第49話 告白
女性に年齢を聞くと言うのは、何処の世界でも失礼にあたると言う事か。
この話はもう終わりにしよう。
あまり追及して地雷を踏んでしまうと後が怖いからな。
それよりも良い話が聞けたぞ。
「ムフフ」
ターナさんが俺の嫁として来てくれても良いと言ってくれたのだ。
この世界での年月で、早ければ百歳で成人できるのだろう。
六十六歳と言う話だから、あと三十四年、元の世界で考えると約九年弱か。
十年近く待てば俺の嫁として迎え入れる可能性が有ると言う事が分かったのだ。
これは非常に嬉しい限りだ。
元の世界で十年か、これは長いかな?
いや、ターナさんみたいな器量も良く素直な奇麗な人が俺の元に嫁として来るのを考えれば十年なんて短いのかも知れない。
これは俺にとって千載一隅のチャンスでは無いか。
こんなチャンス、もう二度と無いかも知れんぞ。
それに、この世界で生きる目的が出来きたのではないか。
可愛い嫁を貰って退廃的な生活をする。
俺の夢に叶っているのではないか。
此処はとりあえず今のうちに唾を付けておいても損は無いと思う。
俺は改めてターナさんに告白する。
「ターナさん、さっきの話、考えてくれないかな。
君が成人したら俺の所へ嫁として来てくれることを。
俺は君が成人するまで待つことに決めたよ。
「・・・
分かりました。
私も成人したら改めて返事をしたいと思います」
「ホントに良いの」
「はい、私のような者で良ければ」
「有難う、ターナさん。
絶対に幸せにするよ。
これで俺もこの世界での生きる希望が見いだせたから、嬉しい限りだ。
君が成人したら改めてプロポーズするからね」
「お待ちしています」
ターナさんは頬を赤らめ一言いった。
定番に幸せにするよと言ったのだが、俺に今言える事はこれくらいだろう。
先は分からないのだが彼女の事を大事にしたいと言う事は本当の事だ。
何としてもこの世界で生き抜いてやるぞと新たに決意ができた。
「・・・
ご主人様、本気ですか。
エルフと人間とでは寿命が違うのですよ。
いくら愛があっても他種族同士で結婚など相容れない事なのです。
今まで、先人達が同じことを繰り返し、いくつもの不幸な出来事が有りました。
種族維持の問題があるのです。
・・・
ご主人様、これは私の独断な考えなのですが、お辞めになった方が宜しいかと思います」
「・・・
サレンさん、それは分かっている事だよ。
しかし俺はこの世界で数少ない希望を見出したのだ。
俺としてはこの結婚を尊重したいんだ。
何時死んでしまうか分からない世界だから、せめて生きる為の目標を見い出したいんだよ。
認めてくれないかな。
サレンさん」
「認めるもなにも本人同士の事です。
私が口を挟む事ではないのですが、ご理解しますとだけ言っておきましょう」
「有難う、サレンさん」
「・・・
一つ言わせて戴いて宜しいでしょうか」
「何かな」
「先ほど告白したのはあくまで口約束ですか?」
「・・・
口約束では無いと言って置きましょう」
「そうですか。
私には軽い口約束と思いましたから、ですが口約束でも約束は約束です。
約束は巡視して貰わないといけません。
先ほどの話を聞いた過程で、ご主人様は口約束では無いと言いましたね。
それでしたら見届け人として私とアニスが立ち会いになったと言う事になります。
エルフには結婚について厳格な掟が有ります。
約束を破るとなればエルフの掟としてペナルティが発生します。
その事は肝に命じて下さい」
「・・・」
「エルフは添い遂げたら一生、夫婦寄り添わなくてはなりません。
例えどちらかが死んだとしても生涯伴侶を次に得る事は難しいと思って下さい。
浮気などもっての他です。
その事を踏まえた上で、私はあなた達の未来ある結婚を理解したと言っておきましょう。
そのことはよく覚えておいて下さい」
「・・・
りょ、了解いたしました」
! えぇ、エルフってそんな結婚するのに厳しい掟があるの、ペナルティーっていったい何なんだよ。
浮気は駄目?
