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第25話 奇妙な人たち


 「サレン、あなたとしては珍しいですね。あのような態度をとるなんて」

 アニスさんが声をかけた。


 「どうにもこうにもないですわよ。ご主人さまは仮にも貴族なのですよ。

 それを一介の宿屋のオーナーが呼びつけるとは、どういうことですか、失礼にもほどがありませんわよ」

 「それはそうですが、ご主人さまは気にしていない様子でしたし、私が思ったのはあなたがアンドウ様を主人として認めているような言い回しをしたのが気になりましたのよ。

 キースに対しては表面上とりつくろっていただけではないですか」

 「それは、あなたも同じでしょう。

 奴隷魔法の解除をおこなってもらい、エリクサーを使って耳を直してもらった恩義はあります。

 恩義があるからこそ、私はあのように言ったのです」

 「確かにそれもありますでしょうが、あなたが誰かに対して感情的になる事なんていままで見た事がなかったから、私、驚いてしまいましたの」

 「別に良いでしょう。私だって感情的になる事だってありますよ。

 恩義がある人が見下されたように感じたので、怒るのは当然でしょう。

 この世界は見下され、それを受け入れた者が淘汰される。そうですよね。そこが歯がゆく感じたのです」

 「そうでしたか」

 「キースと決闘して勝利し、冒険者ギルドでのあの振る舞いを見れば当然に思いますよ。

 あれだけの力をありながら見下されるとは許せません」

 「はいはい、そう怒らないで、でもそれは仕方ない事なのでしょう。

 他の国からやって来たのでは作法や考え方が違うのは当たり前ですから。

 特にご主人さまはうそがお嫌いなようで、その事については譲れないみたいだけど、その他はおおらかに対応してくれますから、私たちも、同じ考えにあわせましょう」

 「それは、そうなのですが・・・」

 「そういえばターナ、あなたはご主人さまと朝から何をお話されていたのかしら」

 「そうでした。ご主人さまから言い使った事があります」

 「何かしら」

 「お給金のことです。1日、金貨1枚で300日の3年間ほど私たちを雇いたいと言っておりました。

 私はすでにお受けしてしまいました。

 2人にその金額で雇わせてもらいたいとお話してと言われました。

 3年間は働いてもらいたいと言う事です。

 そのあとは私たち次第で契約の延長をすきにしてくださいと言われました。

 引き続き、同じ金額を出してくださるそうです。

 仕事の内容は身の回りの世話をやってもらいたいと言っていました。

 特に言葉の魔法をかけてほしいと言う事です。

 あとは、できましたら魔法を誰でも良いから教えてもらいたいと言っていました。

 それから魔法の収納カバンと適当にキースが持っていたアイテムをほしければ譲ってくださるそうです」

 「仕事の内容は最初に話された内容と同じですね。しかし1日、金貨1枚で雇うとは」

 「本当の事ですか! 1日、金貨1枚とは破格な金額ですよ。

 ご主人さまは何を考えているのでしょうか?

 どんなに高くても人を雇うのに1日、銀貨3枚出してくれる人がいるかもわからないのに」

 「私もびっくりしました。でも別に良いと言う話です。

 アイテムを整理していたらエリクサーが入っていた箱があったのですよ。

 それでエリクサーを試しに使ってみるかと言われたので、私なんて答えて良いかわからなくて困ってしまったのです」

 「そんな事があったのですか」

 「はあ、ご主人様ってホントに何を考えているのでしょう。私には理解できません」

 「ターナ、どうして私たちを起こしてくれなかったのですか」

 「それはご主人さまがゆっくり寝かせてやりなさいと言われたのですよ。

 私も起こしてくるとは言いました。

 けど寝かせてやってあげなさいと言われれば、従うしかありません。

 それに私にも2度寝して良いと言われたので」 

 「そうだったのですのね。ご主人さまには気を使わせてしまったようです」

 「確認しますが、1日、金貨1枚出すと言うのは本当の事ですか?

