第22話 エリクサー
サレンさんに青い小瓶を見せたら、手で口を防ぐほどの驚きの様子を見せた。
驚き具合にして、このポーションは伝説のエリクサーのようだ。
サレンさんに直接手渡しで確認してもらおうと渡したのだが、受け取ってはくれなかった。
私には恐れ多くて受け取る資格が御座いませんと、何故か丁寧にお断りを受けてしまった。
ポーションの詳細を調べてもらいたかったのだが受け取ってももらえない。
貴重なアイテムなのはわかるが、詳細を知りたかったのでサレンさんに無理を言って鑑定してもらう
鑑定では間違いなくエリクサーだと言われた。
鑑定するまでもなく、見るだけで特徴があり、魔法に関わった者には誰にでもわかるらしい。
「この小瓶に入っている中身は伝説に称されるエリクサーに間違い御座いません。
容器から漏れ出す光属性の魔力の量がとてつもなく感じられます」
「えっ、そうなの俺には何も感じないけど。
奇麗な容器でできた青い小瓶にしか見えないんだけど、なにかちがいがわかるのかな。」
「間違い御座いません。この輝きこそ証明と考えても良いです。
神に誓ってと断言できます」
「ちょっとまって、この青い小瓶は輝いているの?
俺にはどこからみても輝いて見えないのだけど、本当に輝いているのかな」
「はい、虹色に輝きを放っていますが、ご主人様には見えないのですか」
「! まったく見えないよ、うそは言っていないからね」
「そうなのですか? ご主人さまが見えない理由は、私にもわかりません」
「それはそうと、このエリクサーってどういう効果があるの」
「効果はいくつかあります」
「いくつかって言うのは、複数って事だよね」
「その通りです。文献によれば、あらゆる病気を治す効能があり、どんな傷を負っても瞬時に直せると本で読んだことがあります。
液体をかけるだけで手足の欠損部分も再生すると書いてありました。
私が呼んだ本に記述されている内容では、若返りの効果、不老不死、死んだ者の蘇生ができると書かれてありました」
「なんでも効果ありのポーションなのか、俺が知っている効果とだいぶ違うな。
しかし、サレンさんは詳しいよね。エリクサーの事が書いてある文献て物があるんだ。
なんか他にエリクサーの秘密を知っていたりしてね。
ハハハッ、ハハッ」
冗談のつもりで笑いながら言ったら、サレンさんに怖い顔でにらまれてしまった。
「申し訳御座いません。ご主人さま、この話はエルフの里の重要機密事項でしてお願いがあります。
今、私が話した事を誰にも言わないでくれませんか、特に文献があることは知られたくはないのですよ」
殺気まじりの雰囲気を漂わせながら俺に言ってきた。
凄い殺気だ、なにか秘密がありそうだ、俺も死にたくないので追求するのはやめておこう。
「わかった。エリクサーはエルフに伝わる機密事項なのね。
そう恐い顔でにらまないでくださいよ。
もうちょっとだけ詳細を聞かせてくれたら、今までの事はすべて忘れる事にするからさ、知っている事を教えてくれないだろうか」
「ご配慮、有難うございます。私で話せることをお教えしたいと思います」
「ありがとう、サレンさん。願いね」
「・・・ エリクサーは神が創造したポーションと言われています。
光属性のアイテムの部類に入り、激的に光属性魔法の効果を上げる効能を要しています」
「光属性の魔法効果? 光魔法を使用しないと使えないアイテムなの」
「それには誤りがあります。エリクサーは一部の者を除いて、誰にでも扱う事が可能です」
「一部の者を除き」
「はい、一部の者とは闇属性を扱う者と言って良いでしょう」
「闇属性」
「エリクサーの特徴として、光属性の魔法効果を、特に治癒系を劇的に上げる効果があります。
属性が光でない者でも、エリクサーの属性変更の効果で光属性に変わり治癒能力が劇的に上がると言う効果がえられます。
飲んだ者の属性が光属性に変わる事が出来るのです」
「なるほど」
「光と相反する闇は反発してしまいます。
光属性のエリクサーは闇属性の効果を打ち消してしまいます。
