第52話 騎士団長の憂鬱
「ふぅ。
・・・
やっと帰ってくれたか」
それほどレイズさんの話は面倒だったのである。
他の話がしたかったが、まさかライバル店のホテルの話に食いつくとは思いもよらなかった。
だが奴隷の話の件も聞きたくなかったし、話が逸らせてよかったのかも知れない。
ルイージさんは、奴隷事件の事を俺に知ってもらいたかったみたいだけども、俺に知らせてもどうにも出来ないのに・・・
一応、伯爵の爵位は持ってるけど、そんなたいそうな事件を解決できるほど、権力は持っていないだろう。
ただ一般人にちょっとだけ、威張り散らせるくらいしか思っていないし。
これでもすごい権力だと思っているよ。
有るモノは使った方が良いと言うけど、権力ってどのように使ったら良いのだろうか?
今一、分から無いな。
どうしても自分の欲望を満たすために使ってしまいそうだ。
他人から恨まれる事だけはしないでおきたいな。
今この町の現状は最悪の事態に陥っていると言う事だな。
なんでこんな厄介なことになっているのだよ、意味が分からないよ。
この世界では何処にも逃げ出すところが無いのが問題なんだよな。
ふぅ、と大きく溜め息を言った言葉が、三人のエルフの娘達にも聞こえてしまったな。
先ほどの奴隷の話の件で嫌な事を聞かせてしまった。
自分達も奴隷に落ちた身だ、聞きたくはない話だよな。
不安にさせてしまったのかも知れない。
「ペシ、ペシ」
顔を二回ほど叩いた。
此処は、一端忘れて頭を切り替えることにしよう。
とりあえず魔法の練習を再開しようとするかな。
カラゲーで時間を見たらすでに十五時を回っていた。
二時間ほどだが、時間を無駄にしてしまった感じがする。
今は少しでも強くなる時間が欲しい。
これほど時間を貴重に感じた事はないな。
多少、外の情報が聞けたので良かったのだろうが、それが本当に真実で合ったならば良いんだけど。
貴族の話だと大袈裟に盛っている事が有るのだろう。
半分あてにはならないな。
しかし、なんだなぁ。
俺ってこんなに疑ぐり深かったかな。
それに頭に血が早く登りすぎる。
こんなに短気だとは自分でも思っていなかったぞ。
環境のせいか?
普段どうりの行動が出来ないんだよ。
いきなりターナさんに告白してしまうし、欲望にも忠実になって行動してしまうとか、この世界の現状を肌に感じて潜在的に自暴自棄になっているのか。
その言動が普段と違っていて非常に不安に感じる。
不安を少しでも解消する為に、今まで持っていなかった力を付けなくてはいけないな。
ゲームじゃあるまいが、魔法のような異能の力を求めるとは不思議な話だよ。
あぁ、キースとの決闘の前に戻れないかな。
あの時の交渉で本当はうまく話せていたのだろう。
分岐点があったはず、決闘を回避できたかも知れない。
まさかキースが公爵家の連なった奴だと思わなかった。
チート能力があったので調子にのってしまったんだよ。
公爵家と対立あるのかも知れないと今になって分かるとはな。
それもこの町いろいろ訳ありで、公爵家が吸血鬼一族とは派閥の争いをしているとは、よくもその中に巻き込まれたもんだ。
ある意味、そんな中で生きていられるから対した者かな、俺って。
そうだこのように前向きに考えよう。
公爵家から接触も無いから、俺の事など眼中無いので無視しているのだろうな。
でもなんでこの町に、公爵家の手の者が多くいるって話なのに、俺に接触してこないのだろう。
おかしいよな。
何か俺に対して企んでいることがあるのかな?
