第40話 予定が狂うのは当り前
これは参ったな。
四方八方ふさがってしまったと言う事か。
この世界では俺にとっては安全圏はなさそうだ。
夜になると町の中で野良の吸血鬼がうろついているなんてありえない話だろう。
海外で夜出歩くのは危険だと聞くが、そんな次元の話ではないぞ。
あきらかに人間を獲物として狙う者達がいるのだから、こんなところに安心と言う概念が無いと言えるだろう。
とんでもない所だな此処は・・・
とりあえず部屋に戻りソファーに腰かけ考える人になる。
これからどうしよう。
修行か?
少年漫画みたく修行して力を身につけ生きてくしかないのか。
そんな面倒な事はしたくないが此処ではやらなくてはいけないのか。
この世界には魔法と言う異能力が使えるのが分かる。
それに俺には特別なチート能力を持っている。
恐らくこのチート能力は魔法だと判断して良いだろう。
俺が考えるに、物質を変化させる魔法だと思う。
脳みそをプリンに変化させる魔法だけど・・・
魔法を習って手っ取り早く見に付けるしかないか。
幸いなことにサレンさんが攻撃魔法が得意だ。
先ほどの炎の魔法を見ても桁違いな魔法を使えるのが分かる。
契約で教えて貰えることになっているが、少しづつ回復魔法か生活魔法の水を生成できる魔法を習おうと思っていた。
しかし、状況は変わってしまった。
此処の世界は思った以上に危険すぎる。
攻撃魔法を身に付けねば生きていけないだろう。
殺られる前に殺る。
その考えが先ほどの吸血鬼の事件で思ったことだ。
回復魔法、防御魔法も習いたいがそんな事より攻撃魔法が優先だろう。
それしか頭に考えが回らなくなってしまった。
問題は魔法が使えるかだがその事を検証していくのが今後の課題か。
それか武器の扱いか。
剣技とか教わらなくてはいけないのか。
剣技なんて学生時代の授業で剣道をちょっとだけやった事しかないぞ。
盗賊との戦いでは力まかせでぶった切ったがそれでは到底無理だろうな。
あらたに剣技を習わなくてはいけないのか。
うーん、どこかに道場とかあるかな。
もしあるならばできれば槍術とかが習えれば良いんだけど。
槍は剣より長く届くし合戦の戦闘でかなり有利に働いたと聞く。
それに一番、扱いやすいと聞いたことがあるな。
古くからも現代でも女性が扱う薙刀の槍術があるから、他の剣技よりもかなり扱いやすいと判断している。
それとサブ武器を使うなら短剣術が欲しいところか。
メインで槍術、サブで短剣術を習いたいところだな。
それくらいの護身術を身に付けないと生きていけないと思われるのがこの世界では怖い。
用心棒を雇うのも良いけど、この世界では信用できなそうだし、と言うか強そうな敵とか見れば真っ先に逃げると言うのが定番な奴等だよな。
お金で雇うと金より命が大切だから、実際のところ雇い主など二の次になってしまうだろう
俺だって同じ立場だったら逃げ出すと思うし。
用心棒はあくまで抑止力で近くに置いておくって感じだろうな。
戦闘では格下の相手に半分ぐらいしか実際は役にたたないと思って良いだろう。
ウワー、やることが多くできた。
何故こんなことに、部屋の中で地団駄踏んで転げ回りたい気分だ。
でも三人のエルフの娘達が居るのでそんなみっともない姿は見せられない。
とりあえず今日は昨日から整理しようと思っていたアイテムそれがどんなものがあるか調べようとするか。
使えるアイテムがあったならばそれでガチガチに防御を固めるのも良いな。
まずは当分は宿屋に引きこもってアイテムを整理してから魔法を教えて貰うことにしよう。
それとキースが持っていた武器か、あれは俺には使えそうにないけどサレンさんて剣技が使えそうなので護衛として渡しておいても良いな。
武器も結構あったので使えそうな物を皆と分配してしまうか。
そのついでにちょっとだけ教わると言うのも良いな。
それじゃとりあえず今日は朝飯食ってからアイテムの整理をやり直そう。
今日の日課は決まったな。
あっ、そうだ携帯電話だ。
まずはそれが動くか確かめよう。
もしソーラーシステムがついているのだったら光を当てて充電すると言うのも良いな。
