第19話 憂鬱な朝でも 天使はいたんだな
生きているのか?
どうやら目を覚ませたみたいだ。
昨日、助けたエルフの娘たちによって、殺されていなくて良かった。
目を覚ましたのは良いが、夢から覚めた訳でもなく、異世界に来ていると言う事は現実のようだ。
夢であって欲しかったというのに。
眠る前に冷静になって考えたのだが、エルフの娘たちって俺の事をどういうふうに思っているのだろうな。
キースから奴隷の解放をしてあげたけど、今までひどい扱いを受けていたのだから、人間の事を恨んでいるのは確かだと思う。
その恨みの矛先が、俺に向かう事だってありえるのだろう。
俺が同じ奴隷の立場だったら、どんな風に助けられたとしても、簡単には信用できない。
下心があるとか、裏が何かあるのではと感くぐってしまう。
中にはわざと人を雇って襲わさせ、助けに入って恩に着せると言う定番のネタもあるからな。
彼女たちには言葉の魔法が欲しかったので助けたと伝えているが、それを真に受けて信じているとは到底思えはしない。
会ったばかりだし、それも俺の事を貴族と最初に勘違いしていたみたいだからな。
異世界の貴族は悪名が高い存在のようだしな。
しかし俺も同じ貴族となった訳だが・・・
今のところは、頼るものが居ないので、俺のもとにいると思うけど、いずれ時が来ればわかれるだろう。
異種族だからなおさらだ。どのようなかたちで別れるかが問題だと思う。
自立できるようになって、良好な関係で別れれば良いが、俺を殺して金品を奪ってそのまま立ち去るってことも考えられる。
俺のもとに残ると言う事は、よほど良好な関係にならないと無理な話だよな。
奇麗な彼女たちに殺されても良いと最初は思ったけど、俺に対して恨みではなく人間に対しての憎悪で殺されるのは嫌だな。
最初にあった冒険者のおっさんが俺に対してやらかした事を思いだす。
せっかく加勢して盗賊を退治したのに、金色の林檎を見ただけで豹変して俺を殺そうとしたからな。
いくら貴重な物でも奪おうとして殺すなんて普通考えられないだろう。
そうか、その普通って感覚がこの異世界では違ってきているのか。
俺の普通と異世界での普通は非常識になるかも知れないな。
しかし、誰にもわからなければ、殺してでも欲しい物を手に入れると言う事が普通って事だって考えられる。
奴隷もいるのだから物に限らず人も奪われる対象なんだからな。
下手をすれば俺もいつか、奴隷落ちる事になるかもしれない。
この世界の秩序は、あきらかに荒んでいるのがわかる。人間関係も希薄そうだしな。
元の世界と違って神と言う存在もいるらしい。それも神が、この世界を支配しているみたいだ。
一部の者たちに特権階級を与え統治させている? 不合理な世界だな。
見方を変えれば彼女たちを助けたのではなく、俺がキースから奪い取って従属させている。そう捉えてもおかしくはないしな。
冒険者ギルドと国営銀行で神の意向などと言ってチート能力を使い殺しまくった。間違いなく問題が起っているだろう。
誰かあの異常事態に気づくはず、神の意向ではないと言う事がね。
警察のような組織があるかわからないが、調査する輩が出てくるだろう。もしかしたらすでに動いているのかも知れない。
国、単位で動くのだろうな、キースを殺しているので公爵家? だったかそれも動くはず。
クロートさんは、神と正式に結んだ決闘だから問題ないと言っていたがそれを真にうける事などできはしない。
公爵家と王族とはつながりがあるんだよな。どこまでの立場のやつらかわからないけど動くことは考えられる。
下手すると国にけんかを売ったと言うことになっているかもしれない。
冒険者ギルドマスターと国営銀行の頭取、王家とつながりを持つ公爵家の身内が死んでいるのだから、それに従業員も殺したので家族にも恨まれている。
でもそれってみんな逆恨みだよな。恨む人にとってはそんなのは関係ないのか。
