第42話 圧倒的な戦力差
町の郊外で吸血鬼一派と公爵家騎士団員の戦いが始まった。
二人の吸血鬼と騎士団員十名それに加えた魔法使い一人を中心に吸血鬼の配下である獣人の軍勢と公爵家の兵達が集まり始め、周りでも交戦し始めたのである。
双方瞬く間に集まり、総勢五百名を超える大乱戦が始まってしまった。
中心である吸血鬼と騎士団員達はまだ微動にもしていない。
それなのに周りでの戦いは激しさを増して、怒号が飛びかう乱戦状態になっている。
そんな中、均衡が崩れた。
外から不用意に放たれた火矢が枯草に燃え移った事で状況が替わったのである
「ウォーン オー オー ウォーン」
「ヴォン、バチバチ バチバチ」
狼男の咆哮が飛び交い、そして枯草に火が付き燃え広がる。
「今だ、仕掛けるよ、ゴーン」
「了解した」
「魔炎弾」
先にシャンテが炎の魔法弾を騎士団員に放ち戦いの火ぶたを切った。
騎士団員の一人が魔法を付与した盾で防ぎ、魔法弾は打ち消される。
「魔法防御壁、物理防御壁、自動回復付加魔法、神聖光攻防聖域」
ルイーン魔法兵長が騎士団員全員に防御魔法と自動回復魔法をかけ闇属性に有効な光属性の聖域を作る。
「キュイーン」
神聖光攻防聖域の効果が辺り一面に発生し、地面から青白い光属性の聖域が発生した。
「ゴーン、大丈夫」
「ああ、まったく問題ない。
お前はどうだ、シャンテ。
私は装備しているアイテムのおかげで平気よ」
少しだけ影響があるけど、これくらいはどうってことは無いわ」
「そうか、しかしなんだ。
お前は下がっていても良いぞ。
これくらいの相手では俺一人で十分だ」
「ありがとね、ゴーン。
でもね此処は私にもやらせて」
「・・・
分かった、それじゃお前には一人任せるとしよう。
好きな相手を選べ」
「そうさせて貰うわ。
それじゃ、あの蒼髪の双剣使いにしようかな。
なんか隊長って言われていたよね」
「ああ、言われていたな。
ギルディアとか言う奴だろう」
「そうそう、そいつにするわね」
「了解した。
あとの奴らは俺に任せろ」
シャンテはギルティアがいる所に飛んで向かおうとしたがルイーン魔法兵長に阻まれてしまった。
「おっと、向こうには行かせませんよ。
お嬢さん、此処は魔法使い同士、私とやり合いませんか」
「・・・
何が魔法使い同士やり合おうだなんて、あなたの下には二人も騎士がついているじゃないの。
か弱い女の子に、それって卑怯じゃないのかな」
「気のせいですよ。
そんなことは全然ありませんからね。
無属性衝撃魔法」
ルイーン魔法兵長はシャンテに対して無属性魔法の衝撃破を放った。
魔法を受け怯んだシャンテは地面すれすれに落ち、その状態を見た二人の騎士達が突進して間を詰めていく。
「くぅ」
シャンテは怯んでしまったが、無属性衝撃魔法のダメージは受けていない。
しかし銀製の剣を持った二人の騎士達が切りかかってきたのだ。
「巨神の鎚」
「ドゴーン」
ゴーンは無造作に大地に巨神の鎚を打つ付けた。
周り一帯に電撃が広がり騎士団員達を襲う。
シャンテに切りかかっていた二人の騎士団員達も雷撃を食らい動きを止めた。
「バーニング・フレア」
シャンテは動きを止めた二人の騎士団員達に、魔法の火炎を業火の杖から放つ。
二人の騎士団員達はまともに魔法を受けて地面に倒れ込んだ。
「ライト・ヒーリング」
ルイーンは雷撃と炎の魔法ダメージを受けた二人の騎士団員達にすぐさま回復呪文を唱える。
「回復の間は与えんよ」
二人の倒れた騎士団員達に対してゴーンは右手の鎖を解き放ちランダムに打ち付けた。
「ドガン ダン ダン ダダン ドガン ダン ダン ダダン」