・・・
いかん、前向きに捉え様と思ったのに、すぐにマイナス方向へ向かう、それじゃ駄目じゃないか。
うーん、マイナスに考えても仕方ないか。
今は練習だ。
魔法の練習だ。
ちょっとでもこの世界で使える異能の力、魔法を覚えよう。
それが俺にとって多少でも強くなる事だから。
「ターナさん。
魔法の練習を付き合ってくれないかな。
出来ればもう一度最初から、手取り足取り教えて貰いたいんだけど良いかな」
変な笑みを浮かべて俺は言ってしまった。
「分かりました」
ターナさんは素直に応じて、顔を赤らめ俺に近づいてくる。
先ほどの告白を気にしているようだな。
そうだ此処は魔法を習う過程でスキンシップを謀り中を深めよう。
俺は魔法を教えて貰う過程で、わざと手を取ったり身体を寄せたりして、スキンシップを謀ろうとする。
告白して婚約状態と言って良いのだから、これくらいは別に問題は無いはずだ。
身体を寄せ合えば、仲良く慣れるからね。
たぶんどの世界でも同じだろう。
しかし、後ろでサレンさん達が腕組みをして怖い顔で異様な殺気を出して見ているようだけど、気にしないでおこう。
婚約したのだから別にこれくらいは良いだろうな。
そうだこれは良い事なんだよ。
中を深める為には必要な行為なんだよ。
後ろに異様な殺気を感じながら魔法の練習を始めるとする。
敵に相対したら、こんな雰囲気になるのだから良い練習になるだろうな。
本当に背筋が凍ったように冷たく感じるのだけども、そこは練習だ耐える事にする。
しかし明日の朝、俺って生きて起きられるかな。
ちょっとだけ疑問がよぎる。
まさか目が覚めない事は無いよね。
あっ、大丈夫だと思う。
明日の朝はサレンさん達は筋肉痛で動けないでいるだろう。
使っていない筋肉を使用した事によって痛みが必ず出るはずだ。
あれくらいのトレーニングでへばっていたし、体力が無いのが分かっている。
まぁ、これは今まで奴隷として生活していたから体力がなく、気の毒に思うが・・・
起きるのは遅い方だし、食事の前には起きるんだけど、たぶん明日は絶対に筋肉痛で起きられないだろうと予想ができる。
でも夜のうち殺されていたらどうしようも無いんだけどね。
しかし本当に異様な感じがするほど、殺気を出しているよ。
後ろを向くのが怖いな。
ただ中を深めているだけなのに、怒らないで欲しいよ。
・・・
(ホテル シャンシャイン付近の酒場)
「ルンブレイブ隊長、もう昼を過ぎているのに、こんな時間から酒を飲んでいるとはどういうことですか」
「なんだくクリス曹長かどうした」
「なんだではないですよ。
アンドウの見張りの件どうしたと言うのですか。
それに私は曹長の立場ですが副団長も兼ねております。
曹長って言うのは辞めて下さい」
「別に良いでは無いか、どうせ名ばかりの副団長と言う役職だ。
問題はなかろう。
それに曹長と言う立場もかなり高いと俺は思えるがな。
いきなり入った新人が付く役職ではないぞ。
上の命令で仕方なく俺はお前を入れているんだ。
そこんとこ分かって欲しいのだがな・・・」
「そんなことは・・・」
「俺は仕事をしている。
この酒場でアンドウの動向を見張っているでは無いか。
窓越しではまったく確認できないがな」
「な 何と言う職務怠慢、上層部に報告しますよ」
「上に告げ口か、別に報告しても良いよ。
俺はすでにこの酒場で見張っていると告げているのでまったくもって問題が無いがな」
「・・・
突入、突入しましょう。
これ以上犠牲者を出すわけには行けません」
「そんな事が出来るわけが無いだろうが、馬鹿かお前は」
「しかし、しかしですよ。
すでに我々騎士団員、関係者を含めて十三人ほど殺されているのですよ。
うちの八番隊団員だけでも四人ほど殺されています。
こんな事を見過ごせると思いですか。
私は黙っていられません」
「・・・
気持ちは分かるが、今はまだ様子見だ。
偵察を継続しよう。
準備の整えが終わっていない。
人員の補充と魔法アイテムの取り寄せをおこなっている。
今、突入するのは危険すぎる。
せめて奴が張っている結界を解くアイテムが必要だ。
それもSSSクラスの貴重なアイテムがな。
それにあのアンドウと言う男が、何かをしたと言う事は未だに確証は掴めていない。
防御結界を張っているだけの話だ。
それに相手は伯爵位を持つ貴族だ。
迂闊に手も出せない」
「そ、それは、そうですが、しかし、しかしですよ。
ホテルに近づいただけで仲間が殺されるっておかしな話ですよ。
我々はなにもしていないじゃないですか」
「本当にそうか。
あのアンドウと言う東から来た蛮族の貴族に殺すほどの敵意を持って近づいているじゃないか。
それに奴が直接俺達を攻撃したわけではない。
これではこちらから動くことなどできるはずが無かろう」
「証拠ですか? 理由ですか?
そんなの無くても、どうしたと言うのですか。
我々は先制攻撃を受けているのですよ。
攻撃を受けている我々に理由なんか関係があるのですか?
