第一章 ???話 ある少女の記憶 ☆
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チュンチュンチュン、チュンチュン
「んんー?あーそっか。」
自分がまさかの緊急入院したなんて…本当現実味が無くて入院してることなんて忘れちゃうよねー。
忘れちゃう……か。んー…何か重要な事忘れてる気がするんだよな……
何か昨日来てくれた病院の先生、溶定妖華さん(うねさだと言うらしい)とお婆ちゃん先生の千歳チノ先生の話では胸に悪性腫瘍が出来てて、それを摘出したらしい。意識を失った理由はあまり特定はされていないということだ。
(溶定先生……何て言うか…凄い…人だったな)
……運が良かったみたいだけど…でも…何か…変な…嫌な気分だな……
タッタッタ…
ガラガラガラ
病室の戸を開けるとそこには美香が上半身だけ起こして外を眺めていた。
シュウ「あ、、えっと、」
そのしどろもどろの声にゆっくり振り向く美香。
(シュウ…そんな疲れるほど走ってきてくれたんだな…)
「やっほーシュウ」
美香は笑顔でそう言った。
シュウ「え、やっほーって、え?えっと…大丈夫なのか?」
「あ!大変だったみたいだね私、でも何とかなった?みたい!」
シュウ「どどど、どういう事だ?覚えてないのか?」
「んー…トモと遊んだ事は覚えてるんだよねぇー…その後話では私倒れて病院に運ばれたみたい!何か色んな専門用語言われて分からなかったなぁ。でも兎に角、悪性腫瘍が胸にあって取り除かれたって話だったよ!もうすぐ退院できるってさ!やったぜ!胸片方無くなっちゃったけどさぁ」
シュウ「そ、そう俺も聞いたよ!本当にビックリしたわーいきなり倒れたって言うんだもんなー」
「でもさ、トモはどこに行ったの?」
シュウ「トモは家族と海外へ移住しにいったみたいだよ。」
「えー!嘘でしょ!?だから珍しくトモから誘ってきたのかな?」
シュウ「そうだと思うよ。俺は先に聞いててね、だから行方が分からなかったみたい。」
「ふぅーん…そっか…寂しくなるなぁ、連絡とかは取れるのかな?」
シュウ「分からないけど、教えて貰えなかったな俺。トモから連絡来るんじゃないかな?」
「………」
(シュウ…嘘ついてる?何か怪しい。)
「そっかぁ、いつも一緒だったからなぁ私が倒れなければもっと深く聞けたのかなー」
シュウ「そうかもしれないね。あ、ごめん俺まだ急用が有るからもう出るわ!また絶対来るね!」
「あ、うん!でも私、明後日くらいには退院だから!」
シュウ「まじか!良かった!じゃあね!」
シュウは逃げるように病室を出ていった。
「あ、、うん。またね」
ガラガラガラ、バタンッ
「………………」
(おかしい。おかしいおかしい!!怪しいよあれ!何か言えないことでもあるのかな…)
「男子って難しいなぁ」
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退院後、初めての学校─
女子A「美香大丈夫なの?もう退院して、、」
女子B「癌ってヤバくない?皆本当ショック受けてたよ、若くてもなるんだね…」
「ううん!全然大丈夫だった!っていうか本当実感も沸かなかったし、本当に癌だったの?って感じ!」
女子A「本当運が良かったんだね…お大事にしてね?体無理しちゃダメだよ?」
「んー!ありがとうー!よーこちゃんは私の親友だよー」っと言い泣き真似をする。
女子B「でもさ、、その、、胸が、」
「ん?あーこのことねーまぁ仕方ないんじゃない?私は大病スルー出来てラッキーだったし!っていうか肩凝らないから一石二鳥?みたいな?」
(こういうときこそ、元気に、平常心!そうそう!一石二鳥だったんだから!)
