第80話 手紙
おいおいサレンさん、いきなり問題になる事をやってくれたな。
公爵家の使者に対してこの対応は無いだろう。
たかがお茶だけど、されどお茶じゃないのか。
あきらかに冷遇しているだろう。
失礼にあたらないのか?
お茶をまともに出す事さえ出来ないとは思わなかった。
それとも身分とかの差で、差をつけたりするのか?
異世界なのでどうなんだろう。
その辺の、しきたりが分からないな。
もしかして、これで良いのかな?
なんかサレンさんが他の人に甘い物を出したく無いから、ただのお茶を出したような気がするけど気のせいだろうか。
何故かそのような感じがするんだよな。
しかし、サレンさん達は、半端ない圧力をかけているよ。
背後からひしひしと威圧するような魔力が感じられるんだよな。
俺の方もちょっとだけ寒い気がするんですけど。
俺に向けられていないのは良いんだけど、使者に対してそれはないんじゃないの。
今はまだ敵対していないのだからね。
もしかしてこの行為も、こちらの世界では当たり前におこなっている事なのかな。
こちらの常識がまったくもって分からないぞ。
最初は俺も舐められない様に、圧力を出すよな気を放つイメージはしたけどさ。
さすがに今はやっていない。
後ろの威圧感が有り、ひいてしまったよ。
この切羽詰まった状態でどうすれば良いのだ。
相手方もまったく話をしてこないぞ。
俺から声をかけて良いのか?
それとも相手側から挨拶をして話してくる?
異世界なので話の仕方も今一分からん。
どうしたら良いんだよ。
せめて後ろの威圧している娘達がいなければ、フレンドリーに話しかけるのだがどうしようか。
公爵家の使者達は、顔を引きつらせて額から汗が出はじめているよ。
俺のせいじゃないよね。
圧力をかけるのは、違うんじゃないのかな。
話がまったく進まないどころか、何も始らないので、仕方なく俺から声をかけて見る。
「どうも私が安藤明です。
宜しくお願いします。
公爵家の使者の方々、遠路はるばる私の元へ訪ねてくるとはご苦労様です。
私に何かご用件がお有りでしょうか」
「こ これは失礼しました。
ご丁寧な挨拶有難うございます。
私は、公爵家第八騎士団、団長をしています、ルンブレイブと申します。
以後お身を知りおきを」
「公爵家の騎士団の方ですか。
私を尋ねられたと言う事は、もしかしてキースの件ですかね。
公爵家に連なる者をお聞きしております。
私がキースを殺した事によって、何か都合の悪い事がおありでしょうか。
それで私に報復しに会いに来たと言う訳ですかね」
「ご ご冗談をそんな事は滅相も御座いません。
決してキース様の件では無いですので。
あの決闘の事は公爵様も聞き及んでいます。
正式な神の名の元におこなった決闘だと立ち会った執事のクロートも申し上げておりました。
神の名の元に公平な決闘をおこなわれたのですから、誰も口出しは出来ません。
たとえ公爵閣下でも異議する事は許されないのです。
公爵家一同皆納得いっていますのでアンドウ様に付きましてはご安心して下さい」
「そうでしたか。
それは良かった。
私も気がかりだったんですよね。
神の名の元に公平な決闘と言う事は理解はされていますようですね。
こちらの件はお互い不問と言う事で宜しいでしょうか」
「はい、我々もそのように認識しております」
「それで、私に何か用ですかね」
「はい、アレキサンダー公爵様と剣聖様から手紙を受け取っています」
「手紙ですか?」
「はい、特に前当主である剣聖様からご要望が強く申しあげておりました。
アンドウ様にお会いしたいと言う旨の手紙を預かっております。
読んで戴けませんでしょうか。
クリス副団長、預かってきたお手紙をお出しして下さい」
「分かりました。
こちらです」
クリス副団長と言われる若いきゃしゃな青年は手紙を持ってきた。
なんだこの若い青年?
女のように華奢な容姿で騎士団に合わないぞ。
あれ女性なのかな?
