第61話 悪い事を考えている人達
まさか、サレンさんがあんなに蜂蜜が好きだとは思いもよらなかった。
人格が変わるまでとはね・・・
もしかしたら今まで、奴隷として扱いを受けていたせいで、何かの後遺症でも有るのだろうか?
好きな物、いやまともに食える物だって与えられなかったのだろう。
キースからは酷い扱いを受けていた、その欲求が出てしまったのかも知れない。
俺には温かく見守るしかないか。
蜂蜜の件で何かあったら目をつむるしかないな。
これから、サレンさんに対しては甘い物関係で気を付ける事にしよう。
そうなると、今回に豆の甘煮全滅かも知れないな。
大豆が手に入ったので、明日は豆乳を作ってみたかったんだけど持ち越しにするか。
身体も、栄養価あるのを求めてきたので欲しかったのだよ。
明日も同じように、甘い煮豆を作るのを、考えなくてはいけないな。
さてと、貴族のピエロ服に着替えて、魔法と武術を混ぜ込んだトレーニングを始めるとするかな。
ターナさんといっしょにトレーニングを開始する。
「!
ご主人様、なにか良い匂いがしますよ」
「あぁ、この匂いはアニスさん達が、金時豆に砂糖を入れ、煮始めたのだろう。
お昼には出来て食べられるから、楽しみに待っていよう」
「分かりました」
砂糖を入れ始めたとすると、一時間以上はたったのか。
鏡を見ながら、トレーニングしているので、筋肉が見る見るうちに付いてくるのが分かる。
たった一時間でこうも効果が現れるとは、魔法を取り入れたトレーニングは間違えでは無かったな。
実に面白い。
それにしても、なんて俺の筋肉は美しいのだろう。
うっとりと見とれてしまうほどだ。
それにこれほど、鍛えているのにまったくと言っても良いほど疲れが出ない。
これも魔法の効果だろうか?
それともこの世界の仕様なのか、俺には分からないがチート能力も有るので、俺の身体に異質な事が起きているのは確かだ。
この異質な事が、良い事なのか悪い事なのか分からないが、利用させて貰う事にしよう。
一刻も早く鍛え、強くなるのだ。
「・・・
ふぅ、そろそろ昼食の時間かな」
甘く煮ている匂いもしないので、アニスさん達の作業は終わったのだろうな。
焼け焦げた匂いもしなかったので、まず失敗はしていないのだろう。
でも、やけに静かすぎる。
これは、まさか・・・
「ターナさん。
そろそろ昼食の時間だから一端、切り上げ昼休憩にしましょう。
俺はちょっとアニスさん達を見に行ってくるから」
「分かりました」
さてと、予想どうりの結果になるか見ものだな。
サレンさんの蜂蜜の件も有るから、問い詰めるとかわいそうかな。
でも予想どうりになるとは限らない。
そんな事を考えている俺は二人に失礼にあたるだろう。
此処は信用してみようとしますか。
外のベランダに続く扉を開け、アニスさん達の様子を見に行く。
見に言ったのは良いが、二人はちょこんと後ろ向きで小さく座っていた。
?
作業はすでに終わっているのにどうしたのだろう。
鍋は別々に蓋をしてあるし、終わっているみたいだが。
二人に声をかけてみた。
「アニスさん達、作業は終わったかな」
二人は、ビクンと身体を震わせたのだが、何故かこちらを見ない。
まさかな、そう思って鍋の蓋を取り、中をみて見る。
あらあら、どの鍋も底が見えるほど、煮豆が無くなっている。
えーと、金時豆はひい ふう みい よう いつ むう 七つか。
まさか金時豆は七つしか残っていなかった。
大豆と小豆も三分の一くらいしか残っていない。
でも、煮豆の出来は、煮崩れも無く奇麗に良くできている。
「えーとアニスさんこれはいったい・・・」
「ご ご主人様。
違うのですよ、これは違うのですよ」
「何が違うのかな」
「おかしな話、砂糖を入れ始めたら、中の豆が蒸発してしまったのですよ。
それでこのような事に・・・
そうですよね、サレン」
「そ そうですね。
おかしな話、なんか煮始めたら、だんだん見る見るうちに消えていったので私も不思議に思ったのですよ。
おかしいですよね。
アハハハハ・・・」
「そうか、そうだったのか。
俺はこの世界の者じゃないから、このような現象が起きても不思議ではないよな。
そうか、それじゃ仕方ないか」
「そうですよね」
「そうですよ」
「・・・
二人とも口周りが、紫色になっているけど、それは小豆の色だと思うけど気のせいかな。
・・・
まっ、仕方ないな」
「うぅぅ・・・」
「・・・
嘘ついて、御免なさい。
私達が食べてしまいました。
ご主人様、どうかお許しを・・・」
「別に気にしないで良いよ。
何となくそんな気がしていたから・・・
まぁ、材料は有るから明日作り直せば良いからね。
それじゃ、そろそろお昼だ、こちらも切りあげかたしてしまおう」
「・・・
ご主人様、私達を怒らないのですか。
こんな私達を減滅してないのですか?
