第四章 22話 霧使いの詐欺師
?「おやすみナァ」
シュウ「!?」
男の口から溢れる霧─
コウモリ傘からもシュウを襲うように霧が漏れてくる。
逸夏「はぁッ!!」
逸夏はシュウの周りの霧を長物が入れで切り払った。
シュウ「逸夏さん!」
逸夏「小賢しい真似をッ!!」
霧を吐く男はコウモリ傘を放るとヘラヘラと笑う。
霧の男「ヘッヘッへ、おいおい手荒な真似はしてないぜェ?」
逸夏は袋から一瞬で刀を抜きシュウを守るように前に立ち構える。
逸夏「手前!!切り殺す!!」
霧の男「霧を切り殺すってか?どうしようもないぜェ?そりゃあ
逸夏は躊躇無くその男に切りかかる。男の体は真っ二つになったように見えたが、切られた半身同士がふわふわと宙を浮いている。
霧の男「本当に面倒なやつだな……迎えに来てやったんだぜ?」
シュウ「迎えに……やはりあいつがB.B.B.のノワン・エンプティか!」
シュウはノワンの能力と言葉で確信する。メガネをかけたスーツ姿の男。背が高くヘラヘラとしているが、何か不気味な雰囲気を醸し出していた。
逸夏「お前を仲間だと思ったことはないゴミ」
ノワン「こちとら仕事なんだっつの、いい加減にしねぇと半殺しにして国へ返すぜ」
逸夏「それでは手前の首は近くのどぶにでも捨て置こう」
シュウ「逸夏さん!」
シュウは逸夏を冷静にさせようと試みる。
シュウ「落ち着いて下さい、この状況一度話し合いをした方がいいかと!」
逸夏「シュウ君もうお互いに刀を抜いた。もう遅いよ」
シュウの足に絡み付こうとする霧を刀の風圧で吹き飛ばす。
逸夏「私とシュウ君もろとも霧で飲み込むつもりのようだからね」
シュウ(逸夏さんが挑発したからじゃ……)
ノワンの姿をした霧は消え、辺りは数センチ先も見えない濃霧に包まれる。
逸夏「やつの事は分かっている。姑息で臆病で狡猾な戦法を使う」
逸夏はシュウと離れないよう肩と肩を寄せ合い密着させる。
逸夏「霧は吸うなシュウ君。私が切り払う時に息を吸い込め」
シュウ「でもそれでは埒があきませんよ」
逸夏は刀を一振りして霧を一時的に払う。
逸夏「やつの居場所はきっと建物の上だ。少し思考を研ぎ澄ませなければな……」
シュウ「だったら一つ策があります」
シュウは自分の胸を叩く。
シュウ「俺の浮く能力で上へ昇りましょう。この霧が能力によるものなら上空は晴れている可能性もあります」
逸夏「おお!シュウ君流石だ!名案だよ!」
逸夏はまた一振りして霧を吹き飛ばす。
逸夏「して、どうすればいい」
シュウは後ろから逸夏のお腹をしっかり抱える。
逸夏「ふぁう!?」
シュウ「これで行きます!逸夏さん、行きますよ!」
逸夏「わわわわわ私は刀をもってるし、重いかも!」
シュウ「大丈夫です!重さは感じませんから!」
ぐーんとそのまま宙へ昇る二人。
逸夏「わた、わたしは背も他の女子よりおおきいからぁ、
シュウ「大丈夫です!重くない!」
ぐんぐん昇るとシュウの思惑通り霧は晴れていた。
シュウ「やっぱり!」
逸夏「おお!宙を舞うのは初めてだ!」
そして逸夏はすぐにノワンの居場所を見つける。
逸夏「あそこだ!硝子張りの建物の屋上にいる!」
ノワン「あぁん?おいおい、そんな情報回ってきてないぜ」
ノワンは横になっていたがすぐに上体を起こしアタッシュケースを開け、中から硝子製の手榴弾のような物を三つ床に投げ付ける。
その手榴弾は割れ、中から煙が噴き出す。
ノワン「やってらんねェなこりゃ、ちょいと高くつくぜ」
ノワンがその煙を指でかき混ぜる動作をすると黄色く色付いた。
逸夏「何かする!急ぐぞシュウ君!」
シュウ「はい!」
シュウの全速力でノワンへ近付いていく。
ノワン「ちょいと匂うがご勘弁なァ」
ノワンは両脇に円柱状にぐるぐる回る気体に手を突っ込みシュウに放り投げるように腕を払う。その二本の気体はシュウに真っ直ぐ飛んでいった。
ノワン「近所迷惑になるからなァ!!熱くても叫ぶなよォ!!」
ノワンは胸ポケットからライターを取り出し、飛んでいく気体へ付けた。
その気体の正体は塩素濃度が濃い塩素ガスとノワンの力によって更に着火させやすく調合した酸素を基礎とした気体。
その二つの気体に可燃物質を付けるとまるで炎と竜巻が融合した火災旋風のようになり爆発を起こしながらシュウ達へ向かっていった。
シュウ「うっ!マジか!!」
シュウ(ってこんな真夜中にこんな技ってお前が一番近所迷惑だよ!)
