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第三章 2話 カノン・アローナ事件


 あの任務は要人護衛の任務だった。この要人はある国の議員だ。この議員は非道な国家機密をメディアに密告し、二ヵ国分離れた所へ亡命するという形になっている。その時は森を抜けて隣国の町へ辿り着くのがゴールだった。




 こちらの人数は俺を含めて五人。二人のBfの手練れは要人の脇を、一人の防衛系能力持ちは先頭を、一人のサポート役のオペレーターは後方に、俺は周りをサーモカメラを付けて走り、周辺に変わったことがあったら伝える。最高の陣形だと思った。




 左はBf隊員の矢向充(ヤコウミツル)。細くて背が高い男で皆を引っ張るリーダーシップが有る男だ。能力は[当てる]能力。放った物を目掛けた所に確実に当てる能力だ。基本戦術はアーチェリーを携えて遠距離攻撃を得意とする。








矢向「まぁ、このメンバーなら充分過ぎる護衛ですよ、任せて下さい。私達はこれくらいの仕事だったら朝メシ前なんでね。」



議員「じ、実に心強い!た、頼みますよ…!」



矢向「なあに、そんなビビる事はない。うちらのキャリアは長いからね。な!藤原!」




藤原「ああ。なんせ、俺がいる。先頭に俺が居るならばどの攻撃や突撃も終わらせて見せるさ。」




 藤原と呼ばれた隊員は本名、藤原慎吾(フジワラシンゴ)。Cf所属で、太っていて自信家。能力は[吸い込む]能力。何でも吸い込む見えない壁を作り自分の知らないどこかへ飛ばす事が出来る。





?「私もしっかり後ろからサポートします!任せて下さい!」





 はきはきと元気に話す隊員は、オペレーターの本田七日(ホンダナノカ)。能力は触れた所や物の摩擦を無くす[滑る]能力。後方にて守りを固めて何か有った時は要人を抱えて滑走して逃げるか、仲間を滑走させたりなどで相手を翻弄する、などの行動を任されている。






矢向「俺らの連携に穴は無いさ。七日や志渡の出番が有ると良いな!」



 矢向は笑いながら話す。




志渡「ふん。」





 志渡と呼ばれた隊員は、Bfの志渡尊(シドタケル)。腰に刀をぶら下げており、能力は[速まる]能力。自分が行動するときに少しだけ自分の時間流を速めて速く動くことが出来る能力。無愛想で背が高い男だ。






矢向「どうだー?走川ー!周りに何か進展はあるか?」





 通信機で走川に話しかける。走川は冷静に周りを見た後に答えた。






走川「うむ。何も変わった事はないな。」




矢向「そりゃあ良かった!じゃあどんどん突き進むぜ!」





 六人は森の中を突き進む。抜けるまで後数キロ辺りになってからだった。





走川「待ってくれ。前方から誰か来る。」





矢向「ん、追っ手の可能性があるな。走川は今どこにいる?」






走川「君達の後ろに居る、先頭に出ようか?」





矢向「いや、良い。俺らでなんとかなるさ。本田、前方に人が来るそうだ。この議員さんをよろしく頼むぞ。」



本田「わっかりましたー!」




議員「お、お、追っ手か!?」





藤原「ま、大丈夫さ!大船に乗ったつもりで居れば良い。俺が守ってやる。」




矢向「人数は何人だい、走川?」



走川「一人だ。」



矢向「一人?」


藤原「一人だと?」



 二人はすっとんきょうな声を上げ、矢向は笑い出す。



矢向「ハッハッハ!こりゃ追っ手も運が悪いようだな!」



藤原「一人に崩せる俺じゃあない。さっさと潰していこう。」




 そして…その追っ手と鉢合ってしまった。鉢合った時の状況をよく覚えている。皆、言葉を無くしていた。その人物があまりにも凄かったからだ。





?「……標的発見?も、も、も、もしかして!ま、ま、ま、周りは護衛?私は全員、や、や、殺っても良いのか?」





 巨大なガトリング砲を携えた女が道を塞いだのだ。女の口調はどもっていて、ひ弱そうにも見えた。矢向は声を上げる。





矢向「待て!君はどこからの追っ手だ?君のその服装とその武器は見覚えがある!まさかB.B.Bのメンバーではないのか?我々はBARKERsだ!」





?「し、司令、は、早くっ、早く命じて欲しいっ!相手の、護衛!四人なんだ!BARKERs、BARKERs!!能力者、、能力者だ!!まだ、駄目なの!?早く司令!!!」





