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第10話 貴族の冒険者


 朝早く、宿屋を後にしたが、ここってどこ?

 迷子になってしまった。


 もともと知らない街だ。

 どこへ行って良いか分からないのだが、昨日出ていた露店はまだ営業していない。

 宿屋を出るのが早すぎたのか。


 適当に街を歩いているのだけど、行きかう人がすれ違いになぜか俺を振り返るのだ。


 そんなに良い男なのか。

 冗談でそう思っているが、あきらかに服装だろう。


 どう見ても浮いている。

 こんなスーツを着た人など誰もいない。


 これはまいったな、先に洋服屋を探すことにするか。

 でも昨日は見つからなかったんだよな。


 もしかして服はオーダーメード店か、それか古着屋で売ってたりするのが異世界での定番か。


 それにしてもこの街は冒険者風の服装をした人たちが多いな。

 いったいこの街はどういうところだろう。ただの橋を渡る中継地点ではないのか。


 南方面には川を渡る大きな橋があり関所となっているみたいだけど、それだけで人って集まるものなのか?

 いまいちどういう街か不明だな。


 外には魔獣らしいのがいるのはわかるのだが、冒険者風な人も多すぎるんだよ。


 それともこの場所かな、もしかしたら冒険者組合のギルドとかがこの近くにあったりして、防具を纏った人の後ろを付いて行けば建物が見えてくるのかも知れない。

 後を付けて冒険者ギルドがあるか確かめてみるよう。


 それに気になった事がある。


 一般人とわかるラフな仕立ての良くない服を着ている人がいるのがわかるのだが、短剣みたいな武器をみんな腰につけているんだよね。


 女性も必ずって良いほど短剣らしいものを持っているんだ。誰もが武器を常に携帯しているのか?


 もしかしてこの異世界ってそんなに危険なところなのか?


