第4話 異能の正体
広いな、大きな川が流れている。
川幅が300メートルくらいあるのか、なんで今まで気づかなかったんだろう。
生茂った長い草と角度のせいでわからなかったのか、突然、異世界にきたので混乱してたから、注意が散漫になっていたのもあるのだろう。
この川のせいでこの付近からはあの街には行けなかったみたいだ。草むらに入る前に見えた街からいけるのかも知れない。
地図が欲しいな、街に行けたらまずは地図を買うのが先決だろう。地理がわからないとこうまで苦労するとは知らなかった。
しかし、ここに倒れて死んでいる冒険者風のおっさん、盗賊類のやつだったとは思わなかった。
身なりはそれなりにきちんとしていたように見えたと思ったのに。それとも冒険者ってこういうものなのか? 見えないところで悪事をはたらいている可能性もあるのだろう。
こんな誰にもわからない川辺の草むらに連れ込んで、殺されそうになるとはな、女性だったら乱暴されて殺されて放置などありそうなことだ。
俺が殺されていたら、川中に捨てられるかこの生茂った草むらの中に放置されていたのだろうな、どちらにしてもうかばれない。
このおっさんの態度がかわったのは、俺が譲った金色の林檎に問題があったのかもしれない。
金色の林檎の入ったずた袋を見せた時に、異様な反応していたのがわかった。目つきが怖いと一瞬思えたのだ。
金色の林檎ってこの世界では貴重な物だったのか、そうでなければあんな態度を取らなかったのかも知れない。
人間て裏表があるからな、このおっさんの顔からして裏表ありそうな感じがする。疑心暗鬼の状態で人を疑ったらきりがないな。
黄金の林檎が非常に貴重な物で欲しくなり、急に欲が出て人格がかわってしまったと言う事もありえる。
黄金の林檎を見せたのは迂闊だったか、殺されるまでになるとは思わなかったな。
教訓を学んだ、この世界では他人に物を見せない方が良いと判断しておこう。
日本とは違い安全ではないのだろう。
「おっさん悪いが俺、殺されそうになったんだ。
あんたが持っていた持ち物、俺がすべてもらっていくよ。
これもこの世界のことわりかわからないが、おっさんがしていたことだ。
俺も同じようにさせてもらう」
おっさんの死体に一言ことわって、荷物を剥ぎ取っていった。
死んでいる人間に対して言っても仕方ないことなのにな。
この異世界に来て数日しかたっていないのに複数の人間を殺してしまった。でもなんでだろうか罪悪感がまったく湧いてこない。
殺されそうになったのだからかな? でも俺って人殺しをしたんだよ。普通は罪の意識とか出るだろう。それなのにまったくないのだ。
どうしてだろうか? 襲われたから? この世界の人を人間のように見えない感覚があるんだよな、疑問に思えてくる。
「俺ってサイコパスだったのか」
今まさに殺したおっさんから持ち物を強奪しようとしている。これって異常なことだろう。
異常な事だと言うのにおっさんが持っていたこの収納カバンが気になってしょうがない。
この収納カバンを手に入れたのならば、この異世界でどれだけ楽に動けるだろうか、そう思えて仕方がないのだ。
殺してでも欲しいアイテムではなかったが、いざこうして手に入れてしまえば何よりも貴重なアイテムに思えてきた。
絶対この収納カバンを手放してはいけない。この異世界でおける、俺の生命線だと思えてきたのだった。
まずは収納カバンの使い方だが、どうやって使うのだろう。俺は収納カバンを手に取り調べて見る。
中を見たら空っぽだった?
なんだこれは中が黒くて何もない。
手を中に入れて見たのだが、黒い何かに阻まれてしまう。どういうこと? わからない、それじゃまずは何か別の物を入れて試して見ようか。
ずた袋に入れてあった金色の林檎を1つとり出し、収納カバンの中に入れてみた。
そうしたら黒い何かに吸い込まれるように、金色の林檎が入っていった。
「おお 吸い込まれるように入っていったな、しかし取り出す時はどうするんだろう?」
俺は収納カバンの前に手をおいて戻ってくるように思っていたら、手の前に金色の林檎が戻って来た。
「おお、なるほど思えば戻ってくるのね」
これってイメージで出入りできるみたいだな、魔法でも使っている感覚なのかな?