したらどうなるんだろう。
サレンさんが何故か見届け人になったみたいだから、もしかして浮気したらサレンさんが何か俺に制裁を加えるのか?
ちょっとまて、そんな話は聞いてないよ。
俺って早まったことをしてしまったのではないか?
それに結婚するのが、早くてだいたい十年だよね。
成人するまで二百歳が平均と聞くがその計算だと元の世界の年数で、三十から四十年くらいなる可能性もあるって事だよ。
良く考えたらリスク高すぎない。
俺の息子が我慢できるか自信が無いんだが、娼館とか行って遊んでくるのも駄目なのかな。
結婚するまでは、そのつもりだったんだけど。
エルフにそんな厳しい掟があるなんて知らなかったよ。
つい目先に美味しい事があったので半分ノリで告白してしまったよ。
これはどうすれば良いのだ。
まさか結婚していないからHしてもいけないのかな?
そんなはずは無いと思うんだけど。
それに最初に俺のところへ来たときは、夜伽もじさない感じだったよな。
可愛がって下さいと言っていたのに、なんか全然話が違うようになってしまったぞ。
と言うかサレンさん達、奴隷として開放したらなんか態度がだいぶ変わっていない?
元気になって、やけに魔力とか上がっているのが俺にも感じられる。
本来の力を取り戻したから強気でいられるのかな?
確かに魔法の力はあの干からびた吸血鬼の件で、ものすごい事が出来ると分かってしまった。
あんな力が今出せるから強気になるのは仕方ない事なのか。
もしかして今まで、猫かぶっていたのかもしれないし。
その可能性はあるか、そういえばエルフってどういう種族なの?
かなり気性が激しい種族なのかな。
なんかサレンさんを見ているとそんな感じが見受けられる。
個人の性格だけだったら良いけどどうなんだろう。
と言うか先日まで、寝込み襲われて死ぬかもって思っていたしね。
今でも朝起きると生きてるなって思うしな。
奴隷の時はキースには従順に従っていたのかな。
まさか、油断している時に寝首をかこうとかと思ってはいなかったよね。
あれだけの力があれば、ありえない事は無いんだよな。
キースは力を削ぐ為にわざと食事とか与えないで逆らえないくらい疲弊させていたのだろう。
奴隷を扱うのには知識を与えず、疲弊させ能力を削ぐ事が定番だから、それと暴力などで恐怖をうえつけるだったか。
生かさず殺さずある程度の扱いを受けていたのだろう。
今まで猫を被っていた可能性は大いにあるな。
今は金で雇っているのだけど、なんか立場的に俺って低く扱われていないか。
まさか利用されてはいないよね。
いや、半分くらいは分かっていた事だからそれは気にしてはいけない事か。
と、とりあえずターナさんを嫁に貰うと言ってしまったんだ。
それは前向きに考え、良しとしよう。
しかしサレンさん達に弱みを握られてしまったような気がするが、気のせいであろうか。
「コンコン」
「失礼します。
お食事のご用意が出来ました。
ご用意させて頂きます」
「あぁ、わかった。
宜しく頼むよ。
俺はちょっとお手洗いに言って来るから、君達はソファーにでも寛いでいてくれ」
「分かりました」
「それじゃ、俺はちょっと失礼するよ」
・・・
「サレン、ちょっと良いかしら」
サレンさんとアニスさんは部屋の隅に行き話をする。
「先ほどの話なのですが、結婚してペナルティがあるなんてそんな話はエルフの間で聞いたことはありませんよ」
「ええ、私もペナルティがあるな聞いたことは無いわ。
私の父親も三人ほど奥さんいるし、どちらかと言うとエルフは女性が多いので一夫多妻制ですからね」
「でしょう。
でも、どうしてあんなことを言ったのかしら、ご主人様がちょっとかわいそうでは無いの?」
「確かにそれはありますが、ターナの為にもあります。
種族が違うのですから旨く行くとは限りません。
それにターナはまだ子供ですからね。
まだ知らない事が多すぎます。
ターナの安全を考えて、今の話を嘘だとしても私は言って良かったと思います。
同じエルフです。
エルフ族の種別は違っていても、同じエルフとして幸せになって貰いたいからですね。
決して先ほどの筋トレで負けたから仕返しで嘘を言ったのでは無いですよ」
「・・・
なるほどね、本来の目的はそれだったのね。
ご主人様も可哀そうだわ。
でも、確かにターナの幸せを考えるのでしたら、あの嘘もあながち悪くはなかったと思いますね。
エルフと人間では種族の壁がありますから。
ましてやご主人様は異世界人、この溝を埋めるのは大きいでしょう」
「そうですね。
ご主人様はどちらかと言うと私達に近いような気がするけどこればかりは分かりませんから」