 町の外には魔獣らしきモンスターがいたし、危険なのはわかるが、一般人が短剣とか武器を所持しているのは問題ではないのか。


 アメリカ合衆国の銃所持と同じ感覚で持っているのかも知れないな。

 そうなるとこの異世界はある程度自由度は高いが、自分の身は自分で守れということか、なんかとんでもないところへ今更来てしまったと思えてきた。


 これはやばいな、早めに武器と防具の店を探してみるか。

 あのおっさんから奪った武器は人には見せたくないので使いたくない。


 武器屋とかも冒険者らしい人たちの後を付いていけばわかるかも知れない。


 そんな事を思いながら街を歩いている最中、一人の子供がこちらに走り寄ってきた。


 「おっと危な」

 ぶつかってくる。俺は素早くよけた。


 よけた瞬間、見たのだが子供はこちらに手を出してきたのだ。

 それも懐の財布があるところにだ。


 これってもしかしてスリってやつか、子供は足を躓き派手に転んでしまう。

 でも財布は取られていないし、別にしてある布でくるんである袋も取られていない。


 それに財布は胸元のポケットに入れ直して金属のチェーンがついているのだ。

 布でくるんである袋も同じように紐がついている。

 スリ対策で一応つけておいたのだ。


 ナイフなんかで紐迄切られてしまった場合はどうしようもないのだが、そこまでする危ない奴らは追いかけないでいようと思っている。

 もしくはあのチート能力を使うかどうかだが、スリくらいで使いたくはないな。


 別に取られた物はないので良いかなと思っていたが、なぜか人だかりが俺のところでとまり、俺と子供の事を見ているぞ。


 どういう事? なにか俺が問題をおこしたのか。

 ひそひそ周りから声が聞こえる。

 でも言葉が理解できないので何を言っているのかわからない。


 「おい、貴族だ」

 「バカ、声が大きい聞こえるぞ」

 「あの子供貴族相手にスリを働こうとしたんだな、殺されるぞ」

 「どうするの、誰か助けてあげられないの」

 「バカを言うな、下手をしたら俺たちまでとばっちりを受けるぞ」

 なにを話しているかまったくもってさっぱりわからない。


 俺があの子供を転ばせてしまったと思って、他の人は見ているのだろうか。

 でも、あの子供、俺にスリを働こうとしたんだよ、たぶん。

 確定ではないので何とも言えないが、俺にはそう見えたのだ。


 なんかよくある定番なスリの話だがこれはどうしたものか。

 どうせ言葉がわからないんだ、ここは無視してこのまま行ってしまおう。


 無視して後ろを振り向き歩き出そうとしたら、若い女の人がなにか話をし始めた。

 気になって振り返ってみると、RPGでよく見かけるシスターのような恰好のした人が何か言っている。

 子供が足を抑え、擦り傷を負ってしまっていたのがわかる。


 シスターが子供の擦り傷のある部分に手をかざし、魔法らしきものを唱えはじめた。

 手から淡い白い光が出て擦り傷を奇麗に直してしまった。


 すげー、あれって魔法かよ。

 回復魔法で確かゲームではヒールってやつだよな。

 傷が一瞬で消え、治ってしまうとは驚いたよ。


 シスターの若い女性は俺に向き合い何か言っている。


 「お貴族様どうかこの子をお許し下さい。

 この子は間をさしてしまったのです。

 神の名においてお許しください。

 どうかご慈悲をお願いします」

 なんか強い口調で俺に言っているな。


 俺があの子供を転ばせてしまったと思って、怒っているのだろうか?

 でもどう見てもあの子供、スリの感じがしたんだけど、俺が悪いのかな?


 他から見れば子供を転ばせた感じに見えたのか。これは困った事になったな、どうしたら良いのだろうか。


 仕方ないここはお金で解決だ。

 少しばかりお金を握らせてちゃらにしてもらおう。


 俺は若いシスターと子供に近づいてみる。


 「おい、あのシスターと子供、殺されるぞ」

 「し、バカお前、しゃべるのではない」

 ? まわりの野次馬がなにか言っているけどさっぱりわからないな。


 やはり俺に対する批判かな?

 子供が転んでしまったのは、俺のせいだと思わないんだけど、他からみたら転ばしたように見えてしまったのか。

 それで俺の行動が大人げないと思っているので裏でコソコソ悪口を言っているのだな。


 仕方ないな。

 俺はシスターと子供に近づき懐からお金を入った袋を取り出す。

 若いシスターは俺のことをじっと睨んでいる。


 そう睨まないで下さいよ。怖いな。


 俺は取り出した巾着袋から銅貨20枚くらいを取り出して、シスターに渡してみる。


 お金の相場はいまいちわからない。

 しかしここは銅貨20枚で手を打ってもらおう。


 さすがに銀貨とか金貨は出せないし、子供は怪我を負っていても先ほどシスターが魔法で直したのだから問題はないはずだ。


 あれ、もしかしてシスターもぐるで当たり屋なのか?

 いやいや、さすがにそれは考えすぎだ、それはないだろう。


 この異世界でひどい目にあっているのと、お金をあげると言う行為を直接したことがないので、疑心暗鬼になっている。

 面倒なので、ここはお金をシスターに渡して立ち去るのがベストだと思う。


 お布施という事でこれで勘弁してもらおう。

 俺はシスターの手を取り、銅貨20枚を渡して、素早くその場を立ち去る。


 なんかお金を渡したらシスターが天を仰ぎ始めたが、どうしたのだろうか?

 たぶん俺の事を、神様に許してくれるうようにお願いしてくれているのだろう。


 去る間際、野次馬がなにか言っているように聞こえたが、やはり何を言っているのかわからない。


 面倒ごとにはこれ以上関わりたくないのでこの場を一刻も早く立ち去る。

 異世界で面倒事をおこすのはもってのほかだからな。


 しばらく冒険者風の人たちの後を付けていたら、大きな噴水のある広場までついた。

 この世界でも噴水ってあるんだな、ここの水飲めるのかな?


