第四章 14話 イタリアへ
朝─最悪な目覚め。体が重い……動きたくない……
理由は分かっている。任務当日だと言うのに昨日の出来事があったからだ。
何故、泣いていたのだろう。想像できる事は二つ有った。嫌われていると勘違いしてしまったか、アリサさん自身が好きという感情があってふってしまったようになったからか……いずれにせよ、謝らなきゃいけないし誤解を解かなければいけないだろう。
スマホを確認してみると、そこにはアリサからの業務連絡が来ていた。
端的で淡白に、朝10:00に最終事前ミーティングの為会議室へお願いします。とのこと。
シュウ「行きにくいな……」
ついついボソリと口から弱音が溢れる。足取り重く準備して、のそりのそりと会議室へ歩いていくのだった。
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会議室─
シュウ「……」
アリサ「……」
伊賀崎「???」
会議が始まる前に謝るという作戦はシュウの度胸のなさによって失敗に終わる。アリサの目の下にある隈と赤く充血した目を見てしまって戸惑ってしまったのだ。いつも隣に座るシュウだったがアリサの視界に出来るだけ入らないような位置に座った。二人が何も話さない状況、シュウとアリサに挟まれて座る伊賀崎はこの状況に困惑している様子だ。
伊賀崎「あ、えと、お二人さん今日は何かあったのですか?」
シュウ「えっと……今日……というか……その……」
アリサ「時間になりましたので会議を始めさせて頂きますわ」
シュウ「あ……はい」
伊賀崎「???」
確実に何かを思っているアリサにどんどん心が弱々しくなるシュウ。龍義はその様子を見て、人差し指でこめかみを人差し指で抑え、何か考える素振りをした後に言う。
龍義「どうやら何かあったようだが、任務に集中出来そうか?」
アリサ「問題ありませんわ」
シュウ「は、はい……大丈夫です」
龍義「……そうか。だが、今回の任務は前の任務と比べて命の危険が少ないにしろ、リスクが無いとは言い切れない。支障が来す事があるなら先に言ってくれると助かる。これは会議終わりに伝えてくれても構わない。今なら代わりを用意する事も可能だ」
アリサ「……何もありませんわ」
シュウ「はい……何も……」
龍義「そうか、では最終確認を始める」
一時間程、様々な確認事項を話し合ったが、問題はここからだった。
アリサ「イタリアの空港まではチャーターした飛行機で行きますわ。こちら四人掛けとなっておりまして……」
龍義「どうした」
アリサ「あ、いや、問題無いですわ!」
モニターで写された機内は狭く、いつもなら気にはしなかったがアリサの反応でシュウは咄嗟に思った。
シュウ(あ……アリサさんあまり俺と一緒に居たくないのかな?)
龍義「今回、チャーター出来た機体は少し窮屈かもしれないな。すまんが、我慢してくれ」
シュウ「あ!えと!俺先にイタリア入りして良いですか!?」
アリサ「!?」
ロッド「……」
伊賀崎「何で!?」
龍義「……理由を聞かせて欲しい」
シュウ「それは、あの、チャーター機狭いですし、俺の席に機材とか置けるし……後、俺イタリアめっちゃ好きなんで観光したいなぁ…って」
自分の放った理由があまりにも中身が無く、言ってしまったと後悔する。
シュウ「だ、駄目ですよね?」
龍義「シュウ、これは
アリサ「好きにしたら良いのでは無いですか?」
アリサは横目でシュウの事を睨む。
龍義「アリサ、これは任務だぞ」
アリサ「そうしたいのならそうすれば良いと思います。今からなら旅客機に予約出来るのでは無いでしょうか?チャーター機は狭いですし私としては賛成ですわ」
龍義「……アリサ」
アリサ「私が予約してさしあげますわ。しっかりとイタリアを堪能して先に場所も確認して下されば私としても安心します」
龍義「……」
ロッド「……」
伊賀崎「うぅ」
シュウ「……」
アリサの言葉は珍しく強く、全員言葉に詰まってしまった。
龍義「分かった。だが、帰りは共に頼む。シュウも時間になったら合流することだ」
シュウ「……すいません、分かりました」
シュウはチラリと横目でアリサを見るとアリサは真っ直ぐ向いていたが、視線だけは下を向いていた。少しの間だけ静寂があったが、アリサは締めの言葉を続けた。
アリサ「私達は本日夜22時程にチャーター機へ、お願いしますわ。芦屋さまへは追って御連絡差し上げます」
シュウ「はい……分かりました……」
アリサ「それと、隊長さま。この後、お話がございますわ」
龍義「お、おお。分かった。では、解散だ」
何て重苦しい会議だっただろうか……
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数時間後、アリサから連絡が来る。内容は18時までに成田空港へ向かってくれとのこと。シュウはすぐに準備して成田空港へ単身で向かう。
日本とイタリアの時差は8時間だ。つまり、18時出発の便に乗ると朝の10時に着く。初めて一人で飛行機に乗るのは目茶苦茶心細かったが、これも自業自得なのだと思い乗り込む。
しっかりとアリサに謝罪する。これが一番必要なことなのだが、アリサの態度を見てしまうとやはり苦しい。きっと一緒にチャーター機へ向かうのが得策だったのだろう。なんてことをしてしまったのだろう。そもそも、イタリアが好きだからという理由はあまりにも酷い。イタリアへの知識があるといえば、ピザかパスタくらいだ。更にアリサを傷つけてしまったのだろう。
機内で何度も悔やみ、何度も謝る想像をした。そして、いつの間にか寝てしまい、気付いたらイタリアのペレトラ空港に到着していた。
キャリーバッグを引き、イタリアの町並みを見る。昔の映画のような華やかな町並み。周りには観光客らしき人々も居て外国語が飛び交う。
……外国語が飛び交う??
シュウは急いで耳についているはずの通信機兼翻訳機を確かめる。確かに付いているが押しても押しても反応しない。
シュウ「嘘だろ」
バッテリーを確認しようにもうんともすんともしない。先ほどまではしっかり動いていたのだ。
シュウ「故障!?なんで!?」
何度も再起動を試みるも動かない。
更に心細くなった。日本語しか喋れない、英語も堪能では無いただの高校生が海外へ一人なのだ。それでいて、みんなが来るまで時間を潰すしかない。あまり、遠くへ行かず近場に居ようと決めた。
心臓がバクバクのシュウは若干震える足で近くの広場へ向かうと何やら人が集まっていた。日本の都会であるような何か出し物でもしているのだろうか。興味が出て近くで見てみることにした。
これは後々、シュウにとって大事なターニングポイントになる。
一番前に着くと、シュウは驚いた。動物を使ったショーか手品とか……そんな想像をしていたが全く違うのだ。そこに居たのはたった一人の
和服を着た女性だ。きっと日本人だ。何やら長いものを持ちくるくると回っているではないか。ぶつぶつと何かを言いながら口元が笑っているように見える。
うっすらとだが、その和服の女性の言葉が聞こえた。
和服の女性「ふふふふふ、ぜんいん、みんな、みんな……ガイジン……ふふふふ、誰からやっても良いの?ここはテキチ、テキチなの……」
一体何の出し物なんだろうか。