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第50話 アン・ドウと言う男?

 (ヴァレン・シュタイン城)


 「スカーザッハよ。

 ギレンの町に行く手筈はどうなっている」

 「主様、準備は着々と進んでおります。

 十二日後にアドリフの町を治めるガスタリア子爵の本妻の子の誕生日パーティーが催しされるとか。

 それを口実にギレンの町に訪れようと考えておりますが、どうでしょうか。 

 途中滞在すると言う事で、十日後に高級ホテルの予約を入れる手筈になっております」

 「十日だと!

 遅すぎるでは無いか。

 私は今からでも会いに行っても良いと思っているぞ」

 「お待ち下さい。

 私共が何の口実も無く、ギレンの町へ赴くとあれば何かと厄介事が参り込みます。

 先日の件でアレキサンダー家の動きが見られますから。

 私共で雇っている間者の話では、ギレンの町に公爵家の手の者が多数入っている模様です。

 と言いますか、公爵家の者達は馬鹿ですかな。

 直属の騎士などは、冒険者を装っているようですがあきらかに誰から見ても騎士とわかるいでたちです。

 他にも行商人や旅人を装って入り込んでいる模様ですが、私共も全員は把握しておりません。

 何かを探ってる様子だと聞いております。

 我々の事かそれともアン・ドウの事かどちらとも公爵家にとっては思うところはありますでしょう。

 町民達は先日の魔獣襲撃の件で気にしていないようですが、公爵家の騎士達が入り込んでいるので雰囲気はいつもと違うと言うことです。

 もしかしたら、わざと分かるように徘徊させている可能性もあります。

 公爵家の手の者が徘徊しているのでは、我々も警戒をした方が宜しいと考えます」

 「なるほどな。

 確かに、その線が濃厚かも知れないな。

 奴らの力など大した事は無いが、お前の言い分も一理ある。

 今のところは、表立っては公爵家と対立はしていないが、我々と争っているのは事実だからな。

 一般的には知られていないのだろう。

 目立つ行為は、避けたほうが良いかも知れない」

 「おっしゃるとおりです。

 それに公爵領で軍が再編成し、新たに訓練とかで不穏な動きを見せております。

 我々の領地近くに訓練を用いているのが気になりますね。

 定番な訓練を用いた軍の再編成ですが、何かあれば我々に攻め込むと言う・・・

 公爵家がそこまでするとは到底思いませんが、それでも用心した事は無いでしょう。

 進軍したとしても我々の鉄壁の防御壁は破れないでしょうな。

 城の守りは万全を期していますから。

 此処は正式なパーティに参加するオファーを受けると言う形でギレンの町に赴きたいのです。

 中継地点であるギレンの町での滞在をするには、なんの問題は無いかと、すでにガスタリア子爵には伝えております。

 ギレンの町まで使者を寄こすように言っております。

 もっとも刺客は来るでしょうが。

 それでもこの方が良いと判断しております。

 どうか検討して戴ける事を、お願い申し上げます」

 「そうだな。

 此処は面倒ごとを避ける為に、カモフラージュとして出向くとしよう。

 それにもう決まっている事なのだろうからな。

 いつもどおりお前にすべて任せると言ったのだ、言うとうりにしようと思う」

 「お聞き入れ下さって、有難う御座います」

 「しかし十日後とは、それまでアン・ドウは生きているのか疑問だな」

 「それについては心配は御座いません。

 以前、おっしゃられていたアン・ドウが魔物に町を襲わせたような話もまったく公爵家からは出ていないようですね。

 あの件で、アン・ドウに疑いを向けると言う事は、私達の思い違いだったのでしょう。

 公爵家はアン・ドウに対して敵対はしていないと思われます。

 さすがに東の国の使者に対しては揉める事は避けると判断をしたのでしょうか?

