第一章 32話 親譲りの正義感
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
落ち--
--っ ガシャッア!!!!!
!?
シュウ(何の音だ!?)
打ち付けられるまでおよそ数m。凄い音と微かに聞こえた言葉によって能力が発動し自殺は失敗する。それよりも、
シュウ(今、最後の方しか聞こえなかったけど、って!!って聞こえた気がする。とても悲痛な叫び声で最後の方だけ……あれは、助けて……なんじゃ……?)
シュウはそのまま数m浮きながら周囲を見渡す……
シュウ(どこだ?どこから聞こえた?)
確実に自分の居る近くで何かが起こっている。
シュウ(……)
シュウの中の両親譲りの正義感が鼓動する。
シュウ(死ぬ前に……最後にこれだけやれってことかな……音は……近くの体育倉庫からだ……)
そのまま浮遊して体育倉庫に向かう。
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シュウ(!?電気がついてる!!こんな真夜中に!)
倉庫の扉が少しだけ開いていた…シュウはそこを覗く…
シュウ(ん…?何だ…?)
シュウの眼には男が一人煙草を吸ってマットに座っていた。
シュウ(ん、近藤先生じゃないか。こんな時間に何を……?)
さらにじっと周りを見る……
!?
一人女性が仰向けで倒れているのが見えた。
あの女性がすぐ誰だか分かった。
シュウ「成瀬、愛歌……?何で血が、血が出てるんだ?」
成瀬の顔は殴られたようにぼこぼこになっており鼻血や口が切れて血が出ている。そして、口にはタオルが加えられていて声が出せない状態だ。
シュウ「あれは、近藤先生が、やったのか?」
シュウは唖然としてしまっていた─理解が追い付かない。声を掛けるべきではない状況ではない気がする。
シュウ「け、警察に、」
シュウは警察に通報しようとしたとき、その光景にさらに異変を感じた。
シュウ「な、なんか……」
シュウ「っっ!?」
理解した時、サァァっと血の気が引いた。
成瀬愛歌の足が……
無くなっていた……いや、正確に例えると、
「埋まって」いたのだ。
シュウ「な、なんだよこれ……」
あまりの恐怖と異様さと気持ち悪さで後退る─
シュウ「だ、、誰か、……むぐっ!!!」
不意に何者かに口を塞がれる。
?「………」
その男は自分の口の前に人差し指を出して声を出すなとジェスチャーする。見覚えのある男……! あの時、政府の人間だと言っていた怪しい四人の一人だ!やつれている男だ!
やつれた男「……」
やつれた男は倉庫の中を確認する。
シュウ(良かった!!この人が来たならもう大丈夫だ!)
だが未だに声を出すことが出来ずに居るシュウ。恐らく、この男の能力だったな。トントンとやつれた男の肩を叩き、自分の口に指を指す。
シュウ(この能力を解いて!)
やつれた男「………」
やつれた男は掌をシュウの前に出す。
シュウ(待てということ何だろうか?)
そしてやつれた男はニッと少しだけ口角を上げ、指パチンと弾いた─
シュウ「えっ……」
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ガラガラガラ
近藤「っ!何だ……あなたでしたか」
近藤がやつれた男に気付く。
ドサッ
シュウ「ガハッ」
やつれた男は手足を見えない何かで拘束したシュウを自分の足元に放る。
やつれた男「……こいつが一部始終見ていた。危なかったぞ」
シュウ「あんた!味方じゃなかったのか!!」
やつれた男「………何のことだか」
近藤はわざとらしく驚いた顔を見せる。
近藤「おやおやおやおやぁ?浮けると噂の悲しきシュウ君じゃないですか。人の事を影で見てるなんて、感心しませんねぇ」
シュウ「ぐっ!先生!!一体何をしてるんですか!」
近藤は大きく腕を広げ、
近藤「何をって?ただのスポーツだよ?」
シュウ「っっ!!」
シュウは近藤の言葉に言葉を無くした。
近藤はやつれた男を見て言う、
近藤「いやはや……本藤さん、良い仕事をしてくれました。しっかり上には伝えておきますよ」
近藤はニヤリとし、本藤に伝える。
本藤と呼ばれた男「……上手く伝えておいてくれ」
シュウ「先生っ……!な、成瀬を、どうするんですか!?」
シュウは困惑と悲しみで胸が苦しかったが、声を頑張って押し出した。
近藤「あぁー、こ・れ・か?」
近藤はかがみ、ポンッと成瀬に手を置く。
すると成瀬の体はズルズルと床に沈んでいった。
シュウ「!?」
近藤「正確には成瀬だった物、だよ?」
シュウ「こ、殺したんですか……?」
近藤は吹き出す。
近藤「プフっ、ハッハッハッ!!殺したんですか?ときたか!はぁ……お前と同じだよシュウ君?」
シュウ「俺と、同じ……?先生、どういう……?」
近藤「君はね、君は私の大事なオモチャを壊したんだよ。んーいやはや……腹立たしいよ実に」
シュウ「オモチャ?……壊した?」
シュウは理解が出来なかった。
近藤「理解が出来ていないようだね、じゃあ教えてあげよう。全てをね」
近藤「私は君を恨んでいるんだよ」