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第二章 ???話 団長


 パシィィン─



 今日も鞭の音が響き渡る。


 あるものは声を出さずに咽び泣く─


 別のものは大声で泣きわめき─


 または息をしなくなったものもいる─



 こんなところに何故居るのかって?それはここにしか居場所が無いからさ。俺達のような人間離れした輩にはね。




 一人の小さな男は小さなテントで一人、堅い床の上で薄い布を掛けて寝ていた。


 ここは見世物小屋。しかも、相当悪質な運営者が仕切るね。我々のような人間離れしたものはここに捨てられた。四肢が欠損、または多いもの、見た目が人と違うもの、重度な障害を持つもの…悲しいことに身内に捨てられここに集まるのだ。


 言うことを聞かなかったり、上手く芸が出来なかったり、はたまた、調教師なるものが気分が悪かったりなどすると、あの凶悪な鞭で叩かれるのだ。


 痛いってもんじゃあない。皮は削げ、肉は弾け、酷いと骨まで達する。常人ならば、五発は耐えられない。痛い痛いと泣きわめくか、叫ぶか、やめてと懇願するかだ。だがそれはサディストな調教師にもっと叩いてくれと頼んでいるのと変わらないのだ。



 「可哀想に……」ボソッ



 私はそう小さく呟いた。何年も私はここに居て何人ものこの私刑を聞き、見てきた。私は今叩かれているものを知っている。最近入ってきた、新入りだ。新入りは誰に対してもとてもフレンドリーで気さくだ。それが祟ったのだろう。あの調教師に話し掛けてしまったのだ。ここでは私達は人としての権威は持っていない。ましてや調教師に話し掛けるなんて考えられないのだ。話し掛けられた調教師はニヤリと笑った後一発殴り付け、その新入りを懲罰するため連行した。



 

 …どうやらもう懲罰は終わったようだ。今回は鞭打ちの回数は28回。まだ数は少ない方だった。恐らく新入りは痛みに耐え、声を出さなかった事が詰まらなくなったのだろう。


 「このゴミが。さっさと立て!!」



 その新入りは引き摺られる形で近くの小さなテントに放り投げられた。そう。私が居るテントだ。


 新入りは言葉を発さなかった。死んでいるのだろうか。



 「なあ、、死んだのか?」


 外に聞こえないように小さな声で話し掛ける。しかし、反応が無い。まぁ死んでしまったとしても仕方無い。ここでは良くあることだ。そう思い、寝に入ろうとした時だ。



新入り「はあ…仲良くしようと思っただけなんだがね…」


 「……なに?」



 新入りは生きていた。しかも、出した言葉が恨みやつらみではなく、仲良くしようと思ったんだと理解出来ん事を言うではないか。



新入り「なにって、私は皆と仲良くいきたいんだよ。」



 私は呆れた。心底呆れた。こいつ、ここが学校なんかと間違えているのではないか?


 「おいおい…仲良く、ってここがどこだか分かっているのかい?」


新入り「勿論だとも。」


 「それであのドSな調教師に話し掛けたのか?」


新入り「ああ、まぁ今日は彼の気分がよろしくなかったのだろう。機嫌が悪い時なんて誰だってあるからね。」


 「………調教師と我々に格差が有ることを知らないのか?」


新入り「知っているとも。だがきっと笑い合う事が出来るはずだ。」


 「……君はcrazyだな。」


新入り「ふむ。そうだろうか。一度しかない人生なんだ、色々な人と出会い、笑顔にしていきたいじゃないか。」


 「変わっているな。」


新入り「ここに変わっていないものはいるかな?」


 「ハハハ、面白いな新入り。」



 新入りと私はこの短時間で打ち解けた。だが、やはり周りの人間を笑顔にさせたいという気持ちは分からない。人間は恨むべき相手。我々を蔑み、嘲笑い、虐げてきたのだ。ただ少し変わっているというだけで。

 ちらほら話していたらいつの間にか眠気が走り、いつの間にか寝てしまった。そしてまた、苦しい明日が始まるのだ。



---------------------



 ───朝がやってきた。我々の朝は誰かが鞭で打たれる所から始まる。



調教師「さっさと起きて動きやがれゴミども!!」



 叩かれ絶叫するものは泣きわめいた。


 「こんなことがあっても人と仲良くしたいかね?所詮は人から見たら私達はゴミなのだ。」


 新入りはハッハッハと笑い背中をポンポンと叩く。


新入り「私達も人間さ。ただ少し特別なだけだよ。」


 「ぶれないものだな。」


新入り「そう言えば君はどんな芸をする予定なんだい?」


 新入りは見世物で見せる芸について興味があるそうだ。正直、私にとって、これは仕事。殴られないように、ミスしないように。気を付けてこなす作業でしかないため、そっけなく簡潔に答えた。