 しかしながら、公爵家の関係する間者達に被害が及んでいるのを確認しました。

 私共もギレンの町に侵入させた間者が、すでに三人ほど亡くなられておりますが、すべてアン・ドウに関する事柄で死んでいるようです。

 騒ぎにはなっていませんが公爵家の手の者と思われる間者が、確認されているだけでもすでに十人は亡くなっております」

 「後先考えず、動く馬鹿は何処にもいるからな」

 「そうですね。

 主の意を叛いた腕自慢の跳ねっかいりや、キースを慕っていた者達の暴挙などありそうな話です。

 特に強い相手がいると言う話になれば、売名行為の為に動くことはあるでしょう」

 「耳が痛い話だな。

 ウチにも先日、先走りが居たのだからな」

 「申し訳御座いません。

 私の不徳の致すところです」

 「別に良いよ。

 いつもの事だからね。

 それより彼は無事なんだよね」

 「左様で御座います。

 アン・ドウがどのような守備体制をおこなっているのか不透明ですが、近づく事さえ困難極まり無いと私は認識しています」

 「ほほう。

 アン・ドウの守りは鉄壁と言って良いんだな。

 それは安心した。

 やはり彼の持っている能力が関係していると言う事か。

 公爵家もそれでは迂闊に動けんだろう」

 「おっしゃるとうりです。

 今は限られた者達が、私共と同じようにホテルに潜り込ませているだけでしょうな。

 ホテルの周りにも配置されて居たようですが、今は誰も居なくなりました。

 殺されたか定かではないのですが、遠目で監視はしていると思われます。

 犠牲者が出ていますので撤退を余儀なくされたのでしょう」

 「だろうな」

 「それと新たな情報が入っております。

 アン・ドウなる者の人物像が見えてきたようですのでお知らせしたいと思います。

 部下の報告書で分かった事ですが、だいぶ曖昧な点もありますが、お聞きになりますでしょうか」

 「それは私も聞きたかった話だ。

 教えてくれないか」

 「分かりました。

 それでは、清悦ながら報告書で知り得た事を読み上げて見たいと思います。

 報告書によれば、アン・ドウは今のところホテル、サンシャインに引きこもっているようでして外には一度だけ出たとありました。

 一度ですがニュートリビアデパートですか。

 そちらに十日前に一度出かけた限りだそうです」

 「ニュートリビアデパートだと、何処だそれは」

 「失礼しました。

 ルイージが経営している貴族御用達の何でも屋で御座います。

 名を変えたようですな。

 確か前はニュートピアで御座いましたか」

 「あそこか、そういえばルイージが経営していたんだったな。

 奴にも私の誘いは出してある。

 返事を貰わんといけなかったな。

 忘れていたよ」

 「そうでしたか。

 そこで私が送った間者が二人ほど殺害されております。

 もっともルイージの監視目的で二人ほど忍ばせた者達ですが、アン・ドウが来店した時にその二人は亡くなっております。

 店側では内々に処理されたようですが、アン・ドウが殺やったことに間違いは無いと私は思っています」

 「なるほど、奴はそこでも殺していたのか。

 かなり慎重な奴だな。

 不穏な奴だと感じれば誰でも関係なく殺しをおこなうと言う事だろう。

 為政者に良くある行為だ。

 政敵になる者は早めに排除するのが当然だからな。

 貴族特有の資質は持っていて当然だろう」

 「私も同感できます。

 部下には現在は見守っているだけで良いと話しております。

 下手に何かをすれば即座に殺されるでしょうから」

 「確かにその方が良いな。

 アン・ドウの機嫌を損ねて我々の敵対する事だけは避けたいからな。

 冒険者ギルドでやったようにその場に居る者を無造作に殺すことだってするのだろう。

 目の前にいる者は全員敵と見なし、抹殺する。

 貴族では当たり前にやる事だな。

 「私共でも同じことをやりますな。

 当然な事だと思えます」

 「確かに、私が先日会った貴族が知らぬ間に亡くなっていると言う事が良くあるからな。

 お前がやってくれたのだろう」

 「申し訳御座いません」

 「別に私は怒っているのではないよ。

 むしろ助かっているのだからね。

 私が機嫌を損ねる前に対処してくれるのだ。

 スカーザッハには感謝しかないよ」

 「お褒めを戴き有難う御座います。

 それでは引き続き部下からあがったアン・ドウの報告書の話をしたいと思います。

 報告書によればアン・ドウがまずホテル・シャンシャインに来てやった事はキースの奴隷であったエルフの娘、三人をホテル内に引き入れたと言う事ですね。

 奴隷がホテル内に入れるなんてありえませんから、少しだけホテル側と揉めたようです。

 愛玩用に使うと話したようで、支配人のレイズが了解したと書かれておりました。

 それからエルフの施してあった奴隷魔法の解除をおこなったようです」

 「なに!

