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第四章 15話 運命的な出会い ☆


和服の女性「ふふふふふ、ぜんいん、みんな、みんな……ガイジン……ふふふふ、誰からやっても良いの?ここはテキチ、テキチなの……」



 何やらうっすらと危険な言葉を言っている気がするがきっと聞き間違いだろう。

 周りの外国人の人々は和服を着た美人な日本人を好奇な眼差しを送っている。ジャポーネだかサムライだかクールだかの言葉が飛び交い、写真を撮る方も居た。シュウ自身も日本でもあまり見ない光景にじっと見てしまっていた。


挿絵(By みてみん)



和服の女性「ど、れ、に、し、よ、う、かな。こいつ?こいつ?」ボソッ



 ふと、一人の外国人の若い男性がカメラを片手に近寄る。きらきらとした目でカメラを指差し、一枚撮って良いか伝えているのだろう。


和服の女性「手前……」


 その男性を見てふらりと長物に手をやろうとしたとき、たまたまぴたりとシュウと目があってしまった。


和服の女性「はて……もしやもしや!?」


 その男性をまさに眼中に無しという感じで足早に横切りシュウのもとへ向かう女性。目の前に着くやいなや煌めく眼差しでシュウを見つめる。



シュウ「え、あの、こ、こんにちは??」


和服の女性「はぁぁぁぁん!」


 和服の女性は顔を赤らめギュッと手を胸にしめ身悶えた。シュウより少し大きく、身長は170程だろう。綺麗な黒髪で真っ直ぐなロング。黄色く紅葉の柄が型どる着物、袴は赤、まるで紅葉、秋を連想させる和服だ。


和服の女性「日本人だな!そなたは日本人だ!」


シュウ「は、はい、日本から来ました……」


和服の女性「おおお!日本人!こんにちは!そうだな!こんにちはだな!!」



 和服の女性は手を出して握手を求める。


シュウ「へ?はい、こんにちはですね?」


 シュウはその手に答えるように手を握ると、感激が強く伝わるくらいの力で女性は両手で握り返した。


和服の女性「まさか、まさかこの異国の地で出会うとは微塵も思わなかった、だよ!うんうん!」


 縦に握手した手を振る女性。周りの外人達はそのようすに何か言っているようだが、翻訳されないのでよく分からない。しかし、シュウ自身も一人で心細かったため心嬉しくあった。


シュウ「俺もここで日本の方に会えるなんて嬉しいですよ」


和服の女性「そうかそうか!私も非常に嬉しく思うよ!そうだ、今時間はあるかな?」


シュウ「時間ですか?まあ、まだありますよ!」


和服の女性「良かった!ではゆっくり話す場所が欲しいな……ここは大分息苦しいからな」


 和服の女性は左右に目線で睨む。


シュウ「分かりました、一旦ここを離れましょうか」


和服の女性「うむうむ!いこうか!」


 シュウは引っ張られるようにその場を離れた。



-----


 道を共に歩いている最中、和服の女性はにこにことしながら鼻歌も歌い超ご機嫌という感じだった。


シュウ「あ、あの!」


和服の女性「ん?どうした?」


シュウ「どこいくんです?」


和服の女性「ん?おお、そうだな、確かにそうだ。どこに行こうか」


 ようやく足を止めた。


和服の女性「あ、済まない。私という者がついつい子供のようにはしゃいでしまって」


 繋いだ手も離し、申し訳なさそうにはにかむ。


シュウ「大丈夫ですよ!そうですね、飲食店とかどうですか?」


和服の女性「飲食店……和食があれば良いのだが……和食以外喉に通らぬゆえに申し訳ない」


シュウ「和食ですか……」


 スマホを取り出して探すと何件か見つかる。


シュウ「あ、何件かありますよ!」


和服の女性「おお!誠か!しかし、異国の和食か……日本人がやっていると良いのだが……」


シュウ「なにが食べたいですか?」


和服の女性「うん、魚だ。ほっけが食べたいな」


シュウ「じゃあここにいきましょう!」


 シュウ達は和食屋へ足を運んだ。



---



和服の女性「……ここが定食屋なのか?」


シュウ「そうですね!」



 ぱっと見はファミレスのようだったが、調べると日本人の料理人が経営しているそうだ。この店の外見に随分と嫌そうだが、渋々入ってくれた。席に通されるとメニューを渡される。そこには日本語でお品書きと書いてあった。


