第二章 44話 大きな男の小さな希望
巌鉄「このクソ野郎共がぁ!!!俺の可愛い部下達になにさらすんじゃああ!!!」
シュウ「巌鉄さん!?」
アダ「!知りあいなのか!?」
巌鉄はそのまま象を上から落ちて突き抜けた。
ジュディ「ブァオオオオオ!!!!」
アフリカ象のジュディは倒れ、痙攣するも、ピクリとも動かなくなった。
巌鉄「今から救出戦じゃあ!!!ガキ共!!!さっさと降りて働きやがれ!!!」
血を被った巌鉄の姿はゴツゴツとしていて岩と化していた。
シュウ「これが…巌鉄さんの…」
巌鉄はシュウを見て激しく罵った。
巌鉄「象の一体も殺れないとは情けない!!!お前の仕事はもう残りの生きてるやつらの誘導じゃ!!!戦えんやつ、足手まといは手を出すんじゃない!!!」
巌鉄の足手まといという言葉はシュウに深く刺さった。
シュウ「あ…はい…分かりました…が、頑張りますね、、アダさん。行きましょう。」
アダ「あ、ああ。分かった。」
シュウはアダを連れてショーテントに向かった。
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助けに来たヘリは一台では無かった。ジャガーと対峙し血塗れで苦戦を強いられていたオジーの目の前に三人の英雄が現れた。
「へーこりゃまたすげぇもんが見れたぜ。」
「ま、僕達が来たんだ。後は任せてくれたまえよ。」
「フフフフッ♪カッコいいです!愛してますわダン♪」
「僕も愛してるよ、エミリア♪」
オジーは下敷きにされながらも上手くジャガーの顎を掴み、噛まれるのを防いでいた。
オジー「おい!ここはdangerだ!逃げな早く!!」
ダンはわざとらしく困ったポーズをして答える。
ダン「僕たちに逃げろだってさ、どう思う?エミリア。」
エミリアもダンと同じポーズをする。
エミリア「全く、言葉を選んで言って欲しいものですねーダン?」
その光景にイライラした剣崎は前に出た─
剣崎「アホかてめぇら!早く助けんぞ!」
剣崎は馬乗りになるジャガーの鼻っつらを殴り飛ばす。
ビート「グギャオ!!」
剣崎「オラオラオラオラァ!!おせぇぞ獣風情が!!」
目で追うことが難しいほどの速いラッシュをジャガーに浴びせる。
ビート「ガァァ!!!」
ジャガーのビートは爪を剣崎に振りかざすも、
ギィィィン─
エミリア「やらせないわ?」
半透明な六角形の板のような物が剣崎を守る。
ダン「さぁて、La finとしようか!」
ダンは腰にぶら下げたレイピアを抜き、高速で一突きジャガーの額に入れた。
エミリア「んーー!見事なファンデヴ!!愛してるダンー!!」
その一突きはビートの頭を貫通した。
ビート「グガォ…」
ビートは横に倒れ、動かなくなった。
ダン「ま、僕の剣は獣になんて勿体無いけどね。」
剣崎「大丈夫かーそこの不思議な女と男。すぐに助けが来るから踏ん張ってろよー?」
フラン「あ、ありがとう、」
クラン「…ございます。」
オジー「O、OK…」
フランクランとオジーは呆然としながらもその後自分達は助かったのだと心から安堵した。
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小一時間が過ぎたくらいだろうか、辺りはほとんど鎮圧されていった。流石Bfの方たちだ。
ショーテントの中では治療が行われていた。治療しているのはMfの副隊長、溶定妖華率いる医療団体だ。
妖華「ほら、刺された手を出して。」
妖華さんは毒のある生物に刺された人の解毒を行っていた。
溶定妖華は毒を生み出す事が出来る「毒す」能力を持っている。妖華は刺された団員の腕を掴み手で覆う。そして上から水をかけた。
団員「痛い!!」
妖華「安心して、刺されたのはイエロースコーピオンだったわね。この水は血清となってあなたの中で毒と戦って消してくれるわ。」
妖華はこうして自分の毒を患部に流し込み血清を作っているのだ。
妖華「じゃあ後は近くで横になって安静にして。あまり動くと回ってしまうから。」
団員「ありがとうございます!」
刺された団員は他の動ける団員に肩を貸して連れていかれる。妖華ははだけた胸もとをパタパタして言う。
妖華「はあー、これは激務になりそうね…まぁでも流石は団員ね。刺した生物の種類が分かるのは私としてはやりやすいわ。」
