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第67話 懲りない二人

 あれよあれよと言う間に、豆乳が飲まれてしまった。

 ほとんど飲んでしまったのは主に二人なのだが。


 これはしまったな。

 多めに作ろうと思ったが、見誤ってしまったか。

 まさか、これほど二人の食欲が増しているとは思わなかった。

 半分冗談で言った暴食が本当になってしまうのか。

 今後の事を考えると怖いな。


 残り四リットル分をニ回に分けて作る予定だが、昼食事に出して、夜に豆腐を作れるか試してみたら、明日の分は少ないのでは?

 いや、今日中に無くなってしまうかも知れない。


 まさか、昨日同様に作っている最中に無くなってしまう事は無いと思うが・・・

 あれだけ飲んでいるからな。

 サレンさんなんかゲップするほど飲んでいるのだぞ。

 さすがにそれは有り得無いか。


 一応、釘を刺しておこうと思うが、刺したら刺したで、押すな押すなの効果にはならないよな。

 飲むな飲むなで誘って飲んでしまったら元もこうも無い。

 豆乳は俺の身体の筋肉の為に作ったのだぞ。

 エルフの少女達にがぶのみされる為に作ったのではないんだよ。

 もっとも二人は見た目が少女だが、年齢を知らない。

 この世界で二百は超えていると思われるので、少女では無い感じがするのだが・・・


 と とりあえず、豆腐を作る分は残して貰う為に、言うだけ言っておこう。

 そうでないと本当に飲まれて無くなってしまう。


 「サレンさん達、ちょーっと良いかな」

 「どうしましたか、ご主人様」

 「あと二回分、豆乳を作るよね。

 昨日、話していた塩から取れるにがりを使い豆腐を作るから、くれぐれも味見でも豆乳を飲んじゃだめだよ。

 豆腐は美味しい食べ物だから作りたいんだよね」

 「大丈夫ですわ。

 私、お腹の中がたっぷんたっぷんになっていますから、これ以上は飲めません。

 サレンもそうですよね」

 「私も飲みませんよ。

 昨日のような失態は絶対しませんのでご安心を」

 「それは良かった、信じるからね。

 それじゃお願いしよう。

 ・・・

 それと大事な事を忘れていた。

 この絞り終わった豆のカスあるよね。

 これっておからって言って食べられるから、捨てないで残しておいてね。

 それと時間が有ったらで良いから、フライパンで焼いて水分をとばし乾燥させて貰いたいんだけど良いかな。

 三時のおやつの時に、おからクッキーを作りたいと思うので、乾燥させたいんだよね。

 豆乳作りは時間かからず出来るでしょう。

 おからをフライパンで焦がさず焼いて水分とばすだけだから。

 出来るかな?」

 「おからクッキーですか!」

 「そう、昨日話していたやつだね」

 「この豆の搾りカスを乾燥させれば良いのですよね」

 積極的にサレンさんは聞いてきた。


 「フライパンで焼かずとも、魔法を使って乾燥させるのだったら、簡単に出来ますけど。

 要は水分を飛ばせば良いのですよね。

 このように」

 サレンさんは、おからをちょっとだけつまみ、手の平に乗せ、何かの魔法を唱えた。


 手に持っている、湿ったおからが一瞬だけ炎に包まれる。

 その後おからから水蒸気を発し出す。

 おからを風が纏うように包み込んで、みるみる乾いていく。

 おからの水分だけを飛ばしているようだ。


 「ええ、何なのそれ、魔法でそんな事できるの?」

 「はい、もっともこれは濡れた服などを素早く乾かすために、私達が使う混合魔法です。

 一般的には使われておりません。

 私達が生きる為に培った魔法ですね」

 「なるほどね。

 例えるなら、雨で服が濡れた時、雨宿りできても水のせいで体温冷えてしまう。

 そういう時に使うのかな」

 「!

 驚きました。

 ご主人様が言われたとうりです」

 「何となくだが想像できたね。

 魔法が使えるのだったら、考えてもおかしくない発想だね。

 でも、炎系魔法使っているんでしょう。

 燃えたりしない事がすごい事だよね」

 「それは魔法の使い手次第ですね。

 これは、火、風、水の魔法を使う混合魔法です。

 冷却魔法で身体を包み炎耐性を上げる。

 炎の魔法で熱を発し対象を温める。

 風魔法で乾かすのを促す。

 と言う事です。

 エルフは特にそういう調整が上手いですからね」

 「なるほどね。

 最低限、生きる為に考えた生活魔法か」

 うーん、確かに考えられるが、かなり困窮した状態で使う魔法だよな。


 雨に濡れた状態で放置するだけでも、危険な事は有るのは確かだから。

 それだけ、今まで苦労していたんだろう。

 まぁ、あのキースに使われていればそうなるか。


 しかし、サレンさんて、すごい人だったんだ。

 御免ね、ポンコツだと思ってさ。

 それじゃ、信じて待つからくれぐれも飲まないよにね。

 

