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第四章 26話 切ることしか知らないあやかし


 日本定食屋付近─


 シュウと近衛コンビはノワン、コルナと別れた後、情報収集をするために周りを散策したが、やはり人一人歩いていなかった。そろそろ手詰まりかと思った時、伊賀崎から通信が入る。


伊賀崎『失礼しますシュウ殿、そちらの進展はいかがでしょう』


シュウ『こっちはアリサさんに関しての情報は皆無ですね、でもB.B.B.と接触して手を貸してくれるそうです』


伊賀崎『それは心強い!ですが、丸一日活動していてお疲れでしょう。ですから先に』

シュウ「いや、今アリサさんはどこでどんな扱いをされているのか分かりません。今まさに命の危険があるかもしれない。そんな中、俺達だけ休むというのは……」


 シュウは伊賀崎の言葉を強めに否定する。あの時、日本定食屋の人物が本物のアルベッロならばきっと危ない目にあっている。そう思ったのだ。


 すると、ロッドが会話に入る。


ロッド『いや、非生産的だ。今の状況では戦闘に及んだ際に不利になる。アリサの事を信じ少しは休息を取らねば本末転倒になるだろう』


シュウ『で、でも』


ロッド『アリサはヤワではない。シュウ達が休んでいる間にこちらは少し情報収集をする。先に手配したホテルで休むんだ。良いな?』


シュウ『……はい』


 シュウは普段クールなロッドが強めな口調で言ってくるのに怯み、渋々了承した。


伊賀崎『今は辛抱です。ホテルへはお二人が先に行って下さい。自分達は少しやることがあるのでそれが済みましたら。既に部屋は……あっ』


 伊賀崎は何か思い出したかのように言葉を止める。


シュウ『どうかしました?』


伊賀崎『あ、いや、何もありません。ホテルに着きましたら……えと、何とかお願いします』


シュウ『???分かりました……?』


 シュウの頭の中は疑問で溢れていたが、一方的に伊賀崎に切られてしまったので追求することが出来なかった。



シュウ「取り敢えずは、俺達が予約したホテルに止まりましょう。探索は朝方からで」


 逸夏は腕を組み深く頷く。


逸夏「うむ。それが正解だ。私は平気だが、休む事も大切。それに、この町にはどうやら人が居ないようだしな」


 静けさで耳鳴りがするくらいの人気の無さ。夜中といえども不気味だ。確かにこれでは情報収集もままならない。伊賀崎の言葉のふくみは気になったが疲れているのも事実なのでホテルへ向かうことにした。


−−−−−−−−−−−−−−−


 予約していたホテルへ小一時間歩いて向かった。タクシーすらも無いのだから仕方ない。しかし、道中、逸夏と会話を続けていると、暇をもて余すことなく到着した。


 ホテルの中にも人が居ない可能性を考えていたが、スタッフが数名居てホッとするシュウ。



スタッフa「いらっしゃいませ。予約がお済みの方でしょうか」


シュウ「あ、はい。4部屋予約していると思うのですが」


スタッフa「4部屋?いや、そのようなご予約はされている方は居ません」


シュウ「え?あの、恐らくキャロラインだか本堂だかで予約していませんか?」


スタッフa「本堂様のご予約ならあります。合計2部屋で」


シュウ「へ?2部屋?」


スタッフa「はい、ツインのお部屋で」


シュウ「あーそういうことか……」


 きっと伊賀崎は逸夏と同じ部屋になることを思い出したのだろう。シュウは振り返り逸夏に声をかける。



シュウ「逸夏さん、お、俺は違う部屋を取るので一人でお願いしますか」


 逸夏はその言葉に驚きと絶望の表情を浮かべる。


逸夏「ま、まさか、このガイコクの部屋にたった一人で居させるつもりか!?監獄の如き場所で一人とは拷問ではないか!」


シュウ(これは一人にしちゃまずいな)

シュウ「わ、分かりました。でも、俺はいかがわしい考えとかそういうのはないので!!」


逸夏「ん??うむ、何を言っているのか分からんが承知しているぞ?」



 男子高校生にはこの状況はまずい!


−−−−−−−−−−−−



 部屋へ向うエレベーターの中、一人の案内スタッフが声をかけてきた。


案内スタッフ「ここへはお二人様だけですか?」


 逸夏がギロリと睨むもシュウが慌てて間に入る。


シュウ「他の者は後から来るんです!」


 案内スタッフは苦笑いを浮かべるも更に会話を進めた。


案内スタッフ「ご旅行ですか?」


シュウ「あーまあ、そういう感じですかね」


案内スタッフ「気をつけた方がいいですよ、男女二人でも今のフィレンツェは治安が悪いですから」


シュウ「っというと?」


 エレベーターが開き、廊下を歩く。


案内スタッフ「今、付近で行方不明者が多発しているんですよ」


シュウ「行方不明者?もしかして、外に人が居ないのも」


案内スタッフ「皆さん怯えて外に出ないのです。居なくなる理由は分かりませんが、最近増えてきたアルベロ盗賊団を名乗る輩のせいなのか、霧が出て神隠しに合うとかとも」


シュウ(アルベロ盗賊団……霧ってB.B.B.のノワンの事じゃ??)