それとも哀れんでいるのでしょうか・・・」
「・・・
別に怒ってはいないね。
減滅もしていない。
でも、哀れんでいるのは、有ると思う」
「そうなのですか・・・」
「今まで、キースに奴隷として、こき使われていたんだろう。
好きな物も食えず我慢していたんだ。
それを考えれば仕方ないと思ってさ・・・
しっかりしているように見えたサレンさんだって、蜂蜜を見ただけで豹変したからね。
奴隷にされていて、何か後遺症が残っているのでは無いかと、思ってしまったくらいだから。
だから、別に気にしてないよ。
悪いのはキースだと思っているからね。
「ご主人様・・・」
「それに俺も、君達に悪い事をしてしまったと思ったんだ」
「・・・
私達は別にご主人様から悪い事をされた事は御座いません。
むしろ、奴隷の解放をしてもらい、いろいろ与えて貰いました。
感謝しか無いのですが・・・」
「うーん、確かにそう思うけど、与えてしまったのが不味かったのかも知れない」
「それは、どういう事なのですか?」
「実はこんな言葉を聞いた事が有るんだ。
『知らぬものを耐えるのは、容易い』
と言う言葉をね。
「?」
「まさに、今俺がなっている状態なのだけど。
俺は此方に来た時、食えるものだったらなんでも良いと思っていたんだ。
それが余裕ができたら、果物が欲しい、甘い物が食べたい、故郷の料理が食べたいと思うようになってきた。
それを作ろうとして君達を巻き込んでしまった」
「あの、意味がよく分からないのですが?」
「なんていうかな。
だんだん食べ物が我慢できなくなってしまったのだよ。
美味しいものが有り、こちらでも出来ると知っているからね。
それを君達を巻き込んでしまった。
君達は今まで本当に美味しい物を、食べた事は無かったんだよね。
アニスさん違うのかな」
「私は、先ほど食べた、豆の甘煮以上のモノは果物以外食べた事は御座いません」
「そうみたいだね。
それだと、旨い物を知ってしまった。
その旨い物を食いたい欲求がこれから耐えられるかな」
「!
耐えられないかも知れません。
ま まさか 私もサレンみたいになってしまうというのですか」
「・・・
いやー、そこまではならないと思うけど食べ物に対する欲求が増してしまったかも知れないね。
七つ有る欲求の一つ、暴食とまで言わないけど、植え付けてしまったのかも知れないな」
「・・・」
「幸い、豆は普通に手に入り、砂糖も高いけど手に入るから簡単に作れて良いと思うけど、食欲は上がってしまっているよね。
それで悪い事をしてしまったと思ってしまった次第だよ」
「知らぬものを耐えるのは、容易いでしたか。
もともと、知しらなければ我慢などしなくても良いのですからね。
確かに恐ろしい考えだと思います」
「それで、これから俺は故郷で有った、食べ物を再現しようと思っているのだよ。
試しに今日やったのは、ほんの誰でも出来る事だったのでね。
それも俺が知っている一部のものでしかないからね」
「・・・」
サレンさんを見て、これから俺の知っている事を教えて大丈夫かなと思った次第だ。
この世界の人達には、良くない事なのかも知れない」
「・・・」
「それでも俺は食いたいし、そんな俺だけど君達俺について来てくれるかな。
君達が知らない美味い食べ物がある事を、知ってしまえば、今まで食べていた物が食べられ無くなるよ」
「・・・
ご主人様、私は付いて行きたいと思います。
教えて下さい」
「私もついて行きたいとお思います」
良し釣れた、見事に釣れてしまったな。
知らぬものを耐えるのは、容易い、なんかよさげな事を俺は言ったけど、そうたいそうな事では無いだろう。
だって、材料が比較的簡単に手に入る物しか、俺は考えていないからね。
アニスさん達でも、普通に手に入れられる物だろう。
そんなの自分で用意して作れば良いだけだからね。
無いものは無いと言う事が有るから、無ければあきらめれば良いだけだから、そんなたいそうな事は言っていないんだよな。
でも、アニスさん達にはショッキングだったんだろうな。
まさかアニスさんまでつまみ食いするとは思わなかった。
サレンさんがほとんど食べてしまうのかと思っていたんだよな。
蜂蜜の件を見れは当然にそう思える。
