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第2話 人面木樹

  

 腹が減ったな、昨日から何も食べていない。

 

 水も飲んでいないので、喉が渇きはじめた。水が飲みたいと思っていると、その考えだけで頭がいっぱいになり、余計に喉が渇いた感じが増してくる。

 

 しばらく森の中を散策し、水と食べられそうな植物を探す。さすがに動物とかがいても、狩りして食べる訳にはいかないだろう。


 まずここがどこかわからない。あきらかに異世界なのは確かなようだ。ゲームの世界に迷い込んでしまったのか、まさかね。


 異形な生物、ゴブリンらしいモンスターがいた。昨日のゴブリンとの戦闘は夢ではなかったらしい。やつらから奪ったアイテムも持っている。


 それに今も夢か疑っているが、この喉の渇きは現実で起きていると認識できる。

 せめて水たまりがあるか、果物が実っているような植物がないかと期待をして散策をはじめる。


 しばらく探したが、水も食べられそうな植物も一向に見あたらなかった。散策し歩き続けて、茂みの深い暗い森の奥に入り始めた。


 「やばいな、これ以上は奥に入りすぎていないか?その前に俺はどこへ進んでいるのだ」

 そう一人ごとをつぶやき歩きはじめる。


 これ以上は暗い森の奥に行くのは危険だと思った。引きかえそうと考えた時に、甘い果実のような匂いが森の奥からかすかに漂ってくる。


 この先かな、木の茂みが多くなってきて日の差しが悪くなっている場所だが、まるで甘い匂いに引き寄せられるかのように体が前に進んでしまう。


 危険な事と感じはしているが、腹が減ってどうしようもなく甘い匂いに引きつられ動いてしまうのだ。


 甘い匂いが強くなった。林檎だ、甘い林檎の匂いがするのだ。


 甘い林檎の匂いの方向へ移動したら、薄っすらと青白く光る大きな大木を見つけた。

 直系一メートルもある大木だが高さが3メートルも満たない。


 大木は大きく左右に枝別れした木で、俺の手が届く手の位置に金色の林檎が実っているのだ。


 「すげえ金色の林檎だ。こんなの初めて見る。

 かなりの量の林檎が実っているな、これは助かった、林檎が食べられるぞ」

 ? だが、おかしいところがある。


 大木から大きくまわりに伸びた枝に、大量の金色の林檎が実っているのだが大木と枝から青白い光が薄っすら放っているのだ。


 それに林檎の実だけが実っており、葉っぱなどは一斉ついていない。それどころか青白く光る木のまわりだけ不自然に奇麗な状態で、落ち葉などもまったくないのだ。


 あれだけ茂みがあったのにこの木のまわりだけ何もない。まるで別の空間があるような感じがしている。


 「どう言うことだろうな?」

 おかしいと思いつつ、空腹には耐えきれそうにもない。


 俺は青白く光る大木に近づき、手に届く金色の林檎を捥ぎ取って匂いを嗅いでみる。先ほど漂ってきた匂いは、この金色の林檎で間違いない。


 これって食べられるのだろうか? だが毒が入っているか調べようにもなく食べてみるしか判断がつかない。


 金色の林檎を半分に割ってみた。ちょっと力を入れただけで簡単に割れてしまった。


 割れた中身は白くみずみずしい林檎の果実の様相が見えた。皮が薄く種がない、果肉だけが詰まった種なし林檎なのか?


 とてもうまそうなのだがどうしようか、我慢できずに金色の林檎をそのままかじってしまう。


 「うまい、甘いメロンのような味がするぞ」

 これはとてもうまい林檎だな、メロンの味だけど。


 金色の林檎とは摩訶不思議な事だけど、いかにも異世界って感じがするな、問題は毒とか入っていないかという事だけど大丈夫だろうか?


 馬鹿か俺は、すでに食べてしまっているのではないか、毒とか入っていたらすでに遅いだろう。仕方がないか、食べてしまったのだからどうにもならんしな。


 しかし、なぜこのような暗い森の中に金色の林檎がなっている?大木が1本だけあるのは不自然だろう。


 それにこの大木、枝まで全体的に青白く光って、このまわりだけやけに地面が奇麗になっている。


 辺りを見まわしても、やはりこの大木、1本しか生えていない。先ほど歩いて来た時には木の茂みが多くなっていたはずなのに?