女子C「ねぇ美香、美香が居ない間に友樹くん海外に行っちゃったんだけど何か知らない?」
シュウ「それは!」
「らしいねー。んートモは分からないやつだからなぁ、何れ帰ってくると思うよ?」
(本当トモどこへ言ったんだろうなぁまだ気持ちも伝えてないのに…)
「あ、シュウ!何突っ立てるのー?」
笑顔で手を軽く振りこっちに寄ってきた。
シュウ「あ、いや、、」
「ん?」
首を傾げる美香。
シュウ「全く!本当にトモはよく分からないよな!連絡もくれないしさービックリしたよマジで、」
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担任「えー今日の古典はこれで終わり。では昼休みに入ってくださーい。」
ガタガタと教室全体が賑やかになる。机を繋げ共に飯を喰う者も入れば購買や学食へ行く者も。皆色々な形で食事にありつく。
美香は数人の女子に囲まれてまだ質問責めにあっていた。
女子B「ねぇねぇ!今は痛みとかは有るの?」
「んー特に無いかなー?」
女子C「誰かお見舞いとか来た?」
「退院早かったしなぁー」
女子D「入院食はどうだった?」
「意外と美味しかったよ?」
女子A「ちょっと!もう美香に質問責めやめてあげなよ!ゆっくり食べさせてあげて!」
女子達「ご、ごめん…」
「いいよいいよ!気になるのは当たり前だしね!また後で質問コーナーを作ってあげることにしましょう。」エヘンっ
ワーイ サスガミカー!
ガラガラっと誰かが教室に入ってきてすぐさま美香の元へやってくる。
?「大丈夫なのですか?美香くん?」
「あ、近藤先生。」
女子達「先生!!!」
キャーキャー!!近藤先生ー!!
近藤「どうなのですか?体の調子は?」
「あーまあまあですよ?」
近藤「いきなり倒れたと聞きまして、不安になってました…倒れる前とか何かいつもとは違う事はありませんでしたか?」
「…いや?…っというか記憶が…無いんですよね…トモと遊んで…それでフッと記憶が無いんです。」
近藤「記憶が……無い?」
少し考える近藤。
近藤「何か不便な事があるでしょう。今日、放課後でしたら私は空いてますので、その時に相談に乗らせて下さい。」
女子C「えーいいなー!」
女子B「近藤先生と二人きりー?うらやましい!」
「いや、いいです。私、そんなに困ってないので。」
女子B「え、断るの?」
近藤「え?…いいんですか?でも、色々気持ちも重くなってないですか?その…手術もしたわけですし…」
「んー一言で言うと大きなお世話です。私は大丈夫と言ったら大丈夫なんです。」
近藤「わ、かりました。では…私は戻ると、します。」
近藤先生は職員室へ戻る。
女子C「えー本当勿体無いなー二人きりを断るなんて。」
女子A「いいの?美香?」
「いいの、私、近藤先生嫌いなんだよねー実は成瀬愛歌と一緒に帰っている所も見たしね。」
女子達「えー!嘘ー!」
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「おはよー!皆!」
オハヨー!ミカ! オッハヨー! オッハー!
「ふー…」
自分の席に座り、少し頭のなかで考える…
(昨日…楽しかったなぁ…本当はトモとの記憶を戻そうとしたんだけど…それ忘れるほど楽しかった。流石、シュウって感じだったな…)
前のシュウの席をぼーっと眺める。
(あいつ、、私のことになると一生懸命、色々やってくれるし…うん…しっかりお礼を言わなきゃな。)
すると、ガラガラっと二人の教師が美香の元へ、担任と、あの近藤先生だ。
近藤先生「本当色々大変だったみたいだね、美香くん。」
(は?昨日も言ってたじゃん。しかもプーさんつれてきて、そこまで私と二人きりになりたいの?)
担任「不幸中の幸いってやつだよなぁ…大丈夫なのかー?その…精神的な部分は。」
「ありがとう先生!へぇー担任プーさん私のこと心配してくれてるんだ!嬉しいぞー?」
(あ、シュウが来てた…タスケテーシュウー!)