とりあえず、俺が知っているのは料理ではないが、美味しそうな物いろいろ教えてあげるか。
これで俺の食に困る事は、無さそうだな。
果物だけでも別に良いけど、作れるのだったらそちらの方が断然良いからな。
良い料理人見習いが手に入ったと思える。
アニスさんだったら新しく料理を考えて作ってくれるかも知れないしね。
俺の知っている事は回復ポーション造りより絶対楽な事ばかりだろう。
なんかポーション造りの方が、難しく工程が多そうな気がするんだよな。
だって傷にかけたり飲んだりするだけで治るのだろう。
それって、おかしいだろうが。
・・・
これで二人とも大人しくなるから良い事だろう。
俺って悪い奴だな。
でも両方とも良い関係になれるのでwin win で良いじゃないか。
アハハハッ。
と俺は心の中で思っている。
「さて、もうそろそろ昼食だ、かたずけてしまおう。
あっ、それとこの煮豆はお昼に俺達のみで戴くよ。
さすがに、三分の一以下しか残っていないのだから、分けてはあげられないな」
「それは当然の事です。
私達が、悪いのですからね」
「それじゃ俺は、この鍋を持って行ってしまうよ」
「後かたずけ宜しくね」
・・・
「ふう、危ないところでしたわ。
なんとか誤魔化せましたわね。
ご主人様が、お人良しで本当に良かったですわ」
「そうですね。
危ないところでした。
まさか、味見でほとんどを食べてしまうとは、思いもよりませんでしたよ。
アニスったらやめなさいと言ったのに、ほとんど食べてしまうんだから」
「違いますよ。
サレンが食べていたのでは無いですか」
「私よりもアニスの方が多かったですよ。
無くなってしまうので駄目と言ったのは私でしたからね」
「そうでしたか。
でも、本当に美味しかったですよね」
「確かに、美味しかったですね。
でもなんか私ご主人様から変な人に見られていないかしら。
あなたも私みたいになると言っていましたから」
「それは、そうでしょう。
貴方は自覚が無いのですか。
貴方の姿を見てターナだってドン引きしていましたよ」
「嘘、そんなに私ってなっていたのですか?」
「そうよ、幼稚退行していましたからね。
ご主人様が後遺症がどうのこうのと言っていたでしょう。
私もそう思いましたからね」
「そ そんなにですか。
こ これは気を付けなくてはいけませんね」
「そうよ。
気を付けて下さいな。
我らエルフの威厳と言うモノが有りますからね。
今日どれほど、貴方のせいで地に落ちたか考えもつきませんわ」
「それは、貴方だってそうでしょう。
ご主人様に、くれぐれも食べないでって言われていたのでしょう。
最初、そんな事言われて、失礼しちゃうわとか言っていたじゃないの忘れてしまったのかしら」
「そんな事を、私言ったかしら」
「もうアニスったら・・・」
「でも、美味しかったですわね」
「そうですね」
「明日も作らないかしら」
「そうですね。
でも私達から催促するのは無しですよ。
これ以上威厳を無くなるのはさすがに問題ですからね」
「確かにそうですわね。
でも、貴方がそれを言うのですか」
「・・・」
「ご主人様って本当にいろいろな美味しい物を、知っているみたいですね」
「確かに、あの知識には脱帽を禁じえます。
これはいろいろ知識を引き出し、盗むしかありませんね」
「まあ、サレンたら悪い事を考えているわね。
でも一理あるかも知れません」
「此処はターナには犠牲になって貰ってエルフ族の繁栄の為に知識を貰いましょう」
「なんて悪い事を考えているのサレンて、ターナの事をあれほど大切にしていたのでは無いの・・・」
「ターナもご主人様の事を気に入っているのですから良いのですよ。
此処は温かく私達も応援するしかないですからね。
ご主人様があちらのけが無いとも限りませんから、そこんところが心配なんですが」
「うーん、それは有りそうですわね。
なんか私は両方いける人だと思っているけど、どうなのかしら」
「可能性は大ですね。
かなり気になります。
・・・
あ、昼食の用意が始まりましたわ。
早く片付けてしまいましょう」
「そうしましょう」
明も悪い事を考えていたが、それ以上に悪い事を思っていた二人であった。




