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第75話 アニスの思惑

 「やる事か。

 それじゃ、豆腐を作る下準備をして貰おうとするかな」

 豆腐を作るのは、道具と材料さえ手に入れればそれほど難しい事ではない。


 豆乳を七十度から八十度くらいに熱し、にがりを入れてやれば固まるはずだ。

 これはにがりがたんぱく質を固まらせる作用があると言う事だ。

 ある意味怖い話だが、人間も固まらせる事が出来てしまうと言う話も聞いた事がある。

 しかし、人間が七十度まで沸騰する事なんて有り得ない事態だから実際には固まる事など有り得ない事だけど・・・

 でも、できると言う話は聞いたので怖い事だよな。

 

 「それじゃ、豆乳の用意と炎然石の用意を頼もうかな。

 豆乳を七十度以上沸騰させて、にがりを入れて軽くへらでゆっくり五回くらいかき混ぜ蓋をすれば、五分くらいで固まるはずなんだけど。

 今回はあくまで実験だ。

 にがりが取れているかまず確認しなくてはならない。

 それと七十度以上の温度設定がうまく調整できるかが微妙だ。

 あまり温度が高くても固まり方が悪くなってしまうからな。

 あとはにがりの割合か。

 用意した豆乳に対し五パーセントから十パーセントと言われているけど、それがイマイチ判断がつかない。

 市販の海水にがりでも差があるらしく、メーカーによっては違うみたいだからな。

 多目に入れれば固まるだろうか、それも判断がつかない。

 これについては前にやった事があるのでどのくらいか何となくしか判断できないからな。

 失敗ありきでやるので期待はしないでくれ。 

 夕食前にやろうと思うので用意を頼むよ」

 「分かりました」

 「あぁ、分かっていると思うが、豆乳がなければできないので飲んでしまわないように。

 それだけはお忘れなく」

 「ご主人様、それは私達、いえ私に対して失礼にあたりますよ。

 先ほど飲んでしまったのはサレンのせいですから」

 「えっ、やはり飲んだの?」

 「!

