第63話 騎士団長の憂鬱 ②
(とある宿屋の一室)
公爵家直属の王家を守る第八聖騎士団が拠点にしている宿屋で騎士団達が疲れたように鵜灘られている。
すでに昼を過ぎている時間帯だ。
昨日の件もあって疲れているのだろう。
「団長、ご迷惑をかけました」
「おう、クリスか目を覚ましたようだな」
「はい、おかげ様で助かりました。
有難う御座います」
「別に良いさ。
それより初めてあった悪魔との実戦はどうだった」
「何と言いますか。
生きて帰れて良かったと思います」
「そうか、それは良かった。
俺の後任には、お前を推薦しておくから、後はたのんだぞ」
「?
何を言ってんですか!
団長が騎士団を辞めるのですか?
こんな大事な時に、騎士団を辞めると言うのですか。
公爵様が、そんな事を許すはず訳、無いじゃないですか。
・・・
それに、僕なんかが団長を務まるはずが無いですよ」
「大丈夫だ。
お前だったら出来る。
悪魔とも互角に渡り合えたんだ。
俺が保証するぜ」
「嘘ばっかり、悪魔とはまともに戦っていませんよ。
それになんとも、うすぺらい保証ですね。
僕が、気を失っていた時の事を聞きましたよ。
とんでもない悪魔が出現したそうですね。
それもあのアンドウ・アカリが使役していると言う話も・・・」
「いや、そんな事は知らないよ。
気のせいじゃなかったのかな。
・・・
あの悪魔は、お前が気を失っている時に、お前が突然立ち上がり不思議な力でお前が倒したと思ったぞ。
そうだよな、みんな」
「戯言は止めてください。
そこにある、山澄になった騎士団員達の退団願はなんですか?
第八騎士団全員辞める事に成れば、僕一人でどうしろって言うんですか」
「え?
お前まだ聖騎士団に残るつもりなのか。
俺はてっきりお前も辞めると思っていたんだがな。
命あってのものだぞ」
「団長、本当にどうしたと言うんですか?
聞いた話だと、上級悪魔が現われたとかだけで、そんな弱ごしになるとは貴方らしく有りませんよ」
「ん、そうかな。
俺ってお前から高く評価されていたんだな。
俺は冒険者あがりの叩き上げだから、そんな騎士道精神は無いぞ」
「まったくなんて人だったんですか。
正義感強い人だと思っていたのですが、減滅しますよ。
上級悪魔が出てきたのが分かりますが、こんな風になるとは情けない限りです」
「・・・
クリス、これを読んで見ろ、午前中に公爵家の使いから届いた手紙だ。
これを読んだら、お前だって心変わりするぞ」
「それっていったい。
拝見させて貰います」
「こ これは・・・」
「読んだとうりだ。
公爵家が正式にヴァレン・シュタイン家に仕掛けると言う事だ。
それも領主の留守を狙った時にな・・・」
「そのようですね。
でも、どうしてですか」
「理由はもう一通の団長クラスが見られる手紙に書いてある。
お前も副団長だ。
読んでいたほうが良いだろうな。
と言うか、此処いる全員は俺が話してしまったので知っているのだがな」
「拝見させて戴きます。
・・・
・・・
・・・」
「どうだ、内容はえげつないだろう。
公爵家は絶対に、この件は引かないぞ。
いくら犠牲者を出そうとも奪還に動くはずだ」
「そ そうなりますね。
神隠しにあったとか、噂になっていた公爵家の御曹司が見つかったようですね」
「ああ、それもバレンシュタイン城の地下に幽閉されているらしいな。
・・・
忍び込ませていた間者の報告で分かったらしいな。
命がけの報告だったんだろう。
すでに知らせて来た者は亡くなっていると言う話だ」
「これで公爵家の奴等がおかしかった理由が分かったよ。
アルフレッド殿下を捜していたのだからな」
「そのようですね」
「この町も、奴隷の売り買いとかで攫われている者がいると聞いた。
他の騎士団が調べていたが、実情は違うようだな。
居なくなったアルフレッド殿下を探して居たのだろう。
俺には知らされて無かったが、他の騎士団の一部には隠密で調べていたのだろうな。
この町を調べる過程で、新たに出きた奴隷売買をさせるザルバの町を調べる為に・・・
ザルバの町はシュタイン家の管轄だ。
公爵家でも理由があっても調べる事は容易ではない。
それでも、手掛かりを求めて動いたのだろう。
奴隷などになって、売られている可能性はあるからな」
「そうですね」
「しかし、実情は違ったようだな。
まさかシュタイン家に囚われているとは・・・
だが、此処へアンドウが来たから分かったようだ。
キースはシュタイン家と繋がりが有った。
公爵様を裏切っていたのだ。
それに此処の冒険者の幹部一同も、シュタイン家の関係にあったみたいだ。
調べていて分かった事だ。
そいつらが全員死んだ事により、綻びが出きたんだろう。
小さなきっかけでも情報が入り、バレる事は有るのだからな。
・・・
シュタイン家は吸血鬼の一族が治めている。
内情など誰も知り得ない。
あのヴァレン・シュタイン城に入ったが最後、人間は生きてでられないと等しいのだからな」
「そうですね」
「それに、入るこ事にもままならない。
奴等が張っている血の結界があるからな」
「血の結界ですか?」
「そうだ。
ん、ちょっと違うかな。
結界を張っているのは、城に取り付いている悪魔なのだからな」
「悪魔が結界を張っているのですか!」
「ああ、搭の一番上の部屋で、常に監視している目玉のでかい悪魔が見張っているんだよ」
「目玉の悪魔?」
「そうだ、代々シュタイン家の城に取り付いている悪魔だ。
俺は名前まで知らないが、搭のてっ辺に見たと、特殊な眼を持つ前の同僚が見たと言っていたからな。
悪魔が監視していて、来るものを阻んでいると言う話だ。
まあ、そっちの話はまだ良いのだが」
「え、良いってどういうことですか?
