第二章 32話 情報調査2
シュウ達二人はアシスタントとしての仕事はしっかりこなし、団員達と会話をして情報調査を続けていた。
…だが、めぼしい情報は手に入らず手に入った情報は団員達の性格とバンシャがどれだけ熱心にサーカスを引っ張っていったか。などだった。
話してみると普通に言葉を話せる毒舌で少し性格の悪い蛇男のアチク、神経質な蟹男のデニスの二人、気弱ながらに引っ張ろうとする姉クランとじゃじゃ馬なフラン。一角雑技団の方々は違う所で練習していて話す事が出来なく、オジーは豪快で優しい性格をしていた。皆、声揃えて言う。
「団長に助けられた、団長は素晴らしい人」っと。
このサーカス団は思っている以上に団結力が強く、中は活気や笑顔で溢れていた。皆、最高な顔で仕事をしている。
オジー「Ha!Ha!Ha!ここだけの話だぞ?実は俺は最強じゃあねぇんだ。」
シュウ「え、どういうことなんですか?」
オジーはシュウに耳打ちをする。
オジー「本当はあの毒虫を喰ったあとな?いつも腹壊してトイレに籠ってるんだ。」
シュウ「え!!大丈夫なんですかそれ!」
オジー「あんなん喰っちまったら普通は耐えられねぇって!…でもな、俺はそれで良いんだ。」
シュウ「…良くない気が…」
オジー「Noproblem!!俺はEntertainerだからな!観客が喜んでくれるなら、団長が必要としてくれるなら、それで俺は良いのさ!」
オジーは胸をドンッと叩きニッと笑う。
シュウ「かっこいいです…っ!」
シュウはキラキラとした目でオジーを見つめる。
オジー「Ha!Ha!Ha!その目をみるためにやっているようなものさ!じゃあ行ってくるぜ!!」
シュウ「はい!行ってらっしゃい!」
オジーを見送るシュウと小張。
小張「次は…二番目に入団してきたアダさんね。あの人なら色々と知ってそうだわ。」
シュウ「そうですね。でもちょっと手強そうです…」
オジーが出て少しした後、扉を開けアダが無言で中に入ってきた。
小張「アダさん、何か必要なものとかありますか?」
アダ「……」
アダは少し口角を上げ、軽く手を振り、不要だという意思を見せる。
そのままアダは用意してあった椅子に座り、ナイフを一本取り出し、手入れをし始める。
小張「あ、分かりました…」
その場に会話が無くなり、シーンっとした空気が場を呑んだ。
小張「…」
シュウ「…」
アダ「…」フキフキ
アダのミステリアスな雰囲気に話しかけられる訳もなく、裏腹にナイフは一本、一本とどんどん手入れをされていく。
シュウ(何か聞かないと…!)
アダは持ってきていたアタッシュケースを開け細く長いナイフを取り出す。
シュウ「あ!それ俺に投げてきたやつ!」
小張「」ビクッ
シュウは咄嗟に声を出してしまった。小張はその突発な声にビックリする。一方アダは、
アダ「……」
黙ってシュウを見つめていた。
シュウ「あっ、あの、その、」
顔を赤くしてあたふたするシュウ。そしてアダはまた口元だけ笑い、口を開けた。
アダ「このナイフ、先端が重く作られているの。」
その細く長いナイフの横平を腕に撫でるアダ。
アダ「貫通力が抜群で変則的な動きが出来るんだよ。」
そう言ってまた手入れを始める。シュウは慌てて言葉を繋げた。
シュウ「そのナイフ捌きは何かの能力なんですか!?」
小張「バカっ!!」
小張はシュウのその考えなしの言葉につい言葉が出た。能力者か分からない人に能力の話をするのはタブーだからだ。アダが能力者でも能力者じゃなくても。
しかし、アダは小張に手を向けて言葉を止める。
アダ「そんなに怒らないで、その能力がどの程度の事を言っているのか分からないけど、確かにこれは私自身の能力なのかもしれないね。」
アダは口元だけ笑い、そう言った。
小張(良かった…能力については全く分かってないようね…)
シュウも心なしかホッとした顔でいた。そして、味をしめたシュウは更に言葉を繋げる。
シュウ「じゃあそのナイフ術は努力の結晶な訳ですね!」
アダはその言葉に少し顔を濁す。
アダ「んー…努力…とかそういうのでは無いんだ、私にとってナイフはね。」
っと言い終わり、話を流そうとする。が、まだ未熟なシュウの頭は興味心が勝り更に聞いてしまった。
シュウ「何でそんなにナイフ術が上手くなったか聞きたいです!」
アダ「」ガタッ
そう言った瞬間、アダは手に持っていたナイフをシュウに向ける。
シュウと小張は呆気に取られた。
アダ「Curiosity killed the cat.好奇心は猫をも殺す、だ。無粋な探索はするな。あんた達が何かを目的として入団したのは私は分かってる。だけど私は分かっていても聞かない。何か事情があると察しているから。言えない、言いたくない事情はお互いにある。…そうでしょ?」
シュウ「」コクコクッ
シュウは咄嗟に頷く。アダは向けたナイフを手入れ用具で一拭きしてもとに戻す。
アダ「まぁ…こう言ってるけど…、あんた達が悪いやつでは無いことは分かってる。あの時、自分の身の危険を省みず人の命を救おうとした君は本物だったから。」
アダは暖かい笑みを浮かべてシュウを見る。
アダ「先程言ったのはこれからの忠告。このような世界に入ると何が起こるか分からないから。」
シュウ「分かりました、でも怒らせたかと思ってたんで…ホッとしました…」
シュウは心からホッとした顔を見せる。
アダ「フフフ、私の過去を知りたいなら少しだけ話してあげる。」
パチンと太股のナイフホルダーのボタンを外し、一本のナイフを手に取りじっとそれを見る。
アダ「私が産まれたときから遊び道具はずっとこれだった─」
話始めたアダのその顔は悲しみと憂いに満ちていた。