案内スタッフ「気をつけて下さいね、アルベロ盗賊団を名乗る輩は偽物ですからね」


シュウ「偽物??」


案内スタッフ「はい、本当はアルベッロですから。アルベロ盗賊団を名乗る輩は悪質なギャングです」


シュウ(アリサさん……頼むから無事であってくれ)


 部屋の前に到着するもまだ案内スタッフは話したい様子。


案内スタッフ「本当、ここ最近が酷いのです。こんな時期なのに守銭奴のバルディは展示会なんか開いて……お金の亡者というのは

逸夏「まだ続けるのか、着いたのだからさっさと消えろ」


 逸夏に堪えるという文字は無かった!


シュウ「あー!!すいません!!今日一日寝てないので気がたってて!!すいません!今日はありがとうございます!!もう大丈夫ですぅ!!」


案内スタッフ「あ……はい、大変失礼致しました。ごゆっくりどうぞ」


 案内スタッフはそそくさに離れていった。


シュウ「あぁ……貴重な情報が……」


逸夏「ガイジンが話すことなど、大半が嘘だ。気にすることはないよ」


シュウ「はあ……」


 先が思いやられるが、逸夏はご機嫌なので責めることは辞めておいた。


 

 中に入ると大きなベッドが二つあるが、そこまで狭くはない。逸夏が一点を見て止まっているが、汗だくのシュウはシャワーに入りたい。


シュウ「あ、えと、汗かいてますよね。逸夏さん先にシャワーを浴びていいですよ」


 アリサと二人ならば更に修羅場だっただろうなと少し考える。



逸夏「しゃわー」


シュウ「そう!シャワー!」


 シュウがバスルームを指差す。


逸夏「あ、ああ。水浴びか。しかし、ここの水は浴びても良いものか?」


シュウ「レベルは決して低くないホテルですし、水は汚くないですよ」


逸夏「んー……そうか、そうだな。湿気も酷いし浴びたいところだ」


シュウ「では、先にどうぞ」


 逸夏は二本の刀が入った袋をシュウに渡す。


逸夏「すまない、刀を持っていてもらえるか。何かあると大変だ」


シュウ「わかりま、うわ!」


 シュウは受け取るが、あまりの重さに刀を落としそうになる。逸夏はシュウと刀を支え少し焦った顔を浮かべる。



逸夏「すまない!少し重かったか」


シュウ「いや、想像以上に重かったですが、なんとか」


 二本の刀は思ったより何倍も重かった。


逸夏「シュウ君、悪いのだが、刀を抱えて風呂場の前にいてほしい」


シュウ「分かりま

逸夏「ふぅ」ヌギ


シュウ「うわぁぁ!!!」


 急に上の着物を脱ぐ逸夏に驚きの声をあげる。


逸夏「どうした!!」


シュウ「ちょちょちょちょっと!逸夏さん!俺がまだ目の前に!!」


 逸夏はキョトンとするが、シュウの慌てて目を隠す仕草に理解する。


逸夏「あーそうか。急に脱ぐのはいかんかったな。心配するな、サラシを巻いている」


シュウ「そういう問題じゃないですー!!」


逸夏「はははは!君は純粋だなぁ」


 逸夏は笑いながらバスルームへと迎い、しゅるしゅると着ている物を脱いで入る。


逸夏「すまないな、男しか居ない家柄なもので配慮が足りなかった!」


 扉前に背を向けて座るシュウ。


シュウ「それでもですよ、全く……」


逸夏「可愛いものじゃないか、その純真、大切にしたまえよ!えっと、これか?」


 シュウにはシャーっと水が出る音と爆発しそうな心臓の鼓動音が聞こえる。



逸夏「はじめてだよ、こんなこと」


シュウ「俺もです……」


逸夏「シュウ君も任務中にゆっくり休むのははじめてかい?」


シュウ「え、あ、そういうことでしたか」


逸夏「私はね、任務に出て、人を殺して、即日に帰る。この流れが多かった」


シュウ「人を……」


逸夏「だから武器も手放して、無防備で休む事が慣れないんだよ。この部屋に入って私はどうして良いか分からないんだ」


 逸夏の言葉はシュウの心に突き刺さった。このように若くいい人なのに殺しを生業にしている傭兵なのだ。


シュウ「おかしいですよ、人を殺し続けるなんて」


逸夏「君は殺さないでいい。私はこれしかないんだよ」


シュウ「そんなこと……」


逸夏「その刀には何百を越える命が吸われている」


 シュウは抱えている刀を見る。


逸夏「それは近衛家の呪い。首切り野太刀と腹切り小太刀。この刀は近衛の当主をその名の通りに殺してきた」


シュウ「妖刀……のようなものですか」


逸夏「私の父上は存命だが、祖父がこの刀によって首を狩られた」


 シュウはおぞましいものを抱えているのだと畏怖する。


逸夏「でも私はこの妖刀を振るって戦場に出る。私が人生で学んだものは人を切る事だけだから」


シュウ「それでも、それでも殺しはいけない。逸夏さんはきっと殺さなくても生きていける。この任務が終わったらBARKERsに入りましょうよ!きっと楽しい人生が待ってますよ!」


逸夏「……そうか、」


 バンと扉が開き、シュウは慌てふためいて目を隠す。


逸夏「さあ、シュウ君の番だ!ゆるりと入り給え」


シュウ「は、はい!」


 逸夏はバスルームを出て刀を受け取る。



逸夏「私は……身も心もあやかしとなっているのだよ」


 逸夏はポツリと寂しく呟いた。

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