 女は焦っていた。やはり人数で差があり、能力者だと分かれば焦るのだろう。矢向は語りかける。




矢向「待ちたまえ!もし、君が敵対したくないと思うならば何もせずにしてあげよう!だからそこを黙ってどいてくれないか?」




 女は額に汗をかき、顔が赤くなっていく。




?「司令…良いんだな?もう、が、がま、、我慢しなくて…良いんだな?ワタシ…」




矢向「?」


藤原「なんだ?気持ち悪い。」


本田「なんでしょう…?」




 三人はあまりの異様さに気味を悪くする。








?「はは…ハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハハハハハハハ!!!!」








矢向「っ!」


藤原「どうした!?」


本田「なに!??」


議員「なんだ!?」




走川「!?」 




 急に笑い出す女に驚くメンバー達。恍惚な表情を浮かべ、両手で顔を覆い笑う姿は確実に異常であった。




矢向「何にそんなに笑っているのだ!」



藤原「この状況に頭でもおかしくなったか?」






?「フフフフフフフ、アタマァ?おかしいのは昔から…いやぁ嬉しい。ウレシイナァ?このワタシの目の前に幸運があるんですものぉ!!神よ、このカノン・アローナはあなた様の御加護を心から受け取りますぁアッハハハハハハハ!!!」




藤原「幸運だと?」


本田「イカれてるわ!」



 しかし、志渡は一人、冷や汗を大量にかいていた。




志渡「藤原!!」


藤原「!?」




 志渡が叫んだその時だった。






 !!!!!!!!!!!





 大きな連続する銃声。カノン・アローナという女はこちらに向けて発砲してきたのだ。




 バババババババババババババババババ!!!



 一度放った銃声は止まず、銃声と狂った大きな笑い声が混じった音が辺りを埋め尽くす。




カノン「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!ハァハァ、ハハハハ!!!」





 そして数分打ち続けた後、銃の乱射を止めるカノン。その後、満足気にニヤリと笑い涎をすする。




カノン「そう!!そうよぉ!!こんなんで終わっちゃ困る!!折角の命のやり取りなんだものこんなんでは終われないわぁぁ!!?」






藤原「はぁ、はぁ、危なかったぜ。無事かお前ら!!」




矢向「ああ、流石は藤原だ。」


志渡「無事だ。」


議員「はわわわわ、」


本田「こちら二人とも無事よ!」




藤原「了解だ!走川、お前はそこで見ておけ。」ボソッ






 藤原は走川に対して小さい声でそこに待機するよう、無線を入れる。走川は驚愕していた。あのガトリング砲の掃射も凄かったがそれよりも凄かったのは藤原の能力だ。両腕を開き、その体の中心にどんどん弾丸が吸い込まれていったのだ。






藤原「ここは俺がいる限り誰も怪我する事はないぜ」ニヤリ






 そう藤原は言うが、汗を大量に流れており、楽勝ではなさそうであった。カノンはまた構えて蜂の巣にしようとする。




カノン「もっと…もっと興奮が欲しいっ!阿鼻叫喚をっ!もっと血飛沫を!臓物を!ぶちまけてほしいっ!!生きている実感を欲しいのっ!!もっと!!もっとよぉ!!!?」






 ババババババババババババババ!!!!






