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第四章 23話 鶴の一声


女の子「フンフフーン♪」


逸夏「……」

ノワン「チッ……」


シュウ「これは一体……」


 逸夏は眼の端をピクピクと動き今にも怒りで一閃してしまいそう、一方ノワンは口元を曲げ、つまらなそうにポケットからタバコを出して咥え始めた。女の子はというと鼻歌を歌い勝ち誇ったように二つの武器を二人に突き付けている。


逸夏「仔犬が何をしている、手前が何しているか分かっているのか」


女の子「何って~漁夫の利ってヤツ~?」


逸夏「ふざけるなぁ!!!」


 逸夏は振り上げた刀に力を込めるが仔犬と呼ばれた女の子は逸夏に顔をすぐに向けた。まるでワクワクが漏れ出すのを抑えながら笑うように言う。


女の子「殺しちゃう?逸夏の胃袋はキラキラ?」


 グッと脇差しを逸夏の腹に食い込ませる。


逸夏「うぐっ、手前ェ!!斬り─

シュウ「い、

ノワン「あーやめろやめろお前ら」


 シュウが逸夏を止める前にノワンが声をあげた。


ノワン「コルナ、どうせ司令からの通達だろ」


逸夏「雅司令官からだと」


 コルナという名前の女の子はゴーグルをぐいっと上に上げる。コルナの眼は四白眼でまるでキメてきたように瞳孔が開いている。眼や大きく笑った口も特徴だったが、一番に目立つのは眼の周りを大きく真っ黒にメイクしている所だ。さながらパンクバンドのボーカルの様に見える。


コルナ「なぁんだつまんないなぁ」


 コルナは脇差しを下げて肩にかけたヘッドフォンの耳を二人に聞こえるように外に向け、ボタンを押す。逸夏は刀を下ろしたが、額には焦りからか少しだけ汗が垂れていた。


コルナ「雅司令、めちゃオコだよー」

 

 その言葉の後、聞いたことのある威圧感丸出しの声がヘッドフォンから流れてきた。



雅『近衛逸夏、逆心を抱くか?』


逸夏「雅司令……私のこの思いは芦屋修二殿への恩義によるもの。私は借りを返すのが信条、裏切りとは異なる」


雅『私はお前達に任務を与えているのだが?』


逸夏「任より恩義だ、私の事を理解していない訳ではないだろう」


雅『だからといって、仲間割れをするのは私への忠義に反するだろう?』


逸夏「くっ……」


 逸夏は悔しそうに刀を帯刀してコルナから脇差しを奪い取る。



逸夏「ならば裏切り者の私は解雇か自刃か?どちらでも構わんよ」


シュウ「ま、待って下さい!!逸夏さんは俺を守ろうと!!」


 シュウは咄嗟に逸夏を庇う。


雅『ほう、その声はあのガキか。まさかお前が近衛逸夏を誑かすとはな』


シュウ「誑かしてなんかありません!逸夏さんも自刃を選ぶなんてどうかしてる!俺のせいで死ぬなんて、だったら恩義なんて要らないよ!」


逸夏「うぅ……しかし……私は……」


 逸夏はシュウに考えを否定され、たじろぐ。そして、雅の答えは意外な言葉だった。


雅『いや、これもまた好都合かもしれんな。近衛逸夏にBARKERS、そしてお前。借りを返す手間が省けるか』


シュウ「それは、どういう……」


雅『近衛逸夏をお前達に貸そう』


シュウ「貸すってまるで物みたいに……」


雅『兵隊は駒で商品だ。その中でも近衛逸夏は一級品の部類だがな』


逸夏「シュウ君、大丈夫。これが雅零司令官だ。私は気にしてないよ」


シュウ「だ、だけど……」


 逸夏は若干頬が赤くなってシュウから顔を背けた。


雅『その代わりだ。近衛逸夏、二つ任を課そう』



 逸夏が真剣な眼差しでヘッドフォンを見つめる。


雅『一つは現任務のクリアだ。盗み出したダイヤは偽物だったのでな』


シュウ「偽物!?!?」


逸夏「あぁ、この欠片の事か」


 逸夏は袖からピンクの欠片を取り出す。


逸夏「この程度で私を分断出来ると思っていたのなら……浅はかだな詐欺師」


 見下すような目と声色でノワンに言う。ノワンは手を広げ首を横にくいっと曲げるだけで返答した。


雅『依頼主とは未だ連絡がつかん。依頼主を見つけ、話をつける。ノワンとコルナはこのまま依頼主を捜索、近衛はBARKERSと共に行動しつつ、BARKERS側でしか探れない所を頼む』


逸夏「承知した、して、二つ目の任はいかにする」


雅『二つ目は引き続きBARKERSメンバーの護衛だ。BARKERSメンバーに降りかかる火をお前が排除しろ』


 逸夏は雅の言葉を腕を組んで聞き、眼を瞑った後にニコリと笑い、燃えたぎる眼差しで答えた。


逸夏「相分かった!!この近衛逸夏、シュウ君共々守り通す事を誓おう!!」



 詐欺師のノワン、子犬と呼ばれた悪魔の子、外人嫌いの女剣士近衛逸夏……B.B.B.は曲者揃いだ。



──────────────────



 シュウ達がノワンと戦闘をしていた頃、伊賀崎とロッドはウフィツィ美術館付近にある、川を跨ぐ橋に居た。


ロッド「……心当たりがある場所とはここか?」


伊賀崎「はい」


 川を跨ぐ橋はいくつかあった。その中でも一番大きい石造りの橋、その橋の自分たちが渡る側から二つ目の橋脚を指差す伊賀崎。


伊賀崎「あそこに向かいます」


ロッド「……何かあるのか」


伊賀崎「あの橋脚の真ん中部分、下へ降りられるように空洞化してますね」


ロッド「……何故それが分かるのだ?」


 伊賀崎は頭をととんと叩き笑う。


伊賀崎「忍びは勘が鋭いんです」


 

 二人は川へ向かい、伊賀崎は小さく折り畳んだゴムを取り出し、付いている紐を一気に引く。


 すると、ゴムの塊は小さなボートへ変形した。


ロッド「まて」


伊賀崎「どうしました?」


 ロッドは頬を擦り怪訝な表情で伊賀崎に問う。


ロッド「……疑ってはいない。疑ってはいないが事が急過ぎる。あそこには一体何があるのだ」


 伊賀崎はロッドに顔を向けず橋脚の方を見て頬を掻く。


伊賀崎「まあ……あまり自分としても気が進まないんですが……本当に調査だけ、そう、怪我せず死なず調査だけを、ね」


ロッド「何だ、何を含んでいる。具体的に答えろ」


伊賀崎「えーと……そうですね……ハハハ」


 伊賀崎は緊張をほぐす為か、はたまた何かをごまかす為かロッドに、にへらと笑いかける。


伊賀崎「地獄、ですかね……恐らく。五條殿となら、何とかなりそうな気がするんですよ」



 何か他に真意がありそうな伊賀崎。

 そこに待ち受ける地獄とは一体─

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