 いえ、飲んでませんんよ。

 私の勘違いでしたわ。

 オホホホッ」

 「ふーん、そうなんだ。

 まっ、良いか。

 済んだ事を問い詰めても仕方ないからね」

 「・・・」

 「それじゃ、食事前にすぐ用意できると思うので、それまではターナさんの魔法の練習を見てあげてくれないかな」

 「それともし、豆乳が固まらなかったら、勿体ないので湯葉にして食べてしまおうと思うから」

 「ユバですか?」

 「そうそう、豆乳を沸騰うさせていくと表面に膜ができるのだよ。

 それを菜箸などで剝くって食べることができるんだよね。

 豆乳が無くなるまで食べられるから良いんだよね。

 でも、これは好き嫌いがはっきり分かれるから微妙なんだよな。

 ちなみに俺はあんまり好きではないんだよ。

 それと味は豆腐もそうだが調味料があるとより美味のだけど、こちらには無いので塩だけで戴くつもりだ。

 ちょうど生成した塩があるので、振りかけて食べてみよう。

 無くても美味しいと思うけど、塩をかけた方が美味しいと思うからね」

 「そうなのですね」

 「醤油と言う調味料があれば良いのだけど、作り方が複雑でかなりの時間がかかる。

 半年近く作業期間がかかるし、こうじを作らないといけないので面倒なんだよ。

 簡易で作れる方法もあるけど、やはり期間は熟成させるのに三カ月以上かかるしこうじも必要だしね」

 「よく分かりませんが、無い物は仕方ありませんよね」

 「そうだね。

 塩だけでも良いと思うよ。

 そうだ夜だし、ベランダでやるのもなんだから。

 テーブルの上で出来る簡易な炊き出しの可燃装置みたいのができるかな。

 中鍋でお湯を沸かせるくらいで良いからさ。

 テーブルが焦げたり傷ついたりしない道具とやり方を、考えて貰いたい」

 「お湯を沸かす程度でしたら、炎燃石と魔法を使えばできると思います」

 「魔法で何とか出来るのね」

 「はい、できると思います。

 出来ましたらですが。何かアイテムを借りられませんか。

 前にアイテムで使えそうな物が見かけたのですよ・

 まだ整理途中のアイテムの中だと思いました。

 出来ましたらお願いしたいです」

 「別に良いよ。

 それじゃ、魔法の収納カバンから適当に出しておくから使ってよ。

 俺にはどれか分からないし、適当に魔法アイテムを出して置くよ」

 「宜しいのでしょうか」 

 「別に良いよ。

 俺には何に使って良いのか分からないアイテムばかりだしね。

 まぁ、前に言ったとうり何個かは譲ってあげても言いよ。

 危険なアイテムでは無ければね」

 「宜しいのですか」

 「別に問題は無いよ。

 豚に真珠じゃないけど俺には必要な無いアイテムばかりだし。

 必要な物が有れば譲ってあげられるから」

 「・・・」

 「キースが君達をこき使って手に入れた物だろう。

 そう考えると君達が持っていても良いと思っているからね」

 「分かりました。 

 必要な物があったら譲って戴けると嬉しい限りです」

 「それじゃ、うまく頼むよ。

 俺は少しでもトレーニングしたいのですぐに再開するからさ。

 それとサレンさんには先ほどの話は冗談だって言っておいてね。

 また放心状態に陥ってしまったから。

 しかし、本当に病気だろうか心配になってくるよ」

 「分かりました。

 サレンには言っておきます。

 お手数をかけて申し訳なく思います」

 「それじゃ、部屋の端の方に出して置くので後は宜しく。

 探し終えたらどちらでも良いからターナさんの魔法の練習を見てあげてね」

 俺は魔法の収納カバンに入っていた適当なアイテムを出して置く。


 おっと、いかんいかん。

 オレンジ漬けの蜂蜜だけはしまっておかなくては、これは中身が無くなる可能性が有るので別に閉まっておこう。

 これは見つかってしまったら大変だ。

 見られてはいないよな。

 あとの物は別に無くなっても問題は無いか。

 どの道、俺には使えそうに無いアイテムばかりだからな。


 それより、トレーニング優先だ。

 後は任せて再開するとしよう。


 ・・・


 「サレン、またですか。

 貴方は呆けてないで手伝いなさいな」

 「アニス、私わざとじゃないのに今度作りますクッキーの量を減らされてしまいますわ。

 それにペナルティもあるみたい」

 「何を言っているの。

 ご主人様が冗談で言ったの分からないの?

