第二章 31話 情報調査
沢山の団員達と戯れ、時間はいつの間にか過ぎていき、どんどん団員達は眠りにつきにいった。公演は深夜にやるので昼や午後は睡眠時間をとる人達が多いのである。
あのワグのアホ発言後は、シュウがその事を小張にチクり、ワグはこっぴどく怒られた。まだチャンスはあると残りの日を入団して共に動きながら状況を探る事に決まった。
シュウ達三人がうとうとしかけていたところにバンシャが声をかける。
バンシャ「そうだったそうだった!二点言ってなかった事があったよ!1つは君たちの休憩するところだ。シャワー室は男女別れてしっかりある。寝る場所は中の部屋で寝ても良いが外にテントを張り寝ても良い。だが、広場付近にしてほしい!もう1つは、これからの公演についての君達の役割についてだ。」
三人は眠い頭を頑張って起こし、集中して話を聞く。
バンシャ「二日目の公演には出演させてやりたいが無理だと思う。だからマネージャー君とアシスタント君は二人は裏方に回って周りのメンバーの手助けをやってもらいたい。ワグ君は明日の公演に何をしたいか考えて公演後に聞かせて欲しい!」
バンシャは目を煌めかせて言う。その後、腕を組み、ふむっと考える顔をして
バンシャ「まぁ急過ぎるからな、思い付かないかもしれん。それはそれで構わない。私のただの我が儘だからね、早く見たいんだ、君のショーが!」
ワグはその言葉にニヤニヤと笑みを溢して笑う。
ワグ「大丈夫っすよ!何とか考え出します!」
シュウ(大丈夫なのかな)
小張(不安でしかない…)
バンシャ「うむうむ!良かった!では二人は公演1時間前には私の部屋の隣に入って待っていてくれたまえ!」
シュウ「分かりました!」
小張「分かりました。」
バンシャ「よしよし!ではそれまでに三人は鋭気を養っていてくれたまえな!!」
そしてバンシャは上機嫌にガッハッハっと笑いながらその場を後にする。
小張「……上手くいくのか心配ね…」
シュウ「そうですね…」
ワグはニコニコして言う。
ワグ「大丈夫だって!根拠は無いけどな!!」
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公演一時間前─
ワグを残した二人はバンシャの部屋の隣、団員控え室に居た。そこにはスタッフが大勢いて、中には、五つ子オーケストラの姿も有った。
バンシャが今回の段取りの説明をしていた。
どうやら今回の公演の順番は昨日とはあまり変わらないらしい。内容はガラッと変えていくという。
二人は出番1つ前に控えている団員をサポートすることになった。やることは簡単。団員が要求してきたものを持ってきたり、話をして気を紛らわせたりするだけ。二人にとっては内部の話や団員達の素が聞けるので都合が良かった。
バンシャ「では皆さん!今日も楽しく力合わせて最高なショーに!!」
サイコーナショーニ!!!!
周りの団員の士気は一気に高まった。
二人は今回の台本を貰う。最初はバンシャの挨拶から入り、前座として五つ子オーケストラが合奏で場を盛り上げる。その後は獣男のハーバートが空気を柔げに出る。という形だ。
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二回目の公演は始まった。団員達は忙しく動き回る。
控え室にはハーバートがいる。まずはハーバートのアシストをしなければならない。
トントン
小張は控え室の扉をノックする。
ハーバート「ノックとか遠慮せず入りなさいな。」
小張「失礼します。」
シュウ「」ペコッ
二人は会釈をして中に入る。
ハーバート「やあやあやあ!新入り君達ではないか!どうしたんだい?」
ハーバートは非常に陽気な性格だ。そして誰にでも優しくジョークが大好きなただ毛の長い普通の人間。先程の歓迎パーティの時にも話をしたが本当に優しいおじさん。という感じだった。
小張「何か必要な物とかありますか?」
ハーバートは少し考えだし、ニヤリとして、いたずらっぽく答えた。
ハーバート「それでは私はmademoiselleが欲しいね。」
小張「え…あ、私ですか?」
ハーバート「そうさ。君は非常に美しい。」
小張は少し照れ始める。
小張「や、やめてください、」
ハーバート「やめ・られーぬ(la laine)ってね!」
小張「…?」
シュウ「…??」
ハーバート「あ…そうか、フランス語はあまり得意では無かったかな?ハッハッハ!ジョークさ!ジョーク!ハーバートさんの不毛なジョークさ!しっかり毛は育つけどね!!」
シュウ「あ、あははは」
小張「…それで、何か必要な物は?」
シュウはただただ苦笑い、小張はワグと接するような冷たい言い方をした。
ハーバート「うーん冷たい!まぁ大丈夫!何も持ってこなくて良いさ!何年もこの業界をやってるからね!準備は万全さ!ただ暇な時間を潰せたら最高だ!」
小張(これは好都合ね…内情を更に探るチャンスだわ。)
小張はシュウにこれはチャンスだと目配せをする。それにシュウは小さく首肯く。
シュウ(……どうしたんだろう、小張さん…取り敢えず首肯いちゃったけど…)
小張「ハーバートさんはここでの歴は長いんですか?」
まずはハーバートのバンシャサーカスショーの歴を聞いてみる。
ハーバート「ああ!まぁこのサーカス団の中では団長を外して一番古株だね!二番目にアダだった!えっと…次は蛇男のアチク…じゃなくて、、あー!忘れてた!三番目はノブだったね!」
小張「へぇー!因みにハーバートさんは何年目なんですか今年で?」
ハーバート「ん?ん?私が気になるかい?ハッハッハ仕方がないねぇ~知りたがりさんなんだからなぁ~ん~?」
小張「…」
(我慢、我慢よ…イラッとしちゃ駄目。イラッとしちゃ駄目。)
シュウ「気になります!教えて欲しいです!」
ハーバート「ハッハッハ!そんなこと言われたら色々と話さざるも得ないな!話してあげよう!私がここへ入団した、いや、バンシャと共に活動したのが14年前だ、バンシャも私もまだ若かった。お互い、同じ見世物小屋で働いていてそこで出会ったんだよ。」
小張(14年前にはサーカス団は作られていなかったのね…)
ハーバート「バンシャは熱い男なんだ。ある時、我々のように虐げられる存在をヒーローにさせようと決起した。急な出来事だったが、私は鮮明に覚えているよ。彼の熱心な言葉は私の心をよく動かしたものだ。」
ハーバートは腕を組み熱く過去を語る。
シュウ「バンシャ団長は凄い人なんですね…」
小張「なるほど…それで、ノブさんは、」
っと言いかけた時、団員がハーバートを呼びに来た。
ハーバート「おっと、もっと昔話に花をそえたかったのですが、残念だ。では行ってこようかな!」
小張「あ、はい!ありがとうございました。」
シュウ「ありがとうございました!」
ハーバート「いえいえ、私自身も良い時間潰しになりましたよ。じゃあ、それでは、」
ハーバートは団員に連れてかれ会場に向かう。
小張「はぁ、重要な情報は聞き出せなかったか…」
シュウ「え!何か聞き出そうとしてたんですか!?」
小張「分かってなかったの!?まぁ…取り敢えずは14年前にはサーカス団は出来ていなかった、ノブは三番目に入団してきたって感じね。もっとノブを知る必要があるわね、後団長も。」
シュウ「二番目がアダさんって言ってましたっけ?」
小張「そうね…話、聞けたら良いけど…」
二人は更にバンシャとノブの情報を集めにかかった。