それに副団長だと。
このなりで副団長は無いだろう。
金か貴族特権でなっているお飾りの奴なのかな。
そうとしか思えない。
クリス副団長はサレンさんに公爵家から渡された手紙を渡す。
二通ほど有るが、まったく手紙が違う?
一つは動物の革で出来たスクロール状の羊皮紙と言うやつだな。
実物は初めて見たな。
スマホゲーム画面ではうんざりするほどガチャで見ていたけど。
金の金のスクロールが出ないんだよ。
いやな事を思い出してしまった忘れよう。
もう一通は白い紙に包まれた短冊織りになった手紙が入っている?
日本古式の手紙かな珍しいな。
これって確か戦国時代の一般の手紙で送られた、きりふうすみびきと言う手法の手紙だったじゃないか?
短冊織りにした頭を紐状に切り、手紙を結ぶって聞いた事が有る。
何かで聞いただけ曖昧で詳しくは覚えていないな。
違っていたかな?
サレンさんを経由して俺の手紙が渡った。
!
直接俺に渡せば良いと思ったけど、しきたりみたいのが有るのかな。
異世界だから、そういう細かい形式があるのも分からないんだよな。
まぁ、良いか。
では、拝見しようかな。
最初にスクロール状の羊皮紙を結んでいた紐を解いて開けてみたけど・・・
読めなかった。
しまった。
つい封を解いてしまったよ。
俺ってこの世界の字が読めないではないか。
俺が手紙を見て渋い顔をしたら、何故か使いで来た騎士団員達の顔がみるみる白くなったのが分かった。
都合が悪い事が書いてあったので青ざめてしまったのかな。
でもこの人達ある程度内容は知らされているはずだよね。
先ほど剣聖は俺に会いたいとか言う話だったし。
もしかして書いて有るの知っているが、俺が渋い顔をしたから、意に添わないと思い引いてしまったのか。
当の本人は、ただ読めないので分からず困っているだけなのに。
うむ、まったく読めない。
此処はアニスさんに頼るとしよう。
アニスさんは俺が字を読めない事を知っているはずだ。
うまく合わせて対応してくれるだろう。
サレンさんとターナさんはこういうところはまだ話が合わせられないと思うから。
それを期待してアニスさんに手紙を渡して見る。
「アニスさん、この手紙の内容をどう見るかな」
「ご拝見させて貰います」
良し受け取ってくれた。
読めない事を知っているはずだ。
良い切り返しを期待したい。
「こ これは下賤ませんね」
「?」
「公爵家当主、アレキサンダー・ハーツ様からの公爵家にご招待したいとの短い文面しか書かれていません。
歓迎すると書いて有りますけど、どのような趣旨なのか分かりません。
招待をするにも、名目、日時が書いて有りませんので意図が読めませんね。
使者の方、どういう用件なのかお聞きしたいですね。
まさか招待したいと言う事をかこつけ、領内に入り暗殺を企てると言う事は無いでしょうね。
自らの領地で何が起こっても不問にされるでしょう」
「暗殺、そうなのか」
おいおい、それはさすがにないだろう。
俺の意図が分かり、だいたいの内容を説明してくれたのは良いがさすがにそれは無いと思うが。
アニスさんは冗談交じりで絶対言ったよな。
こういう人が嫌がる事を、たまに冗談まがいにさらっと言ったりする事があるからな。
たぶん、後ろでうっすらにやけた顔をしているのではないかな。
「あ アンドウ伯爵様、そのような事は絶対御座いません。
剣聖様の、剣聖様の手紙を読んで貰えないでしょうか。
そちらに詳しい内容は書いて有りますと思います」
「ん、そうかな。
それじゃ読ませて貰おう」
こちらも読めるか分からんが一応開けて見るか。
読めなかったら、アニスさんにまた頼もう。
俺が読めないのはさっきの対応で分かってくれていたみたいだから。
でも余計な事は言わないで貰いたいのだが。
俺は手紙を開封し読んでみる。
!
日本語か。
しかし字が崩れすぎていて所々しか読めないな。
かなり古い書式だな。
暖かな日差し?