良くあるドラマで、婚約者や愛人などが逆恨みとわかっていて自ら仕返ししてくると言うのがあるからな。
そういえばキースって愛人を何人か囲っていたって言うけど、愛人にも恨まれていそうだ。
俺って敵が多すぎではないか、やりすぎてしまったよな、絶対に唯では済まされないはずだ。
あぁ、ネガティブ思考で考えると国全体を敵に回して、近くにいつでも俺を狙えるヒットマンが潜んでいる四面楚歌の状態かと思えてくる。
これじゃ生きていられるはずがないか。
ポジティブな思考で考えるならば、3人のエルフの娘たちは、助けられた恩義を感じ信用してつくしてくれる。
チート能力で殺した者達は契約の神の意向に従い、俺のやった事は無効になっていて感知無し状態、なんの不都合のない生活ができる。
この考えはアニメや漫画でよくあるご都合主義の解釈だよな。
主人公が圧倒的な力を擁して助けられたヒロインの女の子はひとめぼれで好きになって信用してつくすってのは本来あり得ない話だろう。
普通に考えたら異常な力に怯えてひくってのがありえる反応だろう。
一般市民の描写はそれで書かれているのが多いのにヒロインたちは感銘を受けてしまっている。
ヒロインは最初から頭とち狂っているのではないかと思うアニメをみる時があるよ。
ポジティブ思考の考えはどう見てもないだろうな。
なにかしら恨みを持っている人との接触はあると思われる。
これはチート能力の強化をしなくてはいけないか、それも自動発動 スキルの強化をしたいな。
いっそこの町の住人全員を殺すしかないと思えて来たよ。
レベルを上げて強化し知らない街にとんずらをするそれしか方法がないのではないかな。
なんて極悪人の考え方だ。
はぁー、なぜこんな事になっちまったんだ。朝からため息しかでないよ。
なるようになるしかないのか、どのみちやりようがなく見知らぬ異世界だ、逃げる事も隠れる事もできはしない。
ううぅー、考えるだけで頭が痛い。
言葉の魔法が使える奇麗なエルフの娘たちを手に入れたと喜んでいたのにな。
正義感ぶって紳士に気取るとは、俺って何を考えているんだ。
こんな憂鬱になるのだったら、せめて良い思いしとけば良かったな。紳士などクソくらいだと今は思ってる。
一時の感情で身を滅ぼすとはまったくもってこのことなのだな。
某漫画の長谷川さんを思い出してしまったよ。長谷川さんの心境ってこんな感じなのかな、漫画のキャラクターなのにそう思ってしまった。
とりあえず、エルフの少女たちの様子を見てくるか。
奴隷契約のリングをはずしてあげたのでゆっくり眠れたはずだと思う。
常に痛みを伴っていたと言うから、今までぐっすり眠ることなどできてはいなかっただろうな。
それが開放されただけでも、あの娘達には救いってことで良いのか。
この流れはポジティブの方向に進むと言って良いと思うのだがな。
ここ数日でかなり心が荒んでしまった。良くない考えしか浮かばなくなってきた。
とりあえず起きるとするか、エルフの娘たちの様子を見に行ってみる。
大きなベットで3人固まって眠っているな。どの娘も寝顔がキュートでかわいらしい。
少女と言っても高校生くらいに見えるので妙に色っぽいところもある。
でもエルフって長寿と言う話を聞くから、もしかして俺よりも年齢が上なのかも知れない。
この光景良いな。
しばらくかわいい寝顔を眺めていたら、プラチナゴールドの髪の色をした、目の色がエメラルドグリーンの少女ターナさんが起きて来てしまった。
俺が想像していたまさにエルフって印象だ。
俺が眺めていたから気配を感じ、起こしてしまったようだ。
悪いことをしてしまったな。もう少し眠らせてあげても良かったと思う。
俺に気づいたようですぐさま起きだしターナさんは近づいて来た。
にっこりとほほえみかけ、何かを言ってお辞儀した。
おはようとあいさつしたと推測されるが言葉が聞き取れなかった。
