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第44話 剣聖

 「ナンセンスな話だな」

 「そのとおりね。

 あの老人、まったく気配を感じないんだけど、ゴーンはどうやって気づいたのかしら?」

 「それはな、俺もあの老人には気づかなかった。

 良くみて見ろ、左肩に何か乗っているだろう。

 そいつの気配に気づいたみたいだ」

 「確かに何か乗っているみたいね。

 獣人かな。

 !

 二等身の狐の獣人。

 初めて見たわ、二等身の獣人なんて。

 ありえない。

 あんな姿をしている獣人なんて見たことが無い」

 「俺もそうだ。

 だが、シャンテ、獣人ではないぞ。

 恐らく化け狐、妖狐と言う奴だろう」

 「そんなの居るのね。

 ・・・

 確かに気配を消しているのは分かるけど、ちょっとだけ妖気が漏れ出しているわ」

 「ああ、そうだな。

 俺はそれに気づいたのかも知れない」

 「なるほどね。

 ゴーンさっきは、ありがとう」

 「別に良いさ。

 それよりシャンテ、左腕の再生は出来るのか?」

 「それがその、再生している最中なのに、一向に回復できないでいるの。

 血も出ていないし、私の身体ってどうなってしまったのかしら」

 「やはりそうか。

 剣聖に切られた者は、回復等がまったくできなくなると噂で聞いたのだが、どうやら本当らしいな」

 「え、そんな噂があるんだ」

 「剣聖が使うスキルか魔法、それとも武器の能力が作用しているのか分からないが、勇者を殺す為に身につけた技だと聞いた事がある」

 あくまで噂の噂話でしかなかったのだが、本当だったとはな。

 まさか吸血鬼でも回復できないとは思わなかった。

 その様子ではやはり回復は見込めないみたいだな」

 「ええ、どうやら無理みたい。

 これが勇者殺しの能力なのね。

 ・・・

 それより私、何故だか身体が重くて震えが止まらないんですけど、どうなってしまっているの?」

 「実は俺も同じだ。

 どうやら先ほど俺達と戦った騎士達と同じ立場になってしまったようだな。

 今度は俺達が蛇に睨まれた蛙状態に陥ってしまったと言う事だろう」

 「確かに、そうかも知れない。

 あの老人を見ているだけで委縮しているみたい」

 「しかもスキルの威圧を使わず、ただ居るだけで俺達の動きを封じているとはな。

 とんだ化け物に遭遇してしまったらしいな」

 「そうみたいね」


 ・・・


 「フォルテよ。

 お前のおかげで気づかれてしまったでは無いか。

 儂が不意をついた相手に切り損ねるとは初めての事だぞ。

 それもおなご相手だと分かって、いかに手加減をしたしとしても獲物を取り逃がすと言う事は初めてのことだぞい」

 「何言ってるのよ。

 私のせいじゃないわよ。

 あなたが音をたてて近づいたからではないの。

 私には足音は聞こえているんだからね」

 「何お言うか、それは儂の上に乗っているからであろう。

 いかに音を立てずに移動を試みようと、そんなの無理な話だわい。

 それに目の前にいるあ奴らがお前のせいだと言っておろうでは無いか。

 まったくもっていい加減な狐じゃな」

 「狐じゃないよ。

 妖狐だもん。

 狐は動物で言葉が話せないでしょう。

 種族自体、違うのだから間違えないで欲しいわね」

 「見た目は似たようなもんじゃろうが、儂はてっきり狐が化けて妖狐になると思っていたぞ。

 種族が違うと言うのは初耳だぞい」