シュタイン家と公爵家は全面戦争に突入するのですよ。
良い訳ないじゃないですか」
「そうだよな。
良いはずない訳だよな。
・・・
実はだな、別件で俺達の任務で新たに知らされてきた事があるのだよ」
「この町に来る、シュタイン家の領主を見張れと言う事ですか?
それとも暗殺ですか?」
「うーん、半分は合ってるが趣旨が違うかな。
暗殺なんて事は、俺達じゃ到底無理な話だからな。
初代当主の剣聖でもない限り、できない話だろう」
「それじゃ、なんだって言うのですか」
「うーん、これはアンドウがらみの事なのだが」
「やはり、アンドウの暗殺ですか」
「それも違う、違う。
なんて言うか剣聖様と公爵様から手紙を預かっているのだよ。
剣聖様は使者によれば公爵家に招待したいと言う話らしいのだが・・・
公爵様の手紙は何も言っていなかった。
まさか手紙を開封する事はできないからな、中身の内容は分からない。
ただ、届けてくれと渡されただけだ」
「招待ですって、それも剣聖様が・・・
それに公爵様からの手紙も・・・」
「そうなんだよ。
剣聖様の手紙は良いよ内容が分かっているから。
でも、公爵家の手紙がね・・・
公爵家と奴はキースの件で因縁があるだろう。
それにこんな時だ。
かなり公爵様も気がたっている。
どんな手紙の内容だろうね・・・」
「団長、気持ちは分かりますが、しっかりして下さい。
なんか魂が抜けた感じになっていますよ」
「そうかな。
それでね。
今回さ、この町にシュタイン家の領主が来るのは、どうやらガスタリア子爵に呼ばれたパーティーでは無いみたいなんだよ。
名目は何でもよかったのだろう。
アンドウがこの町にいると言うので、勧誘に来るらしいんだ。
アンドウに会いに来るのが本命でパーティーの招待がついでなんだよ。
と言うか名目だ。
領主が不用意にこんな町に来はしないのだから」
「まさか、そんな・・・」
「そんな、まさかなんだよ。
当然、アンドウへの勧誘の阻止も有り、それに剣聖様の招待の手紙の関係もあるけど、公爵様の意向も何か有るみたいなんだよな。
これ以上は詳しい事は書かれていないので、俺どうしたら良いのか分からなくなってしまってね」
「お前、考えてくれよ」
「そうは言っても、剣聖様と公爵様の手紙を預かっているのですから渡しに行かなくてはいけないじゃないですか。
それがまず先にやることですね」
「そう、それは分っているよ。
でもあの上級悪魔をアンドウは使役しているんだよ。
言って置くけど、この街一瞬で灰に出来るクラスの悪魔くんだよ。
それを使役しているアンドウと言う化け物のとこへ行くんだよ。
最初の一歩で躓いているじゃないか。
なにかあったら俺、確実に死んじゃうよ。
それがクリアしてもさ、公爵様から渡されている手紙の内容は俺知らないんだよね。
その内容見てアンドウがどう思うのか判断が付かないんだ。
それに剣聖様の招待状もある。
これをアンドウが断ったら俺、剣聖様に何をされるか分からないし。
それに勧誘の阻止だろう。
俺の力じゃ無理な話だよね。
これがどう転ぶか一番問題な所なんだよ。
シュタイン家の当主とアンドウが揉め事になったら、この街本当に灰になっちゃうよ」
「そ それは・・・」
「お前、どうしたら良いか考えてくれよ」
「・・・
団長、本日限りカルバリー・クリス騎士団を辞めさせていただきます」
「なんだと。
何を言っているんだ、お前、認めんぞ。
絶対辞めさせたりはしないからな・・・」
「団長だって辞めたいって言っていたじゃないですか。
いっその事、騎士団全員辞めるって事で公爵様に代表で言って来て下さいよ。
団長の務めですよ」
「お前、こういう時だけ団長を持ち上げるな・・・」
(ホテル・サンシャイン)
「さて、昼飯も食ったし、動くとするかな。
サレンさん、アニスさん、ちょっとやって貰いたい事が出来たんだけど、良いかな」
「なんですか、ご主人様」
素直に二人は返事してきた。
「さっき、話していた塩の件で、やって貰いたい事が有るんだよね」
「塩の生成と言う事ですか」
「そうそう、察しが良いね、アニスさんは」
「その程度は話の流れで読めますよ。
サレンとは違って私は間を読める女ですから」
「何ですって、アニス・・・」
「おいおい、揉め事は無しにしてもらいたいな」
「申し訳、御座いません、ご主人様」
!
