第24話 役得って事
おそらくだが勘違いしているよ。
人を甚振って、快楽を求める趣味などは俺にはないよ、絶対に勘違いしている。
ドアを閉め早々と従業員達は出て行ってしまった。
今頃、外で何を言われているかわからない。守秘義務厳守って言ってもこういう類の話は誰かが話してしまうだろう。
この宿屋に泊まっている貴族は頭のおかしいやつだと認識されるだろうな。
今となっては言い訳も遅いので諦めるしかないか、そんな事よりも3人のエルフの少女たちはどうなったかが気になる。
急いで3人に近寄って確認してみる。3人とも人間の耳くらいまでの長さまで再生しているな。
ターナさんはすでに魔法の詠唱を解いて両手を床に付け鵜灘られているのだ。かなり疲れきった様子でいる。
サレンさんもなぜかやりきったと言う感じで天を仰いでいて、アニスさんはぐったりと横に倒れている状態だ。全員疲れた様子で息をきらしている。
サレンさんとアニスさんの耳はエルフとわかるくらい長く先が尖った状態まで戻っている。
赤かった色はピンク色に変わってそのうちもとの肌色に戻りそうな感じが見受けられる。
露店街で見かけたエルフ達とは耳の長さが違うか、特に奇麗なエルフの男性を見た時は、かなり耳の長さが長くてピンと立っていた。それに比べて見れば短く感じられる。
痛々しく切られた感じはなくなったので、それだけでも良いと思うのだが本人たちはどう思うのだろうか。
しかし問題があった。サレンさんとアニスさんの2人の耳は長さがあるのだが、残念な事にターナさんは人間の耳くらいしか再生ができていなかったのだ。
人間の耳くらいで先がちょっと尖ったくらいの大きさなのだ。
俺としてはこっちの方が長さ的に似合っていてかわいいと思うのだけど、こればかりは本人が思うところだからな。そう考えると残念に思えた。
エリクサーが1つしかなかったのだから仕方ないのだ。
1人だけに使っていたら完全再生は出来ただろう。そこが悔やまれるな。
サレンさんとアニスさんの2人の耳が長いのでこれはやりきれない。
もうちょっと忖度してエリクサーを多めに付けてあげても良かったと思う。
3人に声をかけてみる。
「かなり疲労しているように見えるけど、君たち大丈夫かい」
俺の問いかけにターナさんが答えた。
「大丈夫です。ちょっとだけ疲れました。
私の耳はどうなっていますでしょうか?」
ターナさんはサレンさん達の耳を見て期待度が高いように聞いてきた。この返答には俺には答えずらい。
部屋には女性用の鏡台がある。鏡台があるから見てきたらどうかと声をかけた。
3人は一斉に鏡台に向かった。大きな鏡でそれぞれ耳の状態を確認している。
治っているのがわかるのだが、ターナさんの耳はあきらかに2人より短いのだ。それが心苦しい。
3人とも鏡で映る自分の姿をみて喜んでいるようだ。
ターナさんも喜んでいるが、2人を見ていたらどうなのかなと思ってしまう。
俺は3人に近づき声をかけようと思ったのだがどう言えば良いか迷ってしまった。
そんなさなかターナさんが俺に声をかけてきた。
「有難う御座います。ご主人さま」
そう言って俺に抱きついて来たのである。
おぉ、これって役得ではないか。
ターナさんってやっぱり活発な女の子だったんだな。
嬉しさのあまり俺に抱きついて来るとはね。
俺に抱きついて来たターナさんに対して俺も抱きしめてしまった。
どさくさにまぎれて「直って良かったね」と言いながらお尻を触ってしまう。
ついでに匂いを嗅いで良い匂いを堪能する。これくらいの役得があっても良いだろう。
ターナさんてほんとに良い匂いがするんだよな。そう思っていたらサレンさんとアニスさんがお礼お言ってきた。
まずいお尻を触っていたのを見られてしまったのかなと、でもなぜか俺の手はまだターナさんのお尻を触ったままなのだ。
「ご主人さま、この度は私たちのような者に貴重なアイテムを使用して下さいまして、有難う御座います。
心からお礼を言わさせて戴きます」
2人はそろってお礼を言い頭を下げる。
なぜかそんなさなかでも俺はターナさんのお尻を触っているのだ。
触り心地がとても柔らかくて良いんだよね。別に尻派ではないけど、なっても良いかなと思ってきてしまった。