 「えええ、今まで長くいっしょに居たのに、私の事を狐と思っていたのね。

 イサブロウ、あなたって本当に心外だよ。

 頭にきたわ。

 今夜から謝るまでずっと、夜に眠れないくらい、毎日耳元で囁いてやるんだから」

 「・・・

 それはやめてくれ。

 儂が悪かった。

 後で油揚げをあげるから許しておくれ」

 「そう、それだったら許してあげても良いわよ。

 ただし、毎日三食、十日間私に供えるのよ」

 「分かった、分かった、分かったぞい。

 それより今は目の前の奴等じゃ。

 儂の剣をかわし、尚かつ、公爵家の騎士の精鋭部隊を葬った奴らだ。

 かなりの腕がたつことがわかる。

 それにどうやらあ奴の手の者らしいな。

 この公爵家の不祥事、見逃すことも出来んだろう。

 早めに片付けてしまおうとするかのう」


 イサブロウと言う小柄の老人は、ゴーンとシャンテに近づいて行く。 


 見た感じ背の低い華奢な老人だ。

 体格はシャンテと背格好は変わらないと言って良いほどだ。

 髪は長くオールバックにしている。

 黒髪だが所々に白髪が混じっているせいで老人に見える様だ。

 この世界では見たことない白色の羽織を着衣し、下には焦げ茶色の袴を履き草履を履いているのだ。

 腰には二本の異様に長い刀を挿し、老人とは思えない直立不動の姿勢で歩いている。

 この世界には見られない武士の姿をしているのだ。

 相棒の妖狐のフォルテを肩に乗せ悠々とゴーン達に近づいて行く。


 ※ フォルテ 種族妖狐 雌 この世界の日数で千年は生きている。

 約千年前この国を襲った勇者一行達を退けたイサブローの仲間の一匹。

 金色の毛並みをした五本の尻尾を持つ体長ニメートルはある大きな妖狐だ。

 言葉が話すことができ人間との意思疎通ができる。

 長寿で魔力が高く長く生きた者は、他の種族を圧倒できるほどの力を秘めた者が存在する。

 知識を様々得て神格される者や大妖怪として恐れられる者も多数存在する。

 変化の魔法が得意で人間に化ける事も可能、耳と尻尾を出して変化するので狐の獣人と良く間違われる事がある。

 稀に狐の獣人の中に入り込んでいっしょに生活をおこなっている者もいる。

 好奇心高い知識のある化け狐と言って良いだろう。


 「ぬしら好き勝手にやってくれたようだな。

 この落とし前、お前らの命で償ってもらおうかのぉ」

 「何言ってやがる糞爺。

 先に仕掛けてきたのはあんたら公爵家の騎士達だろう。

 現にお前らの騎士団員達が私達に銀の槍を投げつけてきたんだから。

 あんたらが先に仕掛けてきたのは紛れもない事実なんだよ。

 私達は正当防衛をしただけだから文句言われる筋合いはないわ」

 「正当防衛とは、摩訶不思議な事を言うのう。

 そんな事がこの世界で通用すると思っているのか。

 百歩譲って聞くが、お前さん達、この先の町にいったい何しに来たんじゃ。

 答えはどうせろくでもない事だろうに」

 「・・・

 仲間を探して居る。

 この町に行って帰ってこない仲間がいるんだ。

 奴に殺されたに違いない。

 黒の魔女にな」

 「黒の魔女だと、カーミラの事か。

 儂の娘がこの町にいるのか、それは初耳だったわい」

 「娘だと。

 爺、お前の娘だったのか」

 シャンテは逆上し、怒りによって巨大な魔力を放出する。

 逆上した事によってイサブローに恐怖心をいだいて震えて動けなかった身体が動けるようになる。

 ゴーンも功旺して動けるようになった。

 

 「えええ、イサブローってもしかして自分の娘に会いに、この町に来たの?