 その広場の前に馬鹿でかい3階建ての建物があった。


 この中に冒険者が出入りしている? 看板があり文字が書いてあるが当然俺には読めない。

 種族もいろいろで、人間や獣人、ドワーフが見かけられるな。


 残念なことにここではエルフは、今のところ見かけない。

 森の住人と言う話を聞くので、もしかしたら争いごとが好まない種族なので、こういうところには出入りしないのかな。


 建物から出入りする人の身なりを見れば、間違いないなここが冒険者ギルドってところだろう。厳つい格好のした人が多くみられる。

 まさか傭兵ギルドではないよね?


 でもなぜか俺の事をちらりと見ただけで素早く通り過ぎてしまう。

 やはりこの服装では場違いなのであろう。


 さてと、ここには今の俺には用はなそうだから移動しようか。

 場所だけわかれば良いだろう。あとでお世話になるかも知れないしな。

 せめてこちらの世界の言葉を覚えてからではないと、冒険者は出来ないだろう。


 一端、ここを離れ移動しようとした時に、騎士風の格好をした男に声をかけられた。


 「よう、あんた俺と同じ貴族だな。

 俺の名はアレクサンダー・キースだ。

 同じ貴族のよしみだキースと呼んでくれてもいいぜ。

 おまえさん名前はなんて言うんだい」


 ? なんか知らないが俺に話しかけてきたな。

 でも何をいっているのかさっぱりわからない。

 

 話しかけてきた男は冒険者とは違うのかな?

 白銀色の鎧を着た騎士に見えるのだが?


 男の年齢30歳前後か。俺よりも年上な感じがする。

 身長は185センチくらい、なかなか背が高いな。

 俺は178だから人拳くらい高いのか。


 鎧をつけていてもわかるが細身で、がっちりした体格だ。

 青い目をしていて金髪を長く伸ばし、ポニーテールの髪型でまとめている。顔付きはきつめな顔をしている。


 二枚目と言えば二枚目なのだが、目つきがきついせいでなんか悪党ずらに見える。ちょっとおしい二枚目さんだな。


 冒険者か騎士かわからんが、場違いな派手な装飾品の付いた白銀の鎧を着ている。


 赤いマントを羽織って、俺と同じくらいこの場所で目立つ格好をしているな。

 否、こいつの方があきらかに目立っている。


 もしかしてこいつ貴族ってやつなのか? 貴族でも冒険者になっているやつがいるのか。まぁ、居てもおかしくないか。


 こういうやつとはかかわりたくないので、無視して去ることにしよう。面倒ごとはなるべく避けたいんだよな。


 俺は、目線を外し立ち去ろうとする。

 

 「おいおい、こちらからせっかく挨拶しているんじゃないか。

 この爵位を持つ僕がだよ。

 無視とはそれはあんまりではないのかな」


 俺の前に立ちはかり、先ほど陽気な感じで話していたが、少し殺気まじりで話している。


 ? 殺気がわかる? 俺ってどうしてしまったんだ。

 そんな感じ、今まで感じたことがなかったのだが、あきらかにこいつの異様な殺気の感じがわかるのだ。


 うむ、さてどうしたものか?