 「あぁ、象廻しをするんだよ。」


新入りは目を輝かす。


新入り「ほー!凄いじゃないか!猿廻しならぬ象を!私もいつかそれを見てみたいなぁ!」


 「……これは誇れるものではないよ。懲罰を受けないように無理くりに身に付けた荒い芸さ。そんな細かい芸など出来んしね。」


新入り「いやいや、それら努力の成果だよ。芸をしたときの観客の顔を見たことがあるかい?」



 「……それどころではないからな。」



 そう。それどころではない。意識を、思考を研ぎ澄まさなければならないし、ミスしたら懲罰だからだ。これが無くなったらただの小人。なにも芸が出来ないと調教師は決め付け、私を殺すまで殴り付けるだろうからな。


新入り「一度見てみるといい。きっと気持ちが晴れるだろうからね!」


「うーん……頭に入れておこう。…それと早く行かないと面倒な事になる。見世物小屋の準備と予定を聞きにいこう。」


新入り「そうだな!」



 我々はまた今夜始まる憂鬱なショーのために打ち合わせにいった。



---------------------



 今日もボロい檻で眠る子象のジュディと共に芸をすることになった。このジュディとは私がここに来たときからの仲だった。入った当所動物の飼育係になった私は親象が育児放棄したジュディを拾い上げ、こっそり、自分の食事を与えたり、他の動物の餌をジュディに分けたりして育てたのだ。小さな男が子象を使役する姿は滑稽だと調教師は笑っていた。それが良かったのだろう、ジュディは廃棄されずに済んだのだ。



 「起きろ、ジュディ。出番だ、今日も頼むぞ…」



 私は寝ているジュディを起こす。ジュディは何も言わず、むくりと起き上がるとじっと私の目を見た。


 「やる気充分だなジュディ。これなら懲罰も無さそうだ。」



調教師「おい、次出番だぞゴミ野郎。少しでも遅れてみろ、どうなるか分からんぞ。」


 「……」



 調教師には返事はしてはならない。余計なリスクは避けたいからだ。黙って頷き、ジュディの檻を開けた─




-----------


 私達は観客達の前に出た。観客達はいつものようにざわつき、珍しい生き物を見るように覗く。


 (さっさと終わらせてしまおう。)


 そう思い、大きな玉にジュディを立たせる。作業と化した芸だ。いつも通り、いつも通り…



 見事ジュディは玉乗りに成功する。その立たせた状態でキャッチボールをする。これも難なく成功だ。今日も上手くいくな…





 余裕が出来てしまった─


 その余裕は私に無駄な行為をさせるに充分な油断だった─



 周りの観客達を見てしまった…


 これは催眠術に近い事だった。きっと、あの新入りに観客達を見てみろと言われたからであろう。





 私は感動してしまった。



 観客達の目は輝いていて、ここが見世物小屋ではなかったらきっと歓声を挙げていたでだろう口元…置かれたボロい椅子から落ちそうになるくらい前のめりになって見ている観客もいた。私にはその時そこまで見えていたんだ。



