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第四章 25話 忍三羽烏


ロッド「伊賀崎……っ!!」


 ロッドは迷ってしまった。こうなることは予測はついていたはずなのに伊賀崎の言葉を鵜呑みにして信じて送り出してしまった強い後悔、逃げて応援を呼ぶよう言われたが仲間を見殺しにして良いものなのかとの葛藤がロッドの足を硬直させる。


風間「注意力の散漫、暗殺を生業にしていない未熟さよ」


ロッド「!!!」


 ロッドは振り返る、目の前に佇む大男。


風間「ここで死に晒せッッ!!」


 風間は腕を横に振るう。流石の大男でも届かない距離。しかし、ロッドの観察眼はアドレナリンによって飛躍していた。


 風を切る音が腕のそれとは違う─



 咄嗟に横を向いて体を後ろへ退けた。


 

 べキャッ─!!


 

 血肉が弾ける音が響く。更にロッドの頭の中には更に鈍い音が鳴っていた。


 ロッドの頰肉は削がれ歯茎が剥き出しになり、血が床に溢れる。


ロッド「っ!!」



 顎が激痛で閉まらない、口からも血がタラタラと溢れてきてしまう。


 顎の骨を砕かれたのだ。


 それでもロッドは風間の姿を凝視する。風間は紐を振り回していた。先に付いているものは分銅。中国武術の武器にある流星錘だ。



伊賀崎「待ってくれ!!」


 風間は止めを刺そうとしていたが動きを止めて伊賀崎を見る。伊賀崎は仰向けに倒され百地に刀を持った方の肩を踏み潰されていた。


百地「なんだ伊賀崎」


伊賀崎「殺すなら自分だけにしてくれ!五條殿は勝手に連れてきただけなんだ!」


 ようやく状況が把握できた周りの犯罪者達の中に二人共やってしまえと野次を出すものが出てきていた。



百地「何を言っているんだ伊賀崎。お前は殺さない、しかし、あの男は必要無い。ここで死んでもらう。伽夜(カヨ)。」


 百地の影から一人の女が出てくる。


伽夜「どうした百地」


 肌が浅黒いおかめ面の女。腰には忍者刀を携えている。伊賀崎はその姿を見て自分の未熟さに落胆した。



伊賀崎「そうかっ……!甘かったっ!!二人だけじゃなかったのか!!全員いたんだ!!」



?「ほうほうほう」



 高い天井からすたりと降りてきた忍。上げた顔には大飛出の面。背は小さく腰に二本の手斧を装備している。


伊賀崎「出浦明暗(イデウラミョウアン)!」


出浦「いやぁ驚いた驚いた、随分と成長したなぁ。ジジイの名前も覚えておるとは、ほっほっほ」



百地「伽夜、伊賀崎を頼む」

伊賀崎「くっ!」


 百地が意識を伽夜に向けた瞬間、伊賀崎はもがいて逃げようと試みたが、すぐに百地に首を手で抑えられてしまう。


伊賀崎「がはっ」


百地「そう慌てるな伊賀崎。お前には後でゆっくり話をしたい。風間、さっさと止めを刺してしまえ」



風間「御意」


ロッド「……」


 ロッドはナイフを抜き、激痛に耐えながらも風間に向ける。


ロッド(これまでが、ここが吹き抜けでなければ、まだチャンスはあったが……)



 ロッドには奥の手があった。しかし、扉もない吹き抜けの洞窟では効果が無く、使用することが出来ない。刺し違えても勝てる気は一切しなかった。死ぬのならば一矢報いようと風間一人に集中する。


風間「首を差し出せばすぐに死ねるというのに」


 風間は手を前にして流星錘を何も無い空間に突き入れた。虚空に突き出された流星錘は消え、代わりに忍者刀を取り出す。


ロッド(なるほどな、それでか)


 ロッドは妻が刺殺された方法を理解した。風間は何も無い空間に武器を出し入れ出来る。そして、妻を殺した方法で自分も殺される。


ロッド(これほど腹立たしいのは、いつぶりだろうな)



 ロッドは額に青筋を立てて怒りをあらわにする。


風間「お前に恨みは無いが、これも定めだ。受け入れろ」


 風間は上段で構えた刀で両断せんとジリジリと前に出る。


ロッド(……)


 ロッドは風間が振り下ろす瞬間を待っていた。その瞬間に懐に入り、ナイフを突き刺そうと……



ロッド(?)