もう一度試しにやってみる。しかし今度は入らなかった。
? あ、そうか今はカバンに触れていなかった。カバンに触れながらではないといけないのだな、カバンに触れてもう一度試してみる。
「おぉ、はいる、はいる」
なるほどね、カバンに触れながらイメージをして出し入れすると言う事なのか。
それじゃ今度はこの中身のある物が、全部取り出せるか試してみよう。
俺は収納カバンを逆さまにし、すべてこの中に入っている物が出てこいと強く思う。
カバンの中の黒い空間が空っぽになるようにイメージする。
「ドサリッ」
「おぉ、危ない」
収納カバンから数多くのアイテムが出てきたのだ。危うく自分が埋もれてしまうほどのアイテムが出てきてしまった。
「おいおい、なんて量だよ。
会社で使っている小さな冷凍庫の中にある材料くらいあるぞ」
高さ3メートル、縦横7メートルのくらいの予備冷凍倉庫が会社にあったのだ。
冷凍庫の中に入っているくらいの物がでてきてしまった。
会社の予備冷凍庫は主に品管で使う物が入れてあった。新たに開発した食品サンプル品が収納してあったので取りに行くときがなんどかあったんだよな。
部署が違う人間だから、本当は上司の許可がなければ入れないのだけど、先輩が取ってきてと言うので中に入らせてもらっている。
自分たちで飲むジュースもそこへ入れている。会社に関係ない物を持ち込んで入れているのは問題があるだろう。
下っ端の俺は使い走りで、サンプルとジュースをとりにいかせられていたのだ。
品質管理している部署でそれをやっているのは問題だけど、俺のような営業の部署の違う下っ端は何も言えない。
こういうことをさせられるから、上に早く上がりたいと常に思っている。
俺は営業だが、新製品でできたサンプル品を試食させられるため品管には良く来ることがあるのだ。
しかしなぜか俺が試食するサンプルの商品はまずいのだ。
新製品のサンプル品を会議で出す時はうまいんだけどどうしてなんだろう。
実験にでもされているのか、いじめでもうけているのではないかと思う時もあるけど、試食を言われれば味見するしかないからな。
でもそれってちょっとひどくないか? 営業である俺の意見を聞きたいのはわかるけど、美味しい物を味見したいよなまったく。
それはさておきこの収納カバン、会社にある予備の冷凍庫の中に置いてあった物の量くらい入るのか。
先ほど冒険者風のおっさんが盗賊から奪い取ったアイテムをこの中にしまう時に、別のアイテムをほうり出して捨てていったな。
容量限度は今は入っていた物でめいいっぱいだと判断して良いだろうか? 目あすとして今現在入る量を覚えておくか、あまり詰め込んで途中で入らなくなったら大変だしな。
入られる物は大きさは関係ないのだろうか? 中から出てきたのは入口より大きなものがあきらかに入っている。
この収納カバンわからない事が多いけど便利な事は確かだ。
絶対に手放さないようにしなくてはいけないな。
「おっさんには悪いが中に入っていた必要な物を戴いていこう」
俺は使えそうな物を選んで収納カバンの中に入れてしまう。
あきらかに入口より大きな物が入ってしまうので、入れていると気持ちが悪い。と言うか俺が入ってしまったらどうなるんだろう? そう考えると怖いな。
さて、意味不明なわからないものは捨てておこう。あとはおっさんに関係ありそうな物もすべて廃棄することに決めた。
戴いた物には、お金らしき物と食料と水、冒険に必要な者一式あったのでそれを優先的に詰め込む。組み立て式のテントらしい物まで入っているとはね。
他にも使えそうなものがあったが、あきらかにおっさんが使用していた形跡があったものはすべて廃棄だ。
買取などに出せばお金になるかも知れない。もしなんかの間違いでおっさんの知り合いに知られてしまったら問題になるのは必然的にわかる。
証拠品は使ってはいけないと言うのが鉄則だろう。身の危険にさらされるからな。
時間がかかったが廃棄する物を整理できたら、3分の2は捨てていくことに決めた。
だが荷物を選別していた時に問題がでてきた。布にくるまれた大きな物が2つ出てきたのだ。
「ウワワァ」
開けてみたら人間の死体だった。
なんでこんなものまで入れているの? 何を考えているんだあのおっさんは。
