第83話 ギレンの町へ
(ヴァレン・シュタイン城)
「主様、そろそろ時間です」
「そうか、もう時間になるのか、スカーザッハよ。
出かけて来る事にしよう」
「お気を付けなさって下さい」
「分かっているとも。
護衛には七夜鬼の二人、アラキアとカミュが居るのだ。
問題は無かろう。
そうだよな、アラキアにカミュ」
「当然ですわ。
私達がいるので何も心配は御座いません」
「そう言う事だよ。
僕がついて行くのだから、主様も安心だよね」
「これカミュ、主様の前ですよ。
調子に乗るのはお辞めなさい」
「ちぇ、アラキア姉に怒られちゃったよ」
「主様、私は何故お連れにならないのですか」
「アン、君には大事な任務を与えているではないか。
私の食事を守ると言う事をね」
「そうで有りますが、除け者にされたようで、悲しゅう御座います」
「私も君が居ないと寂しく思うよ。
・・・
どう言う訳だか分からないが、彼の存在を知られてしまったからな。
余り人間を城内に入れるものではないな。
私の知らないとこで情報が漏洩してしまっているのだろう」
「そうで有りますね」
「適度な人員の調整が必要か。
余りにも順調に事が進んでいたので、綻びがでてしまったのだろう。
しかし、理由はともあれ、今回の公爵家の争いは持って来いと言っても良い。
いずれぶつかるのが分っていたのだから。
公爵家が彼の奪還をできなければ、我が領地の侵略行為をおこなったとして面目が立たんだろう。
証拠が見つけられないのだからな。
公爵家の地位も名誉も落とされる。
奪還など無理と言って良いのにな。
それに近く勇者召喚が有るのが王家も公爵家も分っている。
その争いに人員は避けないだろう。
もっとも、封印された魔獣はいないのだけどな。
それに余り大規模になると、あの方も動くかも知れない。
あの方が動く事を王家が許すとは思えない。
となると、王家から仲裁が入り、公爵家は面目丸つぶれになり失墜させられるって事だよな」
「そのとうりですね」
「我々は勝たなくても良いのだよ。
ただ、公爵家を失墜させればね。
そうなればあの方も喜んで下さるだろう」
「・・・
分かりました。
私は主様に頼まれた事をお守り通したいと思います」
「君はそれで良いのさ。
最悪の場合は処分をしてくれよ。
勿体ないが、私の野望の方が遥かに上のだからな」
「仰せのままに。
主様、早くお戻りになられ下さいませ」
「ああ、アン・ドウと上手く交渉し引き入れて、すぐにでも帰ってくるさ。
君の顔も見たいからね。
それまで、私の大事な食事の守りを頼むぞ」
「分かっております」
「アン・ドウか。
君と同じアンと言う名前の一部を持っているのではないか。
これは私の元に来る運命にあるのではないかな」
「左様で御座いますね。
私の名に似た方でしたらきっと良きに、主様に使えてくれるでしょう」
「私もそう思うよ、アン。
守りは、お前達と新たに入った者達で十分だろう」
「そうで有りますね。
でも、グレッグ、ゴーン、シャンテが居なくなってしまいましたわ。
私は少し寂しく思います」
「確かに、それは言えるな。
私の為に、彼等なりに尽力を尽くしたのだろう。
早まったまねをしたが、死んでしまったのだせめる事はすまい」
「そうで有りましたわね。
彼らのかたきも取ってやらなければなりませんね」
「そのとうりだな」
「・・・」
「主様、しかしながら、冒険者組合から提供があった五人がいます。
彼等が七夜鬼の代わりになりますから問題は無いでしょう。
新たに入った者を入れれば減った七夜鬼も九人になります」
「そうだな、もう七夜鬼とは呼べなくなったか」
「それでしたら、九魔将鬼と言うのはどうでしょう。