 それと先ほど思っていたいわく感がある。金色の林檎があれだけ実っているのに葉っぱ1枚も落ちていないのだ。地面にも葉っぱが落ちた様子もない。


 落ち葉がなく、地面が奇麗すぎる。草もまったく生えてはいない。

 誰かが手入れをしているはずもなく不思議に思える。


 葉っぱが枯れて腐り、水と微生物で養分とかできるのではないのか? 自然の腐葉土ってやつだよな。


 どうやってこの青白く光る大木は養分を取っているのだろう?果実が落ちて養分になるのかな?

 落ちた形跡もなく地面が奇麗すぎる。


 果実が落ちたとしても腐った実とかでそれになり、地面も汚れると思うのだけど、腐った臭いもしないしな。


 虫も寄ってきていない。林檎の甘い匂いだけしていてあまりにも不自然すぎる。どういう事だろう?


 疑問に思っていたら、いきなり林檎の木が激しく揺れ、青白く輝き始めた。


 「いったいなにがおきているんだ?」

 金色の林檎の実っている大木を見たら、顔のようなものが浮きあがりこちらを見ている気がする?


 「きもい!」

 これってもしかしてゲームとかで出てくる人面木樹マッドツリーってモンスターではないのか?


 確かゲームで見たことがあるモンスターだ。それも上位クラスのモンスターの設定で見たことがあったやつだ。

 イベントなどのボスで出てきたのを俺は知っている。


 うまそうな木の実や果物を実らせて、匂いで獲物を引き寄せる。近くに寄ってきた獲物を木の枝や弦で絡ませ、獲物を殺して栄養分とさせるモンスターだったかな。


 捕まった獲物は徐々に精気を吸われながら栄養分とされる。そのために中々死ねずに苦痛を伴うという。


 枯れ木のように精気を吸われて最後には木に取り込まれてしまうと言う恐ろしい凶悪なモンスターだ。


 まさか、そのモンスターが目の前にいるのか? 

 そう考えていたら、細い枝を触手のように伸ばし俺の方に無数に迫って来た。


 「やばい」

 俺はいきなりだったので避けきれず、枝が弦のように体に巻き付かせてしまう。


 「くそう」

 弦の力はたいしたことはないが体に巻き付き始める。

 