そうか、言葉が話せる魔法の効果が切れているのか、確か半日くらいしか効果は持たないと言っていた。
先ほどの笑顔がものすごくかわいかったのでシャメをとって待ち受けにしたいと思ってしまったよ。
残念ながらスマホは持っていないんだよな。
机の上に置いて来てしまったか、ポケットの中に入れておけば良かったと後悔する。
美しいエメラルドグリーン色の目には精気が宿り、瞳の中が輝いているように見える。
プラチナゴールドの髪はサラサラしていて、朝日に照らされ輝いているのだ。
こんなことってあるんだな、美しいと言うしか言葉が出ない。
さっきまで、ネガティブに物事を考えていたのが一気に吹き飛んでしまった。
「美しい、天使だ、天使は居たんだな」
つい口づさんでしまった。
俺が言った言葉が聞き取れない様子で、? マークがあるように首を横に傾けている。
かわいいい、かわいすぎる。
「ゴクリッ、けっ、結婚してください」
俺は彼女の肩を両手でつかみ、つい「結婚して」と言ってしまった。
何を考えているんだ俺、あまりにもかわいかったのでつい口走ってしまった。
しかもとっさに言った言葉がなぜか結婚してと言うのはどうなんだろう。
欲望にまかせて襲ってしまうよりは良いんだけど、それでも俺ってどうなんだよ。
あまりのかわいさになぜか息子が反応していない。
純粋にかわいかったので欲望とか起きないでいるのか、俺って欲深いからすぐに反応してしまうんだけど今日に限っておきていないんだよ。
ターナさんは両手を俺の胸の前に出し手を合わせる。
何か呪文のような言葉を発した。緑色の光が照らし辺りを包む。
これって昨日かけてもらった言葉が話せる魔法か。
俺は彼女の肩に置いた手を放し、右手を額に当てた。
眩しいと言うよりさっき言った言葉が、ちょう恥ずかしかったのだ。
ターナさんは俺が言った言葉がわからなかったようで、言葉の魔法を使ってと解釈したのだろう。
俺が告白したのが聞き取れなくて良かったのかもしれない。
唐突に告白した俺は恥ずかしすぎる。
「ご主人さま、おはようございます。申し訳御座いません。眩しかったでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ」
「失礼しました。
普段より魔力が込められましたので、思った以上に魔法の光が強く輝いてしまったようです。
申し訳御座いません。どうかお許しください」
ペコリと頭を下げる。
魔力が込められた?
もしかして奴隷契約のリングのせいで本来の力がうまく扱えなかったのか。
常に痛みを伴っていたと言っていたし精神的にも不安定だったのだろうな。
リングが外れたので痛みがなく、本来の力が使えるようになったと推測できる。
奇麗な娘さんだと思っていたのだが、先ほどの曇りない笑顔見てからより一層、かわいく見える。
本来は活発な気さくな娘さんだったのかなと感じられるのだ。
「別に良いよ。それより、言葉の魔法ありがとね、話が通じるようになったので助かったよ。
昨日かけてもらった魔法はどうやら半日しか持たないようだね。
効果が切れてしまったらまたよろしく頼むよ」
いかにも言葉の魔法を使ってほしいと言ったようなしぐさで自然に話を合わせる。
さきほど俺が言った告白はなかったことにしよう。
「わかりました、ご主人様。
起きるのが遅くなって申し訳御座いません。
これからは気を付けるのでどうかお許しください。
すぐに2人を起こしてきます」
「あ、別に良いよ、もう少し寝かせてあげておこう。
今まで奴隷契約のリングのおかけで、眠れていなかったんでしょう。
ターナさんの事も起こしてしまって悪かったね。もう少し休んでいても大丈夫だよ。
なんなら二度寝してもかまわないんで休んでいなよ」
「ご配慮、有難うございます。私はぐっすり眠れたので大丈夫です。
何か御用でしたらなんなりと申し付けください」
そう言って俺にお辞儀をした。