今すぐ突入すべきです」
「馬鹿かお前は、今まで見張ってきて何を見ていやがる。
奴の張ってる結界は『真実の瞬き』のアイテムを使用し、魔法効果範囲を見ただろうが。
見事に数日前まで結界内に俺達は入っていたのだがな。
その結界内に入った騎士団員が死んでいる。
幸いも此処にる者達は殺されなかった。
良く生きていたと思うよ。
しかしそれで分かった事がある。
先ほど俺が言ったようにあいつを殺すほどの敵意を持った者が死んでいるとな。
俺達は死んでいない。
どういうことか分からないのか」
「それがどうしたって言うのですか。
私はアンドウを殺すつもりでいますが、結界内に入っていても死んでいませんよ」
「・・・
お前はほんとに駄目な奴だな。
本当に分からんとはな。
あの結界は特殊な魔法防御結界だ。
結界内に踏み込んだものが一定の条件によって、発動する仕組みになっている。
それも即死攻撃を含む呪いの魔法結界、魔族が使う結界と同等と言っても良いだろう。
魔族が張った結界に踏み入れたら即死、腐敗、破壊、消滅、闇に取り込まれるなどの人間を死を操る効果があらわれる。
その結界と同じものだぞ。
人間でも使える者はたまにいるだろう。
まあ、すべて闇落ちしている奴らだがな。
今まで奴の動向を探っていて、そんな事もお前は分からんのか。
俺達の任務は偵察だぞ。
ただ見張っているだけではないのだ。
そこんところを分かっているのかお前は」
「・・・
分かっています」
「どうだかな、怪しいもんだぜ。
騎士学校でも、魔法をひととうり習ったはずだ。
それでもこの現状を理解できないのか、馬鹿野郎が」
「私が馬鹿ですと・・・」
「そうだお前は馬鹿だ。
これだから貴族上がりのボンボンの騎士は困るんだよ。
お前は親父の地位を利用した、ただのお飾りの騎士だろうが。
それで副団長とは片腹痛いぜ」
「将官を愚弄する気ですか。
騎士学校では昨年首席で卒業していますよ。
いくら隊長と言えども今の侮辱は許されない言動です」
「じゃあ、お前に副隊長としての指令を出すとしよう。
ホテル・サンシャイン内に入りアンドウ伯爵と交渉できるか行って確かめて来い。
お前は突入したいんだろう。
一人で突入をしても良いと俺は許可を出すぜ」
「・・・」
「相手は仮にも爵位持ちだ。
お前の親父の爵位よりも上位の奴だぞ。
もっともお前は持っていないがな。
貴族同士だ、交渉くらいはできるだろう。
分かっていると思うが、アンドウの気分を害すれば即死結界魔法など関係なく、その場で殺されるのだが覚悟はしとおけよ」
「・・・
何故、私がそのような指令を聞かなければいけないのですか。
私は仮にも上位貴族ですよ。
いくら隊長と言えども平民上がりです。
貴族ではないあなたのそんな理不尽な命令は聞けませんね」
「だったら、黙っていろ、屁理屈ばかり言いやがって、このクソガキが」
「なんですと・・・」
「俺らはあくまで偵察と監視と言う目的で来ているのだ。
それ以上の命令は受けていない。
他の奴らはどうかは知らないが俺はそう命令を受けている。
勝手に動いて死んだ奴等の事までは面倒を見切れん」
「しかし、彼らは公爵家を思って、国を思って動いたのですよ。
違いますか」
「違うな。
彼らは命令違反を犯した。
アレキサンダー公爵閣下はあくまで偵察と監視だと俺は直接言われている。
接触は最低限で、交渉までしろと言われていない。
あくまで監視しろと言うだけだ」
「しかし、しかしですよ。
仲間が死んでいるんだ。
この事を公爵様にどう説明すれば良いのですか」
「仲間、馬鹿じゃねえのか。
跳ねっかえりの団員が、命令無視して自ら即死魔法の結界内に入って死んだだけだろうが、何を言ってやがる。
それも死んだ奴等は特殊工作部隊か暗殺部に居た奴等ばかりじゃねえか。
お前も何となくだが分かるだろう。
騎士団員でも一癖ある者ばかりだったからな。
それもお前と同じように急遽俺の部隊に配備された者達だ。
奴らの目的は別に合ったかも知れないが、俺とお前には監視だとしか言われていないよな。
このギレンの町には大勢他の騎士団も混ざり込ませているが、役割が違っている。
本命はアンドウでは無い。
俺達は俺達の任務を遂行するまでだ」
「・・・」
「それに、死んだあいつ等は俺よりも強いぜ。
そんな連中が迂闊にも殺されているんだ。
それも即死無効化アイテムや魔法反射系、結界解除、結界緩和系のアイテムを所持している特別な奴らがだ。
死んだ騎士の持ち物を確認してそっちの方が驚いたよ。
お前だって持っていないだろう。
騎士団でもそんな特殊なアイテムは支給されていないぞ。
あいつらは確実に暗部と接点がある奴等だ。
本命はアンドウでは無いが、暇つぶしで動いたのだろう。
そいつ等が迂闊にも死んでいるのだ。
我々ではどうにもならん」
「ウゥ、そうなのですか。
それは知りんませんでした」
「幸いにも、今まで観察してきて分かった事が有る。
先ほど言った事だが、あくまで推測にずぎないが、結界内で対象に一定の魔法力を含んだ殺意をむけた者に対して発動する特殊即死魔法と推測される。
実際にこの魔法は王族などでアイテムを使用して使っている魔法があるんだよ。
敵国との会談や交渉の場で使っている結界魔法だ。
お前は知らないのか?」
「?