 それも魔法の収納カバンまでもらえると言っていたんですよね」

 「はい、言いました。給金を用意するために、お金の整理をはじめたみたいです。給金と魔法の収納カバンはもらっています。

 これですよ、かわいいでしょう。えへっへっへ」

 「ターナ、見せてくださる。

 これって、プレゼント用に装飾品をあしらえた、貴族御用達の魔法のカバンではなくて」

 「にたようなカバンが3つもありました。

 そのひとつをいただきました」

 「そうだったの」

 「どれでも好きなのを選んで良いと言われましたから、この紫色のカバンを1つ私は戴いたのです」

 「ほんとうに、かわいいポーチじゃないの、他のはどういうのがありましたかしら」

 「金色の装飾品がついた赤色と、黒のカバンがありました」

 「そうなんだ赤と黒のカバンね、興味がひかれますわね」

 「魔法のカバンどうしは入れられないので、別の袋に入れておいておくと嵩張るから邪魔だから使ってと言われたので遠慮なく戴きました」

 「神宝級のエリクサーを私たちに使ったり、1日、金貨1枚、到底考えられない破格な金額で雇う。

 それに貴重な魔法の収納カバンを譲ってくださるとは、私には勿体なくて考えられませんよ」

 「ご主人さまはどういう感覚をしているのか、興味が湧いてきましたわ」

 「アニス何を言っているの感覚の違いとかそんな事じゃないと思いますわ。

 エリクサーですよ。それに魔法の収納カバンを譲ってくれるなど、誰もいないですわよ。

 はじめてあった人が、あかの他人の私たちにそれほどの価値があると思うのですか。

 親族にだって貴族御用達の魔法の収納カバンなんて渡しませんわ」

 「私は別にもらったとは思っていません。何か御座いましたら、お金と魔法のカバンを返すつもりです。

 奴隷契約の魔法と耳を治していただいただけで十分です」

 「ターナ、あなたは謙虚な子ね。

 魔法の収納カバンがいくらすると思っているのですか?

 金貨何千いや何万枚出しても欲しい人がいるのですよ。

 売れば一財産築けるのですから」

 「そうよね。魔法の収納カバンは商人がのどからでるほど欲しいアイテムですから」

 「そうですよ、でも不思議だわ、魔法の収納カバンは特殊な魔法をかけないと本人以外はつかえないのですよね」

 「ターナ、あなた今そのカバンを使っているのですか」

 「はい、使っていますよ」

 「金貨を1枚だしてもらえないかしら」

 「はい。これですね」

 「本当に出し入れ出来ている!」

 「私に使えるか試してくださらないかしら」

 「はい、どうぞ」

 「・・・ ・・・ ・・・ やはり入らないわね。

 そのかばんはターナが契約者となっていますのね。

 ターナあなたは契約の魔法を使ってカバンの所持者になったのですか?」

 「いいえ、別になっていませんよ」

 「どうしてかしら契約しないと使えないと思ったのだけど、貴族用のプレゼント用だから初期値がリセットされていて渡されたものが所有者になる魔法とかかかっていたのかもしれないわね」