藤原「させるか!!!!」






 また藤原は能力を使い弾丸を吸い込む。上手くいっているように見えた。さっきと同じなら上手くまた全て吸い込むと思っていた。






 だが、銃声は鳴り止まず…




矢向「大丈夫か!藤原!!」




藤原「ぐぅぅっ…!!何だこの連射はっ…!」






 ざっと3000発は越えていた。1発でもまともに食らえば体が弾けとんでしまうほどの速さと威力と大きさ。撃ち切るのを待つしかなかった。程なくして銃声が鳴りやみ、カノンの喜びの声が聞こえた。





カノン「congratulation♪全弾掃射おめでとう!!」






藤原「ぐふっ…」






 藤原が疲労で膝を落としたその時だった─






藤原「何!?ガシャアッ!─






カノン「これは命の取り合い、油断は駄目だねぇ?」






 カノンはあの巨大なガトリング砲を豪速で藤原に投げたのだ。藤原はその下敷となりもう声を発することは無かった…




矢向「藤原ぁぁぁ!!!!」


志渡「ふんっ!!」






 志渡は腰の刀を抜き自分の出せる最速で突撃した。その動きは刹那だった。横一線の一文字がカノンを切りつける。






 ことはなかった。なんとカノンは返しが沢山ある大きなナイフでその一線を防いでいたのだ。






カノン「接近戦……そそるわぁあ?」




志渡「化け物め!!」






 志渡は更に速度を上げて連撃に出る。左右斜めと流れるように切りつける、ある剣術の(ナガレ)という技らしい。常人ならばいつの間にかスライスされていたところだろう。




 しかし、カノンは違かった。やつは流れる動きでナイフをもう一本出してその連撃を防いでいった。




志渡(バカなっ!!何でついてこれるんだ!!)




カノン「もっと…もっと速く動けるでしょう?それでは萎えてしまうよお?ワタシぃ?」






 徐々に最初、志渡が攻めていたはずなのにカノンが押し始めた。両手に持ったナイフは志渡の急所という急所を攻め始める。




志渡「ぐっうぅ!!」




カノン「ホラホラホラホラァァァ!!!」






 志渡が押され、もう駄目かと思った時、カノンの足に矢が二本刺さった。




カノン「ん、?」






 矢向が二本同時射ちでカノンの左太股に二本の矢が突き刺さる。




矢向「やれ!志渡!!」






 志渡はカノンが痛みで顔を歪ませ、膝を付く前に鋭い突きをカノンの心臓に突き刺す─








 ガキィン!!






志渡「なっ!!」






 志渡の刀は虚しくもカノンによって空を刺した。カノンはナイフで横に叩いたのだ。






カノン「ガリッ、ブフッ!!」






 パヂャ─






志渡「かっ…」






 カノンは何かを吹き出し、志渡の額を何かが貫通していく─






カノン「アッハァ!!!」






 ブシャ─




 


 二本のナイフは左右に志渡の首に突き刺さる。その後、グルンとナイフを船の舵のように回す。






 ブシャァァァ!!!


   ドサッ






矢向「……マジかよ………なんで平然としてやがるんだ…」




 矢向のアーチェリーは競技で使うような物では無い。狩猟などに使われる類いの物だ。一発の威力は凄まじく、普通なら太股に刺さる。ではなく、突き抜けるや、弾けるなどが正しいくらいだ。矢向自身は刺さっただけでダメージはあると思っていた…今になって考えるとそれはおかしかったのだ。