 私にはなんか匂う。

 同郷の者の匂いがするとか言ってわざわざこんなところまで来たんじゃないの。

 それに黒の魔女って吸血鬼だよね。

 あの有名な戦闘一族の吸血鬼、黒の一族の吸血鬼の事だよね。

 人間とのハーフだと聞いていたけど、あなたの娘だったとは、知らなかったわ。

 それでこんなところまで会いに来たのか、納得したわ」

 「いや、儂は娘が此処に居るとは本当に知らなかったことだ。

 嘘ではないぞ」

 「ええ、本当かな。

 でもあなたって何人、子供がいるのかしら。

 確かに人間にしては長生きはしているけど・・・

 公爵家にお世話になった時に嫁を貰ったはずだし、それに勇者と戦っていた時のパーティメンバーに人間とかエルフとか獣人とか居たよね。

 その娘達にも手を出していたじゃないの。

 まさかの吸血鬼にまで手を出しているとは知らなかったわよ。

 節操がないわね。

 吸血鬼にまで手を出しているんじゃ、今度私にも手を出してみたら。

 どう、私と子供を作ってみる。

 あなたの子だったら産んでも良いよ。

 それとも、もう年で大事なところが立たないのかな」

 「何をこんな時に言っているのだ。

 まだ儂の息子は衰えてはおるまい。

 そんな事より、目の前の吸血鬼のお嬢さんがブチ切れているぞ。

 あんな強い魔力を出されては、儂も年できついかも知れない。

 お前も手をかせ、殺されてはもともこうもないからの」

 「分かったわ。

 手を貸してあげるわ。

 その代わり子供は欲しいのよね」

 「・・・

 あっ、そうか、それじゃ別に良いや。

 フォルテお前は下がっておれ、足でまといじゃ、邪魔じゃからどいていろ」

 「えええ、さっきと言っている事が違くない。

 イサブローって前からそんな奴だったわよね。

 だからいつも良いとこまでいった女に逃げられるのよ。

 あっ、思い出した確か吸血鬼のアーシアって子、あの子と昔中が良かった時期があったよね。

 もしかしてカーミラって、あなたとアーシアとの間で出来た娘なのかな。

 突然あなたの前から去って行ったのが当時気になっていたのよね。

 そうか、そう言う事だったんだ」

 「フォルテよ今はそんな話している場合じゃないぞ。

 それより火炎系のでかい術が来るぞ。

 かなり大きい魔力だ。

 ほら来るぞ、見た事のないでかい術が来るぞ」

 「あ、話を逸らしているわね。

 あんな程度の魔法どうってことないじゃない。

 こうすれば良いのよ」

 フォルテはイサブロウの肩から降り前に出て何かの呪文を唱え始めた。


 「地獄の最下層に燻る炎、我の導きにより地獄から這い出てすべての者を焼き尽くせ。

 ダークネス・グレア・エクスプロージョン」

 シャンテは自身が使える炎系最上位魔法を唱えた。


 右手に持っている業火のインフェルノ・ワンドを天高く上げる。

 業火のインフェルノ・ワンドについている宝玉が赤く輝き黒い炎が上空に立ち昇る。

 黒い炎が登った先には、二十メートルは有に超える黒い炎の塊が現われた。

 シャンテの全身も黒い炎で燃えているが、そのような事など構わずにイサブローに対して巨大な黒い炎の塊を放つ。


 「この世界もろとも燃えちまいな」

 巨大な黒い炎の塊はイサブロウに当たる直前にフォルテの術で止められてしまった。


 「結界、六条方陣、百連呼封門」

 フォルテは手を前にかざし術を唱え終えた。


 六芒星を描いた魔法陣が空中に出現し、その魔法陣が幾重にも薄く重なった層ができる。

 百にも重なった六芒星をかたどった魔法陣が現われたのだ。


 「包め、六条方陣」

 巨大な黒の炎の塊をフォルテの出した魔法陣が受け止める。

 更に魔法陣で黒い炎を包んでいくのだ。

 何層にも重なった魔法陣が分散し、巨大な黒の炎の塊に張り付き包み込んでいった。

 百ほど出た魔法陣が巨大な黒の炎の塊をすっぽり包んでしまった。

 

 「縛・白縄の龍の髭」

 更に追い打ちをかけ、巨大な黒の炎の塊を包んだ魔法陣の周りに白い大きなしめ縄のような縄が巻き付き始める。

 シャンテが放った魔法が完全に防がれ、目の前で封印されてしまった。


 「ふん、これでしばらくは持つわよ」

 「持つわよと言われても、お前さん、黒い炎を結界で包んだだけじゃないか?