担任「おいおい、俺のことプーさんって呼ぶのやめろー?って腹ツンツンするのもやめろなー?」
近藤先生「ま、まぁ私も相当心配しているんだがな。」
担任「そうだぞー?一番近藤先生が心配してるくらいだからなー?正直、俺は相談を聞いても的確な助言が出来るか分からんからなぁ…近藤先生ならきっと的確な助言をくれるし、安心すると思うぞー?」
近藤先生「いやいや、私ごとき、そんな大物では有りませんけども、美香の為なら真剣に向き合って考えるし、しっかり答えが出るまで寄り添うよ?」
「プフ…あははは!大丈夫ですよ先生!そんな心配要りませんし!それと私相談するんだったらプーさんにしますから。」
近藤先生「な…」
担任「こ、こらこら!こんなにも近藤先生は力になると言っているのに失礼だろ!」
「いいんです私。近藤先生元から苦手だったんで。」
にこりとして美香は言った。
(言ってやったぜ!)
近藤先生「…分かりました。ですが、少し私自身話を聞きたいので放課後空いてますか?」
「空いてないです!」
満面な笑みで答える。
(ばーか!どんだけだよお前!)
シュウ「み、美香!」
振り返り美香の煽りを止めようとする。
(お!ありがとう!シュウ!)
「シュウと放課後遊びに出掛けちゃうんで!」
シュウ(巻き込まれたーー!)
近藤先生「そうですか…残念です。でも私はいつでも相談乗るので。」
担任「せ、先生本当申し訳無い!生駒!謝りなさい!」
「はーいごめんなさーい。」
(ザマー見ろ!ばーかばーか!)
担任「本当すいません。私の生徒が…」
近藤先生「いえいえ、大丈夫ですよ。思春期はこんなものです。では次の授業の準備があるので。」
近藤先生はそう言って去っていった。
担任「お前なー…」
「ごめんってプーさんー。本当、近藤先生苦手なんだよねー」
担任「はぁ…まぁ…じゃあ朝のホームルームを始めるぞー。」
「はーい!」
(シュウのお陰でまた助かった!今日、放課後沢山奢ってやるかなー!)
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キーンコーンカーンコーン
ヒルヤスミダー! イッショニクオウゼー! ガヤガヤ
やっと待ちに待った昼休みが始まった。皆お馴染みのグループになり食にありつく。
シュウ「なあ美香!一緒に食おうぜ!」
「いいよー。食べ、」
校内放送「生駒美香さん、生駒美香さん、職員室に来てください。」
シュウ()
「たかったけど駄目っぽいね、行ってくるよ!」
(そんな悲しい顔するなよーシュウーどんだけうちと食べたかったんだよー、でも何だろう…休んだ分の課題かな?)
職員室へ着いた美香。
トントン、ガラガラー
「放送で呼ばれた、生駒です。」
近藤「ああ、待っていたよ。美香。」
「っ!?……近藤先生……本当何なんですか?私戻りますよ?」
近藤「いやいや、実は…私の方から美香さんに用がありましてね?少し話に付き合ってほしいんですよ。」
「……今私が叫んだらどうなりますかね?」
近藤「………友樹君の事…なのですが。」
「え……?トモの…こと?」
近藤「状況が少し納得出来たのなら、相談室へ行きましょう。」
「……分かりました。」
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ガラガラ
二人は相談室で二人きりになった。近藤はにやつきながら言う。
近藤「いやぁやっと二人になれましたね。」
その顔に少しゾッとする美香。
「もし変なこと少しでもしたら大声出しますからね。」
近藤「フフフ、分かってますよ。私もお腹が空いてますのでね、手短に行きますよ?」
コクッと首を立てに振る美香。
近藤「友樹君が海外へ急に移住。美香の片胸に悪性腫瘍、シュウ君の貧血による入院…あまりにもタイミング良すぎてませんか?」
「シュウの入院?あいつも入院してたんですか?」
近藤「あ、知りませんでしたか?それを隠すシュウ君も怪しい所ですねぇ?」
「確かに…シュウは何か隠してるみたいだった…」
近藤「ですよね?」ニヤァ
近藤「そして、私は思うのですよ…友樹君は海外には行っていない…と。そしてこの件は全て繋がっているとね。」
「トモの海外移住と、私の癌、シュウの貧血…同時…繋がってる………繋がって…うぅ」
ぐぐっと美香の頭に鈍痛が響く。
近藤(あと、少し、あと、少しだ!)