 冗談だって先ほど言っていましたよ。

 それに今まで些細な事はすべて許してくれていたのではないの。

 気にすることではないのですよ」

 「些細な事じゃないですよ・・・」

 「確かに貴方にとっては些細な事ではないかもしれないけど。

 ご主人様にとっては些細な事なのよ。

 今まで見ていたかぎり、やり直しが効くことは多めに見てくれるわ。

 よほどの事ではない限りご主人様は許して下さる」

 「そうですけど・・・」

 「ただ、貴方も分かっているとうり、裏切りや敵対する者に対しては非常に冷酷で残忍なお方よ。

 それは貴方もあの冒険者ギルドと国営銀行で身に染みて分っていますよね。

 敵対する者には即座に死を与えると言う」

 「確かにそれはそうですけど」

 「恐ろしい事だけど、悪い考えでは無い。

 身を守る為には絶対必要だわ。

 それに即死魔法で苦しませず楽に死なせてくれるんだから相手にとっても良いでしょうね」

 「それはそうね。

 貴族に逆らって連れていかれ、拷問を限りなくやられ放置されて死んでいく者などもいるのですからね。

 そう考えれば楽に死なせる事をしてくれるのは良い考えかも知れませんね」

 「そうですよ。

 理不尽に殺される者など多いですから」

 「ご主人様も、はたから見れば理不尽に殺していると見えますけど、自分なりの理由がはっきりとあるのですからね」

 「確かにそうですね。

 即死魔法を使える者だったら、遊び半分で一般人を殺す人とか考えられるのですから」

 「実験か快楽殺人で人知れず関係無い人を殺すのですよね」

 「即死魔法を覚えれば、試す人は誰もがいますからね。

 持ってしまった強力な魔法を試さずにはいられないでしょう。

 そう考えるとご主人様は敵対する相手にしか使わないと決めている見たいなので、まだ良い方ですから」

 「そうですね。

 敵対しなければ良いのですからね」

 「だから心配しないで下さいな。

 明日になれば何もなかったように振舞ってくれますよ」

 「そうですけど、元々貴方がご主人様に告げ口したのではないかしら」

 「それはそうだけど、貴方だって言ったじゃないの。

 お互いさまよ」

 「ううう、それはそうですが・・・」

 「それよりも次のお仕事を頼まれましたわ」

 「なんですの」

 「決まっているでしょう。

 豆腐を作る準備ですよ」

 「豆腐ですか。

 じゅるり」

 「こらサレン、先ほど正気に戻ったと思ったのに、また禁断症状がさっそく出ていますわよ」 

 「い いけない。

 気を付けませんといけませんわね」

 「そうですよ」

 「それで準備の方ですよね。

 何を頼まれたのですか。

 テーブルの上で鍋でお湯を沸かせる方法ですかね。

 それもテーブルを傷つけたり焦がしたりしない方法をです」

 「テーブルの上で火を使うの、聞いた事は無いですよ」

 「そうなのですよ。

 なにか考えがあるのでしょう。 

 私には分かりませんが」

 「うーん、魔法で出来なくはないけど、なにかアイテムがあった方が良いよね。 

 でも、別に宿屋で借りているテーブルが焦げたくらいでは問題はないのでは」

 「それはそうだけど、ご主人様は気にしているみたいですよ。

 私達は言われたとうりおこないましょう」

 「そうですね」

 「それでご主人様が適当に使える物をあればと出していきましたわ」

 「そうなんですか。

 それじゃさっそ使えそうなアイテムを探して見ましょう」

 「そうね」

 二人は使えそうなアイテムを捜しに入った。

 

 「うーん、どれも貴重なアイテムだと分るのだけど。

 お湯を沸かすのには使えないわ。

 どうしようかしら。

 前に浮遊石が嵌め込まれた小さい台座式のアイテムがあったと思ったけど」

 「無い、無い、無い」

 「どうしたのかしら、サレン」

 「蜂蜜のオレンジ漬けが入っていた瓶がないのよ」

 「それは当り前でしょう。

 食べものは別の収納カバンに入れているはずですから」

 「そうでしたのね。

 残念です」

 「案外、サレンに食べられると思って、他にしまった可能性もありますよね」

 「そうなのですか。

 それは心外な事ですよ。

 食べたりしないのに」

 「本当にそうかしら。

 今、探していたじゃないですか」

 「・・・」

 「でもすごい貴重なアイテムばかりですね。

 剣まで置いていってしまったわ。

 !