 馬鹿な、エルフを奴隷にしていた奴隷魔法を解いたと言うのか。

 そんな事はよほどの高位魔術師でなければできない事だぞ。

 魔法を使用した本人以外解くのは難しいのでは無いのか。

 一般の奴隷でも奴隷魔法を使っている輩は、アイテムと上位魔術師が数人がかりで出来るか分からないのに、そもそも解除できる前提で奴隷魔法はかけていないからな。

 それができるとは、魔法の腕は相当なモノがありそうだな」

 「それに加えエルフの奴隷達の切られた耳をキースが所持していたエリクサーを使い直したとか報告書に書いて有りました」

 「スカーザッハ、私の聞き間違いかな?

 エリクサーを使って奴隷のエルフの耳を直したと言うのは」

 「間違いではありません。

 エリクサーで奴隷の印として切られた耳を再生したようです。

 それは間違いないようですね」

 「・・・

 アン・ドウと言う輩は頭がおかしいのか。

 奴隷風情に神宝クラスのアイテム、エリクサーを使うとは相当に頭がいかれちまっているな。

 エリクサーの使う用途は他になんでもあろう。

 特に人間だったらな」

 「私も同じ意見です。

 奴隷契約を解いたエルフ達を従者契約で金で雇い従わせているみたいですね。

 衣服、食事も同様に与え、身の世話をやらせているみたいです。

 恩をきせ従わせているのでしょうか?

 プライドの高いエルフにそんな事が出来るのか疑問に思われます」

 「おいおい、それも本当の話か。

 奴隷魔法無しでエルフを従わせているなんておかしいだろう。

 と言うか奴隷魔法を解く意味があるのか。

 エルフの魔法力は巨大だ。

 キースだってクレリアのリングに奴隷魔法を施して、疲弊させて従わせていたのだろう」

 「そのようにしていたと私も以前確認いたしました。

 しかしながら部下からの報告書では書いて有りますので間違いは無いと思いますが・・・

 待遇はそれなりに良く、食事を共にとらせエルフと同じ物を食しているとか。

 ホテル側で用意しているベッドをエルフの女、三人に利用させ、自分はそないつけのソファーで一人で休んでいるとかと書いてありますね」

 「・・・

 それも本当なのか?

