第6話 町の探索
町の中を散策して見ると、多くの人々が行きかい、活気がある様子がうかがえる。
俺が来た方面からは人の出入りは少なかったようだ。
他に門が何か所かあるらしく、別方面で出入りが激しく行きかっていた。
小さな町だと思っていたが、大きな街であったと思い知らされる。
太陽の位置からしてこちらは東門側から入ったと考えて良いだろう。
東門側からの行き来はかなり少なく、南側辺りの門から来る人はやけに多かった。
どうやらこの先には川があり大きな橋があるみたいだ。
昨日、立ち寄った川を渡るのだろうな、そうなるとあの時見えた街に行けるのだろうか?
南側の門はかなり厳重な警備をしている。武装した衛兵がみられる。先ほど通った門と人の出入りの雲泥の差がある。
この街はどうやら川を渡るための、中継地点と考えて良いだろう。
橋を渡って南の方に向かえば、川のむこう沿いにあった大きな街らしきところへ行けるみたいだ。検問が厳しそうだな。
大きな街だ、ぜひ立ち寄って見たい気がする。おっとそれより街の探索が先か、いろいろ観察をしてみよう。
街中の人を見ると人間ではない種族が多く存在する。人間もいるのだがそれ以上の割合でみたことのない種族がいるのだ。
ゲームで見る、獣人、エルフ、ドワーフ、小人、リザードマン?こんなに多種多様な種族がいるとは、夢のような感じがしてならない。
さすがは異世界だ。異種族が居るとは感激ものだ。
この世界はゲームで言われる定番な中世ファンタジーの世界なのか。夢が膨らみ世界が広がって見えるような気がする。
それよりも行きかう人々が俺の事を見て、振り返るのだがどうしてだろうか。あきらかに避けているのだ。俺を見て店端まで下がって歩く人もいる。
やはりこの姿は目立つのだろうか?
靴も履いてなく変わった洋服を着ているので不審者と思われてしまっているのか、でも門では捕まらなかったしあやしくはないと思うのだけど。
とりあえず気にしないで露店の方を観察してみよう。まずはお金の価値を把握したい。
どうやら使っている通貨はおっさんが持っていた硬貨と同じようだ。あとは種類の違いでどう使われるかを確認したいな。
店先には黒板のようなプレートが立てかけてあり、商品名と値段がおそらく書いてあるのだろう。当然ながら見ても字は読めない。
アラブ系の文字に似ているので余計に難しくわからなそうだ。せめて数字がわかればいいのだけど、それだけでも覚えたいのだが。
そうだ、それよりまずは靴だ。靴を買いたい。靴屋を探さなくてはいけないな。
それに今晩泊まる宿屋を探さなければいけないか。
店舗などをいろいろ見まわりたいのだが、のんきにみてまわると日が暮れてしまう。
でも見たことがない物があったり、他の種族の人たちが気になって目がいき、時間をとってしまうな。
おぉ、エルフがいる。耳がとんがっているぞ。エルフって奇麗な人ばかりなんだな。
女性が美しいのがわかるがそれよりも、男性のエルフがより煌びやかな感じがして美しく見える。
男性趣味ではないけど、いい寄られたら落ちてしまっても良いくらい奇麗なのだ。
童話のようなファンタジー世界の服装、装飾品をつけ着飾って、とても美しい容姿をしている。
獣人達は男性は体格の良い、怖そうなやつらばかりなのだが、女性の方はとても可愛らしい容姿をしている。
耳が縦についている。時たまピクピク動くので可愛らしい姿が見える。狐の獣人かな。
そんな中には首輪をはめられた汚らしい姿をしている者も見かけられる。これっていわゆる奴隷ってやつだよな。
人間に首輪をはめて働かせている獣人がいるのだ。
それに獣人の女性のあとに荷物を持った痩せこけたぼろぼろの服を着た人間の子供も見かける。
人間が獣人を奴隷にしているゲームとかあるがここでは逆なのか。
違うか、他の場所で人間が獣人を首輪をつけて従えさせている者もいる。
町の中の人はそれが当たり前のようにしているな。
ここでは種族関係なく奴隷にすると言う概念があるのか、恐ろしいところへ来てしまったようだ。
こういう光景を見てしまうとがっかりしてしまうな、どうやらこの異世界には奴隷制度があるみたいだ。
この世界の仕組みだから仕方ない事なのか?