 この剣もしかして神武器、破邪の剣ではないかしら」

 「まさか、そんな。

 いくらキースでも神武器を持っていることはないわ。

 恐らくだけど、それってレプリカじゃないのかしら」

 「確かに、相当な魔力が含んだ剣ですけど、本物ではないみたいですね。

 でも、レプリカでもそれなりに力はあるのね」

 「当然でしょう。

 王家が有名どころの職人を使って神武器のレプリカを作っていると聞きましたから。

 確か、キースが金にものを言わせて改良した剣があったじゃないの。

 これってそれじゃないかしら」

 「あ、そうね。

 なんかそんな事を言っていた気がするわ」

 「それよりも、本当に蜂蜜が無いか探してよ、アニス

 間違ってこちらに入れている可能性もあるのではないかしら」

 「ちょっとサレン、目的が違ってきていますわよ。

 この剣より蜂蜜の方が重要ですか」

 「えっ、蜂蜜を捜すのではなかったじゃないですか」

 「もうまた、禁断症状がでてしまっているわ。

 気を確かにして下さいな。

 蜂蜜の事になると人が変わるのですからね」

 どうしてこんなことになってしまったのかしら、これほどまでサレンは抑圧されていたとは・・・


 確かに私達は奴隷になって食べ物もろくに与えられていなかった。

 三日に一度、毒がある硬い豆を用意されただけだった。

 キースから身を守る為で精一杯だったわ。

 私達に不埒な真似をしようとして洗浄魔法を強くかけたのが効いたのかそれ以降は私達を恐れ放置し滅多に人前にも出さなくなった。


 最初は自分の力を誇示し見せびらかす為に私達を連れていただけでしたが、それも恐れてやらなくなった。

 私達が魔法を暴発すれば人一人くらいは簡単に吹き飛ばせる。

 実際そのような行為をしようとして、下半身が吹き飛んで死んだ人もいるのだから。


 だから人間は私達を恐れているのも事実だし、エルフを奴隷にするなどよほどでない限りはしないわ。

 犯罪奴隷しか該当出来ないのだから。

 キースは私達を犯罪奴隷と偽って扱っていたのだから。


 トラウマは私達三人に残っているのは事実だし、よくご主人様は普通に接してくれると疑問に思う事がある。

 特殊即死魔法を使えるのもあけど、根本的に何かが違う感じがするのは確か。

 考え方が私達と根本的に違うのが分かる。

 私達もなるべくご主人様に合わせようとしていたら、だいたいの考え方が分かって来た。


 でもそれはこの世界を根本的に否定する考えと感じでならない。

 現に貴重なアイテムをこんな風に置いていくなんて有り得ないもの。

 いわば盗んで下さいと言っているものだわ。

 でも私達がそれをしないと当然のように思っている。

 まったく考え方が違っている。

 どういう生活環境で生きてきたらあのような考えになるのだろう。

 意味深い事がおおきい。


 私達は恩があるので絶対にしないと三人で取り決めをした。

 信用を得られるように。

 エルフとしてのプライドもあるから。

 でも逆の事をされている。

 ご主人様は私達に信用されるようにいつも行動をしているわ。

 私達はあれほどの恩をかけて貰った。

 疑いなど微塵も無いほどに。


 気を許しているせいか、サレンはあのような幼児退行をするのでしょうか?

 親が隣に居て安心感が得られているからあんな行動が出てしまう。

 私も安心感はある。

 ターナなんかもうべっとり依存しているように。

 ご主人様を見習って自ら強くなろうとするなんて思っても見なかったわ。

 大人しい引っ込みじあんのあの子がね。


 それにご主人様は強くなることが分かる。

 あの北の当主、別名イレギュラーと呼ばれるお方に似ている。

 理由は分からないが、あの方の名前をサレンは言ってしまった。

 普通は上位者には神により強制力がはたらいて名も言えないのに。

 知らない者でも言えないのにご主人様は普通に言えてしまっている。

 すでにあの方とご主人様は対等の力があるのかしら。

 恐ろしい限りですわね。

 

 しかし、こんなに貴重なアイテムがあるのに、ご主人様もそうだけどサレンもサレンだわ。

 このアイテムの価値が分からないのかしら。

 まあ、サレンは病気と言う事で仕方ないけれど。


 此処にあるアイテムは、ご主人様にとっては確かに必要はないかもね。

 特殊即死魔法が使えるし、その魔法を補助するアイテムなんていらないでしょう。

 あったら逆に怖いわね。

 広範囲で町全体を包み魔法を付与できるアイテムがあったら本当に恐ろしいわ。

 町の人を簡単に皆ごろしに出来るでしょうね。


 ・・・


 気になるアイテムはあるけど、私にも今は必要はないのよね。

 それより探してしまいましょう。

 言われたことをまずこなすのは信用を得られるのに早道だから。

 でも私達のおける信用と、ご主人様が思う信用では何か違っている気がする。


 なにか違うように思える私達は軽く、ご主人様は重く感じる。

 言葉は軽いけどご主人様のは重みがあるのよ。

 と言いますか。

 最初から私達のことを危害のないエルフだと思っているのかしら。


 私達はプライドが高く結構気性の激しいと言う事を知らないのかも知れないわ。

 私達はご主人様の能力は恐ろしいモノを持っていますが、それだけでお人良しで騙されやすい人だと認識している。

 能力のせいで怖いのもあるけど、無かったらただの善良な変わった方ですよね。


 私の秘密をご主人様に話してみようかしら。

 うーん、今は駄目よ。

 いくらご主人様でも拒絶されるわ。

 私は、サレンに対して後ろめたい事がある。

 あれは仕方なくやった事なのよ。

 でもそれで私も同じ目に合うとは思いもよらなかった。


 恐らくですけど、私達が自由になったと知ったら上層部から刺客が来るかも知れない。

 でも、ご主人様の加護が有ればなんとか生き残る事が出来る事が分かっている。

 ご主人様の特殊魔法が分かったとしてもエルフの国の者達に対応できる人はいないでしょう。

 

 だから決っしてご主人様の傍から追い出されないよにしなくては行けないわ。

 サレンには言えないけど、それとなく留まるようにしなくてはいけない。

 それが私が生き残る唯一の手段なのですから。


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