これっていったい誰だろう、俺にわかるわけがないか。おっさんが俺を殺そうとしたようにもしかして殺してこの収納カバンの中に入れたのかも知れない。
人間の死体は2人とも中年の男性だった。服装からしてドラクエの商人の服装をしていたのだ。調べて見たら二人とも後ろから剣で切られた形跡があった。
このおっさんが殺して金品を奪った可能性が高いな。これを考えるに、この世界はかなり危険なところだと推測される。
「まずいな、この異世界」
平和ボケした日本人である俺には生きていくのにはきついように感じられる。
「この遺体どうするかな」
ちょうどおっさんが持っていた物の中にスコップらしいのがあったのでそれを使って埋葬しておこう。
面倒な仕事が増えてしまった。それとついでにいらない物も埋めておこう。証拠隠滅だな。
俺は大きな穴を川辺に掘り出した。この異世界では力がかなりあるので簡単に大きな穴が掘れてしまった。
俺はいらない物と亡くなった2人の遺体とおっさんを埋葬しようとする。
おっさんを埋葬しようとした時におかしなことに気付いた。おっさんの耳の中から黄色い汁が出ているのだ。
なんだこれは、まさか金色の林檎を食ったのでおきた事なのか? 耳から垂れている汁からは、甘い匂いがするのだ。
「ウワワァ 俺ってやばい物食ったのではないか?」
でも匂いがちょっと違うな。
甘いプリンのような匂いがする。メロンではないと思うのだが、メロンに似たような甘い匂いがする気がする。
メロン? プリン? どちらかわからんでも。
!
まさか、これは、俺は頭によぎった事を確かめてみる。
「もしかしておっさんの頭の中身は」
おっさんが持っていた剣を手に取り不本意だが頭の中を切り裂いてみる。
「あああぁぁぁ」
切り裂いたら脳みその部分がやわらかい黄色の物体に変わっていた。
「甘いプリンの匂いがするな、これってもしかして」
これって間違いない、プリンだ。
でもどうして? もしかして、もしかして俺の特殊スキルって。
「俺の即死スキルって脳みそをプリンに変える能力だったのか!」
俺は絶叫をあげた。
まさか まさかな、俺が使えるチートスキル能力が脳みそをプリンに変える能力だったとは。
なぜこのような事が出来るのかわからないが、実はプリンにはトラウマがあるのだ。
幼い頃好きだったプリンを食べながらテレビアニメを見ていた。
子供向けのアニメ番組だったが、敵が頭をプリンにしてしまう光線銃を使って街中の人間を変えていくと言う話の内容の時があったのだ。
脳みそをプリンに変えられた人々は次々と倒れだし、生きているのだが動けないでいる。それも意識がある状態で。
そのアニメを見ていたら怖くなってしまい、好きだったプリンが食べられなくなってしまったんだ。
幼い子供の時だった。見た時の衝撃は大きかった。
アニメの話では最後に主人公側の博士が直す薬を使って全員助かったのだけど、俺には怖くて衝撃が大きく心の中に傷が残った。
アニメのタイトル、キャラは覚えていない。しかし話の内容は覚えている。
今だったらどんなアニメだったかネット検索で探せるかもしれないが、その事さえ怖くて調べることもできなかった。
脳みそをプリンに変えられたら死んでしまう。そんなことをされたら怖すぎだ。それしか頭に残っていない。
成長する次第によりその意味の怖さも知ってか、完全にトラウマになってしまった。
脳みそをプリンに変えられるならばどんな生物だって生きている者などいないだろう。いわば最強の能力と言って良いと思う。
もしかして、この異世界に来て異能と言う形で俺にできてしまっているのか?
どうしてだかわからないが、できるようになってしまっているみたいだ。
「ハッ」
俺は混乱していたが、急に腹が痛くなって正気に戻った。
「おおお お腹が痛い」
それも完全な下痢状態だ。
こ これは金色の林檎を食べたせいではないな、恐らく、おっさんからもらった干し肉が原因だ。やはりあの干し肉は腐っていたのか。
「ウゥゥ ちくしょう」
俺は隠れるように草むらの茂みに入り用を足す。それから一晩中、下痢に悩まされた。
追加教訓、異世界で人からもらうものはなんであれ絶対に食わない事を誓った夜だった。