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第二章 36話 温もりを知らぬ大男


 ある雨の降る夜だった─


 一人の少年は雨に打たれていた─


 その少年には家族はいない─


 なぜなら少年は─






 「この化け物が!!!!」






 一人の男に殴られた少年。乳歯だった奥歯が砕け飛ぶ。






 その少年が見る世界は真っ黒だった。


 仲間も、友達も、誰一人居ない。




 ただ一つ持っているものがあった。




 それは人とは違う個性。人間とは思えないような体質を持っていた。






 体が伸びる。産まれた時もしっかりとした人の形で産まれなかったこの子は両親に捨てられた。ある外国の珍しい物好きで知られる金持ちに買われたのだ。




 やることは簡単だった。金持ち達の目の前で能力を使う。化け物と罵られる。半殺しにされる。金持ち達の鬱憤晴らしというわけだ。




 この日は買った主人に殴られていた。もう悲しくもない。化け物は人の役に立てただけで良いのだ。後はこの人達のために死ねたら本望。




 少年は中々に生命を保った。齢4歳ながら能力のせいもあってか長く生き延びていた。






 ある日の事だった。その小さな国で暴動が起こった。権力や金を独占した金持ち達に民衆の怒りが爆発したのだ。




 その館も炎に包まれた。少年は逃げるつもりはなかった。ここで死のうと思っていたが…何故かは分からないけど体が動いていた。




 この日は雨が降っていた─


 一人少年は雨に打たれる─


 孤独の少年は裏路地にへたる─






 どうすれば良いんだろうか。自由は自由ではなかった。途方に暮れるが何も起こらない。もう一層この場に居続けようか。そう、思った時だった。






 「……大丈夫?」




 少年が眼をやるとそこには女の子が立っていた。




 「アダ、その子は友達かい?」




 後ろから毛むくじゃらの動物が現れて言った。








 夢でも見ているのか。いつの間にか寝たのだろうか、少年は手で眼を擦る。




アダ「団長。この子。」




 団長と呼ばれた小さな男が姿を現す。




団長「ふむ。助けたいのかい?」




アダ「うん。」




 団長は少年に近付く。




団長「少年よ、名前は?」




 少年は横に顔を振る。




団長「なるほど…名前は無いか…んー…」




 団長は考え、少年の髪を摘まんだり、顔を触ったりする。




団長「日本人の孤児か、珍しい。アジアの人間かとは思ったが…そうだな…名前は…うん。これにしよう。」




 団長は手を差し伸べる。




団長「君の名前はノブだ。日本人はノブが好きだからな。賢い偉人だったと言う。一緒に行こうノブ。君のこれからの世界はきっと明るいぞ!」




 少年は行く気は無かった。だがいつの間にか手を差し出し繋いでいた。そして、悲しみなのか、安堵なのか、涙が溢れてきたのだ。




団長「これからは君もバンシャフリークサーカス団の一員だ。」






 これがサーカス団に入団した経緯。






 これからは基本的に公演まで四人で行動することになった。あることが起こる前まで、ノブはずっと皆のアシスタントをしていた。人数がどんどん増え、バンシャが調教する動物も増え、やることがどんどん多くなり、忙しくも充実した毎日を送っていた。






 そして、あることは当然起きた。その時ノブは次の公演まで控え室で寝ていた。






   ガシャーーン!!!!






 凄い物音は少し離れた動物が入っている檻が隔離されているテントから聞こえた。




 ノブは飛び起きてその方向へ走った。他の団員達は逃げ回っていた。一人の団員はノブを引き止める。




団員「ノブ!あっちに行ってはダメだ!」




 行くなと言われたが行かなければならない気がした。捕まれた手を払いのけ走って向かう。






 テントの中に入るとバンシャは道具などに打ちつけられていた。意識が朦朧としているようだ。近くにはヒグマのケイティが荒々しく息をしていた。




 バンシャはノブに気が付く。




バンシャ「く、来るな…逃げるんだ…」




 バンシャの頭から血が流れている。相当な力で吹き飛ばされたのだろう。




 ケイティがドシドシと歩みバンシャに近付く。




 このままではバンシャはケイティのエサになってしまう─そう思った時にはノブの体は動いていた。




ノブ「団長ッッッ!!!!」




 とうとうノブはバンシャの目の前で能力を使ったのだ。




 伸びた腕はバンシャを包み引っ張った。




バンシャ「の、ノブ…こりゃあ…な、なんだ」




 状況が読めないバンシャにノブは言う。




ノブ「団長、どうすればケイティは止まる。」




バンシャ「む、鞭を俺に渡してくれ。」




 ノブは手を伸ばし近くに落ちている鞭を掴む。




ノブ「頼んだ。団長。」




 鞭をバンシャに渡す。バンシャは困惑しながらもまずはケイティを止めることを優先した。






 パシィィィン─








 ケイティは痛みから怯みバンシャの言うことを聞き、黙って檻に戻っていった。こうしてバンシャは一命をとりとめたのだ。しかし、ノブの心の中はバンシャに能力を見せてしまい捨てられるのではないかと気が気ではなかった。




 だが、ノブの思っていたことは杞憂に終わった。バンシャは喜んでいたのだ。




バンシャ「ノブ!お前なんでこんなことを隠していたんだ!これは前代未聞だぞ!!」




ノブ「団長…怖くないのか?」




バンシャ「そんなわけあるか!!お前はきっとこのサーカス団の最高のスターになる!!バンシャフリークサーカス団はお前を中心に全世界でNo.1のサーカス団になるぞ!!」






 こうして俺はショーをやることになったんだ。

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