第85話 神武器 グンニ・グル
「そろそろ一時間たつわね」
「ああ、頃合いだな仕掛けるとしよう」
キャリング・アーサーは立ち上がり右手に魔法力を集中させた。
右手には赤く燃えた一本の槍が握られている。
「それが、神武器、グンニ・グル」
「ああ、分身体の一部だがな」
「分身体!」
「そうだ、神武器、グンニ・グルの分身体だ。
魔力と俺の肉体の一部を使って形成した」
「そんな事が出来るんだ」
「ああ、魔力は言わなくとも分かるだろうが、肉体はほんの少し、髪の毛くらいの容量を使えば形成できる」
「ヘー、そうなのね」
「まずは本陣へ、槍を放ちたいがどうもそれはいかないか。
投棄するのにも魔力により回数が限られているからな。
魔法防御結界が張られているところに放っても防がれてしまったら無駄撃ちになる。
此処は人数が多くいる部隊に放ってみるか。
ハアー。
エネミーター・ランス」
アーサーは八百メートルは先にある公爵家の敵陣に神武器、グンニ・グルの分身体を投げつけた。
「!
なんだこの魔法力は」
総指揮官の第二聖騎士団、団長ベルゼウォークは就寝中だったが飛び起き、外の様子を伺う。
これは、シュタイン家の領地からの反応か。
なんて魔法力だ。
いかん奴らからの先制攻撃を受ける。
まさかすでに敵兵が潜んでいたとは、斥候部隊は何をやっていたんだ。
「エヴァー副団長、総員、全員を起こして、魔法兵に魔法防御結界を張らせろ。
魔法攻撃が来るのぞ。
急げ・・・」
キャリング・アーサーの放った槍は本陣に近い駐屯兵に向けられ放たれた。
放たれた槍は、魔法防御結界のない兵のテントを貫き落ちる。
「ドガン、バキャキャーン」
分身体の槍が落ちた場所に、炎の火柱が燃え上がり、しばらくしてから爆発した。
付近の駐屯していたテント、兵もろとも焼き尽くす。
爆発した中心地から半径ニ百メートルはある付近が炎に焼かれ、一瞬にして消滅した。
「す すごい。
これは最上位火炎系魔法に匹敵するわ。
こんな武器が存在するなんて、噂話では聞いたような事が有るけど。
実際に見た事はないわ」
「俺もそうだ。
俺の意志で投棄位置が指定でき、確実にヒットする仕様になっている」
「凄いわね」
「イクサバ。
こんなこともできるぞ。
エネミーター・ランス(改)」
アーサーは再び赤い炎の槍を創り出す。
「それって何本も創り出せるのね」
「いちがいにそうは言えないな。
数は限られている」
再び公爵家陣営に槍を放った。
赤い燃えた槍は公爵家本陣に向かう。
「弾けよ、グンニ・グル」
赤い燃えた槍が弧を描き本陣に着弾する前に、花火のように分裂し、八本に分かれ着弾した。
分かれた八本の槍はそれぞれ、駐屯していたテント、兵に当り、火柱を上げてから爆発した。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
「バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン、バキャキャーン」
予想もしなかったシュタイン家の奇襲攻撃で公爵軍は慌てふためいている。
「八本に分かれても、ハンパ無い威力をしているのね。
人間が吹き飛ぶ様子が見えるわ。
これが、神武器、グンニ・グルなのね。
恐ろしい威力をしているわ」
「イクサバ、何を言っている。
これはグンニ・グルの一部の力だぞ。
魔力が強い者だったら今の投機方法で良いが、俺は魔法使いでは無いからな」
「それってどう言う事?