和服の女性「おお!!見てくれ、日本語だ!」


シュウ「ははは、そうですね。あ、ほっけもありますよ!」


和服の女性「本当だ!いやはや、ここに来て良かったよ」


 上機嫌になる女性。ウェイトレスも日本人だったので天ぷら定食とほっけ定食を頼んだ。その間もずっとにこにこしてシュウを見つめる女性。


和服の女性「まさに天の助けだ。こんな運命もあるものだな。この異国で日本人に、更にここまで良くしてくれるとは……」


シュウ「いえいえ、同じ同郷同士だとやはり嬉しいものですよ」


和服の女性「本当に嬉しいよ。この恩はきっと返そう。して、お名前を教えて頂きたい」


シュウ「そういえば名前知らないままですよね、俺の名前は芦屋修二です。修めるに二番で修二」


和服の女性「芦屋修二君……修二……となると、君は礼儀正しく、誠実な人なんだろうね」


シュウ「え、そうですか?」


和服の女性「そうだろうと思うよ。そんな意味を感じる。君の母上はきっと聡明で良い家庭に育ったのだな。芦屋君と話しているだけで分かるよ」


シュウ「あ、俺の事はシュウとかで良いですよ!みんなそう呼んでいるんで!」


和服の女性「し、シュウ……君だね?いや、私自身あまり名で呼ばぬのでね、中々慣れない」


 和服の女性は頬をかき照れる。


和服の女性「そうだ、私の名前だね。私の名前は近衛逸夏。呼び名は何でも構わないよ」


シュウ「近衛……」


 シュウは逸夏の長物に目をうつした後に思い出す。前に奏と稽古したときに四大流派の一つとして剣術の近衛というものがあるのを教えて貰っていた。


シュウ「剣術の近衛……?」


 シュウがボソリと呟くと、うむと逸夏は頷く。


逸夏「その剣術の近衛で間違いない。近衛新刀流次期当主の近衛逸夏だ」


シュウ「次期当主!?目茶苦茶凄い人だった!!」


逸夏「そう言われると中々嬉しいものだな」


シュウ「イタリアへは剣術を教えに来たんですか?」


 逸夏は腕を組み、目線を上にして何か考える素振りをしながら答える。


逸夏「あー……仕事、だな。シュウ、君は何故?」


シュウ「まあ……自分も仕事ですね」


逸夏「そうかそうか、おお!見るからに美味なほっけだ!さあ食べよう!」


 逸夏は来た定食に夢中になり一旦話しは停止した。逸夏曰く、ご飯を食べるときは黙って食べると教わったからだそうだ。シュウも天ぷら定食を頬張り満足した。


 その後、一時間少しは話しただろうか、特に日本の良いところや日本人とはと逸夏が語り続けている感じだったが、日本人のシュウにとって悪い気持ちはしなかった。


シュウ「本当に日本が好きなんですね逸夏さん」


逸夏「ああ!愛国心は誰よりも強いと自負しているよ。それ故にどうも外来語もそうだが、外のものに強い苦手意識があってね、すぐに敵だと思ってしまう」


シュウ「なるほど」


シュウ(まさか広場で言っていた言葉は空耳ではない……?いや、なんでそもそも苦手なのに単身仕事でここへ来ているんだろう)


 シュウは何か引っ掛かり考えていたが、逸夏が話をごまかす。



逸夏「いやはや、そこで同郷と出会い私は非常に助かったよ、何度も言うようだけどね」


シュウ「言葉とかどうしてるんですか?翻訳機とか持っていたり?」


逸夏「翻訳機?ああ、これの事か」


 逸夏は袖からシュウ達が使うような耳にかける通信機に似たものを出す。それに関してはお金が張るが持っていても不思議ではない。


シュウ「え!使ってないんですか??」


逸夏「どうも機械も得意では無くてね、シュウ、君はつけないのかい?」


シュウ「それなんですが、壊れてしまってて……」


逸夏「そうなのか!君の仕事では必須だろう?私のを貸そう」


シュウ「えっ!でも逸夏さんも必要では??」


 逸夏はハッハッハと張りのある笑いをした後に言う。


逸夏「私は必要無いさ、使わないしね。シュウ、君には助けてもらったんだ。私は恩義を大切にしたい。軽い恩返しだがまずはこれを使ってくれ」



 逸夏はそれを少しいじった後に渡す。


シュウ「正直言って本当に助かります。ありがとうございます」


 作りは同じで翻訳モードにして身に付ける。


逸夏「どうも私はガイジンが話す言葉が日本語に変わるのが嫌でね、その機械は私には不要なんだ」


シュウ「これでなんとか話すことが出来そうです!」


逸夏「それは良かったよ。そう言えばシュウ……君は一人なのか?」


シュウ「二時間後くらいかな?空港に仲間達が来ますよ」


逸夏「そうかそうか、ではそろそろ向かわねばならないかな?これを渡したい」


 逸夏は腰に入れている財布から紙を出す。受け取り見ると住所と近衛新刀流本部道場と書いてあった。


逸夏「日本に来たらここに連絡して寄ってみると良い。皆きっと良くしてくれるだろう。私も何かしてあげたいし、な!」


シュウ「分かりました!是非!」


逸夏「では出るとしようか。同胞と別れるのは名残惜しいが私も行かなければならない」


シュウ「そうですね、俺もそろそろ行きます」




 お会計をするために店員のもとへ行く二人。シュウがお金を出そうとすると逸夏は手を出して制止する。


逸夏「ここは私に出させておくれ。恩を返したいのだよ」


 財布を出した逸夏は一万円を指で挟み取り出し、キラリと格好付ける。その様子に店員が困った顔をする。それもそのはずだ


シュウ「逸夏さん……ここはイタリアなので日本円は使えません……ここの通貨はユーロですよ」


逸夏「???何だゆうろというのは」


シュウ「あ……これです。もしかして……一枚も無い?」


逸夏「???無いな」


シュウ(これからどうするつもりなんだろう)