放たれた鎖の無数の連打による殴打でニ人の騎士団員達は地に伏せ動きを止める。
「追撃だ。
巨神の鎚魔力集中」
ゴーンは飛びあがり地に伏せている二人の騎士団員達に対して巨神の鎚を魔力を込め一点集中で振り下ろした。
「ドゴーン バチッ バチ バチッ バチッ バチ」
巨神の鎚を打ち付けた場所から十メートルはある円球の雷撃が広がる。
自らも雷撃を受けた状態だが平然としている。
何事もなくゴーンは立っていた。
巨神の鎚を直撃した二人の騎士達は跡形もなく消し飛んでしまった。
また、その威力により地面には十メートルはあるクレーターが出来てしまっていた。
ゴーンは自ら造ったクレーターから飛び出し、そして本来の力を開放する。
魔力を開放したゴーンは三メートルはあった巨体を更に大きくし五メートルはある巨人に変貌する。
肌が青から赤黒く変わり目の中が漆黒の瞳に変わっていた。
巨大な魔力の塊の化け物がその場に現れたのだ。
そしてその魔力を浴びた辺りの一帯の者達が恐慌状態に陥ってしまい動けない状態でいる。
ゴーンはのっそりとゆっくり歩きだし、獲物を探すように騎士団員達を見る。
「お前が良いな」
そう言って右手に巻き付いていた鎖を解き放ち、騎士団員の女性対し鎖を巻き付けた。
巻き付いた鎖はあっという間に騎士団員の女性を頭から渦巻き状に包んでしまった。
「グォー」
巻き付いた鎖の中で苦しむ声が聞こえる。
「棘の血の鎖」
ゴーンはそう言ったとたんに鎖から鋭い針のような棘が無数に出てきた。
巻き付いている鎖にも鋭い棘が出て来て、中の騎士団員の女性を貫き絶命させる。
ゴーンは鎖が巻き付いている騎士団員の女性を引き寄せる。
コマを回すように引き寄せた。
鎖は外れ、騎士団員の女性は回転しながらゴーンの手元に引き寄せられた。
鎧が剥ぎ取れ全身穴だらけの女性の遺体がゴーンの手の中にあった。
そしてゴーンはその女性の遺体を頭からかぶり付いたのである。
「ムシャ グチャ ムシャ グチャ グチャ ムシャ ムシャ」
騎士団員達は一歩も動けず仲間の女性が食われる様を見ていた。
ゴーンは騎士団員の女性を半分くらい食べ終えたら、そのまま投げ捨ててしまった。
「リサ・・・」
騎士団員の一人が小声で呟いたのがわかる。
「ゴーン、ありがとね。
さっきは危なかったわ」
「別に良いさ。
それよりお前も魔力を開放しろ、そうでないと業火の杖を使いこなせないぞ。
身体が焼かれてしまうだろうが」
「それはそうね。
焼かれるのが嫌なので魔力を抑えていたけど無理みたいね。
私もゴーンと同じように魔力を開放させて貰うわ」
そう言ってシャンテも同じように魔力を開放した。
ゴーンほどではないが巨大な魔力が解き放たれる。
白い肌が赤黒く変わり、可愛らしい少女の様相が消える。
瞳の中もゴーン同様に漆黒の黒に変わっている。
それに加え、彼女の場合は炎が周りに具現化し無数の赤い鬼火が現われている。
それに加え自分の周りの半径一メートルあたりに円状の炎の魔法陣が現われクルクル回り地面を焼き焦がしているのだ。
「化け物め」
騎士団員の一人が言った。
シャンテはその言葉を発した騎士団員に対して魔法を唱える。
「バーン・ブレスト・ファイヤー」
シャンテの全身から炎の閃光が放たれ、一瞬のうちに騎士団員を焼き尽くしてしまった。
それを見ていた騎士団員達は自分がおかれている立場を認識した。
人ならざるものを相手にする恐怖を感じているのだ。
「ゴーン、この状態だったら私一人で済むんじゃないのかな」
「ああ、そうだろうな。
しかしお前の目的は黒の魔女だろう。
魔力の消費は抑えておけ、後が控えているのだからな」