 日本語で話してみるか、そうすれば話が通じない事がわかるだろう。


 「あなたが、どちら様か知らないが、俺はあなたの言葉わからないのだ。

 すまないが失礼させてもらっても良いかな」

 たぶん通じていないと思うが一応話してみた。


 「おまえさん、妙な格好していたと思ったら異国の貴族の方か。

 これは失礼した。

 それで言葉がわからず話が通じなかったわけかな。

 おい、お前らこっちへこい。

 ターナお前言葉を訳す魔法使えるな。

 こいつと俺にかけてくれ、どうやらこいつ異国の出身らしく言葉が通じないらしいからな」

 「はい、わかりましたご主人様」

 頭からすっぽり覆われた魔導士みたいなローブを纏った少女、3人が現われた。


 その1人が何やら魔法のような物を使い手から緑色の光を発光させた。眩しいいったいなんなんだ。


 「ご主人様、魔法をかけ終わりましたこれで話せるようになります」

 「そうか、それじゃ下がって良いぞ」


 ? あれ、今この騎士風な男の言葉が聞こえたがどういう事だろう。気のせいだったのかな。


 「あんた聞こえているかい、聞こえていたら返事をしてくれないかな」

 「お、話がわかるぞ、どういうことだ」

 「そうかどうやら言葉の魔法が機能しているようだな」

 「言葉の魔法?」

 「そうだ今俺の下僕にかけてもらったんだよ。

 それであんたとしゃべれるようになったんだ。

 おっと失礼した。

 俺の名はアレクサンダー・キースだ。宜しくな。

 あんた異国の貴族の方だろう名前はなんて言うんだい」

 「俺か、俺の名は安藤明アンドウ アカリだ。

 確かに異国から来たのは間違いないが何かようですかね」

 「やはりな、もしかして東の辺境の国から来たのかい。

 確か今度うちの国と貿易すると言っていたな。

 あんな遠いところから来たとはご苦労な事だ」

 「あん、確かに遠いところから来たけどなんか言い方おかしくないか」

 俺は言い回しが嫌味な感じがしたので、つい怒気を混じった言葉で話してしまった。


 「おっと、失礼、失礼、気に障ったようだね。

 ちょっと口が悪かったな許してくれ。

 いつもこの調子で話すんだ、機嫌を損ねてくれないでくれよ」

 「別にかまわんよ。それでいったい俺に何か用ですかね」

 「そうだ、そうだった。

 あんたの服装だ。

 その見慣れない服装がかっこ良いではないか。

 もしかして東の国の装束かね」

 「そうだが、それがどうしたのかな」

 「うん、その服装に一目ぼれしてしまってね。

 どうだろう金貨100枚で譲ってくれないかね」


 「金貨100枚だって」

 野次馬で集まり出していた冒険者の1人が言った。


 キースは突然後ろを振り向き先ほどしゃべっていた冒険者に近寄っていった。


 「おいおい、おまえみたいな平民の冒険者風情には、聞いてはいないんだよ」

 キースが先ほどしゃべった冒険者に近づき殴りつけた。


 「ガコンッ」

 殴られた冒険者は転がり倒れてしまう。


 「ヒィィ」

 まわりで見ている野次馬からも悲鳴がまじる。


 「俺たち貴族の話に割り込むのではないよ、平民風情が」

 「ドガッ、ドガッ、ドガッ」

 キースは倒れている冒険者に蹴りを何発か入れる。


 「失礼した、先ほどの話どうだろう。

 その服を、私に売ってもらえないかね」

 キースは俺に問いかけている。


 なんかこのキースとかいうやつ、俺の事を貴族とか言っていたような? この服装だとそう見えるのかな。


 俺は一般人だけど、このキースと言う男にそれを話すと先ほどの冒険者と同じ目に合わされるのではないのか。

 そうなると面倒なので俺も貴族と言うことにしておこう。


 「やめておこう。この服は材料も製法も特注品だ。

 金貨100枚程度では安すぎるな。悪いが断らせてもらおう」

 「おお、やはりそうだったかこれは失礼した。

 たかだか金貨100枚程度では買える代物だとは思わなかったけど気になってしまってね。

 やはり特注品か、東の国は魔物が多く織物も盛んでいると聞いた。

 それってやはり特殊な魔物から取れる生地なんだよね。

 どういう魔物のモノか教えてくれないかな」

 「それについてはノーコメントだ。企業秘密ってやつだよ。

 すまんな、こればかりは言えない事だね」

 「そうか、そうかこれは失礼した。

 そうだよな言えないよな。

 でもそれを聞いて余計に欲しくなってしまったよ。

 どうだいそれでは金貨1000枚、それと先ほど言葉の魔法を使える奴隷を1人つけようではないか。

 それで譲ってはくれないかね。

 私の奴隷は特別なやつだよ」

 そう言って先ほど魔法らしきものをかけた奴隷のフードを取り俺に見せてきた。


 「エルフか」

 「そう、エルフだよ。

 エルフの奴隷って滅多に手に入らないぞ。

 それは東の国でもわかるよね。

 どうだいこいつをつけるので、私にその服を譲ってくれないかね

 君には言葉の魔法が必要だろう」 



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