彼等にはその名に相応しい力があります」
「それは、良いね。
名称なんてどうでも良いが、とりあえずその命名にする事に決めよう」
「有難う御座います」
「そういえば、彼等五人は見えないが、どうしたのだ」
「すでに神武器を持たせ、配置についております。
主様を見送り出来ないことを、私から謝りたいと思います」
「そうだったのか、仕方ない。
今回の公爵家との争いにはメインで戦って貰うつもりだ。
初陣だが華々しい活躍を期待しようではないか」
「私も同感ですね」
「残念なのは、彼等の勇姿をこの目で直接見られない事だな。
特に魔獣ベヒモスを倒したキャリング・アーサーの力を見たかったのだよ。
噂は常々聞いている。
彼の勇姿を見る為に、出立を出遅らせても良いと思っているのだがな。
「・・・」
「思うところ有るのだが、わざわざ馬車を使い二日も懸けて行く必要も無いだろう。
飛んで行けば三時間もかかるまい」
「それはそうですが・・・
私が話したとうり作戦として陽動にもなっています。
動いていただけなければこちらとしては・・・
主様を陽動に使うのは気が引けるのは承知していますが、なんとも・・・」
「そうだったな、スカーザッハ。
私が言い出した事だったよな。
君が悪く思うな。
そう慌てふためかなくても良いだろう。
なんせ私が言いだしたのだからな」
「・・・」
「公爵家が仕掛ける前に私達は先に動く奇襲作戦だ。
それにせっかくお前が用意してくれたこの怪馬も無駄になってしまってわな。
こいつの乗り心地も試してみたい。
五メートルはある巨体。
銀紫に輝く毛並み、眼が六つも有り、暗闇でも五キロ先は見渡せると言う。
八本の足を持つ気性の荒い巨大な化け物馬、スレイプニル。
こんな怪馬、良く手に入れてくれたものだよ。
馬車を引かせる為だけに用意したとは贅沢すぎる」
「お褒めに預かり、嬉しゅう御座います」
「こんな怪馬を用意して貰ったならば、我が儘を言うまい」
「ご配慮なさって下さって、有難う御座います主様」
「我が領内近くで、演習と言う名目で駐屯している奴等は明日の朝仕掛けると言う話だよな」
「そのとうりで御座います」
「その為に今夜はゆっくりと休ませるのだろう。
我らはその寝込みに仕掛ける。
そうだったよな、スカーザッハ」
「おっしゃりますとうりです。
奴等は夜明けを待って朝方仕掛けるつもりらしいですが、こちらとしては先に仕掛け、夜明け前に終わらせると言う事になりますね。
夜の住人の我らに夜に攻め込むのは怖いのでしょう」
「アハハハ、そりゃそうだろうな」
「今回の遠征訓練とした公爵家の軍は、今いる駐屯している兵のみですが、それでも一万二千の兵がいます。
公爵家騎士団、第二聖騎士団のベルゼウォークを筆頭に、第四聖騎士団、団長ウォエレスアイリス、第五聖騎士団、団長ティックリターンを指揮下に軍が動くはずですね。
どれも実戦で名をはせた強者ばかりです。
特に第二騎士団団長ベルゼウォークは二百年前の勇者との争いで、鋼鉄の勇者を殺し、神武器、鬼神の斧を手にしている勇猛な強者ですから。
それに人間としては若さを保ち長生きをしています。
しかしながら所詮は人間です。
我々の方が上だと私は断言出来ます」
「だろうな」
「我らが従えている悪魔の血の結界で対処は可能と思いますが、その必要もないでしょう。
新たに仲間になった者達がいますから。
彼らにもこちらが所持している神武器が有るのですから」
「そうなんだよ。
それで気になるんだよ。
魔獣ベヒモス殺しのキャリング・アーサーが使う槍術をね。
神武器、投機槍グンニ・グル、その真骨頂を今回見られるかも知れないのだからな」
「そうですな。
剣聖もあの武器を所持した槍の勇者にかなり手こずったと聞いております」