知りませんでした」
「そうか、そこまで今の騎士団の学校では教えないのか。
まあ、裏がある会談などあるからな。
知っておいた方が良いぞ、騎士団に入隊したのだからな。
特に人間以上の能力が長けている種族がいるだろう。
そいつらと交渉する時には命を張らねばなるまい。
側近と守護する騎士団には特殊アイテムを支給される事が有る。
防御結界内に入れる特殊アイテムだ。
重要な会談の時には身体に直接埋め込まれることもある。
敵が奪って防御結界に入ってくる可能性もあるからな。
奪われた場合には、結界内に入れば爆発する魔法をかけてあるのもあるんだよ。
王族とか上位貴族は重要人物だ。
それくらいしなくてはいけない会談もあるのだよ。
それ以外にもいろいろ方法がある。
悪魔を呼び寄せ護衛して貰うと言う事もな」
「な なんですって」
「驚く必要は無いだろう。
契約している家柄も存在するのだからな。
対価は大きいが、人柱立てて悪魔を呼び寄せて置くのが上等の手段じゃないか。
不自然に奇妙な石造とか部屋に置いてある時を見かけるだろう。
あれは悪魔だと思っても良いぞ、いわゆるガーゴイルを配置させてあるってやつだ」
「!
見た事はありますが、そんな話は聞いたことはありませんでした」
「おまえはほんとにボンボンなんだな。
最近の騎士学校はそんなことも教えないのかよ。
まったく・・・
平和ボケして実戦仕様な事は教えないんだな。
・・・
ようするに今奴が張っている結界に対して、対象に殺意を向けなければ入れるのだよ」
「そ そうなのですね」
「そうでなければすでに此処にいる者が全員死んでいるぞ。
それにホテル内の客、従業員が普通に出入りしているじゃないか。
お前だって昨日は範囲内に入っていただろうが、条件をクリアしていれば問題なく入れる仕組みの魔法なんだよ」
「・・・」
「ブー垂れて文句ばかり言っているんじゃねえ。
それにおかしいじゃねえか。
お前が結界内に入って死なないのはアンドウに対して殺意が無いからじゃないのか。
怒っているだけでちっともそんな雰囲気の感じがしない。
口先だけのほら吹きが何をほざいてやがる。
もっと真剣に公爵家に忠誠を誓っていれば死んでいるだろうな」
「・・・そ それは」
「これでお前がこの任務をやる気がない事が分かってしまったな。
アンドウを殺す気で本気でむかっているのだったらお前はすでに死んでいるぞ。
おれは最初からそんなつもりは無いがな」
「・・・」
「今は様子を見る。
公爵家からの連絡待ちだ。
しばらく待て」
「了解いたしました」
「最初から素直にそう言えば良いんだよ。
・・・
!
いかん、退避しろ、結界の威力と範囲が広がったぞ。
まさか、アンドウに気づかれたのか。
一端、退却、退却だ。
親父、酒代は此処へ置いていくぞ。
今聞いた話は分かっていると思うが内密にな。
話したらどうなるか分かっているな。
全員退避しろ」
騎士団の見張りの一団は酒場を出てホテル、シャンシャインから少しづつ遠ざかって行った。
まったく、なんて化け物だよ、あのアンドウって言う野郎は・・・
キースがいとも簡単に殺されているんだからな、頷けるか。
それに冒険者組合の幹部連中も殺されていたんだったな。
奴等は昔名うての冒険者だったんだぜ。
俺は知っている。
交流を持っていたおやじがいたからな。
ちぃ、せっかく騎士団の八番隊長迄這い上がって来たのに、厄介な任務おおせつかっちまったぜ。
もっともシュタイン家とも揉めているし、最近はどうなっているんだよ。
公爵家の奴等、皆が何故か殺気立っていやがる。
まさかあの双剣のギルティアとルイーン魔法兵長、二人が殺されるとは思っても見なかったしな。
二個騎士団が壊滅とは驚きよりも、笑いが込み上げてくるぜ。
ちきしょうが、俺には運が向いていないな。




