第二章 21話 何故皆優しいの?─小張の過去 ☆
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ババババババババババババ─
ヘリ機内─
三人は北海道付近の港へ向かっていた、その機内では未だに小張はワグに対し怒りが収まらない様子だった。
小張「本当イライラした。何であなた全然準備してないのよ。着替えとか無しで行くつもりだったの?」
小張はワグに対し苛ついた顔で見る。
ワグ「あー…ごめんてー、だってRINAだぜ?深夜までワイワイしたいじゃんかよー」
小張「その前に普通は準備しとくでしょうか!シュウはしっかり準備出来てたよ?」
ワグ「うぐぐぐ…シュウぅー…」
ワグはシュウに助けを求める目線を送り、シュウは苦笑いを浮かべ助け船を出した。
シュウ「まあまあ、何とか船の便とか間に合いそうですし、もう許してあげません?」
ワグ「そ、そうだぜー…許してくれよぉ」
小張「はぁ…まぁワグはいつもどおりってことね。逆にしっかりし過ぎてると心配になるし、これでいいか。」
小張は仕方ない、とため息を出したあと少し皮肉を込めて許す。
ワグ「うぐぅ、何か色々突っ込みたいが、ここは黙っておくか…」
シュウ「あはは、でもそう言えば皆さん本当優しくて…とてもフレンドリーですよね。あの俺の歓迎会もそうだし、昨日のライブ何て皆が皆仲が良いって感じでした。俺も輪に入って仲良くしてもらって…何かそういう壁が無いみたいな。本当ありがたいです。」
ワグ「おいおいー何だ何だー?急にデレかー?」
シュウ「や、やめてくださいよ、」
小張「んーそうね、確かに皆本当に優しいね。」
小張は窓の方を見て更に言葉を繋げた。
小張「多分、皆、気持ちを痛いほど知ってるからだと思うんだ。」
シュウ「気持ち…ですか。」
小張「そう。皆が皆では無いけど、能力を持ってる人は少なからず能力のせいで不運な人生を送ってきた人が沢山居るわ。だからこそ、なのよ。」
シュウ「不運な人生…」
シュウの頭の中に美香やトモの顔が浮かぶ。
ワグ「俺はあんまりキツい過去とかは持ち合わせてないけどな、でも皆の気持ちは分かるぜ。」
小張「あなたはそんなに悩まなそうだもんね。」
シュウ「確かに。」
ワグ「確かに言うなし!」
小張は少し考えたあとに、
小張「そう言えば、シュウはフランクさんの派閥になったんだよね?」
シュウ「はい!そうです!」
小張「いいなぁ…フランクさん。本当は私、BfじゃなくてSfに入りたかったんだぁ。」
ワグ「マジか!俺は俄然、巌鉄組に入りたかったわ!あそこかっけぇじゃんか!」
シュウ「確かにカッコいいですよね!戦闘のプロフェッショナルって感じがして!」
小張「んー…能力で選ばれただけだからなぁそんな私は戦闘得意じゃないし…」
ワグ「ってか何でSfに入りたかったんだ?」
小張「私さ…フランクさんに助けてもらったことが有るんだよね、BARKERsに入る前に。だからフランクさんには本当感謝してるし、フランクさんを今度は私が守りたい!って思ってるんだ。」
シュウ「フランクさん…そんな格好いいところが有ったんだ。」
ワグ「俺も意外だな…基本ふざけてるイメージが。」
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フランク「ブゥェックシィン!!!!」
宝来「わわっ!ビックリしたぁ…」
フランク「ズズッ、失礼しました。誰か私の噂をしているんですかね…」
宝来「フランクさんの噂ですか…なにを、」
フランク「ブゥェックシィン!!!」
宝来「ヒヤッ!」ビクッ
宝来「ま、また誰か噂をしていたんですかね?」
フランク「いえ、今のはわざとです。」
宝来「あ、、あう…」
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小張「それでもフランクさんは私の憧れの人なんだよ、もう!未だに持ち歩いてるんだからね!」
ごそごそとバックを漁り、ノートを取り出しペラッも最初のページを見せてくれた。それは新聞のスクラップ記事で記事にはこう書かれていた。
〔連続人身売買団体、変死体で発見〕
シュウ「これって…」
ワグ「これって一時期有名になったやつじゃんか!子供一人で外出ちゃ不味いって騒がれてたやつだぜ?」
小張「そう。実は私この胸くそ悪い事件の被害者だったんだ。」
シュウ「え!」
ワグ「マジかよ!」
小張「この記事の五日前、私はまだ高校生で、部活帰りだったんだ─」
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小張「ヤッバー…ついつい話しすぎちゃったな…」
時刻は既に18時を越えていた。小張が住んでいた所は大分田舎であり、街灯も少なく、18時を過ぎれば暗闇でぎりぎり前が見えるくらいの所が出来てしまうくらいだ。
この日小張は部活が終わり、すぐには帰らず友人達と会話に花を咲かせ過ぎてしまった。
小張の家族は両親は共働きで四人姉弟の長女。下に妹と弟がいる。だから小張と二番目の妹が晩御飯の支度をする。そのせいか、焦っていた。
小張「ハッハッ、ハッハッ」タッタッ
(急げ急げ!お腹減らして待ってる!急げ急げ!)
すると二つの道が真っ直ぐ伸びているところに着く。片方はまだ家があり、少し明るい道。もう片方は田んぼしか無く、とても暗いが、近道になる。
毎回近道の方を通って帰宅しているが、今日は一人であった。いつもは友人達と帰っているのだ。しかし、基本、この地域は平和で事件も無いため何も考えず、ただ近道であるからという理由で暗い道を走った。
小張「フー、フー、」タッタッ
(いっそげー!)
真っ直ぐ伸びている暗い道を走る─
虫のリー、リー、という鳴き声と息の切れる音、タッタッという靴の音が響く─
すると車がこっちに向かってきた。
田舎といえど車は通る。幸いこの道はまだ車と人が通れる道だった為、横にサッと小張は避けた。
小張「はぁ、はぁ」
(危ない、危ない、止まっておこ、)
小張の思考は停止した。
近くに寄ってきた車は急にスピードを出して小張を跳ねたのだ。
ドンッ!!!
小張「キャッ!!」
ドサッ
小張「うぐっ」
少し離れたところに飛ばされ倒れる。そしてすぐに車から数人の黒服の男達が飛び出し、小張を捕まえる。
小張「っ!?!?」
小張は頭と背中を強打しているため声が出なかった。一人の男は小張の口に猿轡をして声を出させないようにした。
男A「早くしろ!誰かに見られるだろうが!さっさと車に詰めろ!」
そしてそのまま小張は抱えられ、車に押し込めらて、拐われてしまった。
小張の意識は朦朧としていた。頭を打った衝撃が残っていて脳震盪を起こしているのだ。だが、これだけは分かっていた。
このままではヤバい。
何とかしなければ。
小張は何とかしようともがいてみるが─
ガンッ!!!!
車のドアに頭を強く打ち付けられ…
意識はなくなってしまった…
男A「おいおい!やりすぎんなよな?こんな田舎でまさかの上玉に会えたんだからよ。」
男B「分かってるよ!だから逃げられたりしないよう気を失わさせたんじゃねぇか。」
男C「なぁ、俺もう我慢出来ねぇわ。さっさとやっちまいてぇ!」
男A「まてまて、我慢しろ、すぐにアジトに着く。」
男C「兄貴ぃじゃあ早く飛ばそうぜ!!」
男D「アジト待機組も待っているだろう。」
男A「ああ、ガンガン飛ばすぞ。」
数時間車は走り、見知らぬ山の中へ入っていく─
男A「着いたぞ、女を中に下ろせ。」
男B「了解したぜ。」
筋肉隆々な男は小張を抱え、アジトの中へ入っていった。
ドサッ
小張を放り投げる男。
男B「ここでよくないか?」
男A「ああ、ここにしよう。」
男C「やったぜ、やったぜ!早く脱がせちまおうぜ!」
男D「楽しみだな。」
男B「俺が先だ!俺が先にこいつをやる。」
男A「好きにすれば良いさ。」
男C「もう我慢出来ねぇ!」
筋肉隆々の男はナイフを手に取り小張に向ける。
男B「おい、こいつを起こせ。」
筋肉隆々の男は命じて、小張を自分の方向へ体を起こし向かせた。パシンと頬を違う男に叩かれて小張は目を覚ます。
小張「う……」
小張の視界は殴られた衝撃などでハッキリとしなかった。
男A「おはようお嬢ちゃん?」
小張「っ!!んっ!!?」
その男の言葉で我に帰る小張。男共は下劣な笑みを浮かべていた。
男C「本当可愛いなぁ!!へっへっへ!!」
男B「そんじゃあやらせてもらうぜ!」
屈強な男はニヤニヤして小張に近付く─
男A「暴れるなよ?」
リーダーらしき男は腕を組みじっと小張を見ている。
残りの二人は小張が逃げないよう横に立っている。後ろには壁が…
絶望的状態。
小張「んーー!!!!」
男D「黙れ。」
ガンッ
小張は頭を強く殴られた。
小張「んぐっ!」
(私…殺されちゃうのかな…)
男B「いただきまぁぁす!!」
小張(もう…駄目…なのかな…)
筋肉隆々の屈強な男は小張の首筋にナイフを当て胸に手を触れようとする─
小張(嫌だ…)
小張の胸付近の布を掴み破る瞬間─。
小張「んんんー!!!!!!!」
(嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!)
その瞬間体の全ての部分が伸びる感覚を感じた。筋肉隆々の男は倒れており、見ていた三人は唖然としていた。
男A「何だこれは」
男C「何なんだよ…」
小張はウニのように体全体から皮膚が突起していた。その皮膚は硬いが鋭くはなかった。
小張「な、何これ…」
顎付近も数ヶ所長く尖った為猿轡も取れていた。
男B「ぐぁぁいてぇえ!!」
突起をもろに喰らった男は悶え苦しんでいた。
男D「ば、化物か…」
小張はその瞬間を逃がさなかった。隣にいた驚いている男に勢い良くぶつかりそのまま出口付近にいた、リーダーらしき男に向かう。
男A「く、来るな化けもの!!」
リーダーらしき男は小張を避けた。そのお陰で小張は外に出ることができた。
小張は見知らぬ山を走る─
小張「はぁ…はぁ…何…これ…どこ、?ここ…うぅ…ううぅ…」
小張は身体中を尖らせたまま、山の中をさまよった。
真夜中になろうとも、空が白んでこようとも人一人見つからない、見知った道すらも、、そもそも道が見つからない。化物と呼ばれた少女は涙を流し一心不乱に獣道を進む。
日が登り、正午になった。小張はもう真っ直ぐ進んでいるのか同じところを進んでいるのかもう分かっていない。兎に角進んでいた。
だが、時間が経つにつれて、冷静になりつつ小張は家族の事が心配になってくる。
小張「皆…ごめんね…ごめんね…早く、帰るから…。」
ガッ ドサッ
木の根につまづき、転んでしまう。
小張「う、う、ううぅ…うぅ…」
ついに泣き出し、止まってしまう。
小張「もう私…死んじゃうのかな…」
?「恐れながら、まだ死ぬには早いのではないのでしょうか?」
小張「え!?誰!?」
?「どうも、私の名前は、そうですね…ラヴ・ロマンと申します。」
ラヴと名乗った者はスーツを着た背のスラッとした紳士だった。
小張「や、やっと人に会えた……。っ!!」
小張はやっと人に会えた喜びが先に来たが、すぐに警戒心に変わった。
何故この男はスーツなのか、何故こんなところにいるのか、そもそも何故、この男は私を見ても平気なのか。
小張はサッと身を守る素振りをした。
ラヴ「あー、やっぱ警戒しますよね。それが正解ですよ。んー…そうですねぇ…安藤。」
すると木の後ろからひょこっと後ろ向きで体を出す。その姿は背が曲がったお爺さんのようだ。
ラヴ「私が良いというまで彼女の姿は見ず、近寄って来ないでくれますか?」
安藤「承知致しました。」
そう命じられた安藤はザッザッと少し遠くへ行った。
ラヴ「まぁゆっくり話しましょう。大丈夫です。決して下劣な真似は致しませんよ。」
その言葉は優しく、信じられそうな声色だった。
ラヴ「あなたの町では今警察や自治体総出で捜索が始まってます。私もボランティアとして捜索に加わらせてもらいました。皆さん本当に心配してらっしゃいます。急いで帰ってあげましょう?」
小張「で、ですが、この姿では…」
ラヴ「ふぅむ…では、」
小張の横に座り込むラヴ。
ラヴ「心を落ち着かせましょう。取り敢えずは。目でも瞑ってみて下さい。」
すんなりと聞き入れ目を瞑る小張。
小張「こ、こうですか?」
ラヴ「はい。今どんな気持ちですか?」
小張「な、何でしょう…気が張っている感じです…」
ラヴ「もっと楽にしてください。暗闇に身を任せるように。」
小張「は、はい…身を任せるように……」
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小張「はっ!!」
小張父「麗!!」
小張母「麗!!」
小張「え!あれ!?ここは、、病院?」
小張母「良かったわ、本当に良かった。」
小張父「麗ぁぁ!お父さん死ぬかと思ったよ!」
小張「私…寝てたの?」
小張父「背のスラッとした地主さんかな?その人が寝てるお前を発見して連れてきてくれたんだよ!」
小張「あ、あの人が……わ、私っ」
小張は安堵のあまり涙が勝手に溢れ出して止まらなくなる。
小張父「良かったなぁ…本当にホッとしたよ…」
小張母「本当に良かったわ…」
小張「うん…本当に…本当に…無事で帰れて良かった…」
両親に抱き締められ、その日は家族全員で団欒の日を送った。
そして、ある日あの誘拐組織が壊滅したというニュースが大々的に世間に流れた。
きっとあの紳士がやってくれたのだと妄想をしていた日にポストに名刺が入っていたのに気付いた。名前は[ラヴ・ロマン ロマン㈱]と書いてあった。
お礼を兼ねて連絡を取り、会って話した所、BARKERsの話を持ち掛けられて、入るのを決めた。
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小張「って言う話があったんだ。だからこそ、フランクさんにできる限りの恩を返さないと気がすまないんだ。」
シュウ「へぇ…かっこいいなぁフランクさん…うちに勧誘しにきたときは頼りなかったのに。」
ワグ「そんな一面がなぁ、本当に見直したわ。あのおっさん。」
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フランク「ブゥェックシィン!!!」
伊賀崎「風邪ですか?」
フランク「ふぅむ…そうかもしれませんねぇ…ズズッ」
伊賀崎「お大事にしてください。」
フランク「まさか、私のファンが噂を!」
伊賀崎「……お大事にしてください。」
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シュウ「あ!見えましたよ!あの港ですよね!」
ワグ「とうとうきたな!」
小張「気合い入れないとね!」
これから簡単だと思われるこの任務がまさかあれほど酷い事になるとは三人は思いもしなかった。
イラストはそらとさんからでーす!
ありがとうございます!!