 「どうしましたか、ご主人様」

 「あっ、ちょっと思う事があってね。

 それじゃ、出来るのだったらお願いしようかな」

 それと、塩の出来具合はどうかな」

 「こちらはまだまだですね。

 ゆっくりやりますわ」

 「なるほど。

 豆乳作るのに、水の量は先ほどと同じで良いからね。

 くれぐれも飲まないように、それじゃお願いね」

 「分かりました」

 「お任せ下さい」

 「それと、もし頼んだ事が早く終わったら、ターナさんの魔法の練習どちらか見てあげてよ。

 おからの乾燥は今見た限り、早くできそうだから。

 塩の生成はまだまだ時間がかかるでしょう。

 でも、一人でもできそうだからね。

 生成するのは午後になるでしょう」

 「そうですね。

 それでは、私が引き継ぎで塩の生成やることにしますわ。

 こういうのは、サレンより私の方が得意ですからね」

 「それじゃ、豆乳の作りとおからの乾燥が終わったらサレンさん、ターナさんんの指導お願いするね」

 「分かりました」

 「俺はトレーニングに戻るね」

 「お任せ下さい」

 取りあえず大丈夫だろう。


 ・・・


 トレーニングを再開した。

 鏡に向かい空手の型をやりながら魔法を使う。


 しばらくたって・・・


 うーん、そろそろ豆乳の作りが終わっても良い時間だけど・・・

 なんか気になるな。

 ちょっとだけ見に行くかな。


 ・・・

 

 「コンコン」

 ドアを開けベランダに入る。


 「アニスさん達どう、豆乳作り終わったのかな」

 「はい、ちょうど今終わったところです。

 サレンと変わるところですね」

 「おからの乾燥はお任せ下さい」

 「なるほど。

 それで出来具合はどうかな」

 「こちらに出来立てが有りますよ」

 !

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 そうか、そう来たか。

 サレンさんの事をすごい人だと思ったけど勘違いだったか。

 やはりつまみ食い、いやつまみ飲みかな、してしまったようだね。

 食欲の誘惑には勝てなかったか。

 信じた俺が甘かったかな・・・


 「えーと、アニスさん、なんかこの豆乳って色薄くない。

 こんなに白かったかな。

 確かもう少し黄色、いやもっと黄色かったと思ったけど、気のせいなのかな?」

 「同じ色だと思いましたが、どうでしょうか?」

 「味見して見てよいかな」

 「べ 別に良いですよ」

 俺がそんな事を言ったら、二人とも少し態度に動揺が見られた。


 やはりか。

 ちょっとだけ味見してみる。

 「ゴクリ」


 味が薄かった。

 でも、市販の豆乳飲んでいる俺にはちょうど良いくらいかな。


 「うむぅ、なんか最初に作った時よりも、味が薄いよね。

 美味しい事は、美味しいけど・・・

 もしかしてサレンさん達、つまみ飲みしてから、水を足して無いよね」

 「ギクリ」

 「ギクリ」

 「そ そんな事はしていませんよ。

 何を言っているのですか、ご主人様。

 どうやら豆の潰しにムラが合って最初より水っぽくなってしまったようですわ。

 そうですよね、サレン」

 「そうですよ。

 私達が飲んだなんて心外ですよ。

 証拠でも有ると言うのですか」

 今、二人からギクリと言う音が聴こえた気がしたが気のせいだったか。


 それに、証拠とか言う奴は怪しいんだよね。

 証拠が出ないと確信して言うからそのような言葉が出る。

 ほぼ、黒に間違いないのが分かる。


 それにアニスさんが言ったポーションの品質が安定しないとか、意味が分かったな。

 こんな事をしてれば、当たり前だと思う。


 「・・・

 いやー、無いけど。

 ムラが有るならば、分けて作った二回目と三回目で作った豆乳の色もまったく同じなんだよね。

 なんかおかしくなくない?」

 「それは、同じような配分だったからではないでしょうか?

 目検討で材料を分けたのですから、最初の材料が多く入っていたのですよ。

 水の量は同じく使ったので、後から作った物は材料が足りず薄くなってしまったのでは無いでしょうか。

 それとも私が勘違いで水を多く入れてしまったのかも知れません」

 「なるほど、そうだったか。

 でもそれだと容量が増えていないとおかしいんだよね」

 「・・・」

 「本当に飲んでないよね」

 「ええ、飲んでいませんわ」

 「本当に」

 「飲んでいません」

 二人の額から、汗がにじみ出て来ているのが分かる。

 あれだけ水分身体に取り入れば、汗が出て来てもおかしくないだろう。

 

 こいつ等、やはり飲んでいるじゃないのか。

 でも証拠が無いのでなにも言えないな。


 「いやー、疑って悪かった。

 御免、謝りたいと思う。

 申し訳なかったよ」

 俺は二人に頭を下げた。

 