「・・・
でも私は残念だわ。
密かに私は狙っていたのよ。
夜もあんな格好をして誘っていたのに、私の事見向きもしないとは正直自身を失いかけていたところだったわ。
私って魅力ないのかと思っていたところだったわよ。
でも、まさかターナとすでに良い関係だったとわね」
「私もそれは知りませんでした。
まあ、一緒に居たことは多かったと思いますが、ターナも奴隷として開放されたので恩義に思っているのでしょう。
まだ子供ですから余計にそう思うのでしょうね」
「確かにね。
打算的な私達とはちょっと違う考えがあるのかも知れませんね」
「・・・
それよりあの姿でうろつくのはやめて貰いたいと思っていたところですから。
ご主人様に襲われたらどうするのですか。
殿方からしてみれば刺激的な姿をしていますからね」
「うーん、そのつもりで誘っていたのだけども、全然引っかからないんですもの。
ちょうど自信を無くし始めたところでしたわ。
それにちょっと気にかかった事もあったし」
「?
アニス、気にかかった事ってなにかしら」
「うーん、ご主人様が私達に最初に言ったこと覚えている。
あの話の事がちょっと気になっていたのよ」
「あの話って。
!
ああ、もしかして私達を夜伽に誘わないとか、好きになってくれてよければ夜伽を頼むって言う事だったかしら。
確か」
「そうそう。
それを聞いて少し誘ってみたのに、全然反応無いんだもん。
がっかりはしたけど、それで余計に気になってきたのよね。
あんな洒落た事を言う人って、確かナルシストって言ったのかしら」
「確かに、そう言いますね」
「そのナルシストって言う人には、あちら関係の人が多いと聞いたのだけど違ったのかしら。
エルフでも似たような人が多くいますよね」
「あちらって、もしかして男色の人かな。
確かにエルフの男性では多く見受けられますね。
奥さんがいるのにそういう方がいますから」
「そうそう、私てっきりご主人様って男色の人では無いかと思っていたのよ。
だって私の事を見向きもしないから」
「実は私も思っていました節が見受けられました。
スキンシップでたまに身体に軽く触れるとかしますよね。
ナルシスト系の洒落た冗談も良く言いますから。
特にターナの事を匂いを嗅ぐと言う行為をしたのは驚きましたよ。
普通は人の匂いなど嗅ごうとしませんよね。
それに私にも有難うって抱き着いて来たけれど、なんかぎこちない挨拶みたいな感じがしたのよね」
「そうなのよ。
なにか怪しいと思ったのだけど、私の考えは間違っていないような気がするの。
なんか女の感に触ることがあるのよね。
だって私には一向に触れたりもせず、逆に避けているみたいだったから」
「まさか、本当に男色の人。
これは濃厚な線が浮かびますね。
案外その可能性があるかも知れませんよ」
「確かにそうよね」
「もしかして、ターナにはあんなプロポーズをしたけど、それは男色を誤魔化す為にカモフラージュで言ったのかも知れませんわね」
「そうそう、だってターナは成人するのに、だいたい百年はかかってもおかしくはないと思いますもの。
早くても百年だから。
百年なんて人間の男の人って我慢できるのかしら。
成人するのにまだ先と分かっていて、ターナにプロポーズを再度したのだから怪しい事この上ないわ。
もしかしてターナは利用されているのかしら」
「うーん、微妙な所よね。
ご主人さまは心変わりしなかったら嫁に貰いたいと言っていたので百年先なんかさすがに、分からないもの。
それだったらターナが断っても良いって事だから」
「確かにターナが断ると言う事だったら話は別になるわね。
そうなるとあながち利用しているって事になるのかが分からないわね」
「それを見こして言ったのかも知れないわね。
ターナが心変わりすれば別に断るだけの話だから、面目も保てるでしょう」
「私はターナが幸せになれば別に良いんだけど、ご主人様が男色の人だったら不味いわね。
上手くいく事は絶対ないわ」
「そうなのだけど。
でも、まだ男色の人と決まったわけではないし、此処は先が長いので様子を見ましょう」
「そうね、そうしましょう」
「ご主人様が男色の可能性があるかも知れないので、それだけはきっちり見定めましょう。
もし本当にそうだったら、ターナには早めに断る事を勧めれば良いのですから」
「確かにそうよ。
そうしましょう」
・・・
手洗い場で顔を洗ってきた。
俺って、やらかしてしまったのではないか。
いや、あんな器量が良いターナさんを嫁に貰えるのは喜ばしいと思う。
だが、最短で十年、十年だよね。
これわやっちまったのかな?