近藤「美香、」
美香に近付く。そして徐に美香の半分ない右胸をギュッと掴む。
「っ!?先生!!」
美香は掴んできた手を話そうとするが…
近藤「この無い右胸は…手術では無くて、まるで事故、は・じ・け飛んだみたいなんですよね。」
美香はその言葉を聞くと、ズキズキズキっとした鋭い頭痛が襲った。
「うっぐっ!」
近藤の腕を払い、座り込みうずくまる美香。
近藤「美香?これが最後の考察です。私を見て下さい。」
「うっうっ……」
辛うじて上を見上げる美香。
近藤「私は思うのです。トモは死んだと。誰かに殺されたのでは無いのかなと。そう、その日にね。」
「!?!?……ころ、殺された………トモは…………シュウに………」
近藤(あぁ…その顔!!堪りませんねぇ!!ギンギンになってしまいますよぉ!!)ギンギン
いきなり、スッと立ちあがる美香。
「…………」
近藤「どうですか?記憶は?」
「…………私、お腹減ったので…戻ります。」
近藤「分かりました。では教室に戻って良いですよ。」ニヤニヤ
「…………」
ガラガラ…
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シュウ「おいおい、遅刻だぞ?」ニヤニヤ
振り返り小バカにした感じで言うシュウ。
(……許せない…。トモを殺しておいて……あんたは!!!!)
美香は少し俯いた状態で返事を返さない。
シュウ「ど、どうしたんだ?職員室で何かあったのか?……美香?」
スッと顔を上げ芦屋の眼を見て言った。
「最悪。」
シュウ「っ!?」
「これまでの提出物めっちゃあるんだけど。終わらないわマジで。」
シュウはホッとした顔を見せていた。
(なにその顔………シュウ…私は憎い……けど……)
シュウ「ま、マジかー、そ、それは大変だなー俺も手伝うぜ!」
「私だけで頑張るよ、適当に。」
シュウ「あ、だって放課後遊びに出掛けるんだべ?一緒に!」
「あー…ごめん、今日は無理っぽい。色々他にもやらなきゃいけないからさ。」
シュウ「あ、あ、そうだよな!じゃあまた今度にしよ!」
(何でそんなショック受けた顔してるのよ…私が泣き出しそうだよ本当…シュウ)
担任「はい!では、えー授業を始めるぞー」
「ほらほら、前を向いて!授業始めるよ!」
シュウ「お、おう!」
後ろから冷たい目と気持ちでシュウを見る。
(シュウ……あなた……一体何を考えているの?)
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普通の授業が終わり明日が休日だと言うこともありクラスは皆いつもより賑やかで活気に満ちていた。片手で頭を抱えるよう俯き座っている美香を除いて。
(……私は…シュウが憎い…でも…でも私は分かってる…シュウが私を守ってくれたことを…でも、でも何でシュウはあそこに来たの?トモを殺す為?そんなはずは無い…とは思うけど…だって…シュウはそんなことするようなやつじゃないから……でも、でも、私はシュウが許せない……分からない…私が分からないよぉ…)
シュウ「おいおい、美香そんなに辛いのか?提出物。」
(シュウ……)
「…うん。沢山あるし、分からない所もあるんだよね。」
シュウ「そうなのかぁ…うーん…提出日はいつなんだ?」
「結構早い感じ。」
シュウ「なら急がないとな…あ、そうだ!明日俺が手伝いに行こうか!?」
(何で優しくするの?殺した罪を償いたいから?……嫌…嫌…私何でこんなことを…シュウは昔からこんなんだったよ…)
「いや…いいよ別に。流石に私やらなきゃだし遅れた分…」
シュウ「でもおかしいよな。俺に対しては何も課題やれとか言われてないんだよなぁ。」
(嘘だからだよ、シュウ。)
「さぁ分かんないなー、ってか早く帰ろ?」
シュウ「あ、うん!まぁ近々言われるんかな?帰ろう!」
「きっとそうよ。理不尽だもん。」
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ポツポツと会話をしながら帰路に就くと美香の家付近に来た。
(………私は…確めたい…シュウの本心を…私自身の気持ちの整理も含めて…)
ふと美香が何か思ったかのようにこう言った。
「決めた。明日は課題やらない!明日は二人で気晴らしにどこか出掛けよ!うん。そうしよう。それがいい。」
シュウ「いきなり言って自己完結しないでよ!(笑)」
「え?行かないの?」
シュウ「いや、暇だし行くけどさ。まぁ喜んでお供するよ!」
「よしよし!じゃあ決定ー!じゃあプラン考えたら連絡するね!」
シュウ「了解!美香に全部任せよう!」
「うん!じゃあまたね!」
シュウ「おう!」
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第25話─
(そろそろ…シュウ来るかな?)