あれれ、おかしいな。
糖分が頭に行き届けば、怒りっぽく無くなるのではないのか?
まだ足りないと言う事か。
うーん、しかし甘煮豆は後にしたいんだよな。
「本当は午後から魔法の上達具合を二人に見て戴きたかったんだけど、塩の生成の前準備して戴きたいんだけど無理かな」
「お任せ下さい」
「私達で出来る事でしたら、なんでもおこないます」
「そう言って貰えるとありがたいな。
簡単な作業だが、暑くて大変になるかも知れないけど良いかな」
「問題有りませんよ」
「そう、それだったらお願いするね。
・・・
塩の生成なのだけど、一番大きい鍋で、塩を溶かし煮て貰いたいんだ。
煮ている過程で出る灰汁を取って貰うだけなんだけど、水分が蒸発するよね。
水が無くなってきたら足して、灰汁が無くなるまで取って戴きたいのだよ」
「まあ、それって私、ポーション造りの工程でやりますわよ。
不純物を取り除けば良いんですね」
「そうそう」
「塩でやるのは、はじめてですがやらせて戴きます」
「それは良かった。
でもね、火力は強くやるので暑くて大変だよ」
「その辺はまったく問題ないですよ。
私達は冷却魔法が使えるのでまったく問題は有りません」
「えっ、冷却魔法、それってどうやって使うの?」
「炎攻撃を防ぐ、熱体制を上げる魔法を身体にかけるのです。
炎のブレス攻撃にも耐える有効な魔法ですね」
「そんなの使えるんだ。
それって、ずるくない」
「ずるくなど有ませんよ。
半人前の魔法使いでいしたらまだしも、私達でしたらまったくもって問題は有りません」
「なるほどね」
それだったら、熱い豆乳の絞りと塩のにがり取りに絞る時に余裕で出来そうだな。
絞りで、火傷するのではないかと心配していたけど、まったく大丈夫そうだ。
「それじゃ、お願いするかな」
「分かりました」
「どのくらい時間かかるか分からないけど、終わらなければそこまでで良いから。
とりあえずやっておいてくれるかな。
えーと、塩の量は五百グラム、いやあるの全部一キロ全部渡すからさ。
零れないように、うまく調整してやってくれれば良いから。
鍋はこの一番大きいので頼むよ。
それじゃ、分かっているようなのでお願いするね。
あっ、失敗しても、塩は、貰ってこられると思うから気にしないでね。
俺は、いつもどうりのトレーニングを始めるから・・・」
「承りました」
・・・
「アニス、あなた張り切ってやろうとしているわね。
どういう風の吹き廻しかしら」
「うーん、前から気になっていたことが有るのよ。
ポーション造りで、塩をとり除くんだけど、その時に細かな真っ白な塩が取れるのよ。
叔母さまが、その塩だけ別に集めて持って行ってしまうのよね。
何に使うかは知らないけど貴重な品物らしいのよ。
私達が扱っている塩とは違うらしいわ。
それを確かめてみたいのよね」
「そうなんだ」
「それとね、これは絶対にお金になる話だわ。
私の女の感が言っているのよ」
「ふーん、たかが塩を煮詰めて灰汁を取るだけでしょう。
そんなのなんの意味も無いと思うけど・・・」
「もう、サレンたら、ご主人様が、甘い煮豆を作らないと思ってふてくされて」
「別にそんな訳ないじゃないの」
「そうかしら。
それだったら、この塩の生成早く仕上げてしまえばもしかしたら、ご主人様は余っている時間で甘煮豆の用意考えてくれるかも知れないわよ」
「そ そうね。
その可能性はあるわね。
それだったら魔法を使って早く仕上げてしまえば良いのじゃないのかしら。
有効な魔法教えてくれる」
「分かったわ、教えてあげるわ。
でも私は、出来具合の調整をしたいので、あなたに魔法使って貰いけど良いかしら」
「もちろん良いですわよ」
「それじゃまずは、この鍋が有る範囲に、熱を上げる魔法陣をお願いね。
それに鍋が解けてしまう可能性が有るので、強化魔法と炎耐性の魔法をお願い。
それと風の魔法を調整してうまく水分を飛ばすのよ。
私は、上側に出てくる灰汁をお玉で吸うのをやるはね。
炎燃石に込める魔力も大幅アップでお願いね。
また、水が無くなってきたら、私が言うタイミングでクリエイトウォーターを使って貰いたいわ。
私が良いと言うまで水を足して下さい。
それと、一応念の為、魔法が暴走したら怖いので、レジストの魔法も簡易ですぐに発動できるようにお願いするわ。
私も、一応かける準備はしておくから」
「分かったわ。
それじゃやりましょう」
アニスさんに良いように使われるサレンさんだった。