 エルフと一緒に部屋で寝ることを危険と思っていないのか。

 寝込みを襲われたらどうするのだ。

 愛玩用に使うとしても、よほど力があって傍に置いているとしか思えないぞ」

 「それですが、どうやら愛玩用には使われていないようです。

 ベットメイク時にシーツの取り換えで、夜にそのような行為はした形跡は一度もないと言う話ですね。

 これはエルフが洗浄魔法を使える事はあると思うのですが、報告書ではそのような行為は一度も無いと言う話です」

 「・・・

 それは本当の事だろうな。

 私としては不味い事になったぞ」

 「どういう事ですか?」

 「アン・ドウは女性に興味が無いと言う可能性が出てきたと言う事だ。

 女を好きなだけあてがうと言う話では引き入れるのは難しいと判断できるしな。

 それに奴隷にエリクサーを惜しげもなく使うのだぞ、そのようだと金にも執着は無いのだろう。

 女も金も駄目か、東の国に戻れば権力もあるのだろう。

 この国で権力をやるのには、あまりにも危険すぎてやれんだろうな。

 いや、すでにこの国でも権力は持っていると言う事か。

 キースから奪った爵位があるのだからな。

 それもよりによって契約の神のお墨付きがあるのだろう。

 これにはどうにもならん。

 それだと土地か、それは不味いだろうな。

 彼のような者が、この地にのさぼるのも危険極まりない。

 これはどうしたものか、私は彼にあてがう物が何もないぞ」

 「確かに、それは困りましたね。

 私共で何か御座いますか知恵をだしてみましょう。

 十日後まで何が提供できるか考えを纏めておきます」

 「それは、助かる。

 考えておいてくれ。

 よほどの物ではない限り提供は出来よう。

 頼むぞ」

 「了解しました。

 ・・・

 また報告書によれば、従業員達が怪しげな危行を見たと噂でありますようですね。

 朝から壁にエルフを這いつくばらせ拷問をしている様子を見たとか。

 それとは逆にエルフの従者に正座させられ、説教のような事を受け罵られている姿を見たとか。

 何か分からぬ独り言を言っているとか。

 それにこの国の事をまったく知らない様子で聞き及んでいたとか。

 先日の件で魔獣が町を襲撃することに驚いていた様子です。

 常軌を逸した危行を他にも見た者もおりますと言う事が書かれておりましたが、貴族の戯れとして皆が見なかったことにしているそうです」

 「・・・

 危行をしているのか、それは東の蛮族の国と文化が違うのだからこちら側から見ればそう見えるのだろう。

 この国の実情は知らないのは使者として来ているのだから当然であろうな。

 調べに来ているのだから。

 気になる引っかかることがある。

 町を魔獣を襲う事に驚いていたのだな」

 「そのようですね」

 「もしかして何かを勘ぐっているのではないのかな。

 東の森の魔獣の事は奴の方が詳しいはずだ。

 ありえない事だと判断しているのかも知れないな」

 「確かに、その可能性はありますな。

 公爵家の事を疑っている可能性もあります。

 身内を一人殺しているのですから、報復を恐れている可能性が有ります」

 「そうだな。

 すでに公爵家とやり合っている可能性もあるのか。

 スカーザッハ、アン・ドウと公爵家は会った者がいるのか?」

 「そのような話は書かれておりません」

 「そうか、町には公爵家の者が入り込んでいるのに接触が無いとはそれもおかしい。

 すでにやり合っていてもおかしく無いと言う事か」

 それを口実に引き込める事が出来ないかな」

 「考慮しておきます」

 「頼むぞ」

 「心得ました。

 ・・・

 続きを話させて戴きます。

 従者には基本的に優しく接しているようですが、飴と鞭の使い方をしているとも思えませんね?

