、旅はするものではないな」


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