第43話 戦いの行方
ルイーン魔法兵長が召喚したアースドラゴンによって戦況が変わり始めたと思ったのだが、二人の吸血鬼の力は現在の騎士団員達の戦力を遥かに上まわっており、劣勢を強いられていた。
「火の矢、火玉、火の槍」
「バシュン、ヴァン、バシュー」
シャンテは無造作に火属性の初級魔法を繰り出す。
「ほらほら、どうしたの隊長さん。
私は初級魔法しか使っていないわよ。
それなのに反撃も出来ずにいるなんて、隊長失格だね」
くそう、あれが初級魔法だって言うのか、嘘だろうが。
威力は中級魔法クラスに匹敵する。
なんて奴なんだ。
しかしあきらかに油断しているな。
俺の事を舐めきっている。
そこにつけ込むことが出来れば、逆転の糸口が見えるかも知れない。
此処はルイーンから貰った閃光玉のアイテムを使って注意を逸らし、切り込む事にするか。
浮遊しているのも厄介なんだよな。
「つまらない人ね、隊長さん。
これで終わりになるかな。
さようなら、ギルティア隊長さん。
「バーニング・フレア」
ギルティア隊長に、一メートルはある火炎弾が放たれる。
「ヴォン、バシュン」
ギルティア隊長は間一髪で火炎弾を避け、カウンターを狙った。
「此処だ。
閃光玉」
ギルティア隊長は透明な宝玉を出し魔力を注入させて、シャンテに投げつけた。
シャンテは避けるそぶりも無く、自らの炎の防御壁で防ぐ。
防いだのは良いが宝玉は砕かれた瞬間に眩い光を発した。
「キャー、眼が、目が。
シャンテは強烈な眩い光を眼に浴びて動きを止める。
「今だ。
奥義、無双連撃七刃斬」
ギルティアはシャンテの居る位置まで高く飛び、双剣で切りつけた。
「ザシュ、ザシュ、ザン、ザシュ、ザン、ザン、ザシュン」
双剣で七回ほど切りつけ地面に落ちる。
「追撃だ。
奥義、真空無双連撃斬」
双剣に風魔法と自らの気を付与し、魔法の刃を放つ」
「シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン」
止めだ。
「シュバーン」
魔法の刃の連撃が繰り出されシャンテに全弾命中する。
そして最後に大きな魔法の刃が食らわせられた。
「どうだ、これで終わりだろう」
「・・・
フフフッフ。
なんだあなた、結構やるじゃないの。
今の連撃、中々良かったわよ。
でもね、残念ね。
私には致命傷になって無いのよね」
先ほどギルティア隊長の連撃技を食らって、血みどろに切り刻まれているシャンテが宙に浮いている。
左腕が切れて落ちそうになっているのが見える。
あまりにも切り刻まれたグロテスクな容姿に、見る者が目を背けるほどの切り傷が見えるのだ。
しかしその切り刻まれた傷も、ほんの僅かな時間で再生し始めた。
三十秒とも満たない時間で完全にシャンテは傷を回復してしまう。
あまりのできごとにギルティア隊長は唖然とし動けず、回復している様子を眺めてしまった。
「馬鹿なありえない。
あれだけの傷を負って死なないとは」
「・・・
あなたの双剣、銀製の武器では無いのね。
それに光属性も入っていない。
切れ味の良い剣だけど失敗したわね。
光属性入りの銀製の剣だったら今ので死んでいたかも知れないわ。
けど、ただ切られただけで痛かっただけだもの。
最初の閃光弾の方がきつかったわ。
騎士団員達は銀製の剣を使っていたわよね。
あなたは違う。
もしかしてその剣はお気に入りなのかしら。
でもその剣で私達、吸血鬼を殺せると思ったの?