 「ターナ、見せてくださいまして有難う、お返ししますわ」

 「はい」

 「ターナは運が良かったわね、魔法の収納カバンを使うのに特殊な魔法をかけ、契約しなくていけないからたいへんなのですよ」

 「そうだったのですか」

 「ええ、所有者以外が使えないようにしてあるのがほとんどですから」

 「そうなのですね。知りませんでした」

 「給金も良いし、魔法の収納カバンをもらえるのでしたら私も雇われてもいいわ、サレンあなたはどうするのかしら。

 今すぐにでも国へ帰りたいのではなくて」

 「確かに帰りたい気持ちはあります。でも奴隷契約の魔法を解いてもらいました。

 それにエリクサーを使って耳の再生も、その分の恩は返したいです。

 国へ帰りたいと言うのは本心であります。

 それに今私が帰っても、力ない私には、なにもできないと思います」

 「そうかもしれないわね。

 それもありますが、あなたたち、今私たちに起こっている異常な現象を知っていますよね」

 「ええ、私たちに掛かっている魔法の事でしょう」

 「魔法ではない異能と言っていいわよね」

 「異質ですね。呪いの類と言ってよいのかしら」

 「もっと恐ろしい力に感じます」

 「確かに、冒険者ギルドで使ったご主人さまの魔法、異能と言うべき力ですか、それも死を呼び寄せる異能」

 「あっていると思いますわ。その異能が私たちを守るように使われていることがわかります。

 言って見れば神が施す加護のような形で私たちに使われていますわ」

 「確かに、恐ろしい加護ですね。でも私たちを守ってくださるなら私は、良いのかと思っています」

 「それはそうですわね。ちょっと怖いけど私もなぜか受け入れてしまっているのですよ」

 「ターナは怖くないのですか」

 「私は怖くはありません。ご主人さまがくださった加護です。

 怖いはずがあるわけないですよ」

 「ターナは良心的に捉えているのですね」

 「はい、ご主人さまがくれた加護ですから」

 「前向きなあなたが、羨ましいわ」

 「? どういう意味ですか、アニスさん」

 「なんでもないわ、ターナは気にしないで」

 「?」

 「もう一つ大事なことがありますわよね。

 「ええ、ご主人さま、自身の事ですね」

 「ご主人さまってヒューマン族ではないでしょう」

 「確かに、見た目はヒューマン族に似ていますがまったく異質な存在です」

 「もしかしたらエルフとヒューマンのハーフなのかと思ったのですが、ハーフだと特徴がエルフ族の色が特に濃く出ますよね。

 それがまったくでていません。

 そう考えるとやはり元から違う種族だと思います」

 「そうですか? 私はエルフのハーフと思っています。

 内包されている魔法力はエルフに匹敵しますよね。

 私たちが知らないだけでエルフの血を濃く残しているヒューマンはいるわ。

 まれに取りかえ子とか言われて、ヒューマン同士からでもエルフや獣人の子供が生まれて来るじゃないの」

 「祖先の血筋で交わりのあった者から稀に生まれてくると言う」

 「ええ、生まれた時に異形の者だとして処分してしまう話を聞いた事があるわ。

 確か混血の血がまじるエルフからもヒューマンが生まれて問題になった話があったわね

 「確かに、もしかして見た目がヒューマンでもご主人さまってエルフなのではないでしょうか?」

 「東の異境からやってきたみたいですから事情は私にはわかりませんね」

 「可能性はあるかもしれません」

 「ターナ、あなたは朝から2人きりで話したんですよね。

 なにか気づいたことはありませんか?」

 「私はヒューマン族ではないと思います。エルフでもないと思います」

 「そうなの、エルフ始祖の血を引くあなたからはそのように感じるのね」

 「はい、ただ、サレンさんと同じ匂いがするのですよ」

 「私と同じ匂いですか?」

 「サレンと同じ匂いってまさかあのお方と同じ」

 「まさかでも、そんなことは」

 「あなたの祖父って素性がわからないのでしょう。

 それもエルフよりも長寿で長生きしていると言う。

 今も現役で、故郷に帰る方法を探し旅をしていると聞くわ」

 「私の祖父と同じ、異境の流れ人」

 「それだと、つじつまがあうわ」

 「でも、わからない、わからないわ」

 「サレン、落ちついて、ご主人様の事はしばらく様子を見ましょう。

 いずれ何者か、わかるかもしれません」

 「・・・」


 一階のロビーに行きオーナーに紹介される。

 オーナーを紹介されたのは良いが、なんだこのトサカのたった姉ちゃんはと言うのが第一印象だった。


 全身ツートンカラーの白と赤の燕尾服の服装で、青色の長い髪の毛が天井を挿すよに逆立っており、それも先端に赤色のメッシュを入れ染めているのだ。

 それに眼もととまぶたに赤いアイラインが書かれている?


 ガスの炎をイメージさせる印象なのだ。

 道化師みたいに見え、バカじゃないのこいつと思っている。


 「アンドウ アカリ様、今日は良き日ですね。

 あなたに会えた事を光栄に思います」

 「安藤です、よろしく」

 「私の名前はルグ・レイズ、当ホテルの支配人をやっている者です。以後お見知りお気を」

 なんか話し方も変わっていない? 変質者ではないよね?