闇属性を扱う者が使用した場合、最悪、消滅してしまう事なども考えられます。
エリクサーを持っているだけで、闇属性であるモンスターのアンデット、ゴースト、レイスなどの魔除けの効果も持っています」
「ちょっとまって、この世界にはアンデットとか幽霊が存在するの?」
「存在していますが、ご主人様の国には居ないのですか?」
「幽霊は見た事がある人はいるらしいけど、アンデットはさすがにいないな。
そもそも死体が動くのがおかしいでしょう」
「そうなのですか? ご主人様の国は徹底的にアンデットの排除をおこなっているのですね。羨ましい限りです。
聖翼教会の信仰が深い国なのでしょうか?」
「聖翼教会? そんな宗教団体は知らないけど、アンデットは確実に居ないと言っておこう
話がそれてしまったね、エリクサーの話に戻そう」
参ったな、この世界にはアンデットがいるらしいぞ、おまけに幽霊も存在しているのか。
「先ほど話した続きですが、エリクサーは光属性のアイテムになります。光属性は神を現す属性です。
それも神が直接制作したと言われるアイテムです。
神が異能を用い神の力が宿らせたと文献に書かれていました。
神の力が宿りしアイテムと言われています」
「なるほど」
神の力が宿りっているのか、それでサレンさんは慄いてしまったのか。
サレンさんはエリクサーの事をかなり詳しいみたいだけど、他になにか秘密がありそうだね。
あくまでわかりやすい情報の一部しか言ってないからね。
エルフの機密事項か言えるはずはないな。
まさか、エルフがエリクサーを作る材料に関係したりしてね。
ゲームや漫画の設定でエルフの血が若返りや不老不死とかになる効能があってそのために迫害やさらわれて材料にされることかあるからな。
こんな話、彼女からしてみれば嘘であっても笑い話では済まされないからな。
サレンさんて魔法関係の研究者みたいなことをしていたのかな。
ターナさんが魔法が一番使え、アイテムの事も詳しいと言っていた。教養があるとも言っていたね。
かなり上の立場ではないとエリクサーの文献が書いてある本など読めないだろう。
もしかして、サレンさんていいところのお嬢様だったりしてね。
一番気品がある感じがするんだよな、その反面ちょっときつい感じもする。
エルフの族長の娘さんだったりして、まさかね。
おっと、今はサレンさんの素性の詮索はやめておこう。
それよりエリクサーの事だな。
要するに神様が作った光属性があるなんでもありのドーピング剤ってやつだろう。
神を信じていないのでまったく理解したいと思わないが、俺の中ではそう結論付けておこう。
まず、魔法力ってのが俺には良くわからないんだよ、これから教えてもらうのだから無理ないか。
俺に魔法力があるのかもわからないし、今持っている青い小瓶が虹色に輝いて見えない、もしかして魔法力がないので見えないのか。
でも言葉の魔法は使えてるみたいだし、魔法をかけてもらった時に緑色の光が見えたから一概に言えない。
あ、それは違うか、魔法力がなくても見えるかは別なのかも知れないからな。
なにか俺に違う事がおきているのか、そもそも異世界人だから見え方が違う可能性があるかもしれない。
! 神、神に関して違う事がおきている? エリクサーって神が制作した物だろう。
俺がキースとの決闘で見た神の使いとやらがどう見ても赤い小悪魔だった。
まわりの居た野次馬は白い天使が降りてきたと言っていたはず。
神様関係の見え方が違って見えている。
神様って精神生命体なようなものだよな。
それで見え方が違って来ているのかな、精神生命体だからもともと姿形がなく見てるものによって形がかわるとか漫画の設定でよくあるよな。
それで、この前降りてきた神の使い、俺には赤い小悪魔に見えたのかも知れないな。
あの時決闘前で精神的にネガティブ状態だったからあのような悪魔に見えた可能性があるかも知れない。
ポジティブ状態で神の使い見ればもしかしたら、白い天使に見えるかも知れない。アニメ声でわかいいいしゃべりかたをしていたんだよな。
神様って形がない精神生命体だろう。違うのかな?