 カノンは折れた前歯を見せてニタニタと笑う。志渡に吹き掛けたものは自分の前歯だった。




カノン「当たって平然としてるワタシがコワイィ??だって…総重量230を越えるM61バルカン砲を持って歩いているんだ、それでなんとか察せなかったのかぁ?」




矢向「ば…化け物だっ!!!」






カノン「アッハァ!!アッハハハハハハハ!!!!!!」




本田「…私達、死ぬの?」


議員「お前達に任せたら助かると言ったじゃないか!!!」




矢向「死なせない!!」






 矢向は強い口調で制する。そのあと、本田に小声で作戦を話す。




矢向「お前の能力で滑走して逃げるんだ。議員一人だけならお前の能力でなんとかなるだろう?」




本田「そんな…どうするの?矢向は…?」




矢向「俺はお前らの囮をする。後で走川と合流してくれ。」




本田「……死ぬの?矢向…」




矢向「俺は……まだ死ねない。死なないよ俺。」




 矢向は走川に通信を送る。




矢向「走川…本田と議員を任せた。俺が囮になる。」




走川「矢向……俺は何も出来ないのか?」




矢向「何もするな。」




走川「……分かった。矢向…」




矢向「これ以上はもう…待ってくれないようだ。良いから後は任せるんだ。」




 カノンはニタニタが無くなり、薄目を開けてムッとこちらを見ていた。






カノン「……もう、良いか?冷めてきちゃった…さっさと臓物をぶちまけろよ。」




矢向「やってやる。」




 矢向は一本の矢を引き絞り、カノンに標準を合わせる。




カノン「はぁ…私にそのおもちゃは効かない。ヤるなら頭に当てるんだ。頭に当てるならなんとかなるかもしれないぞぉ?」




 矢向はグッとカノンの頭に合わせ、いつでも放てるようにする。






矢向「……今、皆を見逃してくれるならこの一撃を射つことはない。」




 カノンはその赤く鋭い目付きで矢向を睨み冷たく言い放つ。




カノン「これは私達の任務なんだ。ここで、私に会った時点で皆殺しは確定なんだよ。」




矢向「残念だ……。逃げろ!!本田!!」






 矢向は一撃を放つ─






 しかし、目の前にはカノンは居なかった。次に矢向が見た風景は強い衝撃による揺れる風景。そして、一瞬にして赤くなり暗くなる世界だった。




 カノンは頭に来る矢を避け、屈みながら、後ろ足で大地を蹴り、下から強烈なハイキックを矢向にぶつけた。240以上を持ち上げる足腰が、もろに矢向の顔面に当たったのだ。




 本田は議員を引っ張り逃げる。本田は地面の摩擦消して逃げていった。




 だが、カノンの魔の手から逃れる事は出来なかった─






本田「ごっひゅ…」






 後ろから飛んできた矢が喉を貫通したのだ。本田はその場で倒れ、議員は本田に引っ掛かり転ぶ。




議員「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」




カノン「さて、、あなたに恨みは無いが…ぶちまけてくれ、内蔵を。」




議員「ぎゃああああああああ!!!!」






 …俺はその光景を黙って見ていた。動くことが出来なかった。大事な友人達が殺されていくさまを、仕事の要人が惨殺されていくさまを。動けなかった。少しでも動いたら殺される。気配を消し、汗すらも止まり、息すらも止まっていた。






走川「……」






ゆっくりと戻ってくるカノン。




カノン「はぁー、殺し足りない。もっとやりがいのあるのが欲しかった。この火照った体をどうすれば良い……帰宅して発散しなきゃぁ…」






 カノンはM61バルカンを背負い、森の奥へ帰っていった。その姿を見て、走川は安堵したがすぐに気を失った。






─────────────────────






走川「それから俺は、カノン・アローナについて調べ漁った。そして、分かったことがあった。」




シュウ「何が分かったんですか?」ゴクッ




走川「やつはB.B.Bの中でも圧倒的に凶暴。殺し合いこそに生きている実感が沸き、それを快楽とする。能力は銃弾以上の速さで物を撃つことができる、[撃つ]能力だ。そして…」




ノブ「そして…?」






 一息入れたあと、真面目な顔で驚きの発言をした。






走川「やつは既婚者だ。」




シュウ「そ、そうなんですか…」




ノブ「……」






 シュウはカノン・アローナの話を聞いて、出来れば会いたくないと心に思った。しかし、もしかしたら、ランファさんと同じく、どこか優しい所が有るのではないかと既婚者というワードを聞いて少しだけ希望が沸くところもあった。

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