 気付いたときにはもう遅かった…ジュディは大きな鳴き声を上げて玉から落ちてしまった。



 血の気が引いた。すぐに意識を研ぎ澄まして鞭を与える。ジュディは黙って起き上がる。私の内心は焦りに焦っていた。すぐに観客達に頭を下げて引き上げた。


 舞台裏に戻った瞬間だった。強い衝撃が顔面を捉えた。私は倒れてしまう。



調教師「このゴミがぁぁ!!!なんてミスしやがった!!俺に泥を塗りやがって!!殺してやる!!!」



 調教師は馬乗りになって私を殴った。



 クソ……上手くやってこれたのに…


 クソ…死ぬまで…殴り続けるつもりか…


 クソ…だから人間は嫌だ……



……………………………………



 私は…人間が嫌いだ。



『私達も人間さ。ただ少し特別なだけだよ。』 



 私も人間ならば…



 『芸をしたときの観客の顔を見たことがあるかい?一度見てみるといい。きっと気持ちが晴れるだろうからね!』



 まだ…終わってはならない…



 私も人間ならば…



 やってみたいことが…



…………………………………………



新入り「やめろ!!!!!」



調教師「なんだと…?」



 新入りが調教師に対して制止の言葉を放った。この一言で調教師の顔は怒りで眉間が崩壊しそうになる。



調教師「ゴミが…俺にやめろだと?誰に向かって言ってるのか分かってるのか?おい。」


新入り「そ、それ以上は死んでしまう。だから止めたのだ。」


調教師「ハッハッハッ…そうかそうか、死んでしまうか…じゃあお前が代わりに死んでくれるんだな?」



 調教師はポケットからナイフを取り出した。このナイフはテントなどのヒモを切る用のナイフだった。そのナイフを新入りに向けて歩き出した。


新入り「そ、それは嫌だなぁ…」


 新入りはその歩数分後ずさる。


調教師「お前にはイラついてたんだ。やっとここで晴らせるぜ。お前らのようなゴミはいくつ死のうと構わないんだ。死ね!!ゴミがぁ!!!」



 「うぐぅおおおお!!!!」



 私は新しく出来た友を殺すわけにはいかなかった。意地で立ち上がった。もうやけくそだった。私の腰につけていた象廻し用の鞭を、調教師目掛けて打ち付けたのだ。



 パシィィィィン─


調教師「ぐぎゃぁぁぁぁあああ!!!」



 調教師の背に当たり、絶叫する。


 「クソォォォ!!!」



 パシィィィィン─



 もう一発は調教師の首筋当たりを捉えた。



調教師「いでぇぇ!!いでぇぇよぉぉ!!!」



 調教師は痛みで床を転げ回る。その言葉に私は頭にきた。


 「なんだと?痛いだと?…ふざけるな!!!!貴様はこの痛みで何人もの仲間を殺してるんだ!!!死ね!!貴様が死んでしまえ!!!貴様こそゴミだ!!!貴様のようなやつが人間を名乗るなぁぁぁ!!!!」



 バジィィィィン─



 最後の一撃は頭を捉えた。



 そして、衝撃的な事が起こった。先程まで痛みに悶えていた調教師は頭や背中から血を流しながら…



 スッと黙って立ち上がったのだ。



 「な、なに!!!?」


新入り「あ、危ない!逃げるんだ!!」



 新入りが叫ぶ。だが調教師の方が、小さなナイフを出すのが速く、このままでは走りより刺される。そう、思った。



 なんと…なんと次の行動は、素早く…素早く自分の首をかっ切ったのだ。



 光景を見ていた二人は想像していなかった様子に絶した。



新入り「意味が分からない…」


 「私もさっぱりだ。」



 何故、いきなり自決を?端から見て異常過ぎる。まるで私に打たれておかしくなったみたいだ。……私の鞭で打たれておかしくなった…?

 まさか死ねと言われたから死んだのか?


 そ、そんな馬鹿げたことがあるはずがない…



新入り「ど、どうするこれから、この遺体をどこかに隠さないと…誰か他のやつに見付かってしまうよ!」


 私は考える…そして、死に間際、やりたかったことを思い付いていた。その言葉を口にした…



 「私は、もっとこの技で、色んな動物を廻し、沢山の団員をかき集め、暖かい…とても暖かいサーカス団を作りたい。私なら、私ならもっと上に行ける気がするんだ!」



 新入りは呆気に取られ、目を丸くしただけだった。そこに私は畳み掛けて言った。



 「新入り君!君の助けも欲しいんだ!一緒に行かないか?」



 新入りはすぐに我にかえり、嬉しそうに言った。


新入り「君のその変わりように嬉しくもあり驚いた…私は君と共にその光景が見たいな!」


 「よし!!」



 私は新入りに歩み寄り、手を差し出す。



 「私の名前はバンシャ・デイリーだ。これから共に作っていこう!新入り君!」


 新入りはその差し出した手を握る。


新入り「私の名前は、ハーバート、ハーバート・ボルターだ。サーカスを作るならここをさっさと出よう!人気の無い場所を探して逃げなければ!」


 「ああ!裏路地を行こう!そこから町を出るんだ!」



 こうして、私達はサーカス団を作ることにしたんだ。



----------------------



ノブ「そんなことが有ったんたな。」


バンシャ「そうさ。私達はこの苦難を乗り越えてここにいる。その途中でアダにも出会い、ノブに出会い、クランフランや、デニス、オジー、アチクに出会ったんだ。」


 アダはフフッと笑い、ハーバートはうんうんとうなずく。


バンシャ「それとな、ノブ。」


ノブ「ん?」



バンシャ「…俺はなお前らを家族だと思っているんだ。アダ、ハーバート、そしてお前。お前たちは特に大事な家族だ。ノブよ、俺を親父だと、思ってくれても、いいんだぜ?」


ノブ「……団長…俺は…心から嬉しい…っ!」



 ノブは涙を浮かべ、バンシャはハッハッハと大きく笑う。


 

 平和で、幸せそうな一日…



バンシャ「さて!!このサーカス団を世界に轟かせるとするかね!!!」

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