「ご主人さま、あの有難うございました。
でもあの、あの・・・」
おっといけないさすがにお尻を触っているのを気づかれたか、ターナさんは顔を赤らめ俯いてしまう。
「3人とも耳が直って良かったね。
でもまだ耳の色がピンク色で肌色にかわっていないし、それに耳の長さが完全には再生していないと思うんだけど良かったのかな。
特にターナさんは2人に比べて短いから、それが心苦しく思うよ。
一応、忖度して多めにエリクサーを塗っていたんだけどどうやら効果がそれほど反映していなかったみたいだ。
とても残念に思うよ」
あっ、しまった余計な事を言ったのかも知れない。
2人よりエリクサーを多く付けていたことを言ってしまった。でも再生が一番悪かったので仕方なかったんだよ。
2人はそれなりに再生したので良いと思うのだけど。
「そんな事は御座いません。十分すぎるほど直りました。
これでエルフの里に出入りなどできるようになると思います。
有難う御座いました」
ターナさんは笑顔を浮かべ嬉しそうに言ってきた。
「そう言ってもらえると俺もエリクサーを使って良かったと思う。
今度手に入ったら優先的に使ってあげるからそれで今は勘弁してね。
あと上位回復魔法 の書も探す予定は変えていないからそれで覚えられたら治そう。
時間はかかると思うけど」
「ご配慮有難う御座います。
本を見つけられる事を期待させてもらいます」
そう俺に対し嬉しそうに笑いかけた。
なんて眩しい笑顔なんだ。
彼女のためだったら何をやっても良いのではと思ってしまった。
これが、俗にいうかわいいって事はすべてが許されるって事なのか。
彼女のためだったら闇落ちしても後悔はしないと思ってしまった。
「良かったね。そうだ、食事の用意が出来ているみたいだ。
いっぱい食べて体力を回復してしまおう」
そう言って3人に食事を取らせてしまう。
朝食は昨日の夜と同じ果物と野菜を切った物だった。
俺にとっては十分すぎるほどの食事の内容だ。
こちらの果物はやはりうまいな、食事は果物と野菜だけの生活をしても良いだろうなと思った。
そう思えてくるくらい果物はうまい、と言うかそれ以外の食べ物を食いたいと思わない。
さすがに屋台で見た料理と露店で売っていた肉と魚を見れば食べたいとは思わないからな。
今日はなぜか3人のエルフ達は朝からバクついて食事を取っている。昨日はもっと汐らしく食べていたのだがえらい違いがあるな。
もしかしたら耳の再生のために体力を使って腹が減ったのかも知れない。
欠損部分が治るのだ。その部分を補なうために体全体からエネルギーを補ってしまったと推測が付く。
しかし、耳の部分が再生しただけであれだけ食うのだから、他に欠損して治したのならばどれだけ体力を使うんだろう。
高位回復魔法 で手足を再生しても体力を奪われてしまい、そのせいであの世に逝ってしまってもおかしくないのではと思ってしまった。
今日は本当に食べるね。
奇麗なエルフの少女たちがワイルドにガッついて食べている光景を見て意味深に思ってきた。
まさかこれがエルフの本当の姿ではないよね。
もしかしてエルフってワイルドな性格だったりして。
俺が思っていたエルフ像と違っているのではないかと思ってしまってきたよ。
そう思いながら俺も食事をとってしまう。
しかしこれからやることも問題な事も多くありそうだな。
それを考えると憂鬱になるんだよ。
食事が終わり彼女たちと話をしようとする。
まずは雇用の給金のことだ。ターナさんとは話したのだが、サレンさんとアニスさんにはまだ話してはいなかった。
ある意味、彼女たちの目的は達成しているんだよな。
奴隷の契約はといたし、耳が治りエルフの里に問題なく帰れるだろう。
そうなると俺って用なしになっているんじゃない。
この世界の人たちって恩義とか感じるのかな。
道徳って何ですかってターナさん言っていなかったか。
それを考えると俺って今の立場的にやばくないか。
寝てる間にこっそり抜け出し、いなくなっている事だってありそうだな、それも仕方が無い事か彼女達の人生だ、俺が決める事ではないんだよな。