魔法使いでもその槍は使えるって事?」
「そのとうりだ。
攻撃魔法で槍を放つ魔法が有るだろう。
その魔法と同じ仕組みだ。
グンニ・グルの力で能力が向上されている。
それも炎系の攻撃魔法と同じ仕様にな」
「なるほどね」
「吸血鬼になっても俺は魔力が少ない。
お前同様にな」
「それは言わないでよ」
「だから威力と数の制限がかかってしまう。
魔法使いが全開でこの武器を使用したら、小さな村くらいだったら綺麗に消し飛んで無くなるぞ」
「それほどの威力が出せるの」
「でも、そんなことすると自ら魔力の枯渇を招き自爆して死ぬと思うがな」
「・・・」
「さてと、追加攻撃を放つとするか。
エネミーター・ランス(改)」
アーサーは無造作に敵陣に分身体のグンニ・グルを放った。
アーサーの遠距離攻撃により、公爵軍はパニック状態になり、統制が出来ないでいた。
公爵軍に多大な被害を及ぼす。
グンニ・グルの分身体を十三本目を投棄した時に、アーサーは片膝をついて疲れたように鵜灘られた。
「大丈夫、アーサー」
「ああ、問題ない。
魔力を使いすぎただけだ。
それより、今のうちに獣人達の兵を送って仕掛けた方が良いのではないか。
今の奇襲で奴らは慌てふためいているからな」
「それはそうね。
でも、貴方の攻撃ですでに、公爵軍の四分の一は壊滅しているのではないかしら。
これで私達は楽に本陣へ切り込めるわ」
「そうだな。
俺を褒めて良いぞ」
「・・・
それはともかく、私も使わせて貰うわ。
このレプリカだけど神武器、雪月花氷剣を」
イクサバは川沿いに立ち、川に向かってレプリカの神武器、雪月花氷剣を振り放った。
「氷結水鏡の舞い」
レプリカの神武器、雪月花氷剣から凄まじい冷気が発し、流れている川の水に向かって何回も振り抜く。
冷気を放った川は凍り付き、まるで鏡のような銀板の湖のように凍り付いた状態になった。
「これで良いわね。
虎王、白虎丸。
狼王、銀狼牙。
お前達、こちらの兵は三千だ。
奴等の五分の一しかいない。
しかし、奇襲は成功している。
奴等は今混乱し慌てふためいている。
我々の方が圧倒的に有利だ。
それぞれの部族の兵を連れ、川を渡れ。
虎王、白虎丸、お前は左の陣営へ千二百の兵を連れ、外まわりから敵を殲滅させろ。
狼王、銀狼牙は同じく千二百の兵を連れ、右から攻めろ。
中央、本陣は私とアーサーで迎え撃つ。
残りの兵は、私等に続け。
川を渡り進撃しろ」
「オオオォー」
広範囲に凍った川を獣人達兵は左右それぞれに分かれて渡って行く。
虎王、白虎丸と狼王、銀狼牙は左右に分かれ外周りから、公爵陣営を包囲殲滅していった。
数的に少ないが、夜に目が効く獣人にとっては、有利に戦いがおこなえる。
逆に寝込みを襲われた公爵軍は体制さえ整えられないままパニック状態で殺されていく者が多く出始めていた。
「私も行くわ。
残りの者達よ、我に続け」
「オオオォー」
「待て、俺が先に行く。
今、体形を替えるからしばし待て」
「!
もう回復したの?