 そして、気付く。ちょろりと奥で顔を出し、手を上下にしてる少女が居ることに。上下した後、指を下に指して何か伝えようとしているようにも見えた。


風間「いざ!!!」



 風間が振り下ろす瞬間だった─



 シュタタッ─


百地「ぐあっ!」


 百地の抑え込んでいる腕に二つの手裏剣が突き刺さる。


伽夜「百地!!」


 チュドン!─


百地「奇襲か!?」


伽夜「くっ!」


チグサ「爆発か!!」

エアー「ぷしゅ!?」

ゴーラ「Bomb!!」


 辺りは煙幕に包まれる。その様子を見た風間はすぐにバックステップでロッドと距離をとる。


風間「何事だ!!」


 後ろの角に隠れていた少女はそっと体を出して風間にむかって両の掌を開く。


ロッド(!!)


 ロッドは咄嗟に伏せた。恐らく、伏せろと合図したのだと理解したのだ。



 後方から飛び出す水の柱。耳を劈く轟音は少女が飛び出してからすぐに鳴った。


風間「うぐおおおおおおおお!!!!」


 風間は水によって広間へ押し出されていく。少女は走りよりロッドの手を掴み、引っ張っていく。

 ロッドはその少女の手助けを必死に受け取るのだった。




−−−−−−−−−−−−−−−


 橋脚付近─


 ロッドは少女に手を引かれ地獄からの生還に成功した。少女が進む先は海の水すらも道を開き、まるで階段を作ったように水が固まっていった。


 恐らく、他の所属の能力者なのだろうが、死を覚悟したロッドからすると、まるで海を割って現れた天使のように見えた。

 一滴も濡れずに生還し、陸にたどり着いたロッドはまじまじと少女の姿を見た。


 少女の格好は紛うことなき、くノ一だった。潜入や闇討ちに適した動きやすい衣装、大きなスカーフを口元に巻き、鼻付近を守る為に付けている面頬や小手。忍組の一人だというのが分かる。

 口に出したいが、顎の激痛が響き喋る事が出来ない。


 その様子を見て判断した少女はロッドに近付き、血まみれの頬と顎を擦る。


 すると、砕けて動かなかったはずの顎が動くようになり、痛みは抉れた頬の痛みしかなくなった。


くノ一「応急処置。でも私の力、長くない」


ロッド「……ああ、助かる。命も救ってくれて本当に感謝しているよ」


 ロッドは抉れた頬に手を擦り、自分の【拘束する】能力で顎の骨を固定する。


ロッド「……しかし、中には仲間が」


くノ一「伊賀崎なら大丈夫。直に来る」


 バシャンと音を立て、川から顔を出した老人と伊賀崎。


伊賀崎「ふあー、助かりましたぁ!」


 老人に引っ張られながら陸に上がる伊賀崎。ロッドは伊賀崎の無事を確認してホッと一息入れる。


ロッド「……説明してほしい、君たちは一体何者で、何故敵の居場所が分かった」


 老人は濡れた髪を掻きあげ、ニコリとした優しい顔をして二人に言う。


老人「ゆっくりお茶を飲める所へ行きましょうか、ここは少し肌寒いので」



−−−−−−−


 5km離れた川─


 

百地「ふぅー……」


伽夜「危なかったな」



 川に面した石造りの橋下、暗闇から現れる忍組の二人。


百地「瞬時の判断、流石は伽夜だ」


伽夜「ふふっ毎度世話が焼ける」


 伽夜によって暗闇から露わになった百地。すると、すぐにバシャンと風間、出浦が水面から顔を出す。


百地「よくぞ生きて戻った」


風間「ぬぅぅ!!してやられた!!怒り心頭に発するとはこのこと!!」


出浦「儂も驚いた、心臓が止まるかと思ったわい」


 風間と出浦は口に小型酸素ボンベを咥えていた。


百地「アイツはどうした」


風間「ふん、勿論」


 風間は一人の人物を抱えながら陸に上がった。


ゴーラ「ぺっ!HEY!勘弁してくれよぅ、死ぬかと思ったぜ」


 爆弾魔のゴーラは風間と同じ小型酸素ボンベを咥えていたが強引に吐き捨て言った。


百地「今回の任務の要は外せん。他はどうした?」


風間「チグサが上手く泳ぎ脱出していたが、他は死んだ」


百地「そうか」


 百地は腕に刺さっていた手裏剣を手でとり眺める。


出浦「してやられましたな」


百地「そうだな」


 そう言う百地の口角は上がっていた。


伽夜「百地、嬉しそう」


百地「ああ、伊賀崎も小雨も我々を退けるくらいの成長……安藤、やりおるなぁ」


 百地は床に強く手裏剣を投げ捨てる。


百地「こちらも、負けてられん」


 

 忍組と爆弾魔はまた闇に隠れていった─



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