第四章 13話 激励会 ☆
ワグ「うん、それが良い。そうだ、そうしよう」
シュウ「……どうしたんですか急に」
シェミカに処置してもらってから、二人で食堂にて昼食を済ませていると、ワグは何か決めたかのようにそう言った。
ワグ「お前の為に今夜、激励会をすることに決めた」
シュウ「激励会ですか……?嬉しいですが、もう気持ちもそんな落ち込んでませんよ?アリサさんと話して気持ち取り戻しましたし」
ワグ「んなこたぁどうだっていいのさ。やると決めたからやる!」
シュウ「そ、そうですか……ありがとうございます」
ワグ「時間は、そうだなぁ……22時とかどうだ?」
シュウ「結構遅めからですね」
ワグ「大丈夫だろ!明日は夜から向かうんだろ?準備の時間考えても余裕余裕!」
シュウ「まあ、嬉しいのは本心ですし、お任せしますよ」
その後、ワグは人数集めと彰へ食事の手配をするなど奔走した。どうやら、そこそこな人数が集まったらしい。これはワグの人当たりの良さが成したものだろうとシュウは解釈した。
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食堂─
シュウはワグに前で待っているよう言われ待機していた。そして、やっとワグから声がかかる。
ワグ「シュウー!入ってきていいぞー!」
シュウが扉を開けると、クラッカーの音。まるで誕生日のような出迎えに驚くシュウ。中には、ワグ、恩田、小張、ノブ、彰、そして四人の見知った各部署の隊員がいた。
小張「どう?元気出たシュウ?」
恩田「んぶ!みんなシュウの為に集まったんだぶ!」
Bf隊員「シュウが元気無いって聞いたから駆け付けたぜ」
Sf隊員「私も!」
Cf隊員「うちも!」
ノブ「ほら、彰が作ってくれた元気が出る食い物だぞ」
ノブは飴細工でコーティングされたチョコレートケーキとローストチキンの乗った皿を両手に持って運んできた。
彰「やっぱ元気を出すのはお肉よねン❤️それとチ・ヨ・コ・レイト❤️」
シュウ「あ、ありがとうございます!!」
シュウは感激で体の中がポカポカと温かくなってきた。
ワグ「よし!じゃあみんな食べようぜ!」
皆、大いにこの激励会を楽しむ。旨そうな肉料理も贅沢なチョコレートケーキもすぐに無くなっていく。
シュウ「ワグさん、ありがとうございます。明日、頑張れる気がしますよ」
ワグ「そりゃあ良かった。本当、シュウの顔色ずっと悪かったからなーどこかで元気付けてやりてぇなって思ってたんだ」
シュウ「助かりますよ。そう言えば、アリサさんと幾さんは?居てもおかしくないなと思ってたんですが……」
ワグはにやにやしながらシュウに答える。
ワグ「お?なんだ?アリサが居なくて寂しいか?」
シュウ「い、いや!ま、まぁ、寂しいことは寂しいですけど、」
ワグ「アリサと幾はまだ仕事中らしいんだよな。二人とも明日の任務の情報をまとめているらしい」
シュウ「なるほど……忙しいそうですね」
ワグ「お?お?ショックか?」
シュウ「な、なんですかさっきから」
ワグに弄られていると、その空気を嗅ぎ付けて集まる野次馬。
小張「何何?お姉さんも入れてよその恋バナ!」
Sf隊員「え?シュウ君アリサの事好きなの?」
Cf隊員B「なんだよーもう付き合っちゃえよ」
彰「あら、深く深ぁく聞きたいわねン❤️」
シュウ「え、いや、別にそんな関係じゃないですって!」
恩田「シュウよ……」
シュウ「は、はい」
恩田が腕を組み、やけに凄みのある表情で呼び、シュウは少し畏まる。
恩田「んぶ、アリサは気を付けた方が良い」
シュウ「……と言うと?」
ワグがその言葉を聞き、笑い声をあげる。
ワグ「アッハッハ!こいつアリサにその気になって粉砕してんだよ!」
シュウ「そうなんですか!?」
Bf隊員「小悪魔アリサの由縁だったな!」
Cf隊員「恩田君の話は有名よねー」
小張「恩田チョロいよねー!」
恩田「んぶ。みんな酷いな」
ワグ「話してやれよ恩田!シュウの為にさ、ハッハッハ!」
恩田「分かったんぶ、
恩田は事の経緯を語る。
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恩田がまだBARKERSに入隊して間もない頃、ついた専属オペレーターはアリサだった。こまめに連絡をくれ、新人で緊張している気持ちをほぐしてくれたり、何より手作りの御守りをくれた。
恩田は思った。これは自分に気があるのではないかと。
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小張「いやいや、早いでしょ!」
シュウ「アリサさんは担当した人みんなに渡してるみたいですしね……」
恩田「んぶ!!まだ話は終わってない!」
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更に続く回想─
アリサ「恩田さまの食べてるお菓子美味しそうですわね!」
恩田「んぶ、た、食べる?」
アリサ「ありがとうございます!うん!美味しいですわ!」
