第29話 不思議の国の貴族街
ドアノブに手をかけ店の中に入る。
「カラン、カラン」
「いらっしゃいませにゃ」
! にゃ、語尾ににゃとはいったい。
店内に入ったら中学生くらいの猫耳の付いた獣人の女の子がいた。
上半身お臍が出ているかわいい水色の上着を着用し、短めのひらひらしたピンク色のスカートを履いている。
この見た目って犯罪ではないのって言いたいくらいかわいい猫の獣人さんが現われた。
えぇ、これって夢ではないのか?
俺が理想を描いていたかわいい獣人さんが目の前に存在するのだ。
お持ち帰りしてモフモフしたい。
「人間の貴族の方ですかにゃ」
「あぁ、そうですが」
「申し訳ないにゃ、当店は獣人専門の店ですにゃ。
人間さまはお断りしていますにゃ、どうぞお帰りくださいにゃ」
「・・・ あぁ、失礼した」
すぐさまお断りを入れられ、店を追い出されてしまった。
あっという間に追い出されてしまったか、もう少しだけあの猫の獣人を見ていたかった。
かわいい猫の獣人に言われれば何も反論もできずに従ってしまう。
かわいいって事は自然の摂理だろう。
こればかりは仕方ない甘んじて受けとめようではないか。
意味不明な事を考えながら、脳内メモリーに保存してあとで楽しむことにする。
想像するだけは楽しんでも良いだろう。
おっと違う違う、今日は服を買いに来たのだ。
余計な事は考えてはいけない、あとでこれは楽しむのだ。
次の店に急ごう。
! そうかこの異世界って人間だけではなかったのだな。
今更ながら気づいた。獣人にも貴族はいるんだ。
まぁ、そりゃそうか、しかし種族同士が違うと買い物もできないのか? これも貴族特有の事なのかな?
これってもしかしてここで買い物をするのが、一段階ハードルが高くなってしまっていないか? こりゃ困った事になったぞ。
しかし、さっきの猫の獣人の女の子かわいかった。
スカートに穴を開け尻尾が出ていたのをきっちりと確認してしまった。
獣人て尻尾どうしているのか前から気になっていたんだよ、もう少し詳しくどうなっているのかみて見たいと妄想にふける。
いかん、いかん、次の店に移ろう。
次の店に行って見る。
? 窓越しから見ると子供向けのかわいい服が多く並んでいる。
興味を引いたので近寄って窓越しから見ていたら、中から小さな女の子が出てきた。
違った女の子ではなく老婆の女性だった。
「何か用かね人間さん」
「いや、別に用と言う訳ではないけど」
出てきた小さな女性は、ひらひらしたかわいい黄緑色の子供服を着た年老いた女性だった。
たぶんだが小人族の老婆の女性だと思う。
一瞬、「プッ」と拭きそうになるくらい驚いたが何とかこらえ冷静さを保つ。
あきらかにこの小人族の老婆は俺から見た感じ服が全く似あっていない。
かなり浮いている存在に見えるな、俺以上に浮いている感じがする。
「そうかい、洋服を探しているのだったら隣に人間の服を扱っている店があるよ。
ちょっと風変わりしているけどね。
たまに人間が子供用に買いたいと言ってくるけど、ここはホビット族専門の店だからね。
ホビット族以外は絶対に売ったりしないから、そこんことあんたわかっているのかい」
「そうだったんだ、それは失礼した。
外から見てかわいらしい服が並んで見えたから、ちょっと気になってしまったのだよ、失礼した。
隣、隣ね、そちらに行くとしよう。
お邪魔しました」
「ふん、そうかい、いくら貴族の人間さまでもここでは絶対買い物ができないからね、そこんとこ覚えておきな」
そう言って小人族の老婆は店内に戻ってしまった。
ふぅ、驚いたな、小人族? ホビット族とか言っていたな、気が強さそうな口長で話していたけど、あんな種族もこの世界にはいるのだ、異種族でああ言う存在が居るとこを覚えておこう。
しかし、あの小人の老婆、本当に服装が似合ってなかった、どん引きしてしまったよ。
「気を取り直して次の店に行くか」
そう思っていた時にピエロが目の前を通りすぎた。
? 眼を擦りながらもう一度見直す。
どう見てもピエロだな。
! いや違うピエロじゃない。
もしかしてこいつ貴族なのか? 後ろに2人ほどメイドの格好をした従者を引き連れている。
中年の太った男性がピエロの格好をして歩いているのだ。
恐らくこいつは貴族だと思う。
18世紀のヨーロッパ風の首にエリマキトカゲのようなヒラヒラのセンスに似たような襟首をつけているのだ。
派手な赤と金と白色の模様が入った上半身の服、そしてなによりもかぼちゃのような膨らんだズボンを履いている。
膝辺りまで膨らんだ赤と白のストライプの入った派手なズボンを履いているのだ。
靴下は履いていないが先が長く丸いボールのようなモノが付いた赤い靴を履いており、まさにピエロの靴と言った感じなのだ。
頭には小さな黒い三角の帽子をかぶり、顔にペイントは塗っていないがどこぞのサーカスのピエロが来たと思える服装をしている。
マジかよ、この世界の貴族って中世のヨーロッパ貴族主義時代のバリバリの世界観と同じ服装をしているのか。
いや違った、貴族ではなく王族が着用している服装だったかな。
まぁ、どちらでも似たようなもんか。
しかしあのおっさん絶対に俺より浮いているぞ、俺があんな格好してたら恥ずかしくて町なんか歩けない。
この世界ではあのピエロのような格好が貴族の定番な服装だと考えられるのか?