「それもそうね」
「梅雨払いは俺に任せろ。
さっき言ったとうりに、お前はあの髪の蒼い双剣使いを相手にしてくれ。
後は俺が全部殺る」
「うん、そうするわね」
そう言って何事もなくシャンテはギルティア隊長の元に無造作に近づいた。
「そういう訳で、あなたの相手は私がするわ。
えーと、確かギルティア隊長さんて言ってなかったかな。
宜しくね、ギルティアさん」
そう言ってうすら笑いを浮かべた。
「化け物め。
ルイーン構わない。
召喚しろ、こいつ等相手ではなりふりかまっていられない」
「分かりました。
それでは時間を稼いで下さい」
「ああ、分かったよ。
そのかわり、早くしてくれよ」
「・・・
フッ、待ってやるよ」
「!」
「待ってやると言ったんだ。
何を召喚するか知らないが待ってやる。
どの道お前らのほとんどが俺が怖くて動けんだろう。
動けない者を甚振る趣味は無いのでな。
召喚できるまで待ってやろう」
「あなたは、後悔しますよ」
「後悔すると良いんだがな」
「良いでしょう、それでは私のとっておきを見せてあげますね」
ルイーン魔法兵長は目の前に召喚用のアイテムを取り出し、召喚をする儀式を始めた。
誰も邪魔する事ことなくその場に居る者がただ見ているだけだった。
騎士団員達はゴーンの魔力をおび恐慌状態で怯えている。
召喚されるモノに一様の望みをかけている。
逆にシャンテとゴーンはそれほどの期待はしていない様子が伺える。
召喚する儀式の魔法力が小さく、それに魔法陣もあきらかに小さいのが分かるのだ。
逆に興ざめして見ているのだった。
一応、何が出るか見てみるかくらいの程度でしか興味がない。
「我に応え我に従え、アースドラゴン」
ルイーン魔法兵長の目の前に巨大な、アースドラゴンが召喚された。
二十メートルはある巨大なアースドラゴンだ。
騎士団員はそれを見た時に恐慌状態を脱したようで、一端、アースドラゴンの後ろに下がり状況を見極める。
ルイーン魔法兵長はアースドラゴンの背に乗りに命令下す。
「アースドラゴンよ、アースクライだ」
ルイーンの命令により、アースドラゴンはアースクライの魔法を吸血鬼の二人に対して唱える。
「ゴゴゴゴゴォー、ゴゴゴゴゴォー、ゴゴゴゴゴォー」
シャンテとゴーンを中心に岩石が交わる竜巻が発生して二人を包み込んだ。
岩石が擦れる嫌な鈍い音が聞こえる。
シャンテとゴーンは岩石に切り刻まれダメージを受ける。
しかし一瞬のうちに再生してしまう。
吸血鬼特有の超回復能力だ。
「くぅ、やるじゃないの、あんな少ない魔力と小さな魔法陣でアースドラゴンを召喚するとわね」
「ああ、そうだな、結構やりやがる。
恐らくは前々から召喚をしていたアースドラゴンだろうな。
契約を遂行する回数をこなして召喚元の信用を得られれば、少ない魔力で召喚できるからな」
「でも、魔法陣がやけに小さかったよ。
それなのにあんなでかいアースドラゴンを召喚したの。その事が私は驚きよ。
ゴーンはそう思わない」
「確かにそうだな。
それより俺が魔力を開放した時に、恐慌状態になった騎士団員達が回復してしまったようだ。
これで少しは楽しめるようになるかな」
「それもそうね。
だってあいつらまだまともに剣も振っていないじゃないの。
騎士団員としては、全員失格だよね」
「それはそうだな」
「それじゃ私は、あの蒼髪のギルティアと言う男を相手にするわ。
剣技の踊りを見せてもらいたいからね。
あとの騎士団員とアースドラゴンはお願いね」
「ああ、任せろ。
すぐに済むと思うがな」
両陣営とも再度臨戦態勢を整え戦闘を開始する。