「その話はかなり昔に聞いている。
西の大地の一部が大きなクレーターができ穴が未だに開いている状態だと聞くぞ。
それもその穴からマグマのような噴煙が立ち昇っているらしいな。
活火山でもないただの平地なのに、熱く熱していると言う。
すでに八百年前になるのにあの有様だ。
どのような攻撃をしたのかみて見たいものだ。
しかし、その勇者を剣聖は倒しているのだからな。
恐ろしい限りだ。
当時、剣聖の仲間であった吸血鬼が我が城に保管したと言う、伝説の神武器だ」
「左様で御座いますな。
私もあの神武器の力は見とう御座います」
「そうで有ろうな。
使わわれる側にとっては堪ったものではないが。
使う方からしてみれば、興味が沸くのは当然だろう」
「ごもっともで御座います。
公爵家の者達があの槍の効果でどう倒されるのか気になります。
槍の一撃で百や二百の兵が一瞬で消し飛ぶのでしょう」
「そのようだな」
「公爵家がどの程度の軍を投入するか予想は出来ませんが、現状で動かせる兵の数は六万が限度との話を聞いております。
四分の一、先に潰しておいて良いでしょうね」
「そう言う事だ。
こちらとしても後々楽になるので今夜の奇襲で潰しておくのも良いだろう」
「まさかと思いますが王家を護衛する兵団を動かす可能性は低いと思われます。
動かすとしても全体数で十万前後の兵ですな。
こちらの兵としては召喚したアンデットとレイス、魔獣を含め。
三万と言ったところでしょうか。
アンデット、レイスの昼間の活動は無理ですが、今回暗闇のカーテンのアイテムを使用します。
十日程度は戦闘に参加できるでしょうね。
私達だけで何とか潰すことが出来ますでしょう。
主様も別に所持しておりますよね」
「確かに所持していくが、使う道はないだろうな。
アラキアとカミュには必要になるかな」
「私達は大丈夫ですわ。
主様に戴かれたアイテムが有りますので問題なく昼間も行動できます」
「それだったら、問題は無いな」
「別同部隊の噂は聞きますが、今のところ確認は出来ていません。
予想される事は、朝方、飛空部隊が投入されて来るのでしょう。
噂では名うての賞金稼ぎ、冒険者、暗殺者迄雇ったと言う話を聞いております。
奇襲を兼ねて秘密裏に来るのでしょうね」
「当然だろう。
そのくらいはやってくれなくては戦いがいがない。
楽しい戦いになると思うが、私が見れなくて残念に思うよ。
アン・ドウを仲間に率いれたら、私もいっしょに参戦しようかな」
「それが宜しいかと思います」
「楽しみに待つとしよう。
王家を守る公爵家が失墜したら、門閥貴族を引き連れ王家に攻め込んでしまうのも良いだろう。
あの方もそれを望んでいるかも知れないからな。
それで私がこの国の王になるのも良いだろう」
「それは良き事ですね。
勇者の件はどうなさいますか?
そろそろ期間的に召喚されてきますと思いますが」
「それは剣聖に任せるとしよう」
「剣聖ですか。
今回の戦いには参加はしないのでしょうか?
彼もまた公爵家に連なる者です」
「参戦はないね。
あるはずもない。
剣聖は公爵家に連なる者だが、アレキサンダー家を名乗るのを嫌がるほど嫌っているからな。
ただの情勢的に公爵家に入っただけの異界人だ。
奴らの内情知っていれば嫌うのは当然だろう。
あ奴らの王家に関わる公爵家の闇は私達よりも深いからな。
剣聖もその事を知り得て、外へ出て行ってしまったのではないか」
「左様で御座いますな」
「それでは、後を頼むぞ。
私はアン・ドウを引き入れたらすぐに戻るとしよう。
お楽しみはそれからだ」
「分かりました。
お気をつけて、行って下さいませ」
「ああ、楽しみに土産を待っていてくれ」