美的センスの価値観など時代によってかわるのだから、あり得る話だな。
俺はそのピエロをじろじろ見てしまっていたが、気にした様子もなく歩き去っていった。
あまり見ていると因縁を付けられたかもしれない。
幸いトラブルが起きなくて良かったと安堵する。
最初にこの街に訪れた時もそれなりに驚いたが、それ以上の衝撃が走っているぞ、この貴族街なんかおかしい?
いや違うな、今まで見ていなかった事がただわかって来ただけだろう。
この異世界では俺の美的感覚と価値観がまったく違うのだと改めて判断する。
もしかして俺が着ている仕事着のスーツってこちらの世界でかなり浮いているのかな?
変わった格好をしているから貴族と思われている?
そんな気がしてきてならなかった。
いやー、たまたま見かけた変な格好をしているおっさんだろう。
まだあのおっさんが貴族と言う確証がないし、もう少し散策して判断を仰ごう。
! おっといかん、いかん、目的が違ってきている。
エルフの少女たちの服だ。服を買いに来たのではないか、せめて一着だけでも買わないといけないだろう。
それじゃ先ほど小人族の老婆に言われた隣の店に入ってみるか。
? 隣の店だったよな、店がない? 店がないのではないか?
白い建物に大きな黒色の扉が見えるだけなのだ。
それも直接壁に扉が付いており取っ手がなくどうやって開けるのかもわからん。
確か隣は人間の洋服を扱っている店があると言っていたはずだけど、あの小人族の老婆、確かにこちらの方向を見たのでここで間違いないと思うのだが。
俺って不思議の国に迷い込んでしまったのか、意味不明な事が見えてきて混乱してきたぞ、魔法と言う存在があるのだ、ある意味不思議の国に迷い込んでしまった事は確かかもしれない。
とりあえず目の前にある大きな黒い扉をノックしてみるか、怪しさ満点だけど服が買える店があるのかもしれないので確認だけして見る。
この貴族街で買い物できるか不安になってきたのだ。
「コン、コン」
どうやら返事が返ってこないな。
良かった返事が返ってこないで、なぜか安堵した。
ここには何もなかった、さっさと移動しよう。
しかし、後ろを向いた瞬間に誰かに手を掴まれた。
うわ、冷たい、俺の手を掴んでいるのは誰だ?
俺の手首を掴んでいたのは25歳前後の黒髪を長く生やした赤い眼をした美しい女性だった。
それも黒づくめでいわゆるゴシックロリータのファッションをしている。
いつの間にか大きな黒い扉が両開きで開いているのだ。
扉の中を見て見ると真っ暗で何も見えない、漆黒の闇があるように思える。
「ようこそ貴族のご仁、わが園ダーククリムゾンへようこそ。
さぁ、中に入って楽しんで言ってちょうだい」
何を言っているんだこの女性は、楽しんでいっててなにを楽しむのだ。
全身黒ずくめのゴシックロリータの姿をしている美しい女性はににこやかに笑った。
笑った瞬間に赤い目が少しだけ光ったような気がした。
えっ? この人って人間? まさか、赤い目をしているよね。
それにやけに白い肌をしている。
手首を掴まれた瞬間やけに冷たかった。
人間でないのは確かだな、まさか吸血鬼?