シュウ「あ、ごめん!待たせたかな?」
シュウに気付き美香は笑って答える。
「1分もまだ待ってないよー丁度出た所。」
シュウ「おー良かった!じゃあ、行こうか!」
(私は…あの、1日をやりもどして…何か得ることが出来るかな…いや、何か1つは私の中を整理できるはず…)
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隣街の水族館は海月のアクアリウムとイルカとオキゴンドウと呼ばれるクジラの仲間のショーが売りのそこそこ大きな水族館だ。
只今、時刻は11:16。二人は大体の所を見て周りショーも見終わった所である。
「クジラってあんなパワー凄いんだね!めっちゃ高いところまでインストラクターの人飛んでたよ!」
(まぁ知ってたけど…)
シュウ「確かに迫力あったな!この水族館には今までで何度も足を運んでたけどクジラのショーは初めて観た!アシカとも一緒に泳いでて可愛かったな!」
「私も何度観ても飽きないなー!」
そう言いながら腕時計を確認する美香。
「そろそろ昼行かない?水族館のレストランは混んでるから外出て食べよう?」
シュウ「分かった!…何か目星はおありで?」
「勿論!美香さまを侮らないでくれる?」ニヤリ
シュウ「流石美香さま!じゃあそこに行こう!」
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時刻は12:23。美香が連れてきた所はこじゃれたイタリアンのレストランだった。そこまで高くもなくパスタがめちゃくちゃ旨い。二人はコースを頼んでパスタ、サイズはMのマルゲリータピザとエビのグラタンを二人で分けて食べた。最後は濃厚なバニラアイスでシメであった。
シュウ「いやぁ喰った喰った!量も丁度良いし旨いし美香の目に狂いはなかったな!」
「えー何その言い方ー疑ってたの?」
シュウ「これから美香のおすすめする店はとても信頼に値する事を胸に刻んでおくわ。(笑)」
「うわぁ失礼だわこの子。」
笑いながらそう答える。
シュウ「また今度も行こうなここ!」
「ははは!そんなに気に入ったんだね!あ、次の映画館なんだけどさ何か特別観たい映画ある?」
シュウ「んー無いかな?何か美香はある?」
「これが観たい!」
スマホの画面を見せる美香。
画面にはLovers' south wind という映画のサイトが写っていた。
シュウ「へぇーどんな映画?見るからに恋愛映画っぽいけど。」
「簡単に説明すると夏の恋愛映画かな?男の人が主人公で学生時代の青春を送るんだけど…って後は観てのお楽しみだね!どう?」
シュウ「うんうん!これにしよう!気になるこれ!」
「よしよし!じゃあ決定ー!」
(ごめんね、シュウ…私結末知ってるんだ。)
「上映は13:30からだね!映画観に向かっておこう?」
シュウ「OK!ここは俺が払って」
「割り勘だバカ。」
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時刻は15:34。シュウと美香は若干目を赤くして映画観を出た。
シュウ「男主人公の最後まで彼女を想う気持ちは感動したなぁ」
「でしょ?ヒロインが実は余命半年って言うの隠してたってのが分かると急に冷たく酷い態度になって男主人公を振るのがまた切ないよね…」
(結末知ってても泣けちゃったなぁ…)
シュウ「それでも男はずっと一途なんだもんなぁ…死んでるの分かってても…うぅ涙が…」
「シュウウケる!それほど感動してくれたなら見せて良かったよ!」
(……そんなに感動してくれたんだ…)
シュウ「うん!最高だった!美香は観たかったの?」
「あーうん!ずっと観たかったかな?観れて良かったよ!あ、じゃあ次はーゲーセン!ゲーセン行こう!」
シュウ「お?ゲーセンか!懐かしいなぁよく三人で行ってレースゲームよくやったよね!三人いつも良い勝負するんだもんなぁ」
(………シュウ…)
「今日は負けるつもりないからね!」
シュウ「じゃあ負けたらジュース奢りな!」
「うん!いいよー?一杯買ってもらうから覚悟しててね?」
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17:14。ジュースをかけた凄絶な戦いは私の勝利で終わった。最初はシュウが勝ったけど本気を出した私はその後2連勝してやった。
レースをやった後はゾンビシューティングゲームをやり、格闘ゲーム等色々なゲームを二人でやった。
「楽しかったー!ジュース、ありがとうね?」
(本当に楽しかった、、私は、、一体何がしたかったの…?)