約束としては良いと思うのだけど、問題はペナルティーだ。
浮気は駄目とかサレンさん言ってなかったか。
それって約束と言うか、今の状況は、婚約って言う感じだよね。
その間でも駄目なの?
俺の息子が持たない気がするんだけどどうなのよ。
浮気したらサレンさんからペナルティを受けそうだけど、それって何をするんだろう?
もしかして俺の息子をちょん切るとか、まさか魔法で燃やしたりしないよね。
先日あったプリンを燃やしたあの魔法の炎を見てサレンさんの力がすごい事が分かった。
あの魔法の力にビビっているよ。
まさか俺の息子を燃やされたりしないよね。
これは相当に不味いことになったのではないかな。
安易な口約束なんかするものではないな。
早まってしまったか、もう少し冷静になれば良かったのか。
今になって後悔はしている?
後悔はしてはいないんだけど早まったとは思っているよ。
もうちょっとこちらの現状を知ってから言えばよかったな。
まだ、なにも知らないしな。
つい目の前の餌が美味しそうだったので釣られてしまったのか。
まぁ、すでに言ってしまった事は仕方ないな。
十年間、我慢するしかないか。
幸いターナさんは洗浄魔法が使える。
あの魔法を使って貰うとしばらくは聖人みたいな気分になれるので我慢は出来ると思う。
と言うか邪な感情が沸かなくなるんだよな。
魔法を時々かけて貰えば問題はないだろう。
でも使いすぎると良くないと言っていたからな。
身体にある善玉菌も死んで抵抗力が弱くなるのが問題な事なのだろうな。
ほどほどに病気にならない程度見極めて魔法をかけて貰おうかな。
器量の良い奇麗なターナさんがゲットできると思って良しとしよう。
そうだ、これは良い事なのだ。
先ほど言った事は間違いない。
「バチッ、バチッ」
顔を手のひらで二回叩き、手洗い場から出てくる。
昼食か。
めし食って腹が膨れたら落ち着くだろう。
とりあえずこれは良かった事だ。
これからの事を前向きに考え、生きて行くことができるからな。
そうなると、力を付けなくてはいけないな。
午後から魔法の勉強を頑張ることにしよう。
せめて一人の女性を守れるくらいの力をつけなければいけないな。
昼食を取ってから魔法の練習をターナさんと再会する。
ターナさんは先ほど俺が告白したことで、ちょっとだけぎこちないけど、まんざらでもなく俺の事を気に入ってくれている様子なのでこれは良い事だな。
とりあえず魔法の練習だ。
頑張ってこの世界を生き抜いて十年後を楽しみに待つことにしよう。
魔法の練習を始めてから少したって、お客さんが来たと宿屋の従業員から聞かされた。
?
誰かなと思ったら、ニュートリビアデパートの支配人のルイージさんがお見えになっていると言う。
何でも頼んでいた品物が出来たと言う話だったので部屋の中に通してもらう。