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アリサ「恩田さまはいつもほのぼのしてて見てると落ち着きますわね」
恩田「んぶ、ほ、本当に?」
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アリサ「あ!恩田さま!ちょっと!」
恩田「んぶ?」
アリサ「頬に、お菓子ついてますよ?」
頬に付いた食べかすを取ってあげるアリサ。
恩田「」
恩田(あー絶対両思いなんだな。これはそう絶対に)
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恩田「っていう感じだぶ」
シュウ「な、なるほど……?」
小張「典型的なダメ男子よね」
ワグ「んでその気になってコクってフラれたと、ぷぷぷ」
ワグが恩田を馬鹿にしたように笑い恩田は恥ずかしそうに頭を掻く。
恩田「んぶぅ……はぐらかされてしまったんぶ」
ワグ「まあ、気にすんなって!アリサにその気になった奴はわんさか居るしな!」
Bf隊員が手を挙げて豪快に笑う。
Bf隊員「うちの所属メンバーもその気になったやつ知ってるわー!」
Cf隊員「まあアリサ可愛いもんねー」
Sf隊員「流石は小悪魔アリサ!」
彰「ちょっと~言い過ぎよン?」
ワグがいたずらな笑みを浮かべながらシュウを指差す。
ワグ「んで?ここにもその気になった奴がいると?」
シュウ「……俺ですか!?」
シュウにとって意識していなかった言葉。大袈裟に反応してしまう。
Cf隊員B「なんだよシュウーアリサの事好きなのか?」
Cf隊員「うちは知ってたけどねー」
Sf隊員「えー!知りたい知りたい!」
シュウ「いや、本当に違いますよ!?」
恩田「んぶ、シュウとアリサいい感じだしな」
ノブ「やっぱり好きだったのか」
シュウ「こ、困りますよ!」
彰「ンもう!シュウちゃんったら素直じゃないのねン❤️応援するわ❤️」
シュウ「~~~っ!!」
皆、シュウの反応を楽しんでしまい弄るムードに盛り上がる。シュウはこの空気と弄りに堪らず顔を真っ赤にして、大きな声でその疑いを晴らそうとした。
シュウ「いやいやいや!べ、別にアリサさんなんて意識してないですよ!全然好きじゃないし、微塵も思ってませんし!俺は騙されたりしませんから!」
ついつい大袈裟に否定してしまう。シュウの本心はそこまで否定するものでは無かったと思う。ただこの場をなんとか抑えようとしたかっただけ……
しかし、この言葉は後々シュウの人生で一番後悔するものになるのだ─
幾「シュウ!!!」
シュウ「!!!」
幾のあからさまに怒っている様な鋭い言葉に驚く一同。
シュウはその言葉の方向を振り向いた。
食堂の入り口に幾が居た。見たことの無いくらいに怒りの表情を浮かべている。
しかし、シュウの目に一番先に止まったのは幾では無く、眉を八の字にして涙を堪え、いや、既に数滴溢しているアリサの姿だった。
時計の針の音が聞こえる。そして、シュウの耳だけにはほとんど爆裂しそうな心音しか聞こえていなかった。
何とかして言い訳を言わなければ……そう思いながらも急な展開に頭が追い付かず汗を流しながら上手く言葉が出てこない。
シュウ「いや、あの、違くて、そんな、」
アリサ「……。っ」
アリサは走ってその場から離れてしまう。
シュウ「アリサさん!!」
シュウは咄嗟に追いかけようとするも、幾の言葉に足を止められる。
幾「来るな!シュウ!見損なったぞ!」
シュウ「うっ」
幾は走ってアリサの後を追いかけていく。
まだ皆、口を開けようとしない。無言の間があき、一番に声を出したのはワグだった。
ワグ「あー……えっと……か、解散ということで?」
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走る走る走る─
(何故、私は泣いていますの?何故、私は走って逃げましたの?何で、何でこんなにも悲しいの??)
大分走った所で立ち止まり、壁に背中をもたれかけるアリサ。
(涙が止まらない。何故、止まらないのでしょう……)
涙を袖で拭くが拭えきれない。とうとう座りこんでしまう。
アリサと幾は仕事終わりに食堂へ向かっていた。ワグに激励会の誘いがあったが終わるか分からない明日の準備と情報の整理の為断っていた。幾が手伝ってくれた事でなんとか終わり、サプライズ感覚で二人で顔を出す予定だったのだ。
しかし、いざ行ってみるとまさか自分の話をしているではないか。ワグのその気になったやつがいるという言葉に驚いたが、自分が入れるタイミングではなく、様子を見ているうちにシュウの話になった。
何故だろうか、ついつい聞いてしまいたくなった。
皆、シュウが自分の事を好きなんだと言う─
思い返すとその言葉は嬉しかったのだとアリサは理解した。
「うっ、うっ」
そして、シュウの言葉にショックを受けたのだ。人生で味わったことのない苦しい悲しみだった。前団長や大事な仲間が亡くなったものとは違う悲しみ。
天井を見上げるアリサは思った。これは、もう心に嘘はつけない。
ああ……好きだったんだなぁ……
アリサは人生初めての失恋をした─
挿し絵はそらとさんからです!
ありがとうー!!