逸夏「構わん!前へ!!」
シュウ「や、やったりますよ!!」
シュウはそのまま前へ前進、火災旋風へ突っ込んでいく。
逸夏「近衛逸夏をなめるな低俗がぁ!!」
逸夏は渾身の力で刀を横一文字に凪ぎ払う。
ノワン「かぁぁ……何でもありだな」
火災旋風はシュウ達を横に避けるように飛んでいってしまった。
逸夏「シュウ君!やつが近いぞ!私を投げるんだ!」
シュウ「えぇ!?まだ高すぎますよ!!」
逸夏「やつが逃げる!」
ノワンは走って逃げようと屋上の出口に向かう。
ノワン「や、やってらんねぇって」
ポロポロと硝子製の手榴弾を落としながら焦って逃げる。
逸夏「今だ!いける!!大丈夫だ!私を信用しろ!」
シュウ「逸夏さん!!」
逸夏「なんだ!」
シュウ「殺さないで下さいね!!」
逸夏「……そ、それは出来、」
逸夏はシュウの言葉を聞き、グッと歯を噛み締める。
シュウ「殺しちゃダメだ」
逸夏「えぇい分かった!早く!!」
シュウ「無事でいてくださいね!!」
シュウは逸夏を前に放り投げる。真っ直ぐに飛んでいく逸夏はギリギリ屋上に着地。床に足がついた瞬間、その空から落ちる反動を大きく前方宙返りして殺す。
シュウ「すげぇ……」
逸夏「手前!!斬り倒す!!」
逸夏は逃げるノワンの後頭部を狙い刀を峰にして振り下ろす─
ニヤリと卑しい笑みを溢し振り向くノワン─
ボフッと周りの硝子製の手榴弾が爆発して辺り一面が霧に覆われた─
シュウ「逸夏さん!!」
シュウは屋上に着地して向かおうとするが霧が邪魔で進めない。
シュウ「逸夏さん!!やつは逃げるフリをしてたんだ!!」
あの笑みを思い出す。きっとあれは何か奥の手があったに違いない。逸夏へ言った殺さないでと言った言葉。その言葉は逸夏の刀の振りを遅くする原因を作ってしまった。
シュウは後悔する。逸夏の安否が気になる。自分も意を決して霧の中へ突っ込もう。霧に体を入れた時だった。
スゥッと霧が晴れていく。
シュウ「えっ!?何で!?」
シュウは逸夏が居た方向を見ると。近衛は刀を振り上げ立っていた。
シュウ「逸夏さん!良かった!」
シュウが向かおうとした瞬間、霧は晴れ、全貌が明らかになった。
ノワンも立っているが、もう一つ人影があった。
ノワンと逸夏の間に一人、この二人と比べたら背が低い女の子の姿。
精密そうなゴーグルを付けて口一杯に笑う女の子。
シュウ「これは一体……」
シュウは困惑した。ゴーグルをかけた女の子が居たからではない。
そんな女の子がノワンの胸に銃を、逸夏には逸夏の持つ脇差しを鳩尾に突き付けているのだ。
女の子「ドンドン♪グサグサ♪ボクのカチ~♪」
まるで女の子は遊びに来たようにご機嫌に歌った。