 シュウは逸夏の事を非常に心配になってきた。


---------



 結局会計はシュウが払うことになり二人とも外に出る。


逸夏「すまないな……時間をくれただけでなくこうも払ってくれて……更にゆうろなるものもくれるとは」


シュウ「いやいや、大丈夫ですよ!二万円分とかあればなんとかなると思うので!」


 あれからシュウは手持ちのユーロをあげようとしたが、お金は貰えないと強く言われてしまったので日本円と交換ということにした。


逸夏「はあ……なんて情けなくみっともない。近衛家の恥だ」


シュウ「いやいや、困ったときは助け合いですよ!同じ同胞。なんですからね!」


逸夏「シュウ君……。ふふ、すまないな」


 逸夏の言葉を受け売りして伝えると逸夏はしてやられたと笑う。


 それでは、と離れようとした瞬間だった。


?「やあ!日本人?オハヨウゴザイマス?アリガトウゴザイマス?」


 一人の若い男性が逸夏に近寄ってきた。


逸夏「また会えた時は是非、恩を返させてくれ」


 逸夏はそれに気付かずシュウに別れの言葉を言う。シュウは翻訳機を付けてる為、近づくイタリア人に気付いてしまい、内心不安の気持ちが出てくる。


シュウ「あの……逸夏さん。男性が……」


逸夏「ん?」


 逸夏が振り替えると男はもう近くに居た。


男「綺麗な人だねぇ一緒にどこか行かない?あ、日本語喋れるよ!アリガト、アリガト」


逸夏「手前……動物の鳴き真似か?不快だ。消え去れ」


男「何言ってるか分からないけど、仲間達もきっと喜ぶよ!一緒に行こう!ほら!」


 その男は遠くにいる仲間達を呼び始めた。六人の男達はチンピラのような風貌だ。だが、一人だけはだけたスーツを着てる者はその辺のチンピラとは違う雰囲気があった。


シュウ(あ、やばい)


スーツ「美人だなあ日本人。俺らと来いよ」


逸夏「臭いな、寄るなガイジン」


男A「そう睨むなよ、睨む君も実に美人だね、それとも……力ずくで連れていこうかな!」


 男は逸夏に触ろうとした瞬間─



シュウ「ま、まあまあ、その辺にしておきましょうよ。警察呼びますよー?」


 シュウは逸夏と男の間に入る。


逸夏「ん」


男A「何だこのガキ。一丁前にお高い翻訳機何かつけやがって」


シュウ「お、俺の連れなんですよ……」


 周りの男達はスーツの男の顔色を伺う。


男B「ドン・アルベロ、どうする?」


シュウ(アルベロ!?!?アルベロ・ガンビーノか!?)


アルベロ「ああ、俺らがガンビーノ一家に楯突いた事を後悔させろ。女は綺麗な状態で持っていくぞ」


シュウ(やばいやばい!!)


 そうシュウがびびり倒している間に逸夏は両手を二の腕に交互にやり、ぎゅうっと体を縮ませる。


シュウ「い、逸夏さん!逃げましょう!」


 逸夏はボソリと言う。


逸夏「初めて人に助けられた。そうかそうかふふふ、こんな気分なんだな。うんうん、悪くない」


シュウ「逸夏さん!」


 そうシュウが言った瞬間、シュウに近い男が思い切り殴りかかった─


シュウ「くっ─



 一瞬の出来事だった─


 いつの間にかシュウは逸夏に後ろ襟を引っ張られ相手の拳は空を突いた。逸夏は男の拳をがしりと掴むともう片方の手で男の顎を掌底で打ち上げ、思い切り後頭部を地面に叩きつけた。



逸夏「私はね、守られた事が無いんだ。人生初めてだ、私を守ろうとした男性は」


スーツ「て、てめぇ!!」



 逸夏は殺意の持った目でスーツの男を睨む。


逸夏「何言ってるか分かりたくないが、一言だけ言わせて貰おう。ガイジンの言葉はこれだけ知っている」



 逸夏は中指を立てる。



逸夏「Fuck youだ」


シュウ「逸夏さん!?!?」



 発音は完璧─


 しかし、相手はイタリア人だ─

挿し絵はそらとさんから頂きました!

ありがとうございます!!

逸夏めっちゃお気に入りです!

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