ずいぶん私達も舐められたものね。
自分だけ準備不足とは、あなたほんとに隊長失格だわ」
「・・・」
私をあれだけ切りつけたのだから代償は支払って貰うわね。
あなたも同じように切られなくてはいけないわ」
シャンテは業火の杖を背中にしまった。
両手を下げて「フレイム・ソード」と言った。
両手には炎を形どった剣が握られていた。
「こんな感じでどうかな。
炎の双剣、なんかカッコよくない。
あなたの剣術を見ていたら使って見たくなってしまったのよ。
初めての剣だけど、あなたが味わってくれないかしら」
そう言ってギルティア隊長に炎の剣で切りかかっていった。
「ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン」
シャンテはギルティア隊長に炎の剣で切りつける。
ただ振り回しているだけだが、ギルティア隊長は圧倒され、防御するしかできなかった。
・・・
「フッ、アースドラゴンか。
食ったら旨いかな」
ゴーンは小さな声で呟いた。
「騎士団員の諸君、前面にアースドラゴンを出します。
あなた方はサポートにまわって下さい。
隙があれば銀製の武器で攻撃を、それ以外はあなた達の攻撃は受け付けないでしょう。
それじゃサポートを宜しくお願いします。
行きますよ」
「了解しました。
ルイーン魔法兵長」
「やっと動き出したのか。
しかし呑気な奴等だ。
まだ俺との戦力差を気づいていないとはな。
後が使えているんだ、奴らは此処で俺の餌になって貰おう」
「アースドラゴンよ。
ドラッシュガンの魔法を唱えよ」
ルイーン魔法兵長はアースドラゴンにドラッシュガンの魔法を発動するように命令を下した。
アースドラゴンは咆哮した。
咆哮した瞬間にゴーンの足元から尖った岩山が出現し、ゴーンを貫こうとする。
ゴーンは不意を突かれ、尖った岩山をまともに食らう。
それほどたいしたダメージを受けた様子はない。
しかし次々と尖った岩山が現われゴーンを襲う。
「しゃらくさい。
「ブレイド・カッター」
「シュパン、シュパン、シュパン、シュパン、シュパン」
ゴーンは左手の鎖を解き放ち鎖を鋭い刃に替える。
無数の尖った岩山を根元から切り裂いた。
「シュビイン」
ゴーンは不意に飛んできたナイフを掴む。
ナイフを掴み砕いてしまうが、手から煙がでて傷を少しだけ受ける。
「光魔法がかかった銀製のナイフか、なるほど隙をついて襲うってわけだな。
何が騎士団員だ。
せこい真似をしやがって、それにアースドラゴンの後ろに隠れてるとは、騎士として嘆かわしい奴等だ。
「それじゃこういうのはどうだ。
「チェーン・スピン・ニードル」
ゴーンは全身に巻き付いている鎖を外し、地面に撃ち付けた。
鎖は先端が尖った形状に変わり地中を潜り突き進む。
アースドラゴンと騎士団員の足元から尖った鎖が出て来て貫き刺す。
「ぐぁあー」
騎士団員達の悲鳴が聞こえる。
足元から突然現れた鎖に貫らぬかれダメージをおう。
アースドラゴンにも何本か鎖は当たるがまったく貫くことは出来なかった。
うむ、威力が足りなかったか。
騎士団員の七人、全員には当たったようだが致命傷には誰もいたっていない。
それにアースドラゴンはまったく貫けずダメージが無いとはな。
腹の部分は柔らかいと思ったのだが意外に硬かったな。
でも、これでうざったい銀製の武器での攻撃はなくなっただろう。
あとはアースドラゴンと上に乗っている魔法使いを倒すことだけか。
張り合いの無い奴等だ。
さっさと片付けてしまうか、シャンテが待っているからな。
ゴーンはアースドラゴンに突進する。
アースドラゴンもゴーンに合わせて突進してきた。
前かがみで頭から突進してきたアースドラゴンとゴーンは正面からぶつかった。
「ドゴーン」
ぶつかり合い大きな音をたてる。
どうやら力合わせはどちらも均衡していてそのまま止まってしまう。
アースドラゴンの足元とゴーンの足元は地面にめり込むほどの跡が見える。
力は均衡しているようだが、一瞬の隙をついてゴーンはアースドラゴンの眉間に頭突きをかました。
頭突きを食らったアースドラゴンはたまらず悲鳴をあげ頭を浮かした。
「馬鹿め、怯んだな」
ゴーンはその瞬間を見逃さず巨神の鎚で顎を殴りつけた。
「ドゴーン、バチ、バチ、バチ、バチ」
アースドラゴンの顎にクリーンヒットし、電撃が顔全面でスパークする。
「おわわわわ」
上に乗っていたルイーン魔法兵長は振り落とされ、転げ落ち地面に叩きつけられた。
よろめき後ろに下がったアースドラゴンはルイーン魔法兵長を自らの足で踏み潰してしまった。
「愚かなやつだな」
ゴーンは巨神の鎚に魔力を込めアースドラゴンの横っ腹をおもいっきり殴りつけた。
「ドガゴーーン」
「バチ、バチ、バチ、バチ」
ものすごい大きな音がして雷撃が放たれる。
アースドラゴンの横っ腹には風穴が開き吹き飛んでしまった。
「これで終わりだ」
「ドゴーン」
追撃でアースドラゴンの頭に巨神の鎚を打ち付け頭を潰してしまう。