シュウ「美香強すぎでしょ。俺本気のキャラでめっちゃ頑張ったのに負けたよ。」
「これが私の実力って感じ?」
笑顔でそう言う美香。
シュウ「あ、こんな時間だけどどうする?地元帰って晩飯でも喰う?」
「うん!そのつもりー!いこいこ!」
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18:44。今は最寄り駅近くのファミレスに来てシュウはハンバーグステーキ、美香はサラダとカレーのハーフを平らげた。
「もうお腹一杯!今日はもう何も食べれないよー」
シュウ「俺も満足だー本当色んな所行ったなぁ最高に楽しかったよ!」
「本当?良かった。」
笑顔で言った。
シュウ「あ、な、何かこれデートみたいだよな!」
「え?」ピクッ
(え……で、デート…?)
シュウ「え?」
冷たい空気が場を制した。
シュウ「あ、何てね~?あ!そうだそうだ!何か最後行きたい所あるって言ってたよね、秘密ーって!」
「そ、そうそう!行きたい所があるんだよね!もう行こうか!」
(そうか…これって端から見たらデートなんだな…)
シュウ「行こう行こう!」
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二人並んで美香の言う「秘密」といった場所へ向かう。非常に気まずい雰囲気。歩く靴の音と近くを走行する少数の車の音がやけに大きく感じる。
シュウ「こ、ここら辺大体知ってる所だけど、何か真新しい建物とか出来たっけ?」
「いや、ここら辺はいつも通りだよ。場所は着いてからのお楽しみでね?」
(私は…この場所で…シュウの本心を…)
トモの家近くを過ぎ、どんどんあるところへ向かっていく。数本の桜の木が見えてきた。もうほとんど花は散っている。
「ここだよ。」
どんどん近くに来ている時点で予想は何となくだがついていた。数本の桜の木。白い柵でその場周辺を囲い、滑り台やジャングルジム、そしてここに無くてはならない四つのブランコ。ここは俺達四人としても思い出の公園だ。よくシュウの妹を含めた四人でよく遊んでいた。
シュウ「何でここに?」
「まぁ座って?ゆっくり話したい事があるの。大事な話。」
シュウ「…分かった。」
桜の木の下のベンチに腰をかける二人。少し会話の間があり、美香が口を開いた。
「何かさぁ、何か世界が一気に変わった気がする。」
シュウ「え、?どう変わったような気がする?」
「だってそうじゃない?トモは居なくなっちゃうし、私はいきなり癌が発見されて緊急手術で片胸無くなっちゃったし…」
シュウ「あー…確かに、確かにそうかもしれない。全部が急に始まってるかもね…」
(まだ…隠すの?シュウ…)
美香「…」
シュウ「…」
無言が数十秒程続く…
「ねぇ、覚えてる?この公園。」
シュウ「勿論。この公園で妹含めた四人でサッカーとかブランコやったな。俺らの家からも丁度程良い距離にある公園。中三までよく集まって遊んでた…思い出の公園だ。最近は部活とか習い事が忙しくて集まってないけど…」
「そう。それとトモが居たところ…だよね?」
シュウ「そうだね…」
「何でトモはここに来てたんだろう…しかも夜中に…悩みがあったんだと思うんだよね…もしかしたら悩みがある時っていつもここに来てたんじゃないかな?」
シュウ「……分からないな。どうなんだろう。」
(何で!?何で隠すのシュウ!?言ってよシュウ………言えない…の?)