 なんとか手で引きちぎれるので今は難を逃れているが危険な状態になってきた。それに突然だが眠気が襲ってきて力が入らなくなってきたのだ。


 人面木樹マッドツリーは大木を激しく揺らして、さらに青白く光り輝きだした。


 そうか! あの青白い光のせいで眠気が誘われているのだな。

 力が抜けてしまった俺の体全身に無数の弦が巻き付き締め上げようとする。


 俺は首のところに巻き付きはじめた弦を引っ張り千切るのがやっとのことだ。

 だんだん深い眠気が襲い力が入らなくなってくる。


 「くそう」

 人面木樹マッドツリー大木の顔らしいものを見たら、その顔が笑っているように見えた。


 久々の獲物を見つけたって感じで笑っているように思える。


 こいつって知能があるモンスターなのか、不気味に感じられる。俺は眠気を我慢し最後の力を振りしぼり、全身に巻き付いた触手のようにでた弦を引きちぎった。


 「ブチ ブチ ブチ ブチ バキ バキ ブチ ブチ」

 「ハア、ハア、ハア、ハア」 

 なんとか脱出できたか、俺は距離をとりはじめる。


 人面木樹マッドツリーは大木をさらに揺らし強烈な青白い光を輝かせた。さらに眠気に襲われる。


 「くそう、これはやばいな」

 俺は人面木樹マッドツリーに対して右手を前にかざした。


 「即死スキルだ、死んじまえ」

 そう言ったとたん人面木樹マッドツリーは、

 「ギューオオーン」

 と言う悲鳴のような音を発し、青白く光輝くのをやめ動かなくなってしまった。


 「死んだのか?」

 俺は即死スキル、チート能力が効いたと判断した。


 どうやら人面木樹マッドツリーは死んだみたいだな、青白く光っていた発光もなくなっている。


 俺は警戒しながらゆっくりと人面木樹マッドツリーに近づき顔のあった部分を確認してみる。覗いて見ると顔の合ったらしい部分が縦に大きく亀裂が入り裂けていた。


 俺は止めを刺した方が良いと思って、思いっきり人面木樹マッドツリーの顔が合った亀裂の部分を殴った。


 「ドゴーン」

 大きな音がして人面木樹マッドツリーの顔の合った部分が吹き飛び風穴が開いてしまう。


 「すごいな、俺って大木の真ん中に風穴を開けてしまったよ」

 でも、死ぬかと思ったな、とんでもないモンスターがこの世界にはいるな。


 本当に危険きわまりない。

 安堵したせいか力が抜けその場で座り込んでしまう。


 「ふう、とりあえず腹が減ったな」

 先ほどの金色の林檎1つ食べたが全然物足りない。


 しかし食べられるかわからず、これから腹の具合がおかしくなるかもしれないしな。


 どうしたものか? 確かゲームでは人面木樹マッドツリーのアイテムは高級食材になっていて、食べられた気がするのだけど、どうなんだろう。


 待て、それってゲームでの話だろう。現実とごちゃまぜにするな俺。でも腹が減っていて食べられそうな物はあの金色の林檎しか考えられない。その前にすでに1つ食べているのではないか。


 「背に腹はかえられないか」

 俺は人面木樹マッドツリーに実っている金色の林檎を取り

 「ガッガッ」

 と食べ始める。


 うまい、サクサクした感触でメロンの味がする林檎だ。


 これはやめられない止まらない。なぜかかっぱえびせんのフレーズが頭に木霊する。俺は一心不乱に黄金の林檎を食べ続けてしまう。


 「ゲップ、食った、食ったな、もう食えん」

 腹が膨れた、もしこれが毒だとしても別にいいだろう。うまかったので思い残すことはない。


 最後の食事がメロン味の金色の林檎とは夢のようで案外ついているのかも知れない。

 空腹だった腹が膨れそれしか考えられなかった。


 しばらく時間がたったが、どうやら毒はないみたいで体は大丈夫だ。特におかしくなった様子はないようだ。


 死んだ様子の人面木樹マッドツリーも変わった様子は今はない。人面木樹マッドツリーにはかなりの金色の林檎が実っている。


 金色の林檎はそのままかわらず実っている。人面木樹マッドツリーが死んでもすぐには腐る事はないみたいだ。


 さて、とりあえず、ゴブリンが持っていたこのずた袋に詰めて移動しようか。

 俺はゴブリンから剥ぎ取ったアイテムの1つ、ずた袋を取り出して金色の林檎をできるだけ捥ぎ取り、ずた袋に詰め込んだ。


 ずた袋にはめいいっぱい金色の林檎を詰めているので、5キロ以上あるのではないかと思われるが重さが感じない。


 この世界ではもしかして重力が弱く筋力が高くなっているのだろうか? そんな考えが頭に浮かんだ。


 先ほどの人面木樹マッドツリーとの戦いの時もそうだったが力がかなりあるように思える。


 今は考えるのは後にしよう。まずはこの森を出て安全な場所にたどりつきたいな、安全な場所があればの話だがな。


 一応、この場所は念のために、覚えておくかな。俺にとっては金色の林檎は貴重な食料だ。まだたくさん生っている。


 この場所を覚えておいて食べる物がなくなった時はここへ林檎を取りに戻ってこよう。

 そう思いながら一端足早にこの場所を立ち去る。


 移動して人間の街とか探してみるかな。もっともこの世界に人間がいればの話だが。


 俺はゴブリンから剥ぎ取った錆びたナイフで木に印をつけながら森を移動する。明るい茂みの浅い方向へ歩いていたら、人が作った道らしきものにたどり着いた。

 

 「おお、道がある。これは完全に道だな。

 舗装はしていないが、獣道とは全く違っている。

 何か知的生物が作ったと考えられる形跡が見受けられる。

 良かった、良かった、良かったな」

 安堵して辺りを見渡す。


 幅が10メートルはある道だ。舗装はしてないが幅が均一で両脇に一定間隔で杭が打ち込んである。


 それにこんな森の中にあるにしては広い道だ、獣道ではない。やはり知的生物が造った文明の匂いが感じられる。


 「やった、道だこれでどこか街に行けるぞ」

 街があるかそれも人間らしき生物がこの世界にいるかわからないのにそう思ってしまった。


 とりあえずどちらの方向に進もうかな。

 俺はスーツのポケットから財布を取り出し、中から500円硬貨を1枚取り出した。


 コイントスで決めよう。表面が出たら右で裏面がでたら左だ。


 俺は500円硬貨を親指で弾く。

 「ピン」 

 「ボト」

 あれ、回らなくただ落ちてしまっただけかよ、まっ、良いか。

 裏面が出たのかそれじゃ左に行くか。


 俺は近くにあった木に印をつけて左方面に歩き始めた。ここから新たな出発だ、何が新たなのかわからないがな。


 街があれば良いのだけど、とりあえず道なりに進んで行くか。



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