昨日、手に入れた携帯電話を喜んでいたのが先ほどの事で吹っ飛んでしまったよ。
まったくナンセンスな話だ。
朝食の時間になり朝飯を取ってしまう。
いつもと同じ果物と野菜を塩であえ切っただけの料理だ。
それだと飽きるような気がするが何故かまったくこれで良いと思っている。
旨いのは確かだが、露店で見た時に大きな虫がたかっている肉や魚を見て食いたくないと思っていた印象が色濃く残っている。
それになんの肉か分からないし。
食事を終え、今日やることを三人のエルフの娘達に話す。
特にサレンさんには協力してくれと促している。
要件によっては追加報酬も出すと言う話も言ってある。
何よりサレンさんの事が気になる。
エルフの店での買い物でナタリアとか言う女と揉めていた時に、サレンさんの話が聞こえてしまったのだ。
家関係のトラブルがあるみたいだから、もしかしたら一刻も早く国に帰りたいと言うのがあるかも知れない。
でもサレンさんて真面目そうだから、契約どうり日数をこなしてくれると思うけどこればかりはどうなるか分からないからな。
少しでも今のうち魔法を習っておいた方が良いと思うのだ。
とりあえず先にロビーに行って預けていた魔法の収納カバンを持ってくるか。
なんか使えそうもないアイテムも入れてたけどもしかしたら掘り出し物があるかも知れない。
サレンさんだったら知っているかも知れない。
聞いて整理しておこう。
食事が終わり俺は一人でロビーに行き、魔法の収納カバンを取りに行ったのだがそこでトラブルが発生していた。
「ドカッ バキッ ドカッ バキッ ドカッ ドカッ ドカッ」
!
若い従業員の男性が宿屋の衛兵達にタコ殴りされているのだ。
公衆の面前で目に付くロビーで何を暴力行為やっているのとドン引きする。
オーナーのレイズさんも後ろで腕を組んで怒っている様子が伺える。
髪型を天高く立てているな、いつもどうりの髪形に直したのか。
せっかくの美人なのに服と髪形でだいなしになっているのでは無いかと残念に思える。
レイズさんは俺に気づき、慌てた様子でこちらに向かって来た。
なぜか先ほどは額に汗をかいていなかったのに、俺を見たとたんに出し始めた。
それに何故か暗く憂鬱な顔をしている。
「アンドウ伯爵様・・・」
大きな声で俺の名前を言った。
「申し訳御座いません」
「?
どうしたのですかレイズさん。
何かあったのかな」
「それが、お預かりしていた魔法の収納カバンを紛失しました」
「えぇ、なんでどういう事よ。
確かに保管してくれるって言ったじゃないか」
「そうなのですが、従業員が持ち出し、昨日売りさばいてしまった事が発覚したそうです」
「今しがた魔法の収納カバンの所在が分かりましたのですが、交渉中でして、それも相手は貴族です。
アンドウ伯爵様の持ち物と私達は言ったのですが、一考に返す気が無いようです。
これは私の責任です。
命を持って責任を取りたいと思います。
どうかそれでお許し願いませんか」
まずいな、キースが払った金額分この宿屋を利用しようとしていたのだけどレイズさんが居なくなったらこの宿屋どうなるか分からないじゃないか。
これは困ったな。
どうしようか、魔法の収納カバンは貴重なものだから手放したくはないんだよ。
それに中に入っている訳の分からないアイテムも気になるし。
これは強制的に権力を行使して取り返すとするか。
取り返すことが出来れば、レイズさんを許してあげて借りを作っておくことにしよう。
問題は持っているその貴族がどういうやつかだな。
俺の事を言っても返さないとは厄介な輩に違いない。
「レイズさん困った事をしてくれましたね」
「・・・」
「でも持っている方が分かっているのでしょう。
取り返せるならば許してあげても良いですが、どうでしょうか」
「・・・
申し訳御座いません。
相手は高名な貴族です。
私の立場では叶わないと存じます。
此処はやはり私の命で払うしか御座いません」
「うーん、そうなのね。
その貴族の方って役職はどのくらいあるの、爵位を聞きたいのだが教えてくれるかな」
「役職、爵位ですか?