 上目目線で見たら、二人の顔が引きつっているのが見える。

 これは間違いなく罰が悪いのだろうな。

 

 「それじゃ、おからの乾燥が終わったら、ターナさんの魔法の練習見てあげてね。

 俺はトレーニングに戻るわ」

 そう言って部屋に戻って行った。


 「アニス、バレていますよね」

 「ええ、間違いなくバレていますわ」

 「まさか、一目見ただけで、分かってしまうとわ。

 ご主人様の観察眼は恐ろしいですわね」

 「そうですね。

 これ以上はもう止めましょう」

 「そうですね。

 三度目の正直とか有りましたわよね」

 「そうよ。

 三度目に見つかったら、酷いお仕置きをされてしまいますわ」

 「そうね。

 そうしましょう」

 「今は、ご主人様に頼まれたことを、完璧にこなすとしましょう」

 「確かに、そうでないと私達の面目が立ちませんわ」

 「そうね。

 そうしましょう」

 こんなことを言っている二人だが、懲りずにまたやらかすのであった。


 ・・・


 ん、サレンさんがベランダから出てきたな。

 どうやら、おからの乾燥は終わったみたいだな。

 それに何故か今日は積極的にターナさんに魔法を教えているみたいだ。

 もしかして、アニスさんと二人が揃うと駄目になってしまうのかな。

 友人でも特定の人と会うと駄目になる奴いるよね。


 ・・・


 昼食の時間帯に取ってしまう。

 ちょっとだけ豆乳を出したがやはり味は薄かった。


 「ご主人様、この豆乳最初に飲んだものとだいぶ違いますね」

 「美味しくないかな」

 「そんな事は有りません。

 でも、私は最初に飲んだ方が好きですね」

 「んーん、そうだね。

 試しで作ったから、水の配分がうまくいかなかったんだよ。

 でも、だいたいわかったから、次は大丈夫だと思うよ。

 そうだよね。

 『アニスさん』」

 「ええ、コツが掴めたので次は大丈夫ですよ。

 今度はもっと美味しく作るので期待してくださいね」

 「そうですよ。

 私達に任せて下さいな。

 それよりもご主人様。

 午後からおからクッキー作るのですよね。

 何時頃から始めますか。

 私に出来る事は有りますか」

 話を逸らしたな。


 それに加え自分の興味あるのに切り替えるとはサレンさんもアニスさん同様に目ざといところ有るよな。


 「うーん、よく考えたら作るのに時間がかかるんだよね。

 「昼食を食べたら、準備をしてしまおうかな。

 それに用意したいものが有るので、頼まなくてはいけないんだけど、君達はバターとか食べられ無いよね」

 「はい、私は遠慮したいですね」

 「それだったら替わりのオイルを用意して貰わないといけないけど、植物から取れるオイルって何かあるかな」

 「植用のオイルですか?

 種の中から取れるオイルは有りますよね。

 サレン貴方持っていたのではないかしら」

 「あ、有りますよ。

 でもこれはご主・・・

 いえ、何でもありません」

 「?

 持っているのかな?」

 「はい、ちょうど今此処に出ています果物、グレシードの種からオイルが取れるのです。

 私、何かの時に使えると思って、勿体ないので取っておいたのです。

 この種は、食用にも使えるオイルなので重宝するのですよ」

 「なるほど。

 これね。

 この紫色のイチジク見たい果物のだよね。

 確かに大きい種が入っていたな。

 甘くて美味しいけど、種がでかくて食べるところ少ないと思っていたんだよ。

 他に使いようが有ったのか。

 名前はグレシードだよね。

 なんか別名のオイルで聞いた事が有る名前だな。

 果物から取れるの知っているけど、まったく違う果物だよね。

 昼食をかたずけをする給仕の人に、有るのか聞いて見るか」

 「数を多く取ってありますので、ご主人様使いますか」

 「そうだな。

 取り敢えず宿屋にあったら譲って貰うから良いか。

 それに、他に小麦など相性が良い植物オイルが有るか聞いて見るから。

 無かったらお願いするね」

 「分かりました」

 「バターが駄目だとすると当然ミルクも駄目だよね」

 「そうですね」

 「まぁ、代わりに豆乳を使えば良いんだけど。

 ちょっと『薄く』感じるんだよなぁー。

 これは仕方がない事だよね。

 ねぇ、『アニスさん』」

 「そうですわね。

 次は失敗しないようにしますわ」

 「それだったら良いな。

 今回も試しで作ってみるだけだから、条件が難しいので『失敗する』かも知れないな。

 甘煮豆や豆乳と違うからね。

 牛乳に代わる豆乳がもうちょっと『濃け』ればよかったんだよね。

 そう思わないかな、『サレンさん』」

 「そ そうですかご主人様、それは残念ですね」

 「まっ、試しだ作ってみる事にしよう。

 失敗したら御免ね・・・」


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