俺もそのような立場にならないように気をつけなくてはいけないな、慎重に行動してみよう。
商店街を観察して見る。俺が見ていると店員などがあからさまにいやな顔している時がある。この姿だと不審者に見えるのだろうか。
・・・
この町でお金は金貨、銀貨、銅貨が流通しているらしい。
紙幣とかのお金は使われていないみたいだね。
おっさんが持っていた袋の中に、金貨が127枚奇麗な袋にしまってあった。銀貨は158枚と銅貨は582枚あった。
私の見立てではかなりの金額を持っていると思うけどどうなんだろう?
金貨は奇麗な袋に入っており、それに銅貨が一番多かった。
やはりこれは金貨、銀貨、銅貨の順に価値が上がっているのだろうな。
でも、気になることがある。奇麗なお金がないんだよ。どれも汚れていていびつで曲がっている。
ひどいものは半分に折れ曲がっているのだ。これで使用できるのかと思ってしまう。
買い物客を見ていたらほぼ銅貨で支払をおこなっている。
一般街で一番多く使われているならば、やはり銅貨が一番低い価値なんだろう。
それで思ってしまったことがあった。なぜか銅貨の枚数がかなり多くもっていた。
まさかと思うが、おっさんが殺した商人が両替用に持っていたお金ではないかと思ってしまったのだ。あり得るのかもしれない。
今は整理してわけて入れてあるが、ヒモの付いた子袋があったのでそれをここでの買い物専用に使おうと思っている。
金貨2枚、銀貨8枚、銅貨82枚の端数を入れておいたのだ。
その他に金貨を5枚ほどいつも使っている財布の中に入れている。あとは全部収納カバンの中だ。
手元にあるお金だけで靴と食糧、それと宿代に使いたいと思うが足りるだろうか?
会話ができないのが問題だから、まったく話さないで顔の表情でうまく対応しようと考えている。
それとここではジェスチャーはなるべくやめておこうと思っている。
おっさんが腹の前に両手を広げた意味もだいたいしかわかっていない。たぶん敵対行為をしないと言う合図だったんだろうと思われる。
あくまで予想だったので正確にわかっていないのが危険だ。
下手な事をすると大問題だろう。異世界だ、文化の違いは相当ありそうだ。外国でもやってはいけないジェスチャーはあるのだからな。
間違ったジェスチャーで反感をかって命さえ奪われるかも知れない。
・・・
露店で見たオレンジのような果物を買っていた人が2つで銅貨1枚出していた。俺も同じ用に買ってみよう。
露店の前に立ちオレンジを2つほど取ってみる。それと同時に銅貨を1枚だしてみた。
若い店員は受け取る。
「まいど」
何か言っていたみたいだがわからない。
オレンジが買えて、取引は成立したみたいなので良いだろう。どうやら買い物ができたらしいな。
他の客の動向を見ていれば何とかぼったくりをされずに買い物はできそうだ。そうなると一番価値が低いと思われる銅貨が大量に欲しい。
持っている銅貨はかなりあるけど、多めに両替してあってもいいだろう。両替所はあるかな、でも今は言葉が話せないから難しいか。
海外でも公共機関の両替所で金額を誤魔化されることはざらにあると聞いている。職員がポッケナイナイをしているみたいだね。
この異世界ではよけいに誤魔化される可能性があるかも知れない。
考えても仕方ないか、とりあえず今は一とうりまわり、お金の価値観を見極めるとしよう。
一とおりまわり、食糧を購入して行く。
肉と魚だけは遠慮しておいた。大きい虫がたかっていたのだ。
蠅なんか小さく見える、大きな虫が近くに飛んでいる魚店もあった。あんな店では買えんだろう。
俺に食べられそうな食糧は果物や木の実かな。そちらの方が安心で良いだろう。
もともと100年前の日本では肉類は食べている習慣は珍しいからな。
地方では肉を食う事を禁止しているところもあったみたいだから。
熊や猪を捕まえて食べている地域が少しあったくらいだろう。それでも規制があって、何かの言い訳して食べていたとかあったようだ。
西洋文化が入ってきたことから肉類を食べ始められたと言う話を聞いた。それだったら食べなくても問題はなかろう。ベジタリアンもいるのだ大丈夫なはずだ。
食糧は穀物と果物関係で何とか生きていけると考えている。
少しだが購入できたな、ほぼ果物だけど、でも値段が極端に違うところがある。物価の価値観がいまいちつかめない。
これで金色の林檎を食わなくてもしばらくは大丈夫だろう。
金色の林檎は高級そうなので、食べるのは最終手段にしておこうと思っている。
成形されたパンに似た物とかも売っていたが、見た目からして硬そうで黒いのでやめておいた。昨日の一件で食べてみる勇気などない。
物価についてはわからないが、今のところ銅貨は1枚で200円の価値があると考えている。
そういえば異世界ってお金の価値の変動が激しいのかな?