エリクサーはサレンさん達には虹色に輝いて見える。
俺はこの異世界に来て汚れてしまったからな、ネガティブ思考が強いので見え方が違うのかも知れない。
サレンさんが言う神様が制作したアイテムと信じて、エルフの少女たちにエリクサーを使おう。
「サレンさん、エリクサーの使用方法は飲んで使うのそれとも傷口にかけたりして使うの?」
「どちらの用途でも良いと思われます」
「なるほど、それじゃ結論から聞くけど答えてくれるかな」
「? はい」
「このエリクサーを使えば君達の切り裂かれた耳は再生できるのかな?」
「・・・ 治ると思います」
「じゃあ、エリクサーを君たちに使ってしまおう」
それを聞いた3人は絶句し固まってしまった。
見事に3人とも固まっている。まるで時が止まっているように。
俺って ザ・ワールド使えたのか、時を止めるなどすごいチート能力だな。
今だったらお尻とか触っても気づかれないかも知れない。
さすがにそれはないか、でもそんなに驚くことなのか。
「ご主人さま、私たちに使うのは勿体ないです」
ターナさんが一早く復活して、強い口調で俺に言った。
「そうかな、エリクサーってある意味、体の回復力をあげるドーピング薬でしょう。
上位の回復魔法のグレーターヒールだったかな。
魔法でも同じように欠損部分を治すことができるのだったら、エリクサーを使用して治しても別にかまわないと思うのだけど。
幸いにも今、俺の手元にある。上位回復魔法 を覚えるより手っ取り早くて良いでしょう。
魔法を覚えるのにいつになるかわからないんだよ。
覚えることも出来ないかも知れない。
目の前にすぐにできるチャンスがあるのだから、使っていいのではないかな」
「ご主人さまが言っていることは誤りがあります」
サレンさんが強調して言う。
「なにが誤りなの?」
「文献では、若返りの効果と不老不死の効果もあると書かれています。
それに『死者の蘇生』ができる効果があるとも書かれています。
それほどの効果を持つ貴重なアイテムなのです」
「あぁ、それね。若返りと不老不死か、若返りはちょっと興味あるけど、興味あるだけで俺としては別に使わなくてもなにも問題はないけどな。十分若いしね。
それと不老不死効果があるんだよね。
それって不老不死になったら、永遠にこの世界を生きるって事だよ。
この世界を永遠に生きたいのかな?
確かに長生きはしたいけど、俺は不老不死はまっぴら御免かな。
永遠にこの世界を生きるなんて地獄そのものではないか。
絶対世界に対して飽きてしまうと思う。
長く生きすぎて逆に死にたいとそのうち思うのではないかな。
君たち、よく考えて見てごらん。
奴隷に落ちた状態で不老不死になったらそれこそ本当に生き地獄だよ。
永遠に奴隷として生きなければいけない。
死にたくても死ねない、そんな事になったら大変だ。
君たちだったらその辛さは身に染みてわかっているよね。
俺は異世界に来てまだ間もないけど、わかった事がある。
例外なく誰でも苦しい立場に陥るって事がね。
まして長く生きればなおさらの事だ。
平和な安定した世界だったら良いけど、この異世界ではきついと思うよ。
それだったら今あるエリクサーを君たちに使ってしまった方が良いのではないかな。
必要な人に使う。俺はそう思っているんだけどね」
「しかし、しかしです死者の蘇生さえできるのですよ」
「死者の蘇生に関しては絶対認めてはいけないと思っているから論外だ。
人間、生き返ってはならないよ、自然の摂理に反するからね。
それこそ神罰が起こって良いと思っているよ」
「エリクサーはとても貴重なアイテムです。私たちに使うのは勿体なさすぎます」
アニスさんが強調し話す。
「貴重なアイテムなのはわかるのだが・・・ わかった俺の本心を正直に言おう。
実は先日、こんな事があったのだ・・・」
俺は先日会った、冒険者のおっさんの話を詳しく聞かせた。
・・・ ・・・ ・・・
「そんな事があってね。正直、エリクサーを早めに処分してしまおうと思っているのだよ。
君たちの事は信用しているのだけど、万が一、万が一そんなことがあったらと考えてしまって。
それだったらすぐにでも処分してしまった方が良いと思ったんだよね。最悪捨ててもいいし」
「・・・ ・・・ ・・・」
3人は沈黙して聞いている。
「それに君たちが俺を襲わなくても、エリクサーを持っていると嗅ぎつけたやつらが欲しくて俺を狙ってくるかもしれない。
用途が少ないと考えられる俺としては要らないし、捨ててしまっても良いと思う訳よね。
確かにエリクサーの効果はすごいと思うよ。でもそれはあくまで必要であればの話だ。
先ほど言ったようにどんな素晴らしいアイテムの効果があっても今の俺には必要がない。
必要がある人が使うそれが一番良いと思っているんだよね。
君達がいらなければ捨ててしまう。
捨てるのだったら使用した方が断然良いと思う訳だ」
「・・・ ・・・ ・・・」
3人はうつむいてしまった。
「この際だから使ってみようよ、本当に効果があるかわからないしね。
もしかしたら毒の可能性もあるし、毒だったらごめんね。今のうちに謝っておくからさ、試しに使ってみようよ。
「・・・ ・・・ ・・・ そこまで言われるなら、わかりました。
ご遠慮なく使用させて戴きます」
「うん、それがいいね」