頭を潰されあっけなくアースドラゴンは死んでしまった。
「これで終わりか。
腹が減ったな。
ちょいとこいつの肉を戴こうとするかな」
倒れている騎士団員を残してゴーンはアースドラゴンの肉を無造作に掴み食べ始める。
・・・
「ハア、ハア、ハア」
ギルティア隊長は炎の剣で切り裂かれ瀕死の状態に陥っている。
「・・・
あなたは駄目ね。
こんなに弱いなんて失望したわ。
そういえばグレッグも同じ剣士だったわね。
同じ剣士でも彼の剣技はすごかったわよ。
あなたなんかよりも本当にすごかったのよ。
確かこんな風に切るのを見たことがあるわね」
シャンテは両手に持つ炎の剣を合わせ、強大な一本の炎の剣を創り出した。
「確かこう言っていたかな。
クロス・スラシュ」
シャンテはギルティア隊長に真正面から突っ込んでいく。
炎の剣先を右下に構え下から左上段に切りつけた。
「シュン」
そして返しで右上段から左下へ、炎の大剣をギルティア隊長に切りつけた。
「シュヴァン」
ギルティアはX字に切り裂かれ、炎が燃えうつり焼き焦がされ絶命した。
「あっけないな。
あなたのような弱い剣士の死体なんて見たくわないわ」
そう言ってシャンテは業火の杖を取り出し天に掲げる。
「フレア・エクスプロージョン」
業火の杖の先端に直径五メートルはある巨大な炎の塊が出現する。
すでに死んでいるギルティア隊長に対して魔法を解き放った。
「ドゴゴゴゴーン」
巨大な炎の塊が地面にあたると地響きがなり、大量の炎と熱量が辺り一面にまき散らす。
辺り一面が焼けてしまい、広範囲が焼野原になってしまった。
「あ、つい感情的になってやってしまったわ。
ゴーンは大丈夫かな。
・・・
心配することは無かったようね。
もうあちらは終わっていたみたい」
シャンテは焼野原になった辺りを見回したら、アースドラゴンの肉塊らしい塊があり、ゴーンがその肉を食べている様子が見えた。
「シャンテそちらも終わったようだな」
「ええ、終わったわ」
「丁度良い、お前が魔法を使ってくれたおかげで、こいつの表面が良い具合に焼けて旨くなったぞ。
お前もどうだこっちに来て食べないか」
「それじゃ、少しだけお言葉に甘えて戴こうとしようかな。
そういえばゴーンが戦っていた騎士とあの魔法使いはどうしたの?」
「騎士団員達はお前の魔法の巻き添えを食らって焼け焦げてしまったよ。
魔法使いはこのアースドラゴンの下に潰れているんじゃないのか。
巨神の鎚でこいつを殴ったら落ちて下敷きになってしまったからな。
まぁ、呆気ない最後だったな。
召喚したアースドラゴンに潰され仲良くあの世に言ったのだ本人も本望だろう」
「そうだったのね」
「少し食べたら町に行くか。
ウォーミングアップは終わりだ。
本命を食いに行こうぜ」
「ええ、そうしましょう」
・・・
二人はアースドラゴンの肉を食べ終え、一息ついてゴーンは周りの状況を見渡した。
どうやら俺の部下の獣人達は公爵家の兵達を打ち滅ぼしたみたいだな。
まあ、俺の魔力を受け周りの兵達も恐慌状態の影響は受けていたのだろうな。
それでも部下が半分の百名足らずしか残っていないのか。
十分とは言えんがこの戦力でギレンの町に仕掛ける。
「シャンテどうだ行けそうか」
「私はいつでもOKよ。
多少ダメージは受けたけどアースドラゴンの肉を食べたらそれなりに回復したわ。
いつもはこんなの食べないからね。
これほど魔力が入っている肉なんて初めて食べたわよ。
意外にドラゴンていけるのね」
「確かにそうだな。
それじゃ、ギレンの町に行くとしよう」
ゴーンとシャンテが町に向かおうとした時、後ろから得体の知れない気配をゴーンは察した。
何も言わずシャンテに対して左腕に巻いてある鎖を横から打ち付ける。
「ドゴ」
「スパン」
ゴーンの鎖がシャンテにあたり吹き飛んでしまう。
「ズシャー」
「ウゥゥ、ゴーン何をするの」
「敵だ。
お前の後ろに先ほど何かが居やがった」
「嘘、そんな私気づかなかったけど。
あれ、私の左手が無くなっている。
なにこの切り口、ゴーンの鎖で切られたのではないわ。
いったいどういう事、それに人がいる気配なんて今もしていないのよ」
「ああ、感じないな。
しかしよく見ろ人が立っているじゃないか」
「本当にいるわ。
それに、なにあれ。
私が居た場所に光の線が入っている。
空間がまるで切られたみたいに」
「シャンテ、それは正しいみたいだ。
そこにいる奴をよくみて見ろ、奴ならばそのような芸当は当たり前のようにできる。
俺は会った事が無いが知っている。
お伽話で聞かされた事があるからな」
「確かに私も見た事無いけど、知っている気がするわ」
「また、とんでもない化け物が現われたな。
剣聖か」
「らしいわね。
千年前の戦いで勇者を切ったという伝説の剣豪でしょう」
「そうだ。
すべてを切り裂くカタナと言う剣を振るい。
千年前の勇者撃滅戦でこの大陸を救った伝説の英雄、剣聖イサブロウ。
まさかの伝説の彼がお出ましとはな」