小張やワグもここに合流していてワグだけ簡易担架ごとぐるぐる巻きに包帯が巻かれていた。
ワグ「いやぁ本当に助かった…こんなに豪華面子が来るとは思わなかったぜ。ってか俺だけ何でこんな荒療治なんだ?」
小張「本当に助かりました…よく来てくれましたよ本当に。」
妖華は手にペットボトルの水を掛けながら言った。
妖華「そりゃ、一大事には駆けつけるわよ。っと言うより、あの椎名からの頼みだしねぇ…あの子があそこまで言うんだもの、何かあるんだってね。」
ワグ「そんなことがあったのか…椎名に助けられたな…帰ったら労ってやらねぇと。で、この荒療治はなに、答えになってねぇぞおい。」
小張「あ、シュウは?シュウはどこ?」
ワグ「そう言えば、確かノブと話てるところはちらっと見えたけど…」
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ノブ「団長は見つかったのか…?」
眼がもう真っ赤になり、やつれたノブがシュウに話し掛ける。シュウは少し困った表情で答えた。
シュウ「いや…まだなんです。一応自分達のチームの方が見付けたら報告が来るとは思うんですが…」
ノブは変わらない表情でシュウに頼み込んだ。
ノブ「頼む…先に俺を団長に会わせてくれ。話をしたいんだ。」
シュウ「あ、いや、でも、まだここを出ないほうが…」
ノブ「なら一緒に来てくれ。その方がまだマシなのだろう?」
シュウは困り果てた。ノブの眼は真っ直ぐとしている。シュウ自身もノブのその気持ちが痛いほどよく分かっていた。
シュウ「……」
ノブ「お願いだシュウ!!」
シュウ「……分かった。行こう。」
ノブ「ありがとうっ!」
二人はこっそりショーテントから抜け出して一番バンシャがいる可能性のある動物用テントに向かった。
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外を出たノブは辺りの惨状を見て唇が切れ、流血するほど下唇を噛み締めた。自分の愛したサーカス団員と、愛した動物達が無惨な姿で倒れているのだ。
もう攻撃してくる生物は少なくなっており、何事もなく動物テント近くまで向かうことが出来た。すると、ハゲワシが一匹肉を貪り喰っていた。あの時逃げ出したハゲワシのマイクだ。その光景を見てノブは固まった。
シュウ「ノブ?」
ノブ「まさか…」
ノブの眼から涙が我慢出来ずに流れ出る。
ノブ「やめろぉぉぉぉ!!!!放れろマイク!!!!!」
ノブは走り寄りマイクを払いのけようとする。だが、マイクはそれでも一心不乱に食べ続ける。
ノブ「どけ!!!どけよマイク!!!うおおおおおおお!!!!」
ノブはマイクを掴み放り投げた。マイクはバサバサと飛んでいく。シュウは唖然としていた。だがすぐにノブがそこまで取り乱した理由も分かった。赤い派手な千切れた服、鞭…食べられていた肉塊はあのバンシャ・デイリーだった。
ノブは大粒の涙を流して、千切れ千切れの臓物や肉をかき集める。
ノブの頭の中ではバンシャとの記憶が次々と思い浮かんでいく。
「君の名前はノブだ。日本人はノブが好きだからな。賢い偉人だったと言う。一緒に行こうノブ。君のこれからの世界はきっと明るいぞ!」
「これからは君もバンシャフリークサーカス団の一員だ。」
「そんなわけあるか!!お前はきっとこのサーカス団の最高のスターになる!!バンシャフリークサーカス団はお前を中心に全世界でNo.1のサーカス団になるぞ!!」
…………………
「ノブ…俺はなお前らを家族だと思っているんだ。アダ、ハーバート、そしてお前。お前たちは特に大事な家族だ。ノブよ、俺を親父だと、思ってくれても、いいんだぜ?」
………………………
バンシャ「クックック…俺は…特にお前達だけは…特別視していたんだがな…」
……………………
ノブ「俺は…団長が死んでほしいなんて…微塵も思っていなかった…ただ…俺は…」
ノブは両手で血肉をかき集めてすくう…だが無常にも零れ落ち、バンシャの亡骸は一言も発しない。
ノブ「っっ!!!!」
ノブは泣いた。その声はまるで親を亡くした熊の咆哮のようだった。一言だけでも話を交えたい。その思いは儚く散り、親だと思って接していた人物と一生会えなくなった悲しさ。その光景はシュウの心にも酷く染み付いた。