 ! このレイズと言う女性、あいさつはするのだが頭をさげることはしないんだ。髪の毛を立てているので重くてできないのか。


 確かこういうパンクな格好をした人って頭を下げるのは大変だと聞いたけど、首が腱鞘炎になったりするんだよね。

 でも、髪の毛を逆立てている人って、ちょっと違う意味あいがあると聞いた事がある。


 人に頭を下げるのが嫌だからわざとこんな格好をしていると聞いたことがあるんだよな。

 頭をどんな人に対しても、下げたくないから、下げられない髪形にわざとセットしていると言う。


 それが本当かどうかは知らないけど、印象が悪い。

 俺はこの宿屋にお世話になる身なので、とりあえずあいさつと用件はきっちり話しておこうか。


 「アンドウ様、私に何か御用でございますか?」

 「突然の訪問で悪かったと言いたかった。

 クロートさんから聞いていると思うが、キースが所持していた物はすべて俺の物になった。宿屋の利用も俺ができる契約になったので、確認したくてね」

 「クロートから、すべて聞きおよんでおります。アンドウ様にはごゆるりと当ホテルを利用できますのでご安心くだしまし」

 かんだなこいつ、俺に対して緊張しているのか。


 「それで聞きたかったのだが、この宿屋あとどれくらい日数を利用できるのだ」

 「アンドウ様におかれましては、当ホテルで42日ほど滞在の許可が契約で通っております。

 期間内は当ホテル従業員一同精いっぱいサービスを心得ます」

 「なるほど、ありがとね、それじゃお世話になりますかな。

 で、何点か聞きたいことがあるのだが質問をよろしいですか」

 「何なりとお聞きください」

 「キースってここの宿泊料いくら払っていたのかな」

 「クロートより金貨1枚ほど戴いております。 

 当ホテルの利用で金貨一枚も戴いており有難いと思っております」

 「金貨1枚! それって1日、金貨1枚って事だよね」

 「そんなめっそうも御座いません。1年契約、金貨1枚、100日でのご利用です。

 アンドウ様におかれましては高すぎたようですかね。ですがこちらとしてはこれ以上は難しいと考えております。

 どうかご配慮をお願いします」

 ええぇ、まさか金貨1枚で1年契約の100日、それもクロートさんがお支払いしたと言っていたけど、いくら安く借りられたとはいえ安すぎじゃないか。


 これじゃ何か従業員が不都合な事を俺にしても文句を言えないよ。

 キースの馬鹿野郎、たった金貨1枚しか出していないとは食費代にもならないよ。


 いや違うか、クロートさんが出していたのだから、あの野郎1円たりとも出してはいなかったのだろう。

 まったくもって、本当にクソ野郎ではないか、やはりここは賄賂を渡しておいた方が良いな。


 「オーナーに渡したいものがある。これを受け取ってくれ」

 俺はとりあえず、金貨100枚入った布包みを渡した。


 「アンドウ様これはどういう事ですか」

 「食費代だ。特別に用意してもらっているのでそれなりに出そうと思ってね。受け取ってくれるかな」

 「当ホテルとしては助かりますが貴族のあなた様が出すのですか」

 「俺の国では、最低限の支払いはするのだよ。貴族の面目ってものがあるんでね。

 お金のない貴族ってのは恥ずかしいだろう。

 気兼ねなく、受け取ってほしい。

 足りないようだったら追加で言ってくれ」

 「面目ですね、受け取らせてもらいます」

 「それでちょっと頼みごとがあるんだが良いかな」

 「当ホテルで出来る事があればなんなりと申してください」

 「3人のエルフの娘をここへ連れてきただろう。知っているな」

 「存じております」

 「昨日、俺が奴隷契約の解除をおこなった。今は従者として雇っている」

 「! 左様でしたか」

 「昨日は裏口から入れさせてもらったが、これからは正面玄関から入らせて戴きたい」

 「! 奴隷契約の魔法を解いたとしても、エルフ達には奴隷の印が残っているのでしょう。当ホテルでは難しいと考えます」

 「それについても問題はない。先ほどエリクサーを使って治した。見た目的には問題はまったくないはずだ」

 「ハッ! エ エリクサーですか?」

 「そうだが何か問題はあるか」

 「いいえ、めっそうも御座いません」

 「今日は彼女たちの服を用意したいと思う。服装を変えれば目映える問題はなかろう」

 「左様で御座いますね」

 「それじゃ頼んだよ。

 あと食費代を渡したが、今日、提供された食事の内容で問題はない、特に追加とはしなくてもいい。欲しい時にはこちらから話す。もちろん金もだす」

 「左様ですか」

 「それと、靴をサンダルでも良いからエルフの娘たち用に用意してもらえないだろうか。

 ここへ来るまで裸足で来たようなのでね。

 買い物でそろえるまで用意してもらいたいのだ。

 以上が俺の頼みたいことだ、よろしく頼む」

 「心得ました。当ホテルをよろしくお願いします」

 「もう少したったら出かけようと思う。帰りは夕方になるだろう」

 「心得ました」

 この女性一度も俺に対し頭を下げなかったな。やはりそういうスタイルなのか、なんか気に入らないな。


 話はできたのでひとまずはこれで良しとしよう。



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