第二章 42話 怒れる動物達の虐殺
熊のケイティが横たわり、ケイティの頭を抱え泣いているノブ。シュウとワグは急いで行かないといけないが、見捨てて行くわけにも行かず、そこに立ち尽くしていた。
小張「ん、」パチ
小張は観客席でパチリと目を開ける。アダはそれに気付き声をかける。
アダ「起きたね、大丈夫?」
小張「うーん…頭が凄い痛いし何かよく分からないイライラがあるけど…まぁ大丈夫、ありがとうアダさん。」
小張は起き上がり、下に居るシュウ達や倒れている動物達を見て思い出す。
小張「あ…何で私寝ていたの!?バンシャは!?何でノブが!?あ、いや、何でアダさんも!?」
アダ「記憶が無いのか?」
小張「えっと…何か夢は見ていたような気がするけど…覚えてないわ。」
アダ「そう…私はもう出るわ。下の人達の所へ行ってきな。団長のことは任せたよ。色々とありすぎて結構キツい。」
小張「ありがとうございます、あ、それときっと助けてくれたんですよね。何から何までありがたいです。」
アダは後ろを向き歩いていったが、一瞬だけ見えた険しく悲しい表情を小張は忘れる事が無いだろう。
小張は状況を判断し、黙って下に降りる。シュウとワグはそれに気付くが、状況が気不味いため声をかけることが出来なかった。
小張「……」
シュウ「……」
ワグ「……」
この重い空気の中、ノブは顔を上げた。
ノブ「すまない……気を…使わせたな…早く団長を止めてくれ…きっと動物テント内に居るはずだ。」
ワグ「ああ…分かった。じゃあ…行かせてもらうぜ。」
ワグはシュウと小張に目をやり、二人はうなずく。
シュウ「行きましょう。」
三人は走ってショーテントを出ていった─
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小張「そ、そんな…なに…これ…」
ワグ「一体…どういうことだ…」
シュウはこの光景に茫然としていた。そして怒りが一気に込み上げ口に出る。
シュウ「バンシャ!!!!なんてことを!!!」
辺りは地獄と化していた…
動物が…動物達が…
団員達を惨殺していたのだ─
血が所々に飛び散っており、悲鳴が辺りを埋め尽くす。
シュウ「助けなきゃ!!早く皆を!!」
ワグ「ああ!三人で別れよう!!」
小張「急がなきゃ!早く!!!」
三人は別れて動物達に襲われている団員を片っ端から助けに走った。
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数十分前、クランフランのテント内─
ガシャアッッ!!!!
ナンノオト? ナンダナンダ?
ケンカカ? ムコウカラカナ?
フラン「なになにー?こんなときに喧嘩ぁ?皆寝てるんだけどぉ?」
クラン「誰だろうね、こんな時間に元気な人は。」
キャーーーーーーーー!!!!!!
急に近くで女性の団員の悲鳴があがった。
フラン「!?」
クラン「!?」
二人はその声にぎょっと驚いた。あまりにも悲痛でよもやサスペンスで遺体を見たときに似ていたからだ。
フラン「何か嫌な予感がする!」
クラン「こ、怖いけど行こう!」
クランフランは自分のテントを開けて外に出る─
フラン「え」
クラン「……」
目の前にはハーバートを食い荒らすジャガーのビートがいた。
ハーバート「ガブァ、に、逃げブァ」
ハーバートは口から血を吹き出しながらも真っ直ぐクランフランを見て逃げるよう言った。
フラン「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
クラン「ひっ、う、嘘!?何で!?」
フランはあまりの恐怖で膝の力が抜けてしまい二人は尻餅をついてしまう。
ジャガーのビートは二人に気付き、吠える。
フラン「誰かぁぁ!!!誰かぁぁぁぁ!!!!」
クラン「フラン!立ってお願い!」
フラン「無理よぉ!!!誰か助けて!!!誰かぁぁぁぁぁ!!!!!」
ビート「ガァァァァァァァ!!!」
ジャガーのビートは強い殺気を出して二人にどんどん近づいていく。フランの足は一切力が入らず一向に動くことが出来ない。
フラン「嫌だぁ!!!来るな!!来るなぁぁ!!!」
クラン「うっ…フラン!!聞いて!!」
フラン「嫌だぁ!!嫌だよぉ!!!まだ死にたくないぃ!!!」
フランは泣き出し、取り乱す。
ジャガー「ガァァァァァァ!!!」
フラン「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
クジャア─
クラン「聞きなさいフラン!!」
ジャガーはクランフランに噛み付いた。だが噛み付いたのは右腕だった。クランが右腕を突っ込んだのだ。
クラン「ぐうっ!!」
フラン「クラン!!」
クラン「聞、くのよ、フラン…私が何とか自分を食べさせて時間を稼ぐから…貴方だけは生き残るのよ…きっと誰か助けてくれるから…」
フラン「嫌、嫌よクラン!!」
クラン「私はあなたのことが大好きよ、フラン。」
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地面にはあらゆる毒虫や毒蛇がのさばっていた。
シュウ「くっ…アチクさん…デニスさん…」
蛇男のアチクは皮肉にも何十匹の毒蛇に噛み付かれ、蟹男のデニスは数々の毒虫に刺され死亡していた。シュウは宙を浮き、まだ息のある者や生存者をショーテントに運んだり、比較的安全なところに運んでいた。
辺りは阿鼻叫喚だった。助けても助けても時間や人手が足りない。そしてシュウには動物を殺す度胸や勇気や残忍さがなかった。
シュウ「どうしよう、どうしよう…このままだとショーテントにも…。っ!?」
シュウは聞こえてしまった。あの図太い鳴き声と地面を踏む音、そして大地が揺れるくらいの重さの歩行。
シュウ「そうだった……忘れてたよクソ…」
アフリカ象のジュディだ。怒りをあらわにして団員たちを吹き飛ばし、蹴り潰していた。
シュウ「うううう!!クソ!!やるしかない!!」
シュウはアフリカ像のジュディ近くにいる団員たちを助けに飛んだ。