 これをどうすれば良いんじゃ。

 解決していないんじゃないのか?」

 「とりあえず防げたから問題は無いじゃないの。

 後は結界が解けるまでに逃げれば良い話よ」

 「逃げればって。

 お前の作った結界が消えれば、中の炎どうなるんじゃ」

 「どうにもならないよ。

 落ちて大爆発するんじゃないかしら。

 だから逃げるって言ったでしょ」

 「なんだと、あの炎が消滅したりしないのか」

 「そうだけど。

 なにか問題がある」

 「馬鹿かお前は、根本的な解決になっていないだろうが」

 「馬鹿とは何よ、馬鹿とは。

 馬鹿と言った方が馬鹿なんだからね」

 「ああ、もう良いわい。

 儂が始末する。

 ・・・

 次元刀、陽炎の舞い、四十七連斬」

 イサブロウはそう言って剣を抜いた。

 フォルテの結界に寄って封じられていた巨大な黒い炎を結界の上から切り刻んでしまう。


 「シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュバン」

 ゆらりと微風が吹き、剣音が無数に聞こえる。

 だが、老人が放つ剣先は見えない。


 フォルテが作った結界が光の糸のような細い亀裂が入る。

 周りの景色と共に無数に入っていることが分かる。

 結界ごと黒い炎は切られ、そのまま消滅してしまった。

 目の前には無数に入った光の線の亀裂が残っていた。

 しばらくすると光の線は消えていった。


 「ハア、ハア、ハア、ハア」

 「私の全力の魔法が意味の分からない術とあの爺の技で消滅させられた?

 そんなのありえない。

 なんなのよ、あいつ等はいったい」

 シャンテは全力で撃った自身の最強の魔法を消されて、気を動転し、罵声を喚き散らしている。


 「危ない、避けろシャンテ」

 「シュバー、ジャラリ、グン」

 シャンテは間一髪でゴーンの鎖によって身を引き寄せられ助けられた。

 

 助けられたのは良いが業火のインフェルノ・ワンドを手から放してしまう。

 イサブローが出した攻撃を受けて真っ二つに切られ消滅してしまった。

 その場には一筋の光の線が残されている。

 

 「なんて技だ。

 やはり空間が切りさかれたのか。

 あの切られた光の線に触ると触れた相手ごと消滅させてしまうのか?

 これが勇者を殺したと言う剣聖技か」


 「お若いの、違うぞよ。

 儂は勇者に対してこの技は使った事は一度も無い。

 ただあ奴らをこの刀で切り伏せただけだ。

 この技もこの世界に来てから会得したもの、貴様らのような人外の輩の為にな」

 「・・・」

 「しかし若いの。

 儂の技を二度も見切るとは、優れたやつじゃな。

 勇者なんかよりお前さんの方がよっぽど強いぞ。

 しっかし、惜しいのぉ。

 お前さん達があの時いればもっと楽に勇者を退けたかもしれん」

 「・・・

 お褒めの言葉有難いのだが、俺はまだあんたと戦ってもいないし、技も出してはいないぜ。

 これからが本番だ俺の力を見せてやる」

 「ほほう、楽しみじゃわいのぉ」

 「シャンテ、動けるか」

 「ええ、大丈夫よ。

 それより私は業火のインフェルノ・ワンドを失ってしまったわ。

 勝手に持ち出して失うなんて、主に申し訳ない。

 どうしよう」

 「気にするな。

 持ち出した時から俺達の命運は決まっていたのだ。

 そう悲観することもあるまい」

 「それはそうね」

 「シャンテ、俺の身体にお前の炎を纏う事ができるか」

 「魔力はもう残り少ないけどありったけの魔力を使ってかけてあげられる」

 「そうか、それじゃ頼む。

 俺は巨人のトール・ハンマーから雷を出しお前の炎と共に雷撃を纏う。

 剣聖に俺達の必殺の一撃を食らわしてやるぜ」

 「それは楽しみね。

 協力するわ」

 「ありがたい、行くぞシャンテ」

 「ほほう、面白い事になったわい。

 どんな技か見てみようとするかのう。

 おなご相手に二度の不意打ちをしてしそんじている。

 剣聖と言われる者としては、何とも嘆かわしいからのぉ。

 此処は一つ、正面から受け止めてやるかのう」


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