とりあえず2人を雇えるか聞いてみるか、ターナさんとは朝方この世界の年数で3年間、300日働くと言うの契約ができた。
すでにお金は支給している。
ターナさんは行くところがないらしいしね。
村が魔獣に襲われ人間界に降りてきたと言うから、現状村がどうなっているかもわからないので帰る場所もなくなっている可能性はある。
そのことは不憫に思うけど俺の元に1人でも残って欲しい。
言葉の魔法を使える者が居なくては、俺ってなんにも出来ないから。ターナさんは残ってくれるはずだ。
ターナさんだけでも居てくれれば良いんだけど、と言うか俺の嫁にもらってどこかか静かな所へ移り住んでしまうのも良いかなと思っている。
それって無理な話かな。
ターナさん次第だしそこが一番難しいところだな、恩義を感じてもそこまでしてくれるとは思えないか。
とりあえず、フラグの一番良いところはとったと思うので好感度は上がっているはず。
ちょっと口説いて見ようかな、考えておこう。
食事が終わったので大きなソファーに座り寛いでいる。
彼女たちもソファーに座って休んで良いと言ったのだが俺のまわりに立っているのだ。
こちらで用がない時には別に休んでいて良いよと言ったのだが、主人と同じような振る舞いは出来ないと言って断られてしまった。
別に気にしなくていいのにな。
立っているのが辛くないのかな。
今のご時世、仕事でも無理な事をやらせないので極力楽な方法を取らせると思うのだけど。
昔は仕事だからと言って何もなくても、立っていろと言う話があると聞いたよな。
それってブラック企業の手始めに入る前触れな兆候かも知れない。だんだんエスカレートして従業員を食い物にする、しみじみに感じてくる。
話があるので座ってくれと言ったらようやく座ってくれた。
こちらも給金の事で話したかったのでちょうど良かったのだ。
話しをしようとした時にドアのノックする音が聴こえた。
どうやら食事の片付けをおこなう従業員さん達が来たみたいだ。
食事前に俺がオーナーと会えるかと聞いた若い女性の従業員が声をかけてきた。
「アンドウ様、オーナーが今しがたロビーにおります。お話ができるとおっしゃっております。
来ていただけますでしょうか」
「そう、それじゃ行こうかな」
と俺が言った時にサレンさんが立ち上がり従業員に対して声を荒々しく話した。
「失礼では御座いませんか。
ご主人様を呼びつけるなんて、オーナーが来るべきではないのですか」
荒々しい感じでサレンさんが従業員に言ったので、ちょっとびっくりしてしまった。
それを聞いた従業員はサレンさんを睨みつけていたが、従業員が俺を見た時、何かに気づきその後に深くお辞儀をして謝って来た。
貴族である主人を宿屋のオーナーが呼びつけたとサレンさんは思ったので声を荒げたと気づいたのかもしれないな。
従業員の女性は申し訳なさそうに深々と頭を下げ、平誤りをしてきた。
俺はそのやり取りを見て、女って怖えぇなぁ、と思ってしまった。女性同士の言い合いは迫力があるんだよ。
サレンさんて物事をはっきり言う人だったみたいだね。かなりの美人さんでいるのだが、ちょっと性格がきつい人かなと改めて思った。
でもターナさんとアニスさんも同じように若い従業員の女性を睨んでいるので、あれこれってほんとに俺に対して失礼な事を言われたので怒っているのだなと実感する。
別に俺は気にしていないんだけど、確かに宿屋のオーナーが貴族の俺を呼び出すと言うのは失礼と言われても仕方ないのか、改めて気づいた。
でも会いたいと言ったのは俺なので従業員の若い女性の人は別に悪くはないよね。
言い伝え方を間違ってしまい悪かったと思ってしまった。
会社ではどうも上下関係のやり取りはそこまでは厳密ではなかった。
気にしなかったのだけど、これからはそれなりに接した方が良さそうだな。
仮にも俺は貴族の準伯爵と言う位についているらしいから。
爵位持ちの貴族は神から与えられた生脱世脱権と言う恐ろしい権限を持っているみたいだから。
とりあえずサレンさんを宥め、俺は魔法の収納カバンを持ち支配人の居るロビーに案内されて行く。
こちらとしては揉め事は御免だ。なるべく穏便に済ませたいのだが異世界ではそうもいかないようだ。