最初に俳句のような事が書いて有る。
崩れすぎていて読めない部分があるが、漢字の字体でなんとなく意味が分かりそうな感じだ。
あとは故郷とか書いて有るな。
それで俺に会う事を楽しみにお待ちしているって感じかな。
機会が合ったら会ってお話したいって感じだろう。
一応、アニスさんに見て貰うか。
言葉の魔法で話せるよになるなら、字が解読できる魔法も有るかも知れないからな。
「アニスさん、俺には所々しか読めないのだけど、見て貰えないかな」
「分かりました。
ご拝見いたします。
・・・
・・・
・・・
申し訳御座いません。
この異国の字は見た事が無いので私には読めません」
「やはりそうか日本語だしな。
魔法でも解読できないのかな」
「そのような特殊魔法は考古学者しか扱えないので、私しには勉強不足でして覚えていないと申し上げます。
役にたてず誠に申し訳なく思います」
「そうなのね。
ルンブレイブさんだったかな。
この手紙読めるかな。
見て貰いたいな」
「分かりました。
お預かりしたいと思います」
「・・・
申し訳ない。
アンドウ伯爵様、私にもまったく見た事のない字なので読めませんでした。
申し訳なく感じます」
「そうか、仕方ないな」
手紙を返して貰い、再度読み直す。
「日時は特に指定が無く、来られるときに公爵家を通して来て下さいと言う話かな。
一応、返事も貰いたいみたいだな。
最後に名が記されて有るな。
竹中伊三郎か。
これが剣聖と呼ばれる人の氏名かな。
やはりこの名の感じは俺と同郷の日本人らしいな」
「タケナカイサブロウ。
ご主人様、今そうおっしゃいましたよね」
「そうだけど。
どうしたのサレンさん。
そんな驚いた顔をして」
「すいません。
剣聖様はイサブローと言う名前しか聞いていなかったので、家名があったのですか」
「家名かまあそうかな、氏の方だよな。
竹中って書いてあるから、そうではないのかな」
「タケナカですか。
そんな家名は一度も誰も聞いた事は無いと思います」
「公爵家の方々も存じ上げていますか?」
「いえ、私も初めて聞きました。
公爵家の先代当主となった時も、アレキサンダー家は名は名乗っていないと聞いております。
私共には剣聖イサブローと言う名前が定着していたので、それ以外は存じ上げて御座いません」
「そうですよね。
家名があったので驚きましたよ。
ひいひいお婆様もイサブローとしか、言っておりませんでしたから」
「ひいひいお婆様?
サレンさんのお婆さんはその剣聖と知り合いなのかな」
「ええ、ちょっとだけ知り合っていますようです」
「ふーん、なるほどね。
どうやらこの竹中伊三郎と言う人は、俺と同郷の人かな。
名前でこんな感じの人いるからな。
まさか俺いがいに異世界から来ていた者が居たとはな。
まぁ、携帯が落ちて来ているんだ。
誰か来ていてもおかしくはないか。
しかし、なんだな。
手紙の文字からしてかなり古い書式で書いているな。
まるで江戸とか戦国時代の書き方だよな。
いったいくつになるのだろう」
「お話にによると、四度前の勇者召喚のおりに現れたと聞きましたから。
もうすぐ五度目の勇者召喚が有るはずです。
勇者は二百年に毎に召喚されると言うので、かれこれ千年近く歳になると思いますが」
「千年、ずいぶん長生きだな。
あっ、この世界は一年百日だったか。
それでも三百年?
近く生きているんだよな。
長生きなのは確かか。
それでは俺の髭が伸びないのはこの世界事態に何か関係があると言って良いのどろうか。
気になるところだな。
おっと余計な話をしてしまった。
今のは聞かなかった事にしてくれ」
「分かりました。
秘密は厳守します」
使者のルンブレイブは真面目な顔で言った。
しかし、剣聖が俺と同じ同郷の者とはね
それもかなりの年月をこの世界で生きている。
会って見るのも良いかも知れないな。
けどこの世界の年で千年は居るのだろう。
絶対に帰れる方法は知らないよな。
帰る方法があればとっくに戻っているのだろう。
そうなると俺は帰れそうにないか。