そんな考えが頭によぎった。
吸血鬼がこの世界にいるとは聞いてないけど、おそらく俺の勘違いでちょっと変わった人肌が冷たい人間であろうと考え直す。
それに昼間だし日差しがあたっているので吸血鬼なわけがないだろう。
店の名はダーククリムゾンと言っていたけど物騒な名前をつけていないか。
漆黒の赤い広がる模様? 闇の血が広がる園とかそんな感じの意味ではなかったのか。
単なる変わった店の名前だよね、深い事は考えてはいけないな。
ここってゴシックロリータ系のファッションのお店なのかな、前向きにとらえよう。
まずはこの黒い扉の中にある店が洋服やである事を確認しないといけないかそれとも何か如何わしい店なのか。
それはそれで気になるけど今は服を手に入れるのが先決だ。
如何わしい店だったらあとで来るので一応確認だけしておこう。
「あ あの奇麗なお姉さん、手を放してもらえないかな」
「ウフフ、奇麗だなんて、ありがとね、貴族のお兄さん、それはそうとあなた素敵な服を着ているわね、肌触りも最高だわ。
私のお店で扱っている服よりは劣るけど、良いセンスの服を着ていると思うわよ」
いつの間にか俺の後ろを取り、抱きついて服を確認している。
俺の事を興味を持って抱きついているのではないな、珍しい俺の服を見ていろいろ触ってくる。
抱きつかれているのは嬉しいのだけど、服などより俺に興味をもってほしいと思ってしまった。
「あの抱きつくのやめてもらえませんか」
「ウフフ、残念、嫌われちゃったみたいね」
「えぇと、そういう訳でもないですけど、ここって洋服店なんですよね」
「ええ、もちろんそうよ、なにかおかしい事があるかしら」
ありすぎると思うけどなんて言って良いのかわからない。
「隣の人から洋服店だと聞いて来たのでね、でも外から見えなかったので疑問に思った次第です。
それでとりあえずノックしてみたんです」
「ウフフ、そうだったのね。
! あら、貴族のお兄さん、後ろにいるエルフはあなたの従者かしら」
「そうだけど、実は彼女らの服を探していてね、良かったらここで服を売ってもらえないかな」
そう言ったとたんに女性は怖い顔をして俺を睨んできた。
「ごめんなサイね、ォ兄さん、ここではエルフに売る服はないわ」
黒いゴシックロリータの服を着た女性は口調を変え禍々しい雰囲気を漂わせ始めた。
なんだこの妖気、あきらかにこの女性は人間ではないだろう。
「ゴクリ」
俺は恐ろしくて唾を飲み込んでしまった。
「ウフフ、ごめんなさいね、驚かせてしまって、貴族のお兄さん。
あなた一人だったら歓迎するのだけど、ここではエルフは厳禁なのよね」
見た目と口長があきらかに変わっている。
「失礼するわね、貴族のお兄さん」
そう言って黒い大きなドアを閉め素早く消え去ていった。
ドッペルゲンガーか何かか?
最初に見た黒いゴシックロリータの服装を着た奇麗なお姉さんがまさかの貞子に見えたのだ。
気のせいではない間違いなく貞子に見えたんだよ。
なんて恐ろしい光景を見てしまったんだ。
それに黒いドアの中へ吸い込まれるように消えていった。
いったいここはどういうところなんだ。
貴族街? 不思議の国と間違っていないか?
ここで買い物するのは俺にとって至難の業ではないかと思えてきたのは気のせいなのか。
と とりあえずもう少しだけ頑張ってみよう。
その後、何件か店を回ったが人間のやっている店ではエルフの少女たちは当然のごとく入れず、また店内では同じようなぼったくりにあい、それも最初に行った店よりも品質が悪く値段が高いと言う最悪な事をされた。
あきらかに売る気がないのではと言う行為をされたのだ。
他種族の店では当然な事にお断りをされてしまった。
一件だけエルフの専門店があったが、先にサレンさんが気づいてそこに入るのは辞めて戴きたいと懇願され入るのをやめてしまった。
同じエルフ族だったらと思ったが、今の貧相なローブをまとっているからサレンさんたちが躊躇するのは当然だろう。
気が利かず悪い事をしてしまったなと反省する。
結局何も買えないのかよ、最初の店に戻ろうか、高くてもお金を出せば買えるのだろう。
でもあれだけ去勢を張って出て行ったのだから今更行けやしないか、ちょっとだけプライドが邪魔をする。
仕方がない、レイズさんの書いてくれた紹介状を使いニュートピアって店で買い物をしよう。
場所はすでにわかっている。
いろいろと小売店をまわっている時に赤と白の色をした大きな建物が見えたのだ。
おそらくあそこがニュートピアって店だろう。
他にあった小売店舗と違って何倍も敷地面積があり、かなり大きな店を構えている。
デパートって言って良いのかな、それにその店には人が多く来ていて、それもさまざまな人種が出入りしている。
貴族ではなく一般人らしい人も見かけるのだ。
先ほど見たピエロのようなおっさんは、やはり貴族だと思って良いな、同じような格好をした人たちが従者を引き連れ店の中に入っていく様子が何人か見えたのだ。
とりあえず入ってみるか、紹介状があるのだ、なんとかエルフの少女たちを入れてもらう事にしよう。
他の貴族の人たちも従者を引き連れ入っていったからたぶん大丈夫だろう。
最悪駄目だったら、クロートさんから預かったこの貴族の証のペンダントを見せ権力を行使し脅してでも入れてもらうのもありかと思ってきた。
とりあえず紹介状を持って中に入ってみるか、どうなるかわからないがレイズさんを信用してみたいと思う。
あっ、しまった、まともな服が売っているのかそこが問題だった。