高名な貴族ですが爵位はありません。
ただ貴族の中ではそれなりの権力を持っている方です」
「そうなのね。
それじゃ、その貴族にこのように伝えてくれないかな。
安藤伯爵からの伝言で、もし魔法の収納カバンを返さないのならばお前の持っている貴族位を取り上げると、又中に入っているアイテムが一つでもなくなっていれば殺すとね。
かなり機嫌が悪いご立腹している。
もし要求が通らないならば一族もろとも伯爵位を持って滅ぼすともね。
それと手に入れた経緯など関係ないが、お前は一度返さないと断ったのだ。
お前は盗人だ。
俺の敵と判断して良いだろう。
決して返したくらいでは済まさないと伝えて貰えるかな」
「そのような事を言って宜しいのでしょうか」
「別に良いよ。
だって無役の貴族が爵位を持っている俺の物を返さないんだよね。
それは盗んだと思っても仕方ない事だよ。
俺はその貴族に盗まれたと思っていると判断してもおかしくは無いよね。
もしかしたらその売り払った従業員もグルだったと考えてもおかしくは無いからね。
それも伝えてくれて良いよ。
そこまで言えば返してくれるでしょう。
返してくれなければ俺が直接行って、盗人を皆殺しにすると伝えて貰えるかな」
「はい、了解しました。
そのように伝えます」
「それじゃお願いね。
あっ、レイズさん返してもらえればあなたの事は許すからさ。
まぁ、従業員がしたことでしょう。
それは貴方の監督責任だから、従業員の事は俺は知らない事だからそちらで判断してね。
以上、俺の言いたいことはそれだけだから」
「了解しました。
ご寛大な配慮、心得ておきます。
それでは私は伝えに言って行きます」
ルイズさんはすぐさま駆け足で行ってしまった。
うーん、かなり酷い言い方で言ってしまったよな。
相当な酷い権力を使った脅しだよね。
でも爵位を持っている俺に対して返さないのだから仕方ない事だよね。
その貴族、魔法の収納カバンを返しても俺に借りをつくったとか言われそうだから、此処まで言った方が良いだろうな。
まぁ、これは仕方ない事だろうね。
最初に返さないのが悪いのだから。
!
でもなんかこれでまた敵が増えていないか。
と言うかその俺が持っていた魔法の収納カバンを今持っている貴族の名前すら知らないんだけど。
まったく知らない人からでも恨みを買うのかよ?
言いすぎてしまったのかな。
今になって又後悔してくる。
一時間ほど時間が過ぎる。
ロビーのソファーでしばらく寛いでいた。
ルイズさんが魔法の収納カバンを持ってやってきた。
おっ、魔法のカバン取り返してくれたのね。
それに何故かルイズさんについていた従業員達か、五人くらいるけど、大きな花束やプレゼント用の箱かな?
大量に持っているんだけどどうしたのだろうか。
「アンドウ伯爵様、快く魔法の収納カバンを返して下さいました。
それとこの花束とプレゼント品をお受け取り下さいとのことです。
先方も申し訳なかったと謝っておりました。
直接謝りに行きたかったそうですが、足が悪くいけそうにないと言う事でしたので私がお伝えになったしだいですが宜しいでしょうか」
「うん、別に良いよ。
俺は魔法の収納カバンが返ってくれば問題ないしね」
「そうですか。
先方にもそう伝えておきます。
今回は誠に失礼しました。
今後二度とこのような事が無いと誓いますのでどうかお許し下さい」
「分かった。
許しましょう。
それとそのプレゼント品は別に要らないや。
そちらで適当に処分してくれないかな」
「宜しいのですか」
「別に良いよ。
それじゃあとは頼むね」
そう言って部屋に戻ることにする」
うーん、追加のプレゼントがついて来たとはよほど先方もあの話聞いて驚いたのだろうな。
けどプレゼント品は惜しいが爆弾とか仕掛けられていたら怖いし、下手に受け取ることは出来ない。
強面の人が大きな花束持っているのも、中に機関銃が隠し持っていたりするのが定番だからね。
此処では剣とかが隠してあっても不思議ではないし。
此処は勿体ないが何があるか分からないから貰わないでおこう。
しかし追加でプレゼントを渡すなんて、相当脅しが利いたのだな。
まっ、効いたのならば俺に関わってこなそうだよね。
挨拶にも来ないし、顔も見ない、それは良い事だ。
それにホントに足が悪くて来られないかも疑われるよ。
定番の仮病であることが予想が付く。
なにより魔法の収納カバンが返って来たから良かったか。
時間が一時間くらいたってしまった。
エルフの娘達って何をしているのだろう。
部屋に戻っても良かったかも知れない。
今からアイテムの整理か、予定が狂うのはこの世界ではあたりまえと認識しよう。