それにどういう事」
「こういう事だ。
ハァー・・・」
アーサーの身体が赤い炎に包まれ始め、身体が変化し始めた。
上半身人間、下半身馬の赤黒い鎧を着用したケンタウロスの姿に変身したのである。
ケンタウロスでも様相が違う。
両手は鋭い長い槍に変わり。
肩や頭にも鋭い槍状の尖った形状になっている。
下半身の馬の状態にも鋭く尖った槍状の突起物がいたるところに出ていて、それに加え全身が炎で燃えている。
「熱い、アーサー、何よそれ。
大丈夫なの?」
「ああ、問題は無い。
これが本来のグンニ・グルの使用方法だ。
全身を炎の纏う槍と化し、敵対するものを貫き焼き殺す。
この下半身が馬の姿は俺のオリジナルのイメージだがな。
しかし、これが地上戦でおける、攻撃にとっては最適な姿だろう。
空中では羽を生やせば良い。
そう思わないか、イクサバよ」
「確かに言えるけど、そんな馬鹿げた事が出来るんだ」
「それでは、先に本陣を叩きに行かせてもらうぞ。
ハイヤー」
アーサーは中央の開いていた部分を駆け抜け本陣に向かっていった。
向かっていたのは良いが、せっかくイクサバが凍らせて作った通り道が溶け出し、左右で渡っていた獣人の兵達が氷が溶け砕け、川に落ちていった。
「あの馬鹿、私達が渡りきってから、来れば良かったじゃないの。
渡りきっていない兵達の氷が解けて川の中に落ちているじゃないの、これってどうする気よ。
まったく猪突猛進とはこういうことを言うのね。
仕方がない別のところを凍らせ、道を造るわ。
残りの兵は私に付いて来て、すぐに造るわね」
イクサバは下流に移動し、レプリカの神武器、雪月花氷剣でまた川を凍らせ道を造る。
「回り道をしたけど、行くわよ。
全員中央、本陣へ向かうわ。
貴方達は、アーサーと私が打ち漏らした敵を倒すのよ。
アーサーの周りには絶対に近づかないでね。
あの馬鹿、敵味方構わず攻撃しそうだから。
と言うか、なんか中央本陣が爆炎で酷い状況になっているのですけど、私達近づけるのかしら。
・・・
一応、念を押しておくわね。
私達が放つ攻撃に巻き込まれないように注意しなさい」
「了解いたしました」
「それじゃ、進軍開始、本陣を叩くわ。
あくまでもあなた達はサポートよ。
邪魔にならないように気を付けなさい」
突然の奇襲により、五倍の兵を要する公爵軍は、脆くも瓦解し始める。
夜に蠢く住人達の強さを嫌と言うほど味わうのだった。
・・・
アークランドが馬車で移動してから一時間はたった頃。
「そろそろ始まった頃合いかな」
「そうですわね。
主様」
「見たかったな。
神武器のグンニ・グルの威力を。
国境沿いの川辺付近に演習部隊が一万二千ほど待機してのは報告で分かっている。
その中にあの神武器、グンニ・グルを放つさまをみて見たかった。
さぞかし美しい火花が燃え盛るのだろう。
悲鳴と人間の魂が浮かび上がる有様をな」
「そうで有りますね」
「西の地域の一部に大きな穴があいているのだ。
アラキハは知らないかな」
「私は残念ながら、存じませんね」
「その穴は、過去に勇者が放った神武器、グンニ・グルの攻撃によって出来たのだよ。
今でもマグマのように土が燃え噴煙が立ち昇っていると言う。
すでに八百年もたつと言うのにね。
その威力を考えたらどのように成るか分かるだろう。
私はね、童心に返ったように心が躍るのだ」
「私もその光景が目に浮かびますわ」
「そうだろう。
想像しただけでも良い光景だろう。
あの神武器は私の所で所有する中でも、レプリカではなく本物の神武器なのだよ」
「そうで有るのですね」
「シャンテとゴーンが持ち出したトールハンマーと業火の杖はレプリカだった。
本物は城のどこかに封印されていると聞いているが未だに見つけられない。
異空間にでも収納してあるのだろうか。
それに、もう一つの本物の神武器、破邪の剣はキースに貸し出したままだ。
私の元に下ると言う話で貸し出したが、失敗したかな。
今はアン・ドウの手元に有るのだろう」
「そうで有りましたか、しかしアン・ドウが私達の仲間に入りますならば、戻って来ることになるでしょう」
「そうだな。
その為にも是非私の元へ来てもらいたいな」
・・・
「!
主様」
「どうやら、こんな夜中なのにお客さんが来たようだ。
人間は起きていないはずなのにな」
「そうでありますね」
「腹も減って来た。
食事をついでに取ってしまおう」
「それは良き考えですね。
私達を襲う不埒な輩ですから美味しいとは思えませんが、戴きましょう」
「そうだな。
せめて臭く無ければ良しとしようかな」