ネットで見たロシアでも通貨価値がかなり変わって食べ物の値段とか1年で変わるから貯金とか出来ないと、とあるユーチューバーが言っていた動画があがっていたな。
日本くらい物価が安定して変わらない国の方が珍しいと言っていた。
それに1円単位でお金の価値を定めている国など聞いた事がないとね。
地球でもそんな地域があるのだからこの異世界ではお金の価値の変動が大きくあるかも知れない。
食糧はある程度手に入ったので雑貨屋を見てまわったけど、靴屋らしい店が見当たらなかった。もしかして服屋にあるのかな?
そちらの方にはまだ入っていないのだ。
この汚れた足まわりで、店舗に入るのは躊躇してしまったんだ。
そうこうしていたら夕暮れになってしまった。
失敗した、まだ宿屋を探していない。どうするの、まさか野宿するのか? でもこの町はやばそうな気がする。
ごろつきらしい連中も多いので、今から下手に街の外へ出ていったら後をつけられ襲われそうだ。いや、街中でも襲われそうだ。
もしかして街中に居た方が人が多いので危険ではないのか?
今からでも宿を探すしかないか、繁華街奥に夜の街があるらしいのでそこで過ごすか迷ってしまう。
お金はあるから夜の街に行っても良いだろう。しかし靴を履いておらず皮タオルを足に巻いているその時点で不審者と思われないか、衛兵に通報されたりして。
まだ明るいし宿屋を探してみよう。
一通り、探してみたら宿屋は意外におおかった。
川を渡る中継地点として宿場町になっていると思われる。
しかし、どの店もあやしさ満点なのだ。
あやしいと言うか種族ごとに泊まれる宿屋が別れている。
人間専門の宿屋か種族関係なく泊まれる宿屋を探さないといけないみたいだ。
そうなると話せないときついな。
宿場街の中で一番高そうな宿屋があった。ここだったらもしかして種族関係なく泊まれるんじゃないかな。
お金はおっさんがかなり所持していたから宿代は払えると思う。安全を確保するため多少大枚をはたいても良いだろう。
身なりは変だけど、この異世界では良い服を着ていると思う。
金貨を出して泊まれるか一か八かで入ってみるか。
しかし俺は靴を履いていない。足は泥だらけだ。入り口で止められたらあきらめて移動しよう。
勇気を出して店の中に入ってみた。店の入り前に衛兵がいたけど特に止められることはなかった。
第一関門はクリアか。
入ってすぐにカウンターがあった。
カウンターに座っていた受付嬢がすぐさまかけつけてきた。
「お貴族様ですね、当宿屋をご利用ですか。
失礼ですがそのお身なりはどうしたのですか?」
俺に何か言っているのだがまったく言葉がわからない。
とりあえず財布から金貨1枚取り出して、従業員らしき女性に渡す。
「一晩お世話になりたい」
と日本語で言った。
そうしたら金貨を受け取り、慌てて店の奥に行ってしまった。
しばらくしてから、横長にひげを生やした中年の紳士が、従業員のメイドらしい人を数人引き連れて俺の方に近づいてくる。
もしかして支配人かな?
「お貴族様、当店にお寄りくださいまして誠に有難う御座います。
お身なりがお崩れしていますね。今すぐ私どもで対応させていただきたいと思います。
こちらへどうぞ」
何を言っているのか当然わからない。
連れてきた従業員のメイドさん達が、水の入ったおけを持ってきている。
足に巻いていた布を取ろうとしていたので、洗ってくれるのかなと思い対応を任せる。
足を奇麗にふいてくれた。どうやら奥に案内してくれるようでそちらへついて行く。
さすが高級宿屋だ、サービスがよいな、私の意図をわかってくれたみたいだ。
言葉がわからなくてもお金を渡したら対応してくれた。お金の力って偉大だと思ってしまった。
ところで金貨1枚、どれくらいの価値があるのだろう?