 我々の考えでは理解に苦しむと感じられます」

 「問題はその事か。

 特殊な性癖があると言うことだよな。

 男色でドS趣味が有り、ドM趣味も持っていると言う事なのだろう。

 この国の王より一つ頭が出ているぞ。

 案外ウズベルトとはウマが合うのかも知れないな。

 アン・ドウと言う彼は、あ、駄目か国王は美少年趣味だったな。

 彼はどこまでいけるのだろうか」

 「それは私には分かりませんが、調べさせます。

 男をあてがえれば引き入れる可能性もありますから」

 「確かにそうだな。

 でも私は男をあてがうと言う話を今まで聞いたことがないぞ」

 「同感ですね。

 それと余談ですが、ホテル・サンシャインではアン・ドウが来た時から従業員で六人ほど又出入りできる関係者で五人ほど亡くなられているようです。

 もしかしたらそれ以上にいるかも知れません。

 一人は私が送った間者、それ以外殺された者は恐らくは公爵家の手の者でしょう。

 僅か十日足らずで変死者が十人以上ホテル側で出ているので恐れられているみたいですな。

 それに拍車をかけて冒険者ギルドの一件で知り得た噂で従業員達は殺人鬼が来たと言われていましたが、今では死神と言われて恐れられているようですね」

 「それはそうだろうな。

 即死魔法が使えるのだから。

 それで彼の即死能力について分かった事があるかな。

 すでにホテルにいるだけで十人は殺しているのだろう」

 「それについてはまだ詳細は分かっておりません。

 もう少しお待ち下さい」

 「それはそうだな。

 手の内を明かすことは愚行だからな。

 簡単には調べられないだろう。

 引き続き調べておいてくれ、くれぐれも慎重にな」

 「ご配慮、有難う御座います。

 それと高位魔術師を雇い、ホテル外から調べさせたのですが、アン・ドウがいる部屋から結界のような特殊なものを感じ取られると言っておりました。

 目には見えぬ魔力が感じると、それに何か奇妙な気配が感じるとも・・・」

 「結界に気配だと」

 「はい、見えない何かが、結界内でさ迷っているのではないかと言う話です」

 「ガーディアンを配置している可能性が高いな。

 透明化できる魔獣などを使役していると言う事も考えられるのか。

 そうでなければ安心してなど居られないだろう。

 そういえば、彼は東の国から護衛もなく一人で来たのだったな。

 あの魔獣の巣窟である東の森から一人で来たとは不自然すぎる」

 「私もそう思います」

 「護衛の従者を付けずこの国に来るとはな。

 ・・・

 よほど腕に自信があるのだろう。

 中には要るよな。

 弱い護衛など邪魔だから、攻撃の際に巻き込んで殺してしまうと言う輩がな。

 その類に考えられるな。

 それと東の国で厄介がまれているのかも知れないな。

 使者と言う形で左遷される奴らがいるだろう。

 その類かも知れない」

 「左様で御座いますね」

 「・・・

 これは私の元へ取り入れるのは難儀しそうだ。

 東の蛮族の国から来た者は、かなりの大物か厄介者としか思えん。

 私では手に負えない相手かも知れない。

 それどころか、もしかしたらあの方が動くかも知れないぞ」

 「その可能性は大いにありますね」

 「力ある者に興味を示すからな。

 ただ、あの方の目的に沿うか分からないが接触はいずれ考えられるだろう。

 その前に必ずアン・ドウと会っておかなくてはいけないな。

 彼も恐らくは私と同じ事を受けることになるだろう。

 ・・・

 私の前にも突然現れたのだが、何もできなかった。

 一方的に用件を押し付けられただけだったからな。

 用件をその場で飲まなければ殺されていたのは事実なのでなにも言えないのだが・・・」

 「あの方の目的とはなんでありますでしょうか」

 「それは・・・

 今は答えられない。

 あの方の為に力を整えろとしか私には言えない。

 この国にある最強の武具、特殊アイテムが必要だ。

 あの方が必要になると言われたのだ」

 「了解しました。

 そして失礼しました。

 これ以上は二度とお聞きになりません。

 どうかお許しを」

 「そうだな、そうしてくれ。

 そうでないと私もお前も命は尽きてしまうからな。

 「・・・」

 「此処はお前の言うとうりに、十日後にアン・ドウに会いに行くことにしよう。

 あの方が動く可能性があれば公爵家も迂闊には動けんだろうからな。

 それに剣聖はどうやらあの方と契約しているみたいだが、公爵家は取引していないと言う話は前に聞いた。

 公爵家では無理と分かっているのだろう。

 それに貴族同士の派閥で王家に使える公爵家と違い門閥貴族の頭目だ。

 相容れる事は出来ないだろう。

 ・・・

 そうだ、思いだした。

 ギレンの町にはカーミラがいたのか。

 私が来ても動かないと思うが」

 「・・・」

 「どうしたスカーザッハ、お前は昔からカーミラの話をすると黙る事が多い。

 前に彼女となにかあったのか。

 確かに銀の一族と黒の一族は仲が悪い。

 だが同じ吸血鬼同士だ。

 彼女は何か勘違いをしているのだ。

 その事を前々から話したいと思っていたのだがな」

 「・・・

 実は・・・いえ、なんでも御座いません。

 あの方の監視もあるので黒の魔女は動かないでしょう」

 「そう言う事を聞いているのでは無いのだが・・・

 何か君とあったのか知りたいな、スカーザッハ」

 「・・・

 分かりました。

 そこまで言われるならば隠しとおす事は辞めましょう」

 「何を言われても、お前を責めないと約束しよう」

 「心遣い、有難う御座います。

 では話ます。

 三百年前、あなたが眠りに就いた日より数日に魔獣ヒュドラを倒したのは黒の魔女なのです。

 今まで言えなかった事、誠に申し訳御座いません」

 「・・・

 そうだったか、いや何となく分かっていたよ。

 吸血鬼のみが入れる結界を破るのは同族の吸血鬼か特殊な能力を持っている者のみだ。

 それを魔獣ヒュドラは容易く突破したけどな。

 この国で私が出来る事を知っているのは、剣聖とあの方くらいなもんだろう」

 「今まで言えなかった事、誠に申し訳御座いません」

 「それで彼女はどうやって魔獣ヒュドラを倒したのだ」

 「それは、アークランド様が眠りに就いて数日たった昼過ぎの事です。

 私は魔獣ヒュドラの動向を探る為に城壁で待機していました。

 魔獣ヒュドラが城周りに濃く残るマナを貪るように食べていた時でした。

 その日は日差しが強く雲一つない良い天候でした。

 いきなり城上空に暗雲だ立ちこめたと思ったら、黒の魔女が魔獣ヒュドラを見下ろすように宙にたたずんでいたのです。

 黒のドレス姿に右手には白い日傘をさして左手には緑色の酒瓶を持っていました」

 「・・・」

 「黒の魔女が白い日傘を魔獣ヒュドラに対し向けた時に起こりました。

 魔獣ヒュドラの巨体の下に巨体な円形の影が出来たと思ったら、いきなり魔獣ヒュドラを中心に影に覆われました。

 その影は辺り一帯に広がりを見せ、闇の地帯へと変貌したのです。

 私もその中に入っておりました。

 闇の空間に隔離されたと思いました。

 そして、黒の魔女が日傘をさし直した時に、魔獣ヒュドラの下から十メートルはある強大な黒紫色の腕が何十本も現れたのです。

 黒紫色に透けている四本の長い鋭い爪をした指でした。

 悪魔の手と言ったところでしょうか。

 その無数の手が魔獣ヒュドラを掴むように襲い始めたのです。

 一瞬の間でした、魔獣ヒュドラは引き裂かれ、掴みこまれ影の中に引き込まれたのです。

 魔獣ヒュドラが影に飲まれた後、天候が一変し雲一つない日ざしの強い元の状態に戻りました。

 魔獣ヒュドラがいた場所には血の海が残っただけが分かりました。

 城の城壁に隠れていた私に対して黒の魔女が見たのです。

 そして左手に持っていた緑色の酒瓶を私の近くの壁に放り投げ去って行きました。

 私はあの光景を思い出すだけで震えが止まりません。

 黒の一族があれほどの力を持っていようとは・・・」

 「・・・

 なるほどそうか、そうだったのか。

 魔獣ヒュドラを一瞬に倒したとは、それも彼女だったのか。

 これでは私は目の敵にされても仕方ない事だな」

 「今まで言えず終いでした、申しわけ御座いません」

 「・・・

 お前が謝る事ではないよ。

 その分だと私と彼女の力の差は雲泥の差があるのだな。

 気にすることは当然に思える」

 「主様」

 「しかし、スカーザッハよ。

 彼女は私には手を出せないよ。

 あの方の足元には遠く及ばないからね」

 「それほどなのですか?」

 「最強と謳われる剣聖がどうにもできなかった相手だ。

 勇者を斬り伏せ、邪神をも殺した剣聖がだよ。

 それもあの方は遊び半分で戦ったと言う。

 攻撃も防御もせず無防備に佇んでいたと言う話だ。

 剣聖が一方的に切りつけられていたが、傷一つ負わせられなかったと言う」

 「そんな事が有り得るのですか。

 剣聖は時空をも切る剣技を持っていると聞き及んでいます」

 「有り得るのだよ。

 そうでなければこの世界の最大の厄災と呼ばれてはいないからね。

 世界最大の厄災、通称『イレギュラー』ありとあらゆる魔獣、魔神を取り込んだ化け物なのだから」

「『イレギュラー』ですか?」

「そうだ『イレギュラー』だ。

 しかしあの方に会っても、この名称は絶対使うなよ。

 そして頭の中で考えてもいけない。

 あの方に聞かれれば、その時の気分次第で確実に死ぬ。

 覚えておけよ」

 「・・・

 わきまえております」

 「そうしてくれ。

 この話は終わりにしよう。

 あまりにも危険な話だ。

 誰に聞かれているかも分からない」

 「了解いたしました」

 「スカーザッハ、何としてもアン・ドウを我が陣営に引き入れたい。

 良い妙案を考えてくれよ」

 「心得ました」

 「あの方に就いて行けば、私の夢も遠からず叶える事が出来よう」

 「左様で御座います」

 「準備を宜しく頼む、スカーザッハよ」

 「ハハッ」


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