美香「…」
シュウ「…」
そしてまた無言が続いた…
「あのね?私いつまでもずっとトモとシュウは大事な人なの…でも…」
(そう…二人は私の大事な人…)
シュウ「でも?」
「トモはもっと私の中でも特別な存在になっちゃったの…私トモの事恋愛として心から好きなの。」
そしてポロポロと涙がこぼれ始めた
それを見てシュウ自身も泣きそうになる。
「でもトモはもう私の事なんて振り向いてくれない…」
シュウ「何で?何でそんなことを言うんだ?」
「だってこんな私になっちゃったからっ!もう昔の三人には戻れないの!」
私は感情に任せて取り乱していた。昔の三人には戻れない悲しさ…それでも真実を隠すシュウに対する憎しみ……そして、私の心の中の全てが揃わない私に対しての苛立ちで…
「こんな醜くなった私は…もう…どうしたらいいか…分からないよぉ…」
ポロポロと涙が止まらない。
シュウ「なぁ美香…俺じゃ、俺じゃ駄目かな?」
「…え?」
(え……)
シュウ「俺がトモの代わりにさ…ずっと美香の近くに居るし、ずっと守っていたい。トモが居なくても…俺が居るよ…?」
「…」
(…………何で……)
流れる涙を拭って少し俯いた後に顔を上げ笑顔でこう言った。
「ありがとうシュウ。」
(私は……もう……駄目だなぁ…)
その時の限界の笑顔で答えた。
「ごめんね、こんな所見せちゃってさ。今日はもう帰ろう?」
シュウ「そ、そうだな!帰ろうか!」
そして美香を家まで送っていった…
---------------------
美香宅玄関前─
シュウ「じゃあな!美香!」
「うん!…」
シュウはスタスタと帰って行った……
美香は空を見上げる─綺麗な夜空だった…月が輝いて…その月明りが美香を照らしているみたいだった…しかし…美香にとって、それは耐える事のできない悲しさであった。
(ははは…何か…月が私を睨んでるみたい…)
夜ポツンと一人……母親にはメールでシュウの家に泊まる事を伝えている。
(楽しかった……楽しんじゃった…)
涙が伝う…
(こんなに憎いのに……私は…もう分からなくなっちゃった…何で…殺したの?何で大事な幼馴染のトモを?何で、?殺すこと無かったじゃない……シュウ…何で……あなたはこんなにも私に優しいの……?)
美香は空に問いかける─すると1通のメールが届く…
「芦屋修二
今日はごめんね、あんな事言っちゃって、でもあの言葉は本気だからさ、何か相談事とかあったら言ってな?俺はずっと美香の味方だからさ!美香は醜くなんかないぞー! おやすみな!」
「っっ!!!!!!」
この文章を見て、足に力が入らなくなり、座り込んで、泣き出す美香─
自分の感情の醜さが…あまりにも酷くく……
美香はフラフラと立ちあがり、学校へ向かう─
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学校付近に行くと、大きなマンションがあった…美香は何も考えず、ドンドン上へ上がって行った…柵を越え…後一歩で落ちるところまで行く……
(綺麗だな……)
そこは月に雲がかかり、光りが当たらなかった。だが、ポツポツと光る家や街頭の光りが綺麗に見えた。
「シュウ……」
美香の心は色々な感情で渦まっていた…そして、シュウに電話をかける。
プルルルル!プルルルル!
シュウ「もしもし?どうしたの美香?」
「シュウ?私ね、何もかも知ってるんだよ?」
シュウ「え、、何が?」
「……怪しいなって思ったんだよね。病室で起きてシュウと顔を合わせた時。あまりにも普段と違っていたから。その時すぐ分かったよ、何か隠してるって。私と何年居たと思ってたの?バレバレだよ…」
シュウ「……もう、全部思い出したんだね?」
「最初から最後までね。」
シュウ「あのね、美香、」
「うるさい!!!」
美香はしらばっくれるシュウに怒りの気持ちをぶちまけた。
シュウ「……美香」
「私…私、あなたが憎い…憎いよ!!ねぇ何で?何で殺したの?何でトモを殺す必要が有ったのよ!!」
シュウ「違う…違うよ美香!」
「何であの事を全部隠してるの?何で普段と同じ感じで学校生活送っているの?大事なんでしょ?シュウもトモが!それなのに…何で殺したのにいつも通りなの!?」
シュウ「っ……」
「私シュウが分からないよ…こんな酷いことしてるのに、何で公園であんな事言ったの?何であんな、優しい言葉を言ったの…っ?」
「うぇぇ…酷いよぉシュウ…こんなにも憎いのに…グズッ私は…私はシュウのこと、を、嫌いになれ、ない私が、い、るの。!!」
泣き出しながらも言葉を繋げる美香。最後は堪えきれずうわぁぁんと泣きわめいた。
シュウ「落ち着いて、美香…一回会って話そう?」
「あ、わないわ…ズズズッ会わない。会ったら私自身が壊れそうもう壊れたくない…ズズズッ」
シュウ「…今から家に行くからな?俺自身も話したい事があるんだ。」
「だ、駄目よ…聞いてシュウ。私は謝らなきゃいけない。」
シュウ「何をだい?」
「シュウがまさかあんなに楽しそうにしてたから…私、申し訳無くて…朝から出掛けた所…全部あの事件の日にトモと二人で行ったところなんだ…私はあなたを確かめたかった…私自身の確認の為に…」
シュウ「そうだったんだ……」
「結果ね…二つとも更に分からなくなっちゃった…シュウは悪い人では絶対無いって感じたし…私も…私の中も、、心から憎んでるはずなのに楽しかった私が居て…私の中に二人人格がいるみたいで…心が…苦しいの……だからね…決めたの…」
シュウ「美香!!?今どこにいる!!?」
「きっと、トモもこれに似た感情だったのかな…」
シュウ「やめろ、やめろ美香!!!」バンッ
部屋を出て裸足で家を飛び出し、美香の家へ急ぐ。
「私は本当にトモが好きだった……」
シュウ「待ってくれ、、待ってくれ美香!!俺はお前の事が好きなんだ!!愛してるんだ!!」
「……じゃあ…じゃあシュウ?」
シュウ「何だ美香?、」タッタッタ
「私がトモを殺さないでって言ったら殺さなかった…?」
シュウ「っ!!俺は!!俺は殺したくてトモを殺したんじゃないよ!!!」
美香の家へ着いたシュウはインターホンを数度連続で押す。
美香母「あら!どうしたのこんな夜中に!すぐ出るわ!」
シュウ「美香は!?美香は!?」
「ごめんね……分かってるわ…そんなこと…私はもう…駄目ね…」
(本当…私が嫌…本当に醜くて…曲がってる…)
美香母「美香がどうしたの!?シュウくんの家に泊まってるんじゃないの!?」
美香母「ちょっと待ちなさい!!」
「お母さんの声……最後に聞けて良かった…」
シュウ「そ、んなこと…言わないでよ美香!」
「もう終わりにするわ…もう…疲れたの……疲れたの…」
カシャン
フェンスを離す美香…
シュウ「やめろ!!!やめろ!!美香ぁぁぁ!!!」
「ありがとうね、シュウ。」
そしてスマホを下に投げる─
「私は…もう耐えられないよ。こんな気持ちで学校生活はもう送れない…でもね、こんな私になってもずっと優しかったシュウに…とても感謝してる……こんな私に好きだって……ありがとう、ありがとうね、シュウ……でも…ごめんなさい…」
フワッと体を傾ける─重力は美香を捉えた…
もし、もし、生まれ変われるなら……もっと、二人の